VAMPIREEYE107 「蔵と過去」
強烈な衝撃で脳が揺れたのが分かる。ただの HKF では無い事が一瞬で理解できた。
「いつの間に……」
「とっくに始まってるんだよガキ!試合開始のゴングと俺の気配、消させてもらったぜ」
目の前に赤われるぬうりひょん、二郎を蹴りつける。だが二郎は右手の義手でしっかりとガードした。
「そうこなくっちゃな!すぐにノビてもらっちゃあ練習になんねえからよ!!」
ぬうりひょんの足が伸び関節が無いかのような動きを見せる。二郎はガードが間に合わず脇腹に蹴りを受けた。
「なんだ……この動き……」
「ヌハハハハハ!反撃して見ろよ!!」
殴りかかる二郎、目の前のぬうりひょんは消え背後からの肘をこめかみに受けた。
「ぐぅ……」
「どうしたどうした!」
連打を浴びせかけるぬうりひょん。二郎の目には変幻自在に曲がる蛇のような打撃。
「(動きが見えない……だけど……それほど重くない)」
「俺がドス持ってなくて良かったな?本当なら最初の一撃で死んでるぞ」
「……(確かにそうかもしれない。訓練だと思って油断していたのは俺だ)」
二郎は義手のパワーを解放する。 HKF は瞬時に二郎の力を読み込みアバターに反映させる。二郎の右手から漆黒が広がって全身を包み込む。漆黒は硬質化し外骨格と変わる。
二郎は無意識に好きな漫画の主人公の姿を思い浮かべていた。
「ヌハハハ!いいじゃねえか!!来いやぁ!!」
体を沈み込んで突撃する二郎。 HKF は二郎の思考そのままにアバターを動かす。左右の拳の連打からローキックを放つ。格闘技の経験のない二郎は恭一の動きを真似る。
「(恭一の動き、親父の動き、兄貴の動き、吹雪さんの動きを思い出せ)」
「いいぞ!もっとだ!」
二郎の攻撃は躱されぬうりひょんの打撃は命中。
「クソッ(化け猫のように速いわけじゃない、どうして当たらない)」
「ヌハハハハ!これが俺が最強たるゆえんよ!」
二郎の攻撃は一度も当たらず2分が経過。終了となった。
「はぁはぁはぁ……」
息を切らせ汗だくになってステージを降りる二郎。
「ほう……圧倒的差を見せつけられたてのに心は折れてないか」
星熊童子は腕を組んだまま二郎を見て言った。
「次は人造人間のお前だな。相手も巨漢の蟹坊主。コイツは勝つ相手には圧勝するが苦手な相手にはボロ負けする、だが休場するほどの怪我を負ったことがないタフな奴だ」
「やりまショウ」
赤い肌の髭面の男がモニターに映し出される。ステージに入りスキャンすると全身を棘状の殻に覆われた人型蟹に変形する。続いて須原がステージに。
「始め!」
ハサミ攻撃を仕掛ける蟹坊主。須原は腕を叩いて弾き、ストレートを打ち込んだ。仰け反る蟹坊主。須原は背後に回り腕と首の関節を極めた。
「人造人間やるな!蟹坊主はそういう攻撃に弱い!!」
須原を振りほどけない蟹坊主はそのまま締め落とされ泡を吹いて倒れた。
「さて最後は目つきの悪い小僧。相手は魔蟲属・蜂系の男、黄蜂業助。宇治市を根城としている魔蟲属の代表として闘技場に参加している」
「魔蟲属か……基本的に争いは好まないが縄張り仲間意識が強くそれらを守る為なら容赦をしない連中」
「その通り。黄蜂がここで戦うのは一族の金を稼ぐ為。『不器用な自分が出来る事はこんな程度』とな。一族の連中が得意としてる細工や工芸品は黄蜂は苦手だったそうだ」
モニターに黄蜂の姿が映し出される。無駄な贅肉を全てそぎ落としたかのような肉体、鋭い目つき。外骨格が徐々に形成され蜂人間の姿へと変化した。
蓮也と黄蜂は各ステージに上がる。
「準備はいいか?始め!」
開始と同時に構えたまま軽い動きでソロソロと接近する黄蜂。蓮也は半歩下がりカウンターを入れるタイミングを計る。それを察した黄蜂はそれ以上接近せずに様子見のジャブを打つ。届かない間合いと分かっていた蓮也はほんの僅か動き体の中心である正中線から打撃の軌道から外す。
「(妙な間合いだ……ステップも独特で間合いが掴みにくい)」
軽いステップで付かず離れずを続ける黄蜂。蓮也は相手の誘いに乗って迂闊な攻撃を仕掛けなようにじっと観察を続ける。
「シシッ!」
黄蜂の二連爪先蹴り。蓮也の股間と喉を狙って来る。蹴り足を下ろして構えをスイッチ、指を広げ顔を狙って右手を振る。蓮也は爪先蹴りを下がって回避、続いて放たれた指の攻撃は左手でガードした。
「(中国武術か?佐久間さんの CQC に似てもいる)」
近距離から離れようとする黄蜂に対し蓮也は下段蹴りから追い突き正拳、顔面を狙っての二連突き、膝蹴りのコンビネーション。黄蜂は肘と膝を使ってガードする。
「ほう、目つきの悪いガキは空手か。伝統系でありながらも下段蹴りあり、そしてコンビネーションはフルコンタクトを思わせる」
星熊童子は嬉しそうにモニターを眺める。
お互い有効打の無いまま 2 分が過ぎる。
「オマエ、やるな」
黄蜂が口を開いた。
「あんたもな、その武術はなんなんだ?」
「これも空手だ」
「そうか……それも空手か」
「オマエは試合に出ないのか?」
「そのつもりはない」
「そうなのか、また来るのか?」
「また来るかもしれない」
「楽しみにしているぞ」
人型に戻った黄蜂は嬉しそうにステージを降りてログアウトした。
「ハッハッハ!良いもの見せてもらったぜ!!よしよし、大体お前らがどんな奴か分かってきた、社長には俺から言っておく。今日はもう帰ってもいいぞ、闘技場の試合を見ていくも良し、上でセンジョーの施設で遊ぶも良しだ。ああそれと、ここの事は他言無用だが、闘技場に参加する意思があるなら俺に連絡しろ。これが番号だ」
星熊童子は名刺を渡す。
「どうする兄貴、須原さん?」
「俺はちょっと試合を見て行きたい」「自分は車に戻ります」
「そっかじゃあ俺は上の施設に寄ってくよ」
二郎は特別仕様 HKF で疲れていたが TOYA と明珠香を探す為に施設に寄っていく事に。
「帰りはこっちのエレベーターだ、警備員が案内する」
エレベーターに乗り込む二郎と須原、到着すると駐車場の非常口の横に出た。エレベーターの扉が締められると見た目にはそこに何があるかなど疑いようがないコンクリート壁と同化した。
「兄貴大丈夫かな」
「蓮也サンなら平気でしょう。自分は車で待機していますので何かあればすぐに連絡を」
「分かりました」
二郎は休憩がてら TOYA と明珠香を探す為にセンジョーの施設に入る。施設の中の警備員の数はいつもの倍以上に増えていた。
フードコーナーのカウンターで乳酸菌ドリンクとエビホットドッグを受け取り HKF のモニターに視線を移す。
「あれ? HKF 明後日に突然のアップデート!?サバイバルモード実装と一人用モードのストーリー更新に、アバターパーツ新たに追加……」
HKF の筐体の周りにいるプレイヤーからもどよめきが起こる。
「は?いきなりアプデ!?」「公式の告知突然すぎんよ!」「あーこれ開発は勧めてたっぽな噂されてたし」「うおおおお!追加パーツ 50 種類!!」「拙者対戦苦手なので一人用充実嬉しすぎぃ」「サバイバルモードなら俺にもワンチャンあるな!!」
「ん? TOYA がログインした」
TOYA はログインと同時に二郎にメッセを送ってきた。
『ジロウ、来週に用事でそちらに行くことになった。センジョーで会おうぜ』
「『分かった、時間は正午くらいでいいかな?』」
『 10 時に京都着だから大丈夫だ』
「『それまでできるだけ HKF 練習しておくよ』」
『おう!アプデ楽しみだな!じゃあまたな』
ログアウトする TOYA 、二郎は HKF のアプデ情報をダウンロードして見ていく。
「サバイバルモードはバトルロイヤルにタワーディフェンスか。一人用モードには……異世界 MAP と新たなストーリー。追加パーツはこの新 MAP か対戦で得たポイントで交換……なるほど」
二郎は碁盤の目町攻略に生かせそうなサバイバルモードに注目する。
「これいいな、明後日までに吹雪さんと恭一が治ったら一緒にやりたいな」
「二郎」
後ろから声をかけたのは深緑のパーカーを来た明珠香だった。
「明珠香さん」
「もう堅苦しいな、明珠香でいいって」
フライドポテトを持った明珠香はカウンターの二郎の隣に着く。
「一人で来てるの?」
「兄貴と知り合いの須原さんって人と三人でだよ。二人はここにはいないけど」
「ふ~ん……あの色白の女の子とスポーツマンの男の子は?」
「具合が悪くて来れなかったんだ」
「あぁ~……猫田の時の。早くよくなるといいね」
「うん」
ゆっくりと乳酸菌ドリンクとエビドッグを口に運ぶ二郎。明珠香もポテトを口に運ぶ。
「あのさ、あたし来週に日本出る事になったんだ。予定決まったから来週まではゆっくりできるし時間はあるんだ……」
「そうなんだ、決まったんだね」
「帰って来るのはビザの切れる半年後かなー嫌になってそのまま日本にいるかもだけど」
「学校は行かないの?」
「う~ん……高校は今更行く気しないし大学受験目指すかな。それよりも働く方があたしには向いてるかもしれない」
「どんな仕事したいの?」
「デザイン系の仕事に就きたいかな。でもまぁそれが無理でも趣味でやりながら飲食店で働くとか。こう見えても料理は得意なんだよ小さい時からずっと作ってきたからね」
「明珠香……は、英語できるの?」
「上手くはないけど一応はね、家族にあっちの人もいるし。でも今時は自動翻訳イヤホンで大体いけるから二郎でも大丈夫かも」
「高いけどインプラントで同時翻訳機能もあるって聞いたよ。サポート AI と思考を連動させて情報処理させるとか」
「へぇ……詳しいんだね。あたしの義足と同じようなものかな?」
明珠香は片足を腰まで上げて撫でる。
「食べ終わったらどうする?」
「えっとどうしようかな、 HKF をまずはやって……」
「いいよ、その後はカラオケいい?」
「え、ああ……うん。やろう」
二郎は明珠香の義手に気配を感じながらも『最新の AI は高度だからかな』くらいに考え気にしないことにした。
***
白峰邸の焼け跡を見つめる吹雪、霄、霞。吉良は三人の後ろに待機している。
「本当に全部……焼けちゃった……」
霞は涙を浮かべてまだくすぶっている真っ黒な焼け跡を眺めながら言った。
「改装を繰り返してたとはいえ平安時代から受け継いできた家が……」
霄は立ち入り禁止テープの前まで行って静かに呟いた。
「蔵だけは残ったのね、でも中は……」
蔵の壁面は黒い煤で覆われ金属製のドアは変色している。戦闘機の爆撃にも耐えると両親から聞いていた吹雪は中を確かめたいと近くの警官に申し出た。
「気を付けてください」
三姉妹と吉良は蔵に向かう。監視カメラや電子ロックは壊れていたが扉の変形は無く、ダイヤルも正常に動いた。吉良はダイヤルを回し暗証番号を入れていく。
「開きました」
分厚い金属製の扉が開かれる。中から少しかび臭い冷気を感じる風が出てきた。
「すごい……全然無事だぁ……」
霞は中に入り壁の両側の棚を眺める。大小さまざまな箱、刀剣、鎧、書などが置かれている。中央には木製と思われる囲いがありその中心には床下へ続く扉が見える。
「あの扉の中は知らない」「わたしも」「あたしも」
「私も開いているのは見た事ありませんね。最後に開けたのは雪名様だと聞いていますが」
「お母さんから開けてはいけないと聞いていたし、開けようとしても開かなかった」
霄は幼少の頃に吉良に蔵を開けさせ目を離したすきに床下を開けようとしたことを思い出した。
「滅多に怒らないお母さんが怒ったのを覚えている」
「私も覚えてますよ霄お嬢様」
「お母さんが開けたと知って自分も開けたいと思ったのだ。先代と似ている似ていると周囲から言われてたのでな、自分にも出来ると思ってしまったのだ」
「小さい頃の霄お嬢様はとても活発でまだ未成年だった私や須原は大分振り回されましたね。小学校に上がられてからは模範的な優等生になられましたが」
「なんとなく覚えてる小さい頃の姉さんは暴れん坊だった」
「霄お姉ちゃんはやんちゃだったよねあたしは楽しかったよ」
「私の昔話はもういいだろう」霄は少し顔を赤くして「それよりも床下だ」と床の扉に近づく。
「む……あの時は気が付かなかったが魔力の鎖で封印がされている」
床下の扉に指をかける霄。力を込めるも微動だにしない。
「姉さん、わたしも手伝う」「あたしもー!」
魔力の鎖が軋みだした。
「単純な力ではなく魔力で開けるのか」
霄は銀髪紅目になり魔力を全開。それに合わせて吹雪と霞も魔力を全開にする。
「吹雪、無理をするな。この扉は魔力を吸っている……」
「大丈夫、魔力は回復して充実しているから」
三人の魔力で徐々に魔力の鎖にひびが入り始める。
「そうか、お母さんは小さい時の私が魔力を吸い切られてしまうのを恐れてあんなに怒ったのだ」
「この下に何があるのかしら」「封印されしヤバイ化物とか?」
続く
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