VAMPIREEYE115 「炎のエージェント」
―華月は集まった全員に梅小路公園でのことを話す。ざわつく一同。
「前の隠れ家に奴は封印した。黒焦げの頭部と胴体だけの状態でな。心配するな、近いうちに完全に始末する」
「これでエクレシアの戦力は半減と考えて良いのですか?」
水元来海が言った。
「ああ、大天狗長門組は壊滅状態。碁盤の目町攻略に集中できるだろう」
「華月さん、俺言わなければならない事が」
二郎が手を上げる。
「ほう、申せ」
「実は……」
二郎は神名 L 咲夜と遭遇した事、グレイマンの事、目的など知ったことを話した。
「でかしたぞ二郎」
二郎の話を聞き更にざわつく一同。
「先代、先ほどの話で気になった点があるのですが」
霄が立ち上がる。吹雪と霞は疲労が激しいため参加せずに部屋で就寝している。
「灰色の三獣は……どうなったのでしょうか」
「む、そういえば亡骸を確認していなかったな。黒谷、斎藤どうであった?」
「華月様と長門顕彰の戦闘が終わった時には既に姿はありませんでした」
「俺も退場した所は見ていません」
「一人動ける奴が残っておったな、回収したのだろう……だがあのダメージすぐには動けまい」
「ええ、少なくとも 1 日は」
黒谷が答えた。
「二郎君が言っていたモスグレイパワーの亀姫の存在。グレイビーストはあと何人部下を持ってるのかわかりません。特に二郎君と勝田さんは気を付けるべきです」
霄は通る声で言った。
「それは我も考えていた。碁盤の目町攻略の要である二郎、勝田に大事があってはならん。勝田はここにいる限り我が付いている。勝田、外出する時は木戸か黒谷を連れていけ。二郎は蓮也と吹雪、霄の四人で行動しろ。運転は須原、もしくは吉良がするように」
「イエス!かづたん!イエス!!」
立ち上がって直立、上を向いて敬礼する勝田。
「はい!」
力強く応える霄。
「変わったな霄、白峰の記憶の楼は良い影響をもたらしたようだな」
「はい、もう迷いはありません」
深夜の作戦会議は 1 時間ほどで終了。各々の部屋に戻っていく。
「二郎待て、義手を我に見せて見ろ」
華月は神名 L 咲夜が興味を示した二郎の義手が気になり手を触れた。
「……」
「華月さん?」
「確かに妙なものだなそれは」
「大丈夫でしたか?昨日からちょっと制御しにくくて勝手にエネルギー吸収とか……」
「問題ない。不思議と我はそれに触れると落ち着く。二郎、義手の事で我に話す事はないか?」
「俺自身もこの義手の事よく分かってなくて……もう少しで報告できるようになります」
「そうか、勝田も同じような事を言ってたな。報告を待ってるいるぞ」
二郎は少しでも分かった事を話そうとしたが、勝田からきちんとした報告書を書くまで待ってほしいと言われていた。
***
―京都タワー近くのホテル。スイートルーム。
ガウン姿で立っている神名 L 咲夜、従者の梨花。その正面に干からびた皀、全身打撲で破壊された橡、片腕を失った青鈍が膝をついていた。
「がっかりしましたよお前達には。伝説の神獣、猿、犬、雉になぞらえて力を与えてやったと言うのに。あれですか?桃太郎さんを用意しなかった私がいけなかったと?」
「そういう訳では……予想外の敵と戦闘になり先の戦闘の傷も残っていて……」
唯一話が出来る青鈍が震えながら言った。
「あーあーあー……そういう言い訳は良いんですよ。いくらでもやりようはあったでしょう?長門顕彰に従ったのは仕方ないとして馬鹿みたいにタイマン勝負受けてボロ負けとか、お前たち何が目的か忘れてるのですか?」
「いえ、ですがこの街の妖は異常に強くて……特にあの長門顕彰と戦ってた女は……」
「ふむふむ……それでどうしました?見届けもせず逃げ帰ってきたと。長門顕彰から連絡がないって事は負けたって事でしょうね」
「……大将、あの女は自分たちにはどうしようもない強さでしたよ」
「違うんですよ。その他大勢もいたのですからそいつらに呪をかけるなりなんなり出来たはず。何一つ成果を上げずにこのざまで戻ってきているのが、問題なんです。この私に全部やれと?プチプチ 1 匹づつ潰してる間、お前たちは遊んで待っていればいいと?」
「ち、違います」
「世界が変わった後、私の下僕として、灰色の軍勢を任せるつもりでいたのですが、こんなに弱いと任せられないじゃないですか。他のグレイマンとの競争に負けるじゃないですか。言ってて益々怒りが込み上がってきますよ」
ダークグレイの煙が咲夜から立ち昇る。
「ひ、ひいいい……」
「おまえたち、もう伸びしろないんじゃないですか?……でも三人合わせれば可能性出てきますかね?」
手をかざす咲夜。皀、橡、青鈍の体が宙に浮く。
「た、大将何を……」
「皀も橡も壊れて使い物にならない、青鈍、お前は呪の装備を失くして役立たず。だから三人合身させます。三体の妖、三種のグレイパワーを合わせれば、この私グレイビーストの下僕にふさわしい獣になれる可能性があるかもしれません」
咲夜の口から薄紅灰色の煙が出てくる。そしてそれは宙に浮いた三人を包み込む。
「うあああああああ……た、大将……」
骨が折れ肉が裂ける音が響く。やがて青鈍の叫び声は聞こえなくなり、薄紅灰色の煙は青鈍に吸収されていく。
「ローズグレイパワー……桃太郎じゃなくて……魔獣太郎とでも名乗ればどうです?」
肉塊は徐々に人型に変わり薄紅灰色の煙を纏いながらゆっくりと立ち上がる。
「ゴッフォ~……大将……ありがとうございます……皀、橡の力に加え新たなローズグレイパワーまで……この魔獣太郎、命を賭けて今度こそ遂行いたします」
現れたのは一本角を生やし般若めいた顔立ち、盛り上がった強靭な肉体の獣。
「いいですねぇ、そしたら武器も渡しておきましょうか。私が昔使用していた大太刀です」
巻物を広げると大太刀が飛び出してくる。 2 m以上の長さ、 20 ㎏を超えるもの。
「私が折れずの呪(しゅ)をかけた祢々切丸です。とてもよく切れて頑丈な一振りです」
「頂戴致します」
大太刀・祢々切丸を手に取る魔獣太郎。体毛が変化し大具足へと変わる。
「良いですね、期待していますよ魔獣太郎」
***
―翌日
二郎、蓮也、霄、吹雪の四人でセンジョーへ向かう。運転は須原。
「吹雪さん、本当に元気になったんだね」
「ええ、ご先祖様に感謝しなきゃ」
吹雪の顔色は良く目にも輝きが見える。
「霄、少し変わったな」
「そ、そうかな……どこが変わったかな蓮也さん」
「うまく言えないが……少し大人びたかな」
「そうなんだ、そう見えるんだ……ありがと」
数十分後、センジョーに到着。須原に車で待機してもらい、車を降りて蓮也は総合施設ではなく非常階段へと向かった。霄は慌てて付いていく。
「(……兄貴は地下闘技場にいくつもりか。でも霄さん大丈夫かな)」
「二郎くん、どうしたの?蓮也さんと姉さんがどうかした?」
「えっと……詳しくは言えないんだけど、特別な施設があってそこに兄貴と霄さん行くんじゃないかなーと……」
「??わたし達は行かなくていいのかしら?」
「うーん……明珠香さんと待ち合わせもしてるし HKF の筐体前で」
「そうね……」
「どうしたの吹雪さん?」
少し暗い表情になった吹雪。
「二郎くん、昨日の先代の話を聞いてどう思った?わたしは……正直怖かった」
「……わかるよ」
「あれで丸くなったとか黒谷ジークベルトは言っていた。当時、やりすぎたという話、そういう事だったのかと思ったわ」
「華月さんを止めることが出来たのは吹雪さんのお祖父さんだけだったらしいし、そのお祖父さんが亡くなってからは……」
「今よりずっと酷い時代だったと聞くし、先代がいなければ平安時代よりももっと怖い歴史上最大最悪の暗黒時代が訪れてた可能性もあるってお母さんから聞いたことあるわ」
「ヤバイのが一杯いた時は華月さんを頼り利用してた連中が平和になった途端裏切って……白峰家まで巻き込んで華月さんを滅しようとした。俺なんかが言うのもおかしいけど華月さんは平和になったらなったで無茶しないでちゃんとしそうだけど。九尾を追い詰めた後罠になんかかけて滅しようとしないでそのまま任せていれば……」
「陰陽師・葛野忍と大天狗・長門顕彰は次は自分らの番じゃないかと恐れたのよ。プライドも恐れも捨て、先代と話合えば手を取ってグレイマンらと戦う未来もあったかもしれないのに」
「それも考えたのかも。更にその先グレイマンが居なくなった後の事を考えて怖くなったとかありえる」
「そうね、生物は理解できないものを怖がるもの。先代の事を理解せずに只々恐れていてはダメ……ダメなんだけどわたしもちょっと怖い」
「大丈夫だよ吹雪さん、華月さんは真っすぐな人だよ。嘘や裏切り不誠実は絶対に許さないけど」
「ええ、姉さんのように純粋で真っすぐな人。いえ、先代に似たのね姉さんは」
「吹雪さんがお姉さんの霄さんと上手くやっていけるのならきっと華月さんとも大丈夫」
「わたしは……お母さんに似てるって言われ続けたの。お母さんと先代はあまり合わなかったようだけど……」
「ちゃんと話合えば分かり合えると俺は思うよ。本音で理解しあおうとお互いが考えれば」
二郎は真っすぐな目で吹雪を見つめて言い放った。
「……二郎くんがそう言うとそんな気がしてきた」
数秒間目を合わせてハッと気が付き照れてお互い目を反らす。
「あ、明珠香さんが待ってるかもしれないし行こう」
「そ、そうね」
「さぁ行こう……あれ?」
二郎は施設の中から異様な気配を感じた。人間でも妖でも無い気配。
「なんだろう……?灰色の軍勢かな……まさか」
「二郎くん?」
二郎は警戒しながらセンジョーの施設へと入る。相変わらず神名製のパワードスーツ警備員が制圧銃を構えて巡回している。
「あの人から……妙な気配を感じる」
二郎の視線の先にはハンバーガーをかじりながら HKF の画面を見つめる赤髪の少年。
「あの男の子?確かに何か感じるけど……」
「や、どーも」
二人を見つけるや否や手を上げて話しかけてくる少年。
「おっと警戒しなくても大丈夫。不安ならこの距離で話そう、俺はイグネイシャス・ファイマン。世界的な組織のエージェントかもしれない男さ」
イグネイシャスと名乗った少年は指先に炎を灯し警備員に見つかる前にすぐに消す。
「イグネイシャス……さん?」
「歳はそんなに俺と変わらないか。まぁなんでもいいや、なんでもいいから変わったことが起きてたら教えてくれる?」
おちゃらけた少年の言動とは裏腹に一切の隙を見せない。二郎と吹雪はすぐにただ者じゃないと身構える。
「お?その反応、俺の事少しは理解できてるのかな?じゃあちょっとだけチラッと手帳見せちゃおうかな?」
イグネイシャスは Talent's secret military institutions ( TMI )と書かれた手帳を見せる。
「こんなの普通は頭のおかしい奴と思うかもしれないよね?一般的には知られてない組織だし変に目立っても良くないから見せびらかしたりしないんだけど。ああ、話が脱線した俺が聞きたいのはブラックヴァリーの事。突然何を言ってんのか分かんないか、黒装束の忍者のような集団知らない?」
「忍者……!?」
二郎は吹雪の顔を見ると左右に振って否定のゼスチャーを繰り出した。
「そっか知らないか……それじゃあ『神名』と関わってる?」
二郎はドキッとした。昨日神名 L 咲夜と会った事を思い出していた。
「ここの施設の整備員の装備は神名製だ。一般には出回らないし高額で買えない」
「えっと……神名って名乗る人にはあった事ありますが」
「おお、それはいつ?どこで?」
イグネイシャスの目が輝いた。
「昨日です……京都駅近くの建設現場で」
「ふ~ん……で、そこには神名と名乗る人物だけ?」
「いえ、長身のなぎなたを持った女性もいました亀姫とか呼ばれてた気がします」
「神名のアジトかなぁ……ちょっと調べてみるかな、ありがとう。君、名前は?」
「木城二郎です」
イグネイシャスはハンバーガーの包み紙に 12 桁の数字を焼き印で刻み込む。
「これ、俺の仕事用番号。何かあったら連絡くれるかな?携帯に登録してくれ」
二郎は焼き印の番号を携帯写真で撮る。
「黒装束とか忍者っぽい奴がいたら気を付けるんだ。消音銃や黒塗りの刃物なんか持ってたら特に怪しい。そういうの見つけたらすぐに連絡して欲しい、戦おうなんて考えずにね」
イグネイシャスは二郎たちの間を驚くほど滑らかにすり抜けて店を出ていく。
「……」
「ただ者じゃない……魔力は感じなかったけど妙な気配はあったわ。あの身のこなし相当な訓練を積んでいる素人じゃない。エージェントというのも嘘じゃなさそうよ」
吹雪はイグネイシャスを目で追って言った。一瞬イグネイシャスが振りむき手を振った。
「魔力でも無いのに火を使ってた、サイバネかな」
「どうかしら、妙な感じが何かわからないけどそれが関係してるのかも」
二郎と吹雪はイグネイシャスが見えなくなると店の奥に進む。まだ二ノ丸明珠香は来ていなかった。
その時メッセージが入った。明珠香からであった。
『ゴメン、ちょっとだけ遅れる。例のサイバネ者らのゴタゴタ関係』
「『今どこにいるの?』」
『蛸薬師通の公園だけど来なくても大丈夫、もう終わるから』
続く
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