
ReviveTheGunSword 灰蘇の剣銃
26
「LOKI2」
クリムゾンはサイバーウェアの中から映画の小道具で見るような羊皮紙の巻物を取り出して広げた。
「この契約書同じものが 2 枚、 1 枚は貴方に。契約破棄の条件に当てはまるとこれは炭のように真っ黒に変化します」
契約書は見たことのない文字が並んでいる。クリムゾンが説明をすると。
1: LOKI の指示に従う事。判断に迷った場合は必ず相談する事
2 : LOKI は鈴村功太朗の身の安全を保障する。
3: LOKI は鈴村功太朗の要望で戦力として協力する。
4: LOKI に対する裏切り行為は即契約解除とする。
と書かれているらしい。表情や声色から嘘かどうかは読めない。
「……解った大事に保管しておこう」
契約書を見つめる功太朗。
「第六地区の襲撃はいつ行われるのです?」
「早朝だと聞いています」
「そうですか……」
クリムゾンが手をかざすと宙に地図が現れた。
123
456
オータムホースのそれぞれの地区にナンバーが記されている。
「第六地区は東と南が海、北は住宅街の第三地区、西に工場地帯の第五地区。院瀬見が武装勢力を突撃させるのなら第五地区からでしょうね。流石に住宅街の中を通る訳にはいかないですからね。第三区側の道路を封鎖などはするでしょう」
「ええ……第五地区と第六地区の間には人工河川が流れています。掛かっている橋は二つ。
ここから武装勢力は入って来ると私も予想しています」
「ヘリコプターやドローンで上からの侵入もあるでしょう。問題なのは……」
「第五地区住人の逃げ場がない………ですね」
「いえ、もっと怖いのが北の第三区住宅街への逃走経路を開いているように見せかけて一網打尽にする場合でしょう」
クリムゾンは住宅街へ続く道路に印をつけて周囲から矢印を書いた。
「そんな……影彦派閥はそこまでやると!?」
「やるからには徹底的にやるでしょう。中途半端にやれば大騒ぎになります絶滅させれば証拠は何もなくなりますから。鈴村功太朗さん、敵の数の予想はどのくらいです?」
「……影彦派閥が動かせる戦闘員はおよそ 300 人。そこに雇われの者を加えれば 1000 人くらいにはなるかもしれません」
「こちらの戦力は?」
「第六地区で戦えるものは聞いた話では 100 人程度……その内戦闘経験のある者は半分にも満たないと……後はここにいる諸田君、柄留さん、守山さんです」
「中々に絶望的な状況ですね……しかし―」
クリムゾンがオレと柄留を見た。
「彼とそちらの彼女で半分は相手にできるでしょうから残り半分をどうするかですね」
「どうしてそう考えた?常識的に考えても個の戦力であり得ない計算だぞ?」
オレはクリムゾンのサイバーゴーグルに目を合わせて言った。
「昼間のトンネル付近の映像をここに来る前に見てましてね。貴方とそこの彼女が怪人らを撃退した姿から判断しました」
「アレを見ていたのか……なるほどな。話を中断してしまったな続けてくれクリムゾン」
「院瀬見派閥の殆どは実戦経験の無い者。ヴァーチャル訓練は受けているでしょうが諸田さんと柄留さんのような常識はずれな者には対処できるはずもありません。すぐに混乱して戦線は崩壊するでしょう」
「では二人には守りの要である橋の傍で待機してもらった方がいいですかね」
功太朗はオレと柄留のアイコンを二つの橋の横に配置する。
「……できるだけ第六地区の戦力で橋で迎え撃ち進行を遅らせ橋を突破してきた敵を諸田さん柄留さんに迎撃をお願いする形がいいでしょう。空からの襲撃と他ルートから街に侵入してしまった敵は LOKI にお任せを」
「わかった……それで行きましょう。この作戦は第六地区を仕切っている兜金大河にも伝えます」
「ええ、是非とも。ではみなさん後程第六地区でお会いしましょう」
クリムゾンとハートは静かに立ち上がりガレージを出て行った。
「……これで良かったのでしょうか」
うなだれる功太朗。
「ここまで来たらやるしかないだろう。もし LOKI が妙な動きをしたらオレが止めてやる」
「……お願いします」
襲撃を撃退してその後は怪人王の二人を捕らえる。それで終わるとは思えないがしばらくは騒動も収まるだろう。
「罅助は功太朗さんに付いて護衛するのだな?」
「そうです。一応功太朗さんにも戦闘用装備で来てもらいますが基本的に後ろで控えてもらい住民の誘導に参加してください」
「ああ、わかったそれならば……使いたいものがある来てくれ」
功太朗はガレージの奥に進んでオレたちを呼んだ。
「これを使う」
壁に隠した収納式ベースから人間より一回り大きい人型が現れた。
「あ!これってキャリバーの姿に似ている!!」
柄留が言った。オレはニュース記事のキャリバーの画像を思い出す。
「これは蒐魅のサポート用に作った搭乗型外骨格で AI を搭載してある。蒐魅はこれに自我が芽生えたと言っていたが私には解らないままだ。ただ、普通に乗りこなすことはできる。これに乗ればキャリバーとして戦えるだろう……」
搭乗型外骨格の話をした功太朗の表情が固まった。
「どうした?」
横にいる柄留の目がオレンジ色に光を帯びている。それに呼応して外骨格の頭部のカメラアイが僅かに光を帯びた。
「……この子の声が聞こえる。【戦いたい】ってさ」
「そんなまさか……ドライブユニットは外してある……電源は入っていない」
「あー……多分だけど蒐魅もこの子に何度も何度も乗ったんだよね?グレイブラスターの弾丸に蒐魅が何か……応急修理の装甲とか?追加武器弾倉にを込めてこのフレームに撃ち込んだのならあり得るよ。思いが AI に移ったのかもね」
「……そうか、それならあり得るのか」
「えっとまだ何か言ってる………【 G ウェポン用意】だって」
「 G ウェポン……蒐魅がグレイブラスターで作ってた特殊な武器の事か。兄の大河、 G/T に渡す為に用意してたな。しかしここには G ウェポンは無いが」
「ボクに作れってさ……出来るかなぁ」
「う~む……私には何も聞こえない」「自分もです」
功太朗と罅助はフレームを近くで眺めながら首をかしげている。オレには声は聞こえないが何かの念は感じる。
「…… AI は私については何か言ってないかね?」
「なんかねー……【乗ってれば守ってあげるから】とか自信たっぷりに言ってるよ」
「そうかわかりました……では早速柄留さん G ウェポンをお願いします私はフレームのチェックを」
功太朗は端末を操作して作業用のマニュピレーターを動かす。
「 G ウェポンを作るには素材がいるって訳ね……盾と銃とブレードの三点分。 G ウェポンて……蒐魅がグレイブラスターで特殊効果付与した武器なんだよね。チャージは蒐魅がしなきゃなんないけど誰でも使える便利やつ……」
「できるのか?」
「う~ん……多分いけるかなーもう半分の力が邪魔しなければ大丈夫そう」
もう半分の力とは、白魔女ミレーヌの力か。
「ともかくやるしかないな」
柄留は AI と会話しながらグレイブラスターで廃材を破壊して G ウェポンの精製に挑戦する。功太朗はキャリバーフレームの調整、罅助は自分の装備をメンテナンスをしている。
「オレは……兜金大河に連絡を取ってみるか」
リビングに戻ってソファに座って大河に携帯をかける。 6 コール目で出た。
『諸田和音か。大体の事はキョウヤに聞いてんぜ LOKI の事もな。で、何かあったか?すぐにこっちに来るんだろう?』
「あと少し準備に時間がかかる、その間に北の第三地区に繋がる道路付近の警戒をしてくれないか?」
『派閥の奴らは西の第五地区から来るはずじゃあないのか?』
「実は……」
虐殺が目的の影彦派閥は北に逃走ルートを開けておいて待ち伏せ一網打尽にしてくる可能性があると大河に伝えた。
『わざと逃げさして集まった所を皆殺しやと!?えげつなすぎんぞ……』
「あり得るんだ。奴らの第六地区に対する態度を見てたらな」
『……解った今から北の道路周辺を G/T の何人かに警戒させる』
「オレ達もなるべく急いでそちらに向かう」
『頼むぞ』
「ああ」
大河との通話を終えリビングのソファに座って第六地区の地図を眺める。
「虐殺が目的と考えると……奴らは火を放つかもしれない。風向きからして第六地区の北西から始めるかもしれないな」
東と南の港は海上封鎖されると予想できる。そもそも第六地区にまともな船は無い。
「消火は……柄留のグレイブラスターで対応可能か?」
「なあに~?呼んだ和音君?」
灰色と黒のモザイク柄の銃を持った柄留がリビングに来た。あれが G ウェポンか。
「派閥の連中が火をつけた場合お前に消しに回って欲しい。第六区の者は消火どころじゃなくなるだろうからな」
「オッケー!どんな火も消して見せるよ!!」
「奴らの侵攻はオレが止めて見せる。頼んだぞ」
***
功太朗のキャリバーフレームと罅助の準備が整いガレージを後にする。
功太朗はキャリバーフレームに乗り武器を積んだコンテナを背負っている。罅助は医療品を詰めたボストンバッグ、柄留は食料のバックパック、オレは水のタンクを持っている。
地上に出て守山探偵事務所のワゴン車に乗り込み、そこから大河の家に向かう。
第六地区は相変わらず光が少ない。街灯は無く街の明かりも少なく消えかけたネオンと道端でドラム缶の焚火が目立つ。
「……第六地区に来るのは始めてじゃないが夜は始めてだよ。まるで終末の世界の街だ」
ワゴン車の荷台、キャリバーフレームに乗ったままの功太朗が言った。
「そうなの?蒐魅と組んでたのに?」
柄留は棒付きキャンディーを咥えながら言った。
「目立つのと夜は何があるか解らないから来るなと言われててね。昼間に車で来た時はいきなり街の人間に泥団子をフロントガラスに投げつけられてね、停車してガラスを拭こうとしたら 5 人くらいに囲まれた」
「それで?」
「車強盗だと気付いた時にはもう遅かったよ。大きなサイバネ男二人が私を掴んでる隙に一人が車のロックをこじ開けようとして後の二人は武器を持って見張ってた。私は防弾防刃で武器を仕込んだビジネススーツを着ていたから電気ショックで抜けだして何とか逃げようと考えてたら声がしたんだ『やめなー』ってね」
「それが蒐魅?」
「ああ、蒐魅の登場で強盗の連中は舌打ちをして去っていった。 G/T に潰された半グレチームの残党だとか言ってた。そこから蒐魅のコンテナアジトに行き今度からは第五地区で会う事になった。どうしても第六地区に行く必要があった時もそれ以降は襲われなくなった蒐魅が私の車のナンバーを街の連中に伝えたんだろうね」
「ふ~ん……じゃあ夜に来るなって言ったのはなんで?」
「ハンターの連中がうろついてるからだと言ってた。第六地区の住民を狙う人攫いで人殺しの雇われ傭兵の事だよ、それが夜には多く出る」
「知ってるー!怪人の実験をしている院瀬見の収容所とかに連れていくって訳ね」
「白魔女 M の邪魔さえなければ収容所は破壊できたはずなんだ。でも今となってはあの時潰しても別の場所で同じ事が行われていたと考える。怪人王を止めなければ同じ事の繰り返しになるだろう」
「怪人王を潰した後も大変だよきっと、功太朗は LOKI と契約したんだから院瀬見のドロドロの派閥闘争に戻らないといけないんだし。それでもやるしかない、この街を良くするには院瀬見から変えていかなきゃどうしようもないもんね」
「私が院瀬見で力をつけたらこんな終末世界のような状態の街を放ってはおかない」
「あ~なるほど蒐魅が功太朗と組んだ理由改めて解った……」
そこから二人の会話は無かった。オレ達のワゴン車に近づいてくる不審な車も居ない。 G/T がこの車の事を知らせておいたのだろう。
大河のアジトの前には武装した G/T のメンバーと七曲キョウヤが立っていた。
「待ってたぜ~さぁ中に入ってくれ」
ゲートが開かれワゴン車を誘導する G/T のメンバー。既に敷地内には数十台の改造車両が停車していた。
「 LOKI の連中は?」
「オレ達とは来てない」
「あっそ、まぁいいや。大河は何人か連れて北の第三地区に繋がるゲートの方に出てるから皆適当にガレージでくつろいでてよ、諸田くんはちょっと俺っちと一緒に来て」
「ああ」
ガレージの中には G/T のメンバーが武器を持って待機していた。オレとキョウヤは半分二階になった大河の部屋に向かう。
「で、どうした?」
「ハッキリ言ってこの戦い勝ち目は無いヨ。 LOKI がどれほどか知らないけど影彦を討ち取ったらさっさと六区を放棄して散って生き残った方がいいと俺っちは思う訳。その後はゲリラとして院瀬見を揺さぶった方がいいんじゃないかと」
「何が言いたい?」
「ゲリラ化すれば院瀬見は完全に俺っち達を完全に排除する事は出来ない。味方も増えるだろうし俺っちの依頼主も動きやすくなる。だから……諸田君には頑張りすぎないで欲しいんだな。圧倒的な力で殲滅してもこの街の人間じゃないからその後の街の未来に君は居ない、ゲリラ英雄にはなれない。大河は荒くれ者の英雄にふさわしいとは思うけどゲリラには向いてない蒐魅こそが最高の存在だったんだけどネ」
「ゲリラか……泥沼の殺し合いに持ち込ませる気は無いぞ。オレはあと二日で院瀬見の功太朗に敵対する派閥も怪人王も潰す気でいる」
「マジかよ……どんだけ自信ある訳?失敗が怖くないのかよ?達成で来たらガチの伝説になるぜ……」
「自信か……あるとも言えないが全力を出してこの作戦に挑むだけだ。第六区を守りきって影彦派閥を殲滅する。完全勝利を目指す」
「……ケッ!プランBは却下かぁ。諸田くんがこの街に現れなけりゃプランBしか俺っちたちが生き残る道はなかったんだがね。しゃあねえプランAに賭けるとするか!第六区の完全勝利だ!!」
続く
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