ReviveTheGunSword 灰蘇の剣銃
27
「影彦派閥侵攻」
――院瀬見グループ取締役特別事業開発推進部長・鈴村景彦は装甲車の中で薬物を過剰摂取して精神の安定を図っていた。
「スゥーッ!ハァーッ!スゥーッ!ハァーッ!スゥーッ!ハァーッ!」
失敗すれば後は無い。死ぬよりも辛い地獄を見る事になる。
他の派閥の連中、市長の圧力、怪人関連の連中。
「徹底的に!第六区全ての人間を駆除しろ!!ガキは全て収容所送りだ!!」
サイバーゴーグルで自分の配下に向かって叫ぶ。
「(大丈夫、大丈夫だ!!最新の武器にアーマー、装甲車に特殊訓練を受けたサイバネ戦闘員。それにニンジャだ!!ゴミ溜めのカス共なぞあっという間に駆除してやる!!)」
「おや、影彦サン。酷い様子ですねぇ」
「き、貴様は!!」
電子ロックをかけ誰も居ないはずの装甲車の一室に若い女が現れた。
「何のようだ魔女!!(こいつはいつの間にか院瀬見に入り込んでいた不気味な女。実年齢も経歴も出身も全てが不明。 DMC 時田麻村と繋がっているらしいが)」
「このままじゃ危ないですよ?戦う相手は怪人をあっという間にやっつけちゃう連中です。君の派閥だけで大丈夫かな?」
「お前に関係ない!!怪人なんぞには頼らんぞ!!」
「冷たいなぁ院瀬見同士の仲じゃあないか。院瀬見の事業障害となる無法者は排除しないとね。私としても影彦君には生き残ってもらいたいんだよ。君は院瀬見に誠心誠意尽くしてどんな事でもやってきたじゃないか。そういう愛社精神をもった人物を失いたくないんだよ」
「魔女、貴様に院瀬見の何が分かる!!勤続 20 年のこの俺に偉そうにするな!!」
「確かに院瀬見に来てからは日は浅いけど君よりずっと長く生きてるんだ少しは敬意を払ってもらいたいね」
魔女の影から細長い手が伸びて影彦を持ち上げた。
「な、何を……!!」
「私の目的は院瀬見の長~い繁栄さ。こんなに人間関係どろどろしてて人がいっぱいいて材料にも娯楽にも事欠かない場所は他に中々ないからね。街の地下にも興味惹かれるし最高の工房さ」
「ふざけるな!貴様のような化け物がいつまでも野放しにされてると思うなよ!近いうちに退治されるぞ!」
「そうならない為に君たちが頑張るんじゃないか。私は目立たず院瀬見の陰でじっくり研究して暮らすんだ、ヴィランになりたいわけじゃ無いのさ」
「寄生虫め……」
「おお、それは言い得て妙だね。そう!私は院瀬見という大企業に取り付いた寄生虫さ。安心したまえ外敵からは守ってあげるから。例え君たちがどうなろうと院瀬見は守ってあげるからね」
影彦の横にあるモニターは装甲車の外を映している。自慢の屈強な部下たちは倒れこんで動かない。
「貴様……何をした!!」
「負けないように手を貸してあげるんだよ。外で倒れている君の部下は皆怪人に変わる。でも大丈夫影彦君のいう事は何でも聞くようにしてあるから。時田君とドクターのおかげで怪人は次の段階に進んだのさ。第二世代の最新型は適性が無くても自我を失う事は無く活動できるんだ凄いだろ?」
「貴様……勝手な事を!この戦いが終わった後はどうするんだ!部下が怪人なんぞ院瀬見で表立って置いておけん!」
「あー……まぁそうかこれは失念してたね。でも怪人化しないで戦ったらどの道負けて終わりだし良いのでは?君は生き残るんだから関係ないでしょ。部下はホラ……サイバネか何かで誤魔化したら?」
「この悪魔め」
「悪魔ねぇ……魔女と呼んで欲しいな。じゃあ後は頑張ってもうすぐ部下君たち目を覚ますよ」
魔女は黒い影に沈んで消えていった。影彦はサイバーゴーグルを拾ってかけ直し部下に声をかける。
「おい、聞こえるか?部下たちよ、立ち上がれ!準備は良いか!!」
『準備万端ダァ……殺して殺して殺し尽くしてやりますよぉ~部長~』
部下の棚科が答えた。影彦の右腕的存在の男で理路整然とし冷静な普段とは違う。
「棚科……大丈夫なのか?」
『チョット……気持ちが高ぶりすぎただけです……仕事に支障はアリマセンッ!』
「そ、そうか……では行くぞ!4:00作戦開始だ!」
怪人化した影彦の部下たちは唸りを上げ各車両に乗り込む。そして院瀬見ビルの駐車場から続々と出て行く。艶消しの防弾使用の車両らは明らかに異質。
***
第六地区に繋がる二本の大きな橋の前に陣取る影彦派閥。まだ薄暗く日の出にはまだしばらくの時がある。装甲車から身を乗り出し暗視双眼鏡で橋の対岸を確認する。
「一丁前にバリケードなど張っているか……あんなもの障害にならん。まずは飛行部隊に先行させろ」「了解!」
影彦の合図で貨物トラックが展開し搭乗型ドローン 10 機が空中に飛び出す。乗っているのはライフルを装備したアーマー兵。
「ヒャッハー!バリケードの影にクズ共を発見!上から攻めるぞ狙い撃ちだぁ!!」
吠えるアーマー兵。しかし武器を構える事無く錐もみを描いて墜落。
「何だ!?」
他の搭乗ドローン兵が振り返ると金属の塊が顔面に炸裂した。防弾ヘルメットを陥没させて頭蓋骨を粉砕する。金属の塊は所謂メイスの形状をしており柄には鎖が着いていた。
「右だ! 3 時の方向!!」
一斉に右を向く残り 8 機の搭乗ドローン兵。そこには鳥類の羽を生やした純白のシスター服の存在が浮いていた。
「撃てぇ!!」
異形の相手にも硬直せずにすぐに攻撃行動に移る搭乗ドローン兵。訓練されていることが分かる。しかし一斉射撃されたフルオートのライフルの弾丸はあっさりと防がれる。シスターの翼が盾となり弾丸を弾き返した。
「なに……!?」
翼を大きく振るうシスター、大量の羽が発射され搭乗ドローン兵は針千本に。
「ぎゃあああああああああっ!!」「ばかな!防弾アーマーだぞ……」「慌てるな傷は浅い、俺たちは人間を超えたんだ耐えられる!」
大量の羽が突き刺さった兵たちは下がって陣形を立て直す。
「人間を超えた力見せつけてやれー!!」
木を砕いたような音と共に兵たちの顎が変形していく。一見 1 本のパイプ状に見えた口は開いて 5 つに割れる昆虫の蚊の口器と同じ構造に変わった。
「行くぞ!あのシスターの血を吸って回復だ!」「オウッ!!」
搭乗ドローン兵の背中からは翅が飛び出し羽ばたき始める。ドローンの動きを補助して加速、シスターを取り囲んだ。
「一斉攻撃だぁー!!」
8 人が全方向から同時に口器の伸びる刺突を放つ。
―だが。
「なにっ!?」「弾かれた……!!」
8 人の口器は全て何処からともなく現れた鎖で弾かれた。シスターの周囲を竜巻めいて回転している。
「ええいっひるむな!!あんな鎖!!」
突撃する一人の兵。鎖の間から飛び出したメイスに胸を貫かれた。
「ゴホッ……」
シスターは分銅のように突き刺さった兵ごと鎖付きメイスを振り回して投げ捨てた。
「クソ!また一人やられたか……」「奴の武器は鎖付きメイスに羽攻撃」「立て直すんだ」
陣形を組み直す搭乗ドローン兵。
「準備運動終了」
それまで口を開かなかったシスターが呟いた。低く少し掠れた女性の声。
竜巻めいた鎖が青白い光を帯びる。そして次の瞬間―
「がああっ!」「ぎゃひいい!」
閃光の如く速さで振るわれる電撃を纏った鎖メイスが搭乗ドローン兵を直撃、爆散する。残りは一人になった。
「なんだ……何なんだオマエ………」
「コードネーム・トニトルス」
それだけ言うと目の前の搭乗ドローン兵に瞬きよりも速いメイスを叩きつけ粉砕した。
「何だあれは……」
装甲車の中でモニターを見ていた影彦。
「撃て!撃ち落とせ!!」
装甲車の銃座に着くアーマー兵たち。しかしトニトルスを名乗ったシスターは稲妻のように青白い光を纏って第六区の奥へと消えていった。
「第六区の隠し玉だというのか……フルサイバネに飛行ユニットを搭載しているのか?それにあの武器……」
院瀬見の兵ではありえない武器。鎖付きメイスなど近代兵器では採用されるはずもない非効率で無駄な構造。
兄の功太朗ほどではないものの影彦もエンジニア。すぐに録画した動画から分析を始める。
「飛行部隊は全滅か」「ハイ」
側近の棚科が答えた。
「迫撃砲を使ってバリケードを破壊しろ!アーマー歩兵で橋を確保し本隊を突撃させる」
想定外の敵の出現に影彦は動揺し精神安定剤を追加で注入する。
「(どこからあんな戦力を連れてきた?第六区は半グレのゴミ共だけじゃなかったのか?まさか他派閥が俺を陥れるために手を貸したのか!?)」
影彦の乗る大型装甲車の外ではアーマー兵が迫撃砲の準備を終え放とうとしていた。
「撃てェッ!!」
一斉に放たれる 4 機の迫撃砲の砲弾。放物線を描き対岸のバリケードに命中するかに思われたが全て空中で爆散した。
「なんだ!?」
サイバーゴーグルで映像を確認する。スーパースローモーションで迫撃砲の弾丸を追った所細長い物体に撃ち抜かれていた事が判明した。
「向こうの迎撃装置か?それにしてもこんなピンポイントで……」
超望遠スコープで確認すると小汚い第六の武装サイバネ集団の真ん中に場違いな姿の物が立っていた。
「何だあれは……サムライ……か?」
黄系の着物にプレートを鎧のように身に着けた大柄な女性サムライが見えた。大弓を構えている。
「まさか弓で撃ち落としたのか?」
次の瞬間装甲車のスコープは矢で撃ち抜かれ破壊された。
「スナイパーライフルの距離を撃ち抜く弓だと?ええい!撃てるだけ砲弾を撃ち込め!!バリケードを破壊しろ!!」
迫撃砲に加えロケットランチャーを装備したアーマー兵が前に出る。トリガーに指をかける前に対岸から放たれた矢に射貫かれ倒れていく。
「命中力だけでなく馬鹿げた威力……あのサムライをつかって橋を渡らせないつもりか。だが所詮は一人。数で押し切ればいいだけだ!」
砲撃のアーマー兵を退かせ対爆盾を装備した超重装兵と装甲車を前に出して進ませる。女性サムライの矢は 30 構造の盾に突き刺さって止まっている
連続発射される矢にハリネズミになりながら進行する装甲車に超重装アーマー兵隊。
部隊の半分が橋の中央に到達すると第六区の抵抗軍とサムライが退いていく。
***
「よおし!予定通り敵は鈍重な兵を前に橋を進んでくるぞ!!」
大声で合図したのは矢を放っていた女性サムライ。
コードネーム:アンバー
「ギィイイイイイイイイイイイイ……」
アンバーの傍らには子供サイズの緑の獣。耳は猫科を思わせる形状、腕は熊のように太く鋭い爪、足は蹄で踵の浮いた趾行型。尾は太く長く身長と同じ長さはあった。バックパックを背負い両腕には拡張用のデバイスが付いている。
「退くぞ!後はシャパリュに任せるのだ!!」「ギイイイイイイアアアアアアアアアッ!」
アンバーはトラックの荷台に乗って第六区の抵抗軍の兵と奥へと退く。
残ったのはバリケードと緑の獣シャパリュ。
「ギイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
シャパリュの大咆哮。それを合図に橋の下部で爆発が起きた。亀裂が走り橋は中央から真っ二つに折れ曲がっていく。
「ぐわああああああっ!」「橋が崩れる!!」「ぎゃああああああ!!」
影彦派閥の装甲車の殆どが橋の崩落に巻き込まれ川に転落。怪人化した兵は溺れるまでには至らず下敷きになった者の他は這い出して侵攻を続けている。
「ギィィィィィ……」
牙を剥いて笑みを浮かべるシャパリュ。尾を使って器用にバックパックを開ける。弾倉ベルトの着いたフルオートマシンガンを両腕のデバイスに装着した。
「なんだあの動物?」「武器を持ってるぞ!!」「始末しろ!!」
アーマー兵は院瀬見の最新型サイバーゴーグルでシャパリュの姿を捉える。そしてプラズマガンのロックを試みる。
「おかしい……反応がない。水没程度で誤動作など起きるわけがない……」
再度ロックを試みる前にシャパリュは間合いを詰め飛び掛かっていた。
「ギィイイイイイイッ!!」
小さな体からを考えられない力でアーマー兵のヘルメットを引き剥し鋭い爪で首を掻き切った。そのままバック宙で両腕のマシンガンで左右のアーマー兵を撃つ。
「院瀬見の最新型重装兵の装甲をマシンガン程度で貫けるものか!」
マシンガンの弾丸は兵の言う通り装甲を貫くことはできなかった。しかし弾丸は装甲に張り付き広がっていった。
「ギイイイイイアアアアアアアアアアアアッ!!」
叫ぶシャパリュ。呼応するかのように張り付いた弾丸は爆発。アーマー兵は上半身を消滅させた。
「ギィイイイイイイイイ……」
シャパリュの弾丸はアーマー兵の装甲を爆発物に作り替え自身を爆弾へと変えていた。強靭な装甲であっても橋であってもシャパリュが浸食できるものは爆弾に変えられる。
「爆弾を使った!?」「奴をターゲットできない!?何故だ!!」
「原因は不明だがオートエイムはコイツには使えない!各自マニュアルに切り替えて対処しろ!!」
アーマー兵のリーダーが叫ぶ。シャパリュに狙いを定めフルオートのアサルトライフルを撃つがアーマー兵のエイムを超える速度で動くシャパリュを捉えることはできない。
「速っ!」「クソ!何て動きだ!!」
背後に回ってたっぷりと弾丸を撃ち込んだシャパリュはアーマー兵を盾にして突進。投げつけて爆破させる。 10 人以上のマーマー兵が巻き込まれた。
「ギィィィィ……」
シャパリュは折れた橋の斜面を駆けあがり周囲を確認する。もう一つの折れた橋を歩兵たちが進んでいるのが見えた。
「ギィ」
***
「何が起きている!あの緑の生物は何だ!?」
机を叩いて叫ぶ影彦。
『不明です、あの生物に重装兵βチームが足止め状態現在交戦中。αチームは折れた橋を渡って対岸に到達しました』
「橋を落とすとは想定外だった……第六区の連中がそこまできるなど誰が想像した?」
圧倒的武力を持っての蹂躙虐殺だと影彦派閥の部隊の全員が考えていた。しかし突如現れた空飛ぶシスター、恐ろしい威力の矢を放つサムライ、正体不明の緑獣。
「(部下共が魔女に怪人化されていなければとうにパニックを起こしていた……か)」
影彦は後方に控えている人型搭乗式フレーム戦闘機に回線を合わせる。
「装甲車部隊は迂回して第三区から突入する戦闘フレーム部隊、 A 隊は装甲車の護衛、 B 隊は残って応戦!」
続く
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