ReviveTheGunSword 灰蘇の剣銃 28 「クリムゾンとハート」
影彦派閥の様子を院瀬見ビルの一室から見ている時田麻村と妻の樹玲。程なくして戻ってきた魔女。
「戻ったか、これでオータムホースシティは次のステージに移行する訳だな魔女」
「ええ、影彦君が勝っても負けてもこの街は変わります。従来の普通の人間の犯罪者は減って行く一方で怪人犯罪者が増える。怪人は人間ではないので裁くための法の整備には時間がかかります。その間に我々が優位になるダブルスタンダードの準備を進めるのですよ」
「一方で怪人をばら撒き支配!もう一方で怪人に対するヒーローもしくはヒロインを立ち上げ対処させるのね!」
「はい」
「ヒーローは見た目は満点、不遇属性の少年少女がいいわね!」
「そうとも!悩んで苦しんでいくつもの壁を超えて成長していくヒーローこそが人々の共感を得る!そしてその存在は我々の掌の上という事だ!」
「至高の存在を誕生させる為の実験で生まれる怪人。そのテストと合理的に処分してくれる存在、それが我々の作るヒーローの真の役割」
「フフフ……何も知らない怪人共は人類を超えた新しい支配者層となる為に動き、街の人間はヒーローヒロインに秩序と平和を求める。まぁ上手い事バランスよくやっていきたいですね。」
魔女はほくそ笑む。仮に時田夫婦のダブルスタンダードがバレたとしても殺されたとしてもいくらでも怪人王の代えは作れる。最悪院瀬見が傾くことになっても担ぎ上げたヒーローに建て直させ新・院瀬見にすれば人々は簡単に騙される。
魔女にとって最大の邪魔な存在であった【グレイマンと白魔女】はもういない。院瀬見は既に支配したようなもの。街の地下に挑む楽しみもある。あと 100 年は楽しめると考えた。
―魔女は諸田和音&柄留、それと LOKI の存在を取るに足らないとこの時は考えていた。
***
影彦のプライベート携帯電話が鳴った。知っているのは数人だけ、かけてきたのは知らない通知の番号。
「……誰だ?」
『影彦、私だ。功太朗だ』
「兄!……なんだ今更!』
「私は第六区の住民を守るために手を貸す。お前たちの虐殺を見過ごせない」
「なんだと!?」
『影彦、お前と戦いたくない。引いてくれないか?お互い無駄な犠牲を出さない為にも』
「第六区の殲滅は確定事項なんだ!全て破壊する、何もこの地には残さない。抵抗する者は死ぬだけだ逃げたい奴は海に飛び込んででも逃げるがいい。ただし他の区に逃げる事は許さない、退去命令は出していたし移住の提案もした。オータムホースは院瀬見が支配する街だ、不法占拠者も不法滞在者も許さない」
『どうしたんだ影彦、何がお前を追い詰めてる?』
「やるべきことをやるだけだ!今更止まれないのだ!!兄よ!!失脚して大人しくなったと思ったらまだ俺の邪魔をするのか!!」
影彦は通話を切る。
「クソッ!!あの謎の連中も兄の用意した奴って事なのか?……許せないどいつもこいつも俺を見くびりやがって……」
更に薬物を打つ影彦。腕に取り付けた端末からバイタルチェックのアラームが鳴る。既に許容範囲の摂取量を遥かに超えておりいつ死んでもおかしくない状態にあった。
「俺は……俺は絶対にやりとげるぞ……」
影彦の目の前には魔女が置いて行った小瓶。
「やれる!俺ならやれる!!この仕事をやり遂げれば他の派閥を出し抜ける!!」
市長から命じられた第六区の開発計画。この街の頂点に君臨しているのは市長であり、院瀬見が他の企業を出し抜いて実質街の企業トップに居られるのは彼のおかげであった。
市長の応えられなければ影彦派閥に未来は無い。
「あの市長……鬼か魔王の類だあれは」
現市長が当選してから院瀬見は凄まじい右肩上がりをした。彼が院瀬見と縁のある者で政財界とも繋がりがあり学生時代に立ち上げた会社が海外の一つの国を救ったことで話題にもなった。その会社は院瀬見に売却され金は孤児院の設立に使われた。院瀬見に就職してからも週 168 時間連続労働も苦も無く、成果を上げ続けあっという間に1年で派閥の 2 番手に上り詰め電撃的に市長選に出馬。いつの間にか行っていた街への奉仕活動の甲斐もあって圧倒的票差で当選。疲れを知らず恐れを知らず確実に仕事をこなしていく姿は人間離れしていた。
誰ともなく市長の事を鬼、魔王と呼ぶようになった。
――第六区の北側から侵入すべく第三区の端の幹線道路を進んでいた A 隊が停止した。第六区へと繋がるゲートは目の前。
「どうした?」
『誰かが立ちふさがっています』
「退かせろ、言って分からないようなら黙らせればいい。三区での騒ぎはマズいが一人くらいどうにでもなる」
『はい』
装甲車からプラズマライフルを装備したアーマー兵一人が降りる。普通はこの姿を見ただけで逆らう者など居ない。圧倒的武力の前には反社会的なサイバネであっても道を譲る。警察とは違い持っている武器の殺傷能力が違いすぎるからだ。警察は基本ショックガン、ゴム弾、ネット弾、催涙弾などの非殺傷武器が主だが企業のアーマー兵が持つ武器は戦争でも使われている公には使用が禁じられている物。一般流通はしていないがこの街ではそこかしらで見かける。アウトローの中には仲間がプラズマガンで灰にされたのを見た者もいる。
「退け、プラズマガンで灰にされたくないだろう?」
アーマー兵はワザとらしく院瀬見のロゴのついたプラズマガンを見せつけた。院瀬見の特殊部隊を相手にすればどういう事になるか子供でも知っている。プラズマガンで灰になるか銃弾でハチの巣になるかだ。
「引き返した方が良いですよ」
人影が言った。
アーマー兵は舌打ちをしてライトを照らすと赤黒いコートを着た小柄な人物―
「な!?」
――人物と判断していいのかアーマー兵は迷った。目の前のコートの者は、コートを着ているのは肉体の無い骸骨だった。
「は?え??」
ライトを照らしながらアーマーヘルメットに搭載されたエイム機能でサーチする。温度も鼓動も呼吸も感知できない。
「わたくしはクリムゾン。警告をしに来ました、これ以上進むのであれば全滅を覚悟しなさい」
「何を!なんだ、何だお前は!!」
思わずプラズマガンを撃つアーマー兵。プラズマはクリムゾンの目の前で霧散する。
「そちらがその気なら」
左手に持った金の杖剣を前に突き出す。弾丸めいた速度で切っ先が伸びアーマー兵のプラズマガンの銃口に突き刺さった。
「ウワアアアアアアアアッ!!」
アーマー兵が絶叫する。防弾、防火、アーマーの内部の己の肉体から炎が上がった。
「何が起きた?」
影彦は部下に投げかける。
『解りません突然アーマーの内部から発火したように見えましたが』
「話をしませんか?橋での戦闘でトニトルス、アンバー、シャパリュを見たでしょう?あの者達を率いてるのはこのわたくしクリムゾン。そしてもう一人後ろのゲートの中に控えているのはハート。わたくし達は LOKI と言います 」
影彦たちは答えない。
「まぁ、そうでしょう。いきなり話を持ちかけても警戒して武器を構えますよね?ですが考えてください、トニトルス、アンバー、シャパリュは問答無用であなた達を襲いましたがわたくしは違うでしょう?話に応じないのならもう何人か黒焦げにして見せればいいですか?」
「……」
「わたくしを無視して進んでもハートがあのゲートの向こうに居ますから全滅を覚悟で進んでください。あの子には来たもの狩るように伝えてますから」
「大した自信だなクリムゾンとやら……!」
今度はミニガンを持ったアーマー兵が車両から現れた。数秒で車をスクラップにする火力を持つ民間企業が持つには過剰すぎる武器。魔女によって怪人化されているためアーマー兵はアシスト機能とあわせてミニガンを片手で持てる身体能力を手に入れていた。
「この毎分 6000 発を吐き出すミニガンを前にしてもデカい口が叩けるのかな?」
「流石に物理パワーで押されると厄介ですが……負けはしませんね」
「馬鹿が!ミンチ 1 号はテメェだ化け物!! 」
ミニガンのスイッチを入れるアーマー兵。だが銃身の回転が始まらない。
「何だ!?何故動かない!?アツウウウイッ!!」
燃え上がるミニガン。アーマー兵の両腕は内部から炎に焼かれる。
「どうですか?」
火を一瞬にして消すクリムゾン。アーマー兵は地面を転げる。いつの間にか離していた金の杖剣は転げまわるアーマー兵の横のミニガンに着いていた。
「チッ!こちらは何があっても退けんのだ!!奴にかまうなゲートに突撃だ!足止めにフレームを 2 機に対処させる 」
影彦は搭乗型戦闘フレーム 2 機をクリムゾンに向かわせ脇から数十のアーマー兵、車両を走らせてゲートに向かう。
「なるほど、私には構わず第六地区の住民の始末が最優先と。確かにこの数の差は私一人では止めきれませんね」
クリムゾンの目の前には戦車並の火力装甲を持った高機動人型兵器が 2 機。この街では重量と大きさの為普段は滅多に姿を現わさない。この機体は主にサイバネ処置を受けた者がパイロットとなる。元々は宇宙海底探査用に開発されたものを改造した。
これは神名の小型で搭乗者のサイバネ改造の必要のないアーマーのように運用できるパワードスーツに対抗すべく造られた物。
命がけで院瀬見の者が手に入れた神名のパワードスーツの一部。そこから判ったのは第一世代ですら院瀬見には到底追いつけない技術の塊。京都に本社がある会社センジョーは旧型ではあるものの神名の第三世代パワードスーツを運用している。噂では神名は既に第五世代を開発したという。
クリムゾンはこのデータを知っていた。神名の第五世代らを相手にするのならともかく、院瀬見の戦闘慣れしてない兵が操作する旧型機など、どうにでもなると考えていた。
「(院瀬見の 1 派閥が持てる戦力はこれで大体予想できた。後は怪人らに対処すれば……)」
***
クリムゾンを無視して進んだ影彦派閥のアーマー兵、装甲車両、フレーム機体は第三区から繋がる第六区への立ち入り禁止と書かれたゲートを打ち破りが侵入した。一番に踏み込んだアーマー兵のヘルメットにスナイパーの弾丸が命中、火花を散らして傷つけた。兜金大河率いる G/T の戦闘員の狙撃。
「なんだぁ?第六区のクズ共一丁前に!!」「ひき潰せぶち殺せ!!」「ヒャアアアハハハー!!」
アーマー兵はひるむことなく先頭を走り続いて装甲車両、フレーム機体と続く。
「ヘヒヒヒヒ!隠れても無駄だぜぇ!!センサーに引っ掛かりまくりなんだよなぁ!!」
人間相手に対物ライフルを放つアーマー兵。廃材で作ったスナイパーライフルを持った男の上半身が粉々に砕け散った。
「まず一匹~!!」「オラオラ皆殺しだぁ~!!」「ギャハハハハハハハー!!」
連射ショットガン、プラズマガンを持ったアーマー兵が狭い通りを撃ちながら走る。次々と第六区の抵抗勢力+ G/T の者達が倒れていく。
「火を放て~!!北西のここからなら一気にボロ街は火の海だぁ!!」
先頭を走るアーマー兵ら。異常なまでに興奮していて後ろの同僚たちがいない事に気が付かない。怪人化の影響で息切れを起こさず走り続ける。
「ヒヤアアアハアアアアアアア!!」
逃げる抵抗勢力を撃ち続ける。壁を背にして弾倉を交換している時に自分たちの後ろには他の同僚がいないと気が付いた。
「ああん?也坂らはどこ行った?」「ん?そういやいねえっすな?」「ち、はぐれやがって!!影彦さんにどやされるぞ!!」
アーマー兵ら数十人の内半数の姿が消えた。
「クソ!暗すぎるんだよこのクソ吐きだめの街はよー!!」「通信の反応もない」「完全にどっか行っちまいましたねぇ」
アーマー兵らはお互いに背合わせになり円の陣形を組む。
「こちらウルフチーム!ホークチーム、応答せよ!!」
反応は帰ってこない。
『どうしたウルフチーム。何があった』
影彦からの通信。
「ホームチームと連絡がとれません」
『何だと?こちらはクズ共の仕掛けたぬかるみのトラップで足止めされている……ウルフチーム一旦こちらに戻れ』
「了解」
ウルフチームは V 字の陣形で撤退を開始する。先ほど走り抜けた通路が水びだしになっている事に気が付いた。
「なんだ?水……か」「脅かすな!可燃性の液体化と思ったじゃねえか」「おい! 11 時の方向に何かいるぞ!!」
アーマー兵の一人がライトを照らした先には黒い三角形の物体が地面を走っている姿だった。それは海での捕食者が得物に迫る様子であり、或いは海が舞台の映画で恐怖を煽るシーンでみる様子。
「鮫(さめ)!?」「馬鹿か!こんな所に鮫がいるわけないだろう!!」「じゃあ何だあれは!!」
『鮫じゃあないんだよ……もっと怖い鯱(シャチ)なんだよなぁ』
声がした。迫って来る三角の物体から聞こえた気がした。
「撃て撃てぇー!!」「うおおおおおおおおお!!」「がああああああああ!!」
三角の物体は沈んで消える。そして次の瞬間アーマー兵の一人の足の間から黒い影が現れ股間に噛みついた。
「ウギャアアアアアアアアアアア!!」
防弾アーマーを軽々と噛み千切り股間から腰にかけてゴッソリと失うアーマー兵。臓物をまき散らして倒れる。
「ひいいいいいい!!芳賀村ぁああ!!」「ううううああああああああ!!」
一気に混乱に陥るアーマー兵達。残り 20 人程度のアーマー兵らは狂ったように弾丸をまき散らす。
「どこにいるんだ!どこだ!!」「感知できねえ!!なんでだ!!」「シャチってなんだよ!なんで地上にいるんだよ!!」
鯱の姿で潜むのは LOKI のメンバーであるハート。
『恐怖しろ心臓が止まるほど!』
ハートは近接攻撃の他に消音銃での攻撃を混ぜアーマー兵を翻弄する。
「ヤバイぞ!水たまりから離れろ!!奴は水に潜んでいる!!」
『残念、惜しいけど違うんだなぁ』
壁から飛び出したハートはアーマー兵の頭部を食いちぎり地面へと消える。
「撤退!!てったーい!!」
一目散に逃げるアーマー兵。その様子をハートは地面に潜みながら眺めていた。
***
――ゲート前。クリムゾンの前には戦闘フレームが行く手を阻み、後ろには軽装のコンバットスーツを着た男がフォトンソードとハンドガンを持って構えていた。
「どうやらハートはやってくれたようですね。こちらもなんとかしますか」
金色の杖剣を弄ぶクリムゾン。
「随分と余裕だな?戦闘フレーム機とプロの暗殺者に囲まれているというのに」
「そう見えます?そちらは発火が怖くてわたくしに仕掛けられないみたいですけど。言っておきますとわたくしがその気になれば一気に機体の中の人も忍者みたいなあなた達も燃やす事が可能でしてよ」
『パイロキネシスか……恐らくはカテゴリー3かそれ以上』
影彦が装甲車から呟いた。
「あ、ちなみに超能力者じゃあないです。これは錬金術ですよ私はサイバーアルケミストを名乗ります」
クリムゾンは金の杖剣を地面に突き刺すと黒焦げになったアーマー兵が立ち上がった。
「ゴーレム錬成。ついでにミニガンとプラズマガンも復元しましょう」
アスファルトを纏った黒焦げのアーマー兵ゴーレム。糸で操ったマリオネットのような動きで一斉に戦闘フレーム機に攻撃を仕掛ける。
「!?」
対応が遅れた戦闘フレームの 1 機はミニガンとプラズマガンの一斉掃射を受け脚部を損傷、うつ伏せに転倒する。
「貴様っ!!」と叫ぶと同時にフォトンソードで斬りかかる忍者風軽装兵。クリムゾンは振り返らずにコートを棘状に伸ばして迎撃。棘が刺さった箇所から発火する。
「うおオオオオオオっ……」
弾道を予測して回避もしくはフォトンソードでガードしながら接近して仕留めるスタイルの忍者風軽装兵は完全に虚をつかれた。
「この戦闘フレームは戴きます」
燃やした軽装兵には振り返りもしないで片足を破損した戦闘フレームの背に乗り、金の杖剣を突き刺すクリムゾン。
続く
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