LOKI:その2「丹羽家」
『もしもし……お電話変わりました丹羽聖羅ですが』
「聖羅!わたくしです!!昊菜、秋馬昊菜です!!」
『え……?』
「 50 年も経ってるから無理もありませんが……お久しぶりですわね。今燐火の車で別荘に向かってますのよ」
『え、え、え……昊菜様?嘘……お亡くなりになったはずでは?』
「わたくしも驚いていますわ。つい先ほど目を覚ましましたの」
『一体何が……』
「それはまだ何もわかってませんの。突然の事で驚かせてしまってごめんなさいね」
『い、いえ……』
「わたくしの錬金工房はまだ残っていまして?」
『はい、当時のままとは言えませんが出来るだけそのままの状態で私も使わせてもらってます……』
「ありがとう、聖羅に錬金術を教えたのはわたくしでしたもの」
『はい、おかげで薬いらずで大病もせずに暮らしております』
「先ほど電話に出たのは聖羅の孫でして?」
『はい、孫の愛羅と言います。』
「そう、丹羽家が無事で良かったわ……心鷺はどうなりましたの?」
『従妹の心鷺は…… 50 年前に撃たれて死にました。昊菜様と違いあの子は海に浮かんでるのを発見されましたからね』
「残念です……わたくしのように生き延びていればいいと淡い期待をしてました」
西に向かって走り出す車。昊菜は見慣れない街の景色をじっと眺めていた。
第四区のビジネス街を抜け更に西へ。長いトンネルを抜けるとハイウェイに出た。少し北に進み途中で下に降りた。途端に山道となり何度も分かれ道を右に左に進んでいく。
「この辺りは見覚えがありますわ」
秋馬家が所有する山。その最奥にポツンとある洋館。衛星から見ても岩壁と高い木々の影に隠れていて見つける事は困難な場所に建っている。
館の庭門を開けて駐車場に車を止める。昊菜は先に降りて正面入口へと向かった。
「聖羅、わたくしですわ」
「慌てるな、そのなりでは怪しまれるだろうじっとしてろ」
アタッシュケースを持った燐火が降りてくる。
『監視カメラで ID を確認……神名燐火様で間違いありません』
タレットの着いた監視カメラから声がした。格子状の門が開かれ昊菜と燐火は玄関ドアの前まで進む。鍵の開く音が聞こえ中からサイバーゴーグルを装備、片手にショックガンを持った若い女性が現れた。
「丹羽愛羅です。祖母の聖羅は膝の調子が良くない為奥で待機しています」
「神名燐火だ。コイツは秋馬昊菜を名乗る者だが今の所、害はない。入らせてもらうよ」
洋館の中に入る二人。吹き抜けの玄関フロアーは正面に階段、踊り場から左右に伸びている。階段の横に設置されている騎士の鎧の頭部からは光が見え防犯システムになっていることを思わせた。
「 50 年経ったと思えないほどですわ。よく手入れされています」
「さぁこちらへ」
全身銀色の昊菜に警戒しながら愛羅は右奥の部屋に二人を連れていく。中庭を中心に囲む形で建てられた洋館の一番奥、正面玄関の反対側に案内された。
「こちらです」
扉を開けると和と洋が入り混じったそれでいて落ち着いた雰囲気を醸し出すインテリアが置かれた部屋の光景が二人の目に飛び込んで来た。その部屋の中心に車椅子の女性が。
「聖羅……?」
「その声は昊菜様……?」
「久しぶりになるのかしら。貴女のつくるスターゲイジーパイまた食べたいわ」
「まぁ……お顔は見えませんが声と仕草はあの頃の昊菜様そのもの……一体何があったのでしょうか?」
「それが……」
昊菜はこれまでのいきさつを聖羅に話した。
船上で撃たれた事、 Super L ife Medical Equipment に地下 144m から救い出された事、それが偶然にも神名燐火が開発した 流体多結晶合金で出来た医療用マシーンであった事を。
「昊菜様が行方不明になられたあの当時、本当に大騒ぎになりましたのよ」
「さて、おおよその事情はそいつから聞いたが問題は……」
神名燐火の合図で Super L ife Medical Equipment は昊菜から離れる。ルビー色の全身骨姿を聖羅と愛羅の前に晒した。
「キャアアアアアアアアアアア!」「あああああああああああああああ!?」
「当然の反応だな。だがコイツは動いているし話もする。普通の人間はここでパニックをおこすが昊菜と丹羽家の者はそうでもない、その理由は……」
「錬金術ですわね」
骨姿の昊菜が言った。
「自分でも驚いてますの。この姿でも見えますし声も出せる……まるでわたくしが作っていた骨ゴーレムのような」
「私も信じられないが若い頃、昊菜に何度か見せてもらった事がある。それが無ければこんな科学で証明できん状態など受け入れられなかっただろうよ」
「ああ、何という事でしょう……昊菜様がそんなお姿に」
「ホラーですよホラー……」
後ずさる聖羅と愛羅。
「その姿は見た目が良くない。 SLiME01 、 50 年前 の秋馬昊菜になれ」
「了解です」
ルビー色の骸骨に取り付き色を変えながら変形していく Super L ife Medical Equipment 。
「これで宜しいでしょうか?」
「ああ、それでいい。私は記憶力は良いのでな、秋馬昊菜の姿はしっかり覚えてるそれで間違いない。その姿を通常形態で登録」
「了解しました」
ボブカットにまつ毛が長く意志の強さを感じさせる目。大きすぎず低すぎないバランスのいい鼻。小さな口。
昊菜は部屋の隅にあった全身姿鏡で自分の姿を確認する。
「……燐火。わたくしはもう少しバストは大きく足は細くありませんでした?」
「いいや、お前はそのスタイルだね。小柄な骨格に似合っていてそれでいて幼くもない健康的でバランスのいいスタイルだ」
聖羅は頷き、愛羅は小さく拍手の仕草をしている。
「それが通常形態だ。 SLiME01 の質量に無理がない範囲ならスタイルを弄れる、後で好きなように調整すればいい。通常状態をまずは設定しておかないと自分の姿を見失うからな」
「それはそうですわね」
「服は……とりあえず SLiME01 を変形させておくか。好きな赤いワンピースでいいな」
「ええ」
変形し終わった自分の姿を見て全身を触って確認する昊菜。
「不思議な感覚ですわね……」
「通常なら SLiME01 が着いた状態では使用者とリンクして感覚を共有し自分の体と遜色なくなるはずなんだがね。お前が特殊な状態だから SLiME01 も完全共有できないのだろう 」
『おっしゃる通りです。昊菜サマとのリンク率は 88 %です』
「全身スーツを着ているような感覚ですけど……そのうち慣れるでしょう」
「さぁお披露目は終わった。なにしにここに来たか教えてもらおうか」
「そうでした!聖羅、錬金工房室に行きましょう」
「あ、はい」
電動車椅子を操作して先頭を進む聖羅、ついて行く昊菜、燐火、愛羅。中庭の噴水横にあるライオンの象の中に手を入れパネルを操作する。
「仕掛けは同じですのね」
「ええ、修理はしましたが同じです。工房へ入れるのは私と愛羅だけです」
中庭の景観を損ねないように造られた用具入れ横の壁がスライドした。スロープを降りていくと丁度正面玄関ホールの地下に位置する工房にたどり着いた。
「鍵も同じですよ」
懐から取り出した鍵は生き物のように鍵山が蠢いて鍵穴に突き刺さる。カチカチと音がして重い金属扉が開かれる。
シェルターを思わせるその部屋には様々な薬品、実験道具、書籍、工具、巻かれた紙の何か、怪しげな骨董品の剣、槍、鎌等で溢れかえっていた。埃は無い、聖羅と愛羅が掃除をして保っていた。工房が取り壊されずに残っているのは二人が使用しているという理由でそれが幸いした。
「ああ良かった……ここが残っていて」
「昊菜様の私物は全てまとめてありますよ」
「ありがとう聖羅、捨てずにいてくれて」
工房の隅にあるチェストをあける聖羅、そこには様々な瓶、鉱石、アクセサリーが入っていた。大小さまざまな瓶には骨が入っている。
「では早速……」
チェストからリスと書かれた骨の瓶、いくつかの鉱石を取り出し机に並べる。
「この体からは血液が出せませんわね……でも……」
手をかざす昊菜。
『体温上昇』 Super L ife Medical Equipment が言った。
机の中心に置かれた骨の入った瓶。その周りに並べられた鉱石。昊菜が手をかざすと鉱石は輝き五芒星を描いた。
「やっぱりできた」
瓶の中の骨が動いている。骨は振動しながら互いにくっついて形を作っていく。そしてリスの骨格となって瓶の中でくるくると動き回った。
「お見事です……やはりこれが出来るのは昊菜様」「すっご!初めて見た!!」
「素材は足りませんでしたがこの体のおかげでしょうか成功しましたわ」
「私にはさっぱりな領域だね」『理解不能です』
盛り上がる聖羅愛羅に対し、燐火と Super L ife Medical Equipment は静かに見守っている。
「対価となる素材無しに成功できるなんてものは通常あり得ないんですけど……この体がわたくしの想像通りのものならそれも可能になるはず。燐火、調べてくださいな」
昊菜は Super L ife Medical Equipment は解除してルビー色の全身骸骨姿になる。
「アタッシュケースには機材が入ってるんでしょう?」
「正解、その察しの良さにいつも驚かされてたよ。じゃあそこのベッドに寝な、すぐに取り掛かるよ」
昊菜は病院の診察室でよく置かれている無いベッドに横になる。燐火はアタッシュケースをあけて昊菜の骨の体に装置を取り付けていく。
「ふう~む……あんたの体は金属だね……でもかなり変わってるよ。比重は金よりも軽い程度、硬度はダイヤモンドかそれ以上。常温では冷たい、けど異常なまでに熱伝導率が高い。磁気を拒絶して表面は揺らめいている」
「……どこかで聞いたことのあるような特製ですわね」
「そうなの?そっちの分野(錬金術)の金属かね?」
「ええっと確か……」
昊菜は起き上がって本棚を探る。そこから一冊の本を取り出して広げた。
「これが燐火の言った特徴に当てはまるのでは?」
「どれどれ?【ヒヒイロカネ】ねぇ……ウチの神名一族でも金属に夢中なの何人かいるからヒヒイロカネって言われた金属いくつか見たよ。でも昊菜の体みたいに赤く光ってはいなかった。【アダマント】やら最新の【ユピテニウム】は特徴も違うしねぇ」
「ふ~ん……神名一族……話は変わるけど燐火は子供や孫は居ますの?」
「夫は交通事故で 15 年前に死んで、鉄火ってバカ息子が一人いたけど今年戦場で死んだ。理想を追い求めた結果だしまぁ悪くない人生だったんだろうよ。孫は息子の嫁が引き取って再婚したからもう会えない。孫は賢くて好奇心旺盛な子だったよ。名前は【ホムラ】今年 5 歳になるね」
「まぁそうでしたの……燐火も色々ありましたのね」
「アンタが 50 年間おねんねしてる間の話さ。じゃあこれから色々とこの 50 年で起きた事から教えてやるかね。最初は面倒だと思ったけどアンタのその姿見てやる気がでてきたよこれからしばらく退屈しなさそうだ」
「そういうところ昔と変わりませんのね、安心しましたわ」
「 50 年間の事、街の事知って、それからどうするんだい?」
「……そうですわね、とりあえずわたくしと心鷺を殺した黒幕を突き止めて一網打尽にしてやろうかと考えてますわ。その後は……その時考えますわ」
「なるほど犯人黒幕にリベンジしてその後はその時次第か……面白そうだね、昊菜やっぱりあんたは最高だよ。私も大仕事を終えてしばらく暇なんだ手伝わせてもらうよ」
「燐火が居れば怖いものなしですわ!最強コンビ復活ですね!! Super L ife Medical Equipment さん、通常状態でわたくしについて下さいな 」
『了解』
「それにしても Super L ife Medical Equipment って長い名前ですわね 」
「型式番号は SLiME01 だ。そもそもそいつは昊菜のものじゃないけどね。今更アホボンに渡すのも惜しくなってきたしアンタをオーナーにしてもいいよ」
「え?どなたに渡すつもりでしたの?」
「秋馬鷹光。アンタの兄の孫にあたるね」
「光鴨お兄様の孫……ですか。それなら遠慮なく戴きましょう!」
「本当に昔から仲の悪い兄妹だな……仕方ないから試作品の方をアホボンに送っとくよ。どうせあんな馬鹿には勿体無いものなんだからね」
「そういえば燐火は神名一族なのに院瀬見に所属しているんですのね?」
「個人契約だから社員ではないけどね。 KAMINA は環境は最高だったんだけど面白く無くてねぇ。才能あふれる奴ばっかりで仕事はやりがいあったっけど……昊菜とバカやってた時のような刺激は無くて辞めた。それで KAMINA より温い環境で働ける院瀬見の関連企業に入ってそれなりの仕事をしてそれなりに色々結婚やら子育てやら人生経験を詰んだ訳よ……夫息子は先に死に孫も取られちまった……まぁでも Super L ife Medical Equipment を完成出来たのは独り身になって個人契約して全力で仕事したからかもしれない。それで昊菜を見つけて再会に繋がったし結果良かったのかもね」
「やっぱり 50 年は長いですのね……」
「私の話は後にして Super L ife Medical Equipment のオーナー登録するよ。名前を決めな 」
「えっと……型式番号が SLiME01 ……スライム……この子は男女ありますの?」
「決めてないな。アンタが好きに決めろ」
「では女の子で……名前は……すらいむ……【来夢】に決めましたわ!」
「来夢……それでいいかい?」
「え……どうせなら苗字も付けたいですわね……燐火が生んだものなら……神名来夢にします!」
「神名をつけるのか……まぁいいが。では SLiME01 の個体名は神名来夢。オーナーは秋馬昊菜に決定」
『オーナー登録完了。個体名・神名来夢。全機能の解放、これより停止するその時まで秋馬昊菜様の健康と安全をお守りいたします』
「本来の用途としては服や身近なものに偽装させて 24 時間の生命活動サポートを行うように設計してあるんだ。……軍用にも転用できる性能だし昊菜の助けになるだろう。この街で活動するのなら来夢と常に一緒に居る方がいい、離れるな」
「わかりましたわ」
昊菜は指先をナイフやフォークに変形させて来夢との連携を確かめる。
「来夢は学習して昊菜の望むように動いてくれるようになるはずだ」
「なるほど……では錬金術も覚えさせることができるかも?」
『理解不能です。錬金術とは過去に否定され廃れたものです』
「錬金術は……不確定力学を応用したものでもあるんですよ」
昊菜が言った。
『不確定性原理……量子力学……』
「来夢、昊菜の錬金術について今は調べるのはやめな。私も若い頃初めて見た時は信じられなくて解明してやるって躍起になったもんさ。昊菜の起こした現象を観測してデータを取る、それを繰り返せばどういった物か解ってくるかもしれないからしばらくは答えを出さなくていい」
『了解しました燐火サマ』
続く
LOKI24「オータムホースの未来」 Dec 16, 2023
LOKI23 「サイバーアルケミスト4」 Dec 10, 2023
LOKI22「サイバーアルケミスト3」 Dec 2, 2023
PR
Free Space
Freepage List
Calendar
Category
Comments
Keyword Search