LOKI:その3「丹羽心鷺」
「今の世は ID チップが無ければどうにもならないんだ。 50 年前は ID チップは無いし昊菜のものをどうにかしなくてはね」
「 ID ?」
「国民個人ナンバーだよ。今はネットもこれが無きゃ使えない口座もつくれない。手っ取り早いのが誰かの ID を使う事だけどそう都合のいい人間は中々見つからないんだ……あまりおススメしない方法だけどすぐに用意する方法はある」
「??」
「院瀬見は毎年病気や事故で消える人間がかなりいる。世間体の為に時期をずらして退職した後に病気で死んだことや通り魔に巻き込まれたことにしてるんだ。だからまだ【処分されてないが既に死んでいる】人間の ID なら乗っ取ることは可能さ」
「 50 年前のアンタと同じ歳性別で消えたのがいるよ。私の助手だった子で院瀬見の重役の【接待】で嬲り殺しにされた『江藤紅子』」
「ひどい……」
「遺体は回収されたけど ID チップは私が盗んだんだよ。かなり頭に来てたからねあのアホボンには」
「……ということは江藤紅子は秋馬鷹光に嬲り殺しにされた?」
「そういう事。私はタイミングを見計らって Super L ife Medical Equipment に江藤紅子の姿でアホボンに襲い掛からせて潰してやろうって考えてたんだ 」
「じゃあわざわざ来夢の代わりに試作品の Super L ife Medical Equipment を送ることにしたのも…… 」
「奴を追い詰めて潰す為だね。プロトタイプは同調率が低くて精神不安になるから苦しめるには丁度いいんだ。来夢に比べて学習能力も低いしアホボンには使いこなせないはず」
「燐火の事情……大体察しましたわ!江藤紅子さんの無念わたくしが晴らします!燐火、彼女の ID をわたくしに!!死因を突き止める以外に最初のやりたいこと決まりました、秋馬鷹光に地獄を見せてやりましょう!!」
「いいのかい?アンタの兄の孫だよ?」
「いいのです!!身内ならなおの事許せません!!来夢、江藤紅子さんの ID を受け取って彼女の姿に変身」
『了解』
来夢が蠢き江藤紅子の姿へと変わっていく。オレンジの髪の活発な印象を受ける女性に変わった。
「江藤紅子さん、わたくしと少し似てますわね」
「……そうだな」
「やることは決まりました……次は準備ですわね……」
昊菜は聖羅と愛羅を見つめる。
「以前の秋馬家でしたら丹羽家から必要な人材を雇って居たのですけど……」
「多方面に特化した人材を揃えた丹羽家。血のつながった者だけでなく、孤児や養子を引き取り個人に向いた才能を伸ばすエリート教育を施し育て上げる。介護から暗殺まで何でもお任せ。スーパープロフェッショナル執事メイド集団の丹羽家は健在ですよ昊菜様」
「まぁそれは良かったですわ!わたくしは雇い主としてふさわしいですか?」
「勿論です昊菜様。この聖羅はいまでも貴女のメイドです契約は継続されてますよ」
「家事万能公認会計士の聖羅……」
「どのような丹羽家の者をお求めで?」
「心鷺のような者はいますか?」
「心鷺ですか……武器の取扱いに特化した暗殺護衛メイド……ですね?」
「スキルだけの話ではなく心鷺のようにわたくしと心を通わせられるようなそばに置いておいて安心できる子が良いのです」
「残念ながら……今の丹羽家にはあの子のような者はおりません。孫の愛羅はまだ見習いですしおそばに置いておけるレベルにはあと 1 年はかかるかと。執事ならご用意できますが昊菜様は男性を傍に置かれないのでしたね」
「そうですか困りましたね……でも、もしかして今のわたくしなら……」
そう言うと 昊菜は元の秋馬昊菜の姿に戻りチェストの中を探って 瓶を取り出した。中には銀色の種のようなものが見える。
「……なんだいそりゃあ?」
燐火が言った。
「【賢者の種】です。錬金術師としては【賢者の石】を作るのが一つの到達点であり目的なんですけどそれはそれとしてわたくし独自の到達点の一つとして作り上げたのがこの傑作ですの」
「で、何に使うんだ?」
「錬金術における不確定力学を応用した現象を引き起こすきっかけに使います」
「それで?」
「心鷺を呼べないかと」
「は?」「え!?」「マジ?」
昊菜は愛羅に命じて丹羽家地下墓地に埋葬されている心鷺の骨壺を取りに行かせた。
「まさか昊菜様……死者蘇生を?」
「死者蘇生は不可能ですね。過去のどんな偉大な錬金術師も完全成功には至りませんでした。それならわたくしは心鷺を別の存在として呼びます」
工房の床に鉱石、液体の入った瓶、中央に賢者の種、【鯱】と書かれた骨の瓶を置いた。
「先ほどのリスの骨を動かしたときに感じました。このヒヒイロカネの体は賢者の石に通じるもの……四大元素に干渉し対価になる素材を必要としない」
「お待たせしましたぁ心鷺さんの遺骨でーす!」
骨壺を持った愛羅が戻って来る。
「愛羅、見ておきなさい昊菜様の錬金術を」「はい!」
心鷺の骨壺を中央の鯱の瓶と賢者の種の横に置く。
「昔失敗した生体ゴーレムの錬成……今ならきっと出来ますわ」
昊菜が手をかざすと五芒星の魔法陣が床に浮かび上がる。全ての素材が宙に浮いて竜巻めいて回転を始める。
「さぁ来なさい心鷺!貴女はわたくしの横に生涯居ると言ったではありませんか!!」
素材の竜巻は益々回転を速めていく。
「――――」
竜巻の中央で骨格が出来上がっていくのがシルエットで見える。
「コ……ナ……サ……」
竜巻が止むとそこには半人半鯱のモンスターが立っていた。
「心鷺!しゃきっとなさい!!そんな姿ではわたくしの傍には居られませんよ」
「は……は……ハイーーーーーーーーーーー!!」
直立する半人半鯱。一気に人型へと変形する。髪は桜色と水色のツートンのセミロング。小柄で細くはあるもののしなやかで筋肉質で艶のある体。生体ゴーレムの証である全身のモールド。
「問います。貴女は誰ですか?」
「丹羽心鷺です。昊菜様貴女の、貴女だけのメイドです」
「その通りです、いい子ですわ」
丹羽心鷺をハグする昊菜。
「昊菜様……心鷺は……あの時……」
「大丈夫ですわ、この通り健在です。クルーザーでわたくしたちを襲った者にはキッチリやり返しましょうね」
「ハイ、絶対に許しません!!」
異常なまでに殺気を放つ心鷺。眼は桜色に輝き鋭い牙を剥き出しにする。
「昊菜様、私の大好きな鯱と合わせて下さったのですね」
「ええ、心鷺に一番似合う存在を合わせました」
「嬉しいです!」
心鷺はようやくここで周りにいる聖羅、愛羅、燐火に気付く。
「あ、あの……この人たちは?」
昊菜の背に隠れる心鷺。
「車椅子に座っているのは貴女も知っている聖羅、横に居るのは彼女の孫の愛羅。わたくしの右前に座っているのは親友の神名燐火ですわ」
「燐火様……聖羅……その孫の愛羅……」
「それとわたくしの相棒の神名来夢」
昊菜は腕を変形させて小さな昊菜を掌に出現させる。
「え、え……!?」
「わたくし理由は解りませんが骸骨姿ですので来夢にお世話になってますの」
ルビー色の骸骨顔を見せる昊菜。心鷺は失神しかけるも何とか耐えた。
「あ、あああ、ああ……」
「よしよし……落ち着きなさい心鷺」
「ご、ごめんなさい昊菜様……私……」
「貴女のせいではないわ心鷺。ここにいる皆も味方だし敵はハッキリしています」
「あ、はい……敵は誰です……殺しましょう」
「秋馬鷹光です。まずはこの者を成敗しましょう」
「は、はい!昊菜様なんでもこの心鷺に命じてください!!」
その様子を見ていた燐火たちはしばらく声を出せないでいた。
「なんだいこりゃあ……」「正に奇跡」「ガチでスゴイ」
魔法は奇跡を起こす方法。魔術は魔法を行使する手段。錬金術は物を変化させる手段。
超能力は異次元の力を利用した物。陰陽術は森羅万象を操るものと昊菜は理解していた。
昊菜が錬金術を始めたのは奇跡を起こすという事に何の疑いも持っていなかったからである。代償が大きく修得の難度が高い魔術は諦めた。超能力は異能者と呼ばれる才能が無ければ使うことが出来ない。陰陽術は感覚の鋭いものでなくては修得は難しい。他にも呪術や法力、仙道、気功、忍法、妖術など試したがどれも触りすら到達できなかった。そしてたどり着いたのは錬金術であった。
「錬金術はわたくしに合っていた。むしろ錬金術師になる為に生まれてきたとさえ考えてますわ」
幼いころから本を読みふけっていた昊菜、だがその頃は魔法も錬金術も信じていなかった。
視野が狭くなりがちだった昊菜を刺激し続けたのは神名燐火であった。燐火は様々な昊菜に様々な人物に合わせ、色んな場所に連れていき多くの経験を積ませた。昊菜は目の前で魔法を見た時に目の前の景色が変わった。燐火も昊菜に刺激を受けそれから他の神名一族の研究テーマにも興味を持つようになり昊菜の錬金術も支援するようになった。
貴重な体験は錬金術の糧となり親友との交流は精神にも良い影響を与え人生全てが上手く回っていると感じていた。
世界中を飛び回り錬金術の書物を集め読み漁り実験を繰り返し昊菜はあっという間に賢者の石に近い【賢者の種】を産み出せるまでになっていた。
だが輝くような人生はクルーザーで暗殺者に襲われ。全て終わりを迎えた。
「昊菜、アンタが昔造った生体ゴーレムとは違うね」
「自分でも驚いてますわ。あの時のは命令に従うだけの人形のような存在でした」
「生体ゴーレムってのは寿命が短いんじゃなかったか?」
「素材の消費速度にもよりますが……長くて 1 週間ですね。でも今回は違います、わたくしのこのヒヒイロカネの体が健在な限り心鷺はいつまでも存在できます。傷ついてもわたくしが修復すれば問題無しです 」
「そいつは凄いね……けど念のためにアンタと心鷺の検査もしておく。なんせこんなの初めてなんだ」
燐火は再び昊菜を寝かせデータを取り次に心鷺を検査する。
「正に生体ゴーレムと言った体だね。体温も脈拍もある。体を構成する物質も人体に近い……街中で警察にスキャンされても怪しまれないだろうよ。 ID は……院瀬見の行方不明者からまた頂くとする 」
「ありがとうございます燐火様」
手を重ねて腹部にあて 45 度のお辞儀をする心鷺。
「この後どうするんだい?この別荘に泊まるのか?」
「今日の所は。あまり長居してもよくありませんので」
「そんな!好きなだけ居てくださいませ昊菜様!」
愛羅が言った。
「昔と同じなら西館には執事たちが居て秋馬家の男性らも泊まるのでしょう?わたくししばらくは秋馬家の者には見つかりたくありませんの。クルーザーでわたくしと心鷺を撃った犯人を見つけるまでは」
昊菜は来夢を纏わせて通常体になる。
「ああ……そうなんですね……私、昊菜様の錬金術を見てビビビッときたんです!おばあちゃんから習った簡単なものじゃなくて昊菜様のはマジ凄かった、私錬金術を本格的に学んで錬金術特化メイドになりたいんです!」
「それは嬉しいですわ。いいでしょう、ではまずは聖羅のできていたことを完璧にできるようになりなさい。それが基礎ですからそれからわたくしが新たに課題を与えます」
「じゃあ時々ここに来て下さるんですね?」
「もちろんですわ」
その様子を見て聖羅は微笑んでいた。
「めんどくさがりで学生気分がぬけきれてなかった子が……」
「夢中になれるものができたのはいいが昊菜に入れ込み過ぎると火傷するってあの子にも言っておきなよ?」
燐火が言った。
「私はこれで帰るよ、アホボン(秋馬鷹光)にプロトタイプの手配もしなきゃなんないしね。明日の夕方にまた迎えに来るからな昊菜」
「わかりましたわ燐火。では明日までに秋馬鷹光を追い詰める計画練っておきます」
「とびっきりの面白い計画期待してるよ」
***
――翌日
昊菜はゲストルームで一晩かけて 50 年間に起きた世間の事この街の事を調べた。
「調べれば調べるほどわたくしが目覚めた地下 144m の場所の謎が深まりますわね」
『周囲は人工物で崩落したと推測できました』
来夢が答える。
「人工物……地下深くに…… 50 年前にもそんな地下施設の計画はないですわね」
『該当する計画、施設の建造予定は見当たりません』
「どこの誰が何の目的で地下施設を造ったのか……わたくしは何故この姿で目覚めたのか……知りたいですわ」
『私を分離して一部を向かわせれば昊菜様が目覚めた場所まで行けますがどうしますか? 24 時間以内ならば可能です』
「そうですわね……何があるか解らない場所ですので慎重にお願いします」
『では……』
来夢からテニスボール大の銀色の流体金属が離れる。窓を開けると高速で跳ねて行った。
「昊菜様、お茶を淹れました」
メイド服姿の心鷺が紅茶のセットを持って入ってきた。
「味は解らないかもしれないけど、来夢との共有レベルを高めるためにも食事は取っていきたいですわね。心鷺、貴女も一緒に」
「ありがとうございます」
紅茶を注ぎスコーンを皿に並べる心鷺。椅子を引いて昊菜を座らせる。
「ぼんやりだけど香りも味も感じられるわ」
『味覚の情報を更新』
「骸骨で脳も無いはずなのにデータは取れますのね」
『物質としての脳は存在を確認できませんが、昊菜様の頭蓋骨内部からは脳波、分泌物を感知できます』
「不思議ですわね。見えない触れないはずなのに存在してる。だから声も出せますし動けるんでしょうね」
続いて心鷺が席につき紅茶を口に含みスコーンを齧る。
「心鷺、どうかしら?貴女が会得した力は試してみた?」
「はい、昊菜様。このような素晴らしい力を与えてくださってありがとうございます」
「それじゃ後でに見せて頂戴ね。わたくしも心鷺に見せたいものがあるから」
続く
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