ラビット・アンダーグラウンド 3 話
なゆかはこれまでサキュバスハーフの能力に振り回されていたことを昊菜に話した。
「(なんでだろうこの人にはスラスラ話せちゃう……)」
実際昊菜は相槌を打つが上手く、真摯に聞く姿勢で自身の思ったことやその時のなゆかの感情などを質問し余計なところには踏み込まない。
「どうしたの?」
「いえ、クリムゾンさんがとても楽しそうに私の話を聞かれてるので感心してしまって」
「気になった相手の事を知りたいと思うのは自然でしょう?」
なゆかはすっかり夢中になって話を続けた。 30 分経ったところで後ろに立っていた省羅が合図をする。
「まぁ、もう 30 分経ちましたのね。では省羅、なゆかにカフェの研修お願いするわ」
「かしこまりました」
軽く一礼をする省羅。
「研修が終わったらまた会いましょう、なゆか。今日は少し遅くまで残ってもらうけど大丈夫かしら? 帰りは心配しなくていいわ送らせますので」
「え、あ……大丈夫です!」
ぺこりと 45 度のおじぎをして省羅に付いて行くなゆか。
***
「ご主人様、また悪い癖を出されていますか」
少し不機嫌なハートが言った。
「あらやきもちですの?」
いじわるな表情でハートを見つめ手を引いて横に座らせる。髪をなで頬に指を這わせる。
「違います、ただもう少し慎重に……」
「大丈夫ですわハート、あの子はただの田舎娘。夢魔(サキュバス)の力を持っているだけ。どこの組織の繋がりも無いのは来夢に調べさせましたわ」
「そうではありません。ご主人様はお忙しい方、田舎娘にかまけている場合ではないかと」
「貴女がそこまで言うなんて珍しいですわね。わたくしはそんなにあの子に夢中になってました?」
「フォックスの時はそんな様子はありませんでした。やはり夢魔の力がご主人様に何か悪い影響を与えてるのではないかと」
「……なるほど。あの子と直接会うのは避けた方が良いとハートは考えてるのね?」
「はい、出来ればそうして頂きたいです」
「貴女の直感は信じれますからね。では過度な接触を避け SliME を与え、フォックスのように LOKI の仮メンバーにします。こうすれば来夢の監視下に置けますものね」
「仮メンバー……田舎娘を裏社会に引きずり込む事になりますね」
「いいじゃない、ちゃあんとわたくしは自分のものは大切に扱いますわよ」
ハートの頭をなでる昊菜。
***
「覚えるのが早いですね」
丹羽省羅はカフェのホール研修の説明を終えなゆかにそう言った。
「地元でもカフェのアルバイトしてたので覚えやすかったです」
「所作も特に注意すべき点はありません。貴女は自然に見に付けていますのね」
「その……祖母が厳しかったので」
サキュバスハーフの説明はマズいと考えてとっさに祖母の躾という事にした。
「素敵な御祖母様ですね」
「ええ、とっても」
「今日の研修はこれで終わります。制服は用意しておきます、ロッカーはこちらです」
バックヤードに入る。なゆかは違和感を覚える。
「あれ? 丹羽さんエレベーターがあの奥にあったような?」
「セキュリティの為普段は隠れています」
「そうなんですね」
ロッカーに案内される。タイムカードとロッカーのキーは共通なので通勤時に忘れないようにと念を押された。
「オーナーに呼ばれているのでしたね。では上に行きましょう」
エレベーターは出現していた。それに乗り省羅となゆかは二階のバックヤードへ。あわただしく動き回る衣装を着た女性や作業服の人々。
「こちらです」
カードキーで部屋に入ると 2 階全体を見渡せる前面ガラス張りの観覧席だった。革張りのソファに座っているのは昊菜、その横にはハート。
「なゆか、ここに」
「はい」
昊菜の横に座るなゆか。
「あの……」
「始まりますわよ、見なさい」
黒と赤を基調とした 2 階フロアは壁際にカジノゲームの台が並び中央は正面の舞台に向かって並べられたボックス席が配置されている。ブザー音の後、豪華な幕が上がっていく。
現れたのは 10 人の中世ヨーロッパ風の衣装を着た演者たち。立体ホログラムで舞台は投影されまるで本物の城内に見える。
「え、凄い……」
演者が台詞を言うとまるで傍にいるかのな音響、舞台下部の宙に文字が表示される。
1 時間の劇の間なゆかは演者と舞台の演出圧倒されため息交じりの感想しか出なかった。
「第二幕はショーですわよ」
「え、クリムゾン様これって歌劇団……」
「ええ、わたくしの理想とする歌劇団。でも只の歌劇団ではありませんのよ」
数十分の休憩時間の後第二幕が始まった。
なゆかの想像していた歌劇団のショーとは違うものが目の前にあった。
「えええっ !? 」
ホログラムは荒廃した都市を映し出す、舞台の中央にはボロボロの衣装を着た演者たち手にはライフルなどの銃を持っている。演者の一人がラップを熱唱しながらホログラムゾンビを撃っていく。
次はメタルミュージックに切り替わりボロボロの衣装は瞬時にゴシックドレスに変わる。背景は燃え盛る都市。センターの演者が入れ替わり力強い歌声を響き渡らせる。次は海中の背景に代わり全員が水着風の衣装、ウィスパーボイスの演者が中央で歌い上げる。
10 人の演者全員がそれぞれ自分のカラーを前面に出したショー。最後の演者はアニメソングを歌いながら手品を披露していた。
「え、え、アイドルのライブ……でもない。なんですこれ……」
「 10 人全員が主役ですのよ。皆かわいいわたくしの演者」
「最後の手品の人ってきつねさん……かな?」
「あら、気が付いたの? 顔も声も貴女と会った時は違ったはずだけど」
「え、やっぱりそうなんですね! 仕草とかで何となくそう思ったんです!」
「彼女はフォックス。本名は本人に聞けばいいですわ」
昊菜は体に纏わせている来夢を使いフォックスに連絡、 VIP 席に来るように言った。
それから程なくして――
「失礼します! フォックス入ります!」
3 回ノックの後力強い声が聞こえた。どうぞと昊菜が声をかけると背筋を伸ばしたフォックスが入ってきた。
「あ!」
「また会えたね!」
「フォックス、自己紹介をしなさい。」
「フォックスです! LavaGarden の MGM 歌劇団に所属しています!」
「フォックスさん! あれ、忍者ではないの?」
なゆかはじっとフォックスを見つめて言う。
「あれは……任務中の姿でして。藺藤なゆかさんはどうしてここに?」
「カフェのホールのアルバイト受かったの。その後オーナーさんが舞台を見せてくださって……フォックスさん、手品ショーすごくよかった!お芝居の幕も騎士役かっこよかった!」
「て、照れますね……」
「ねえフォックスさん、お名前は? 私だけ名前教えてるじゃん?」
「え、えっと……」フォックスは昊菜の顔を見る。昊菜は小さく頷いた。
「坂東狐理子(ばんどうきりこ)といいます!」
「坂東さん!」
「えっと……どちらかというと苗字ではなく名前でお願いします」
「狐理子さん! じゃあ私も同じく下の名前でいいよ」
なゆかは狐理子の前に立って見つめる。観覧席に段差があるためなゆかが見上げる形になっている。
「えと……な、なゆか」
「うん! 同じ店の仲間としてよろしくね!」
その様子を見ている昊菜。
「二人の相性は良さそうですね。なゆか、例の力駄々洩れですわよ」
昊菜は少し笑いながら言った。
「え! いけない……」
「制御するのに難儀しているのでしょう? ならばこれを貴女に授けます」
昊菜は机の上にスイカ大の銀色液体金属を置いた。
「これってオーナーさんのスライムですか?」
「わたくしの来夢の分身と言った所ですね。元々医療介護用に開発された SliME ( Super L ife Medical Equipment )これは流体多結晶合金マシンですので、貴女の役に立ちますわよ。さぁ触ってユーザー登録をなさい」
ゆっくりと SliME に近づくなゆか。ハートは昊菜の横でなゆかを見つめているが先程のような鋭い目つきはしていなかった。
「えい!」
触った瞬間なゆかの全身に纏わりつき透明化した。
「わっ! 凄い!」
「名前を付けてあげなさい。 SliME は貴女に合わせて成長しますのよ」
「え~……それじゃあ……う~んと……ポポリンで! SliME おまえの名前はポポリンだ!」
「登録完了。個体名ポポリン、貴女の健康と安全を守ります」
なゆかはさっそく掌の上に小さな犬を出現させて遊びだす。
「へぇ~使い方は特に教えていませんのに」
昊菜が言った。
「オーナーさんの来夢さんが変形したのを見て私も出来るんじゃないかなって」
「そうですか、貴女のポポリン成長が楽しみですわね。ちなみに歌劇団全員に SliME をもたせてますの。フォックスも勿論」
昊菜が狐理子に視線を向ける。この時来夢を通じて狐理子の SliME にメッセージを送っていた。
『フォックス、貴女はしばらくなゆかの様子を見なさい』
『了解です!』
狐理子は自分の SliME を衣装から一部飛び出させて小さな狐にして見せる。
「私の SliME は【コンキチ】と名付けています。 AI の癖にちょっとのんびり屋なんです」
「コンキチ!」
「なゆか、 SliME を使った通信は携帯の使えない場所でも可能ですけどわたくしは全て閲覧できますので留意しておいてくださいね。それとわたくしの渡した SliME は全てわたくしに親権限がありますので変な事には使えませんわよ」
「はい(え、じゃあこれって SliME もってる人みんなクリムゾン様に手綱握られてるって事? ちょっと怖いかな……でも SliME なんてもの使うチャンス普通だったら絶対ないよね)」
「みだりに第三者に見せびらかす行為も出来ません。機密事項に反する行為は出来ないように SliME の設定していますので。 MGM 歌劇団の中にはロッカーに自分の SliME を待機させてる子もいます。でもなゆか、貴女の場合力の制御の為にも肌身離さず持っておいた方が良いかと」
「あ~そうですね……(大丈夫かな? まぁなんとかなるかな)」
「なゆか、歌劇団に興味が湧いたのならいつでも言ってくださいな。貴女が輝ける舞台用意できますわよ」
「え!」
「ふふ……思いっきりその力を解放して自分を表現する所を想像してみなさい」
「 !! 」
「本日はここまでですわね。フォックス、なゆかをマンションまで送りなさい」
「了解です!」
なゆかはカフェの研修、歌劇団の舞台鑑賞、 SliME と怒涛の体験に目が回りそうだった。フォックスこと狐理子の用意した車に乗り込む。
「あ~……色々な事がありすぎて頭整理するの大変だよぉ」
「そうだろうね……そういう時は SliME に情報整理させて置くといいよ。携帯より感覚的に操作できるし」
「へぇ~そういう使い方もできるんだ」
「ダンスレッスンのサポートとか舞台のセリフとかショーの歌の歌詞とか色々出来る」
「えーマジ !? めっちゃ便利じゃん!」
「……なゆかって清楚系お嬢様だって印象なんだけど結構大胆ではっちゃけてるよね?サイバーゴーグル男の事あったのに平気で面接受けてるし、オーナーさん相手にあんなに堂々としてるのも逆に怖かったし」
「めちゃくちゃビックリしてたよーでも絶対受からなきゃってそっちに集中してたらなんか乗り切れた。それとクリムゾンさんってそんなに怖いかなぁ? 只者じゃないのはわかるけど近寄りがたい雰囲気じゃないし話しやすいし美人でカワイイし」
「か、可愛い !? そ、そんな畏れ多い……」
「え~?」
「やっぱりオーナーさんが選んだ子は只者じゃないってことだね……」
「狐理子さんもでしょ~忍者なんだし! ニンニン!」
アニメで見た忍者の印を結ぶなゆか。
「ニンニンとか言わないよ!」
「あれ、そういえばござる口調じゃないね? なんで?」
「あれは任務中なので別人になりきってんの。【フォックス忍法なりきりの術】でね」
「フォックス忍法 !? 」
「あ、また説明しなきゃ……」
「いいじゃん! ねぇ狐理子さんもっとお話しよ? 時間は大丈夫かな?」
「今日はもうこれであがりだから空いてるけど……なゆかは明日大学あるんでしょ?」
「明日出る授業は 10 時からだし平気平気」
「じゃあ……いいよ」
「やったぁ! ねえ、わたしの家でいいよね? お金ないからコンビニでお菓子買えないけど……水なら飲み放題だよ」
「も~しょうがないなぁ私が奢ってあげるよ、コンビニ寄って行こ」
「いいの? じゃあお言葉に甘えちゃおうかな?」
「……なゆかはズルいよね」
「え?」
「その声とその容姿でそんないい方されたら……もう」
「え~?(力漏れてるのかな? ポポリンどうかな?)」
『いじょうなし! いじょうなし!』
「狐理子さんの事とか歌劇団の事とかいっぱい教えてよ」
「ま、まぁ話せる範囲でね」
続く。
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