ラビット・アンダーグアウンド 4 話
なゆかと狐理子は朝まで話しこんだ。眠い目をこすりながらオートロックの玄関まで狐理子を送る。
狐理子は駐車場に向かい車に乗り込む。視線を感じバックミラーを見ると後方にガタイのいい顔の濃いビジネススーツの男が停車中の窓を全開にして腕を出してこちらを見ていた。
「あれ何者……コンキチ解る?」
自分の SliME に話しかける狐理子。
『ID確認……大澤垓(おおさわがい) 26 歳。秋馬原島署勤務。警部補……ダヨ!』
「警察かぁ……張り込みかな……反応しすぎて職質されても面倒だしスムーズに退散しよう」
『それがイイヨ!』
***
狐理子の車が駐車場から出て行くの確認する大澤垓。携帯を取り出しなゆかにかける。
「……速く出ろよなゆかぁっ!」
5 コール目がなった時になゆかが出なかった事に激昂する垓。
2 度、 3 度、 4 度、 5 度、かけ直す垓。イライラしながらコーヒーの空き缶を握りつぶす。
『どうしたの垓?』
「やっと出たか! 何してたんだ !! 」
『え、シャワー浴びてたんだけど? そんなに大きな声出して何事?』
「なんだあの女はぁっ! 大学の女じゃねえよな? 誰だ、何でお前の部屋に上がりこんで朝までいるんだ !? 」
『え……なんで知ってるの? もしかして張り込んでたの?』
「たまたま昨日近くに寄ったらお前が変な女の車に乗ってるのを見かけたんだ! オレは警察官だ怪しい奴を見かけたら警戒するのは当然だろう? それで、何者だあの女は! 質問に答えろなゆかぁッ!」
『一々大きな声出さないで……あの子は困ってた所を助けてくれたんだよ。それで偶然再開してお話してたら遅くなって送ってもらったの』
「はぁ? その辺の訳分かんねえ女だってのかアイツは……」
『いい子だよ?』
「ちっ……なゆか、もうあの女と関わるなよ? お前は女子大の友人とだけ会ってればいいんだ」
『ええ~?』
「なゆか、盗聴器とか仕掛けられてないか調べろよ? 何なら今から俺がくまなく探してやろうか?」
『いいよ大丈夫自分でできるから。大学の授業まで時間あるしちょっとでも寝たいからもう切るね』
「おい!」
あくびの声がした後すぐになゆかの携帯が切れた。垓は舌打ちをしながら携帯を操作して追跡機の行方を確認する。狐理子の車が駐車場に入った後すぐに仕掛けていた。
「あの女は今……第二区を走ってるな……」
垓は車を発進させる。
狐理子の車は第二区を通り抜け第一区から第四区に。オータムホースシティスタジアムの駐車場で停車した。
「スタジアムの駐車場だと? あの女何処に住んでやがる……」
垓は狐理子の車に追いついた。すぐ隣に駐車して車を調べ始める。ナンバーから持ち主を割り出してはいたが大した情報は得られなかった。大企業院瀬見の所有するものであった。
「院瀬見のコーポなのか? だとしたらこんな場所に態々車を置いたのは何故だ? ……今日の所はここまでか……この車の動きは見張る必要があるな」
***
狐理子はスタジアムの公園のトイレで SliME コンキチを使い服装と顔を変える。昊菜が用意した車にはガタイのいい男、大澤垓が張り付いていた。
「うわぁ……あの警官追ってきたよ……クリムゾン様には悪いけどあの車は置いていった方がよさそう」
『キリコ、クリムゾン様に連絡スル?』
「……そうだねコンキチ。報告しておこうか……なゆかの話に出てきた幼馴染みの年上男ってアイツの事だろうね?」
『なゆかの話の中に出てきたガイと言う人物とあの警察官・大澤垓は同一人物と考えて良いね。この街でオオサワガイと言う名前でなゆかの話に該当する人物はあの者だけダヨ』
「そっか……要注意人物認定っと……自分はジョギングする人になりきって帰ろっと」
『ジャージ姿に変身するヨ』
***
なゆかは携帯のタイマーをかけひと眠りする事に。
夢の中で歌劇団の舞台に立ち自分を全力で出し切っていた。
拍手喝采。歌劇団のメンバーと抱き合い喜ぶ。講演後クリムゾンに褒められる。
心地よい夢の時間はあっという間に過ぎ、現実に引き戻すタイマー音で無理やり目を覚まさせられた。
「……えぇ~? もう時間なの? いいところだったのにぃ」
ベッドから手を伸ばして携帯のタイマーを解除する。時間を確認しながら起き上がる。
大学の友人、鈴木真亜子、佐藤実衣、高橋夢生からグループメッセージが入ってた。
【なゆか、 LavaGarden の話聞かせてね】
「みんな興味深々だぁ……でも守秘義務あるから詳しいこと言えないもんね?」
『情報漏洩だめ』ポポリンが言った。
「当たり障りのない事だけいうよ」
なゆかは出かける支度をしながら携帯端末でオータムホースシティのニュースを見る。
「この街ってさ結構パトカーのサイレン頻繁に鳴ってるけど事件のニュースってあんま無いよね?」
『ないかも』
「狐理子ちゃんを追いかけてたゴーグル男とか普通じゃないっぽいの一杯いるのかな?」
『いるかもね。なゆかは偶々出くわしただけで普通は関りが無いはずだよ』
「じゃあさじゃあさ、昨日みたいに巻き込まれた時はポポリンがどうにかしてくれるの?」
『どうにかじゃ分からないよなゆか。どうして欲しいの?』
「警察に通報とか?」
『通報しても駆けつけるまで最速で 2 分かかるよ。 2 分間は身を守る必要があるよ』
「ビューンてすごい勢いで逃げるとか。壁とかもピョンピョーンって蹴って飛び跳ねて」
『それなら常に私を纏わせておくといいよ筋力サポートするから』
「う~ん……ポポリンさぁ、一人称かえよ? ポポって自分の事言って」
『了解、一人称をポポに変えるよ』
「よしよし、カワイイなおまえ。声も私好みのにしてくれてるし」
なゆかは目の前のスイカ大の銀色のポポリンを撫でる。
「ポポリンお手!」
『はい』
流体ボディから子犬の前足めいた物を伸ばしてなゆかの掌に置くポポリン。
「私から離れてる時は犬の姿がいいかも……ミニチュアピンシャーの姿になれ!」
『了解』
手足は細く筋肉質で黒と茶の短毛、眉毛の部分が茶色で耳の垂れた子犬の姿に変身するポポリン。
「いいね、いいね! 大家さんに見つかったらロボット犬だと言ってごまかそう。その時はポポリンもロボット犬のふりしてね?」
『了解』
「で、なんだっけ……あ、そうそうポポリンを纏わせればサポートしてくれるんだよね? じゃあさ、ちょっと大学行く時にさ練習して見ようよ。あのジーンズに変身して」
なゆかはロング T シャツの下にレギンスを履きその上からジーンズのポポリンを纏う。
『なゆか、上半身もサポートした方がいいのだけど』
「じゃああのパーカーになってよ」
『了解』
ジーンズから体を伸ばして兎のグラフィティが施されたパーカーに変身するポポリン。
「全身にフィットするとなんか安心感ある……」
『なゆか、外に出たら自由に動いてみて』
「おっけー」
マンションから出たなゆかは早速走り出す。ポポリンが筋力サポートを開始する。
「あ、軽い軽い! 何処までも走れそう!」
『色んな動作してみて』
「よーし」
なゆかは自分の背丈ほどあるフェンスに飛び乗り走りだす。そして側転を決めて着地。目の前にあるバスケットコートに向かって駆けだす。
「すごーい!」
放置された少しほつれたバスケットボールを拾ってドリブル。なゆかは昔やっていたバスケットボール部を思い出して微笑む。
「はっ!」
ボールをゴールのボードに投げつける。跳ね返ってきたボールを空中でキャッチしてそのままダンクシュートを決めた。
「気持ちいい!」
なゆかは側転、バック転、後方宙返り捻りを決めたあと逆立ちする。
「ポポリンすごい! 私に合わせてサポートしてくれてる! 身を任せる感じでもないしレスポンスに違和感もない!」
『ポポ達 SliME には戦闘スーツのデータをラーニングしてあるからね。後はなゆかの骨格と運動能力に適応させれば最適化完了だよ』
「えーすごい……ねぇねぇそれってさ、私の出来そうな動き全部サポートしてくれるんだよね? じゃあさ、新しく覚える動きはどうなるの?」
『具体的には?』
「ポポリン達 SliME はネットワークで繋がっているんでしょ? だから歌劇団のダンスの振り付けもみんなすぐに覚えられる。それなら武術もいけるよね?」
『いけるよ。武術は空手、柔道、丹羽家式体術がラーニングされてるよ』
「狐理子ちゃんのフォックス忍法は?」
『データはとってあるけどあれは坂東狐理子のブースターユニットと忍術を合わせたものだからいきなり他の人が使うのは無理だよ』
「ふむふむ……いざって時テンパって動けなくなった時はポポリンが空手で私を動かしてくれる事は可能?」
『ある程度は可能だよ。最適化された動きになるから応用は利かないかも』
「なるほど……」
『警告、なゆかの体から未知の物質が放出中。サキュバスに由来するものと考えられる。深呼吸して落ち着いてメガネのズレを直して』
「えぇ? 出てる? 危ない危ない……メガネを直しておしとやかに……」
『サキュバス物質放出の停止を確認。なゆか、日常の動作をポポがサポートする事も可能だけどどうする?』
「う~~~~ん……これは私が自分で意識しなきゃ駄目だからポポリンはヤバかったら教えてくれるだけでいいよ。ポポリンにおんぶにだっこしてたらいつまでもこの力制御できないからね」
***
なゆかは大学で日常を過ごす友人たちに簡単に LavaGerden の事を説明した。
「え~行ってみたい! でも 2 階のショーは会員制なんでしょ? なゆかの力でなんとかならない?」「カフェのメニューどれもいいよね~今度皆で行ってみようか?」「うわ高っか……でも何もかも超一流なんでしょ? 一度は体験したいよね」
「あはは……あ、もうこんな時間、バイトに行くね」
なゆかは夕方のシフトを入れている為途中で会話を斬り上げ LavaGerden に向かう。
「あ……また垓からメッセージ」
【今日は時間あるか? お前の部屋で話がしたい】
「えぇ~……シフトあるし無理なんだけど。そもそも幼馴染みでも部屋には上げたくないなぁ」
なゆかは垓の返信をどう送ったものか思案する。
「ねーポポリン、どうしたらいいかな?」
『なゆかにとって一番避けたいのは垓と話をする事? それとも部屋に上げる事?』
「えっと……部屋に上げるのは避けたいかな。話をするくらいならまぁいいかな~」
『じゃあ用事があるから何時に何処で少しなら時間あるよって返信すればどうかな?』
「そうするか~狐理子ちゃんの事とか根掘り葉掘り聞いてきそう……ポポリン助けてね?」
『いいよ、第三者に聞こえないようにするね。なゆかはまだ慣れてないから体の部分を指で触って文字とかでポポに伝えて』
「うん、そうする。話してる途中で携帯触ってたら感じ悪いものね」
なゆかは LavaGerden のバイトが終った 1 時間後にマンションの隣のカフェで話をしようと垓に返信した。部屋は片付けてないから無理と理由を付け加えた。すぐに既読が着き返信してきた。
【散らかってようが気にしないんだが?なんなら俺が片付けを手伝ってやろうか?まぁいいそれはまた今度な。しっかりと話を聞かせてもらうぞ。先にカフェで待ってる】
「う……なんか圧を感じる。その内部屋に上がるのを断れなくなるかも」
『対策を考えよう』
「そうだね……」
なゆかは大学から直接バスで LavaGerden に向かう。入口の分厚いドアを開けると黒い上下のスーツ女性が立っていた。
「貴女が藺藤なゆかさんね」
スラリと細くてしなやかなシルエット。つややかなな黒髪に薄い眉、三白眼の黒い瞳。顎は小さく首は長め。なゆかに比べそれほど背は高くないが存在感に圧倒された。
「あの……貴女は?」
「失礼、私は白鳥エリーナ(しらとりえりーな)。 MGM 歌劇団に所属しています」
「あ! バレエを踊っていた人ですね」
白鳥エリーナの爪先は開いており立ち姿は頭から糸で引っ張ったように真っすぐ。なゆかは、ああなるほどと軽く手を打った。
「オーナーから SliME を渡されましたね? では貴女も MGM 歌劇団に入団されるのかしら?」
「えっと……」
白鳥エリーナがなゆかに接触してきた理由が解った。 SliME をもらった事情を正直に言うべきか迷う。
「まだ解りません…… SliME はちょっと事情があって持たせてもらっています」
「そうですか。オーナーと貴女の間で何かあるのですね、解りました」
白鳥エリーナはそう言うと踵を返して歩き出す。
「あの、また MGM 歌劇団の舞台見たいです、絶対見に行きます!」
「ええ」
少しだけ振り返り白鳥エリーナはそのまま店の奥へと去っていった。
「なんかすごい人だ……緊張した。オーラって言うのかな? クリムゾンさんとは違った存在感があったねポポリン」
ポポリンに話しかける。
『白鳥エリーナは MGM 歌劇団の団員第 1 号だよ。相棒の SliME の名前はジゼル』
「えぇーそうなんだ! MGM 歌劇団の最初の! バレエ出身の人なんかな?」
『これ以上は本人かクリムゾン様に聞いてね』
「む、しっかりしてるなぁ……」
続く
ラビット・アンダーグラウンド22話 Jul 21, 2026
ラビット・アンダーグラウンド21話 Jul 18, 2026
ラビット・アンダーグラウンド20話 Jul 15, 2026
PR
Free Space
Freepage List
Calendar
Category
Comments
Keyword Search