ラビット・アンダーグラウンド 16 話
「どうしました?」
兎川伊奈(なゆか)のサキュバスハーフの目を見て呆けている黒防と大澤垓に向かって省羅(クリムゾン)は声をかける。
「あ、いや……なんでもありやせんよ~(なんであんな小娘から目が離せない? 自分は女よりも金が大事なんだ。カミさんの話も子供の話もでまかせでとっくの昔に別れてる)」
「ふん……あの女、こんな店では無く堂々とした表舞台に出すべきだと俺は思うがね」
垓はネクタイの位置を直しながら言った。
なゆかは見様見真似でポポリンのデータから得た情報でポールに登りポールダンスを披露する。筋力は元々平均女性よりもありそれに加えポポリンのサポートがある為難なくこなせることができた。
「見事な者ですなぁ~」「下劣なものだと思っていたがそうでもないらしい」
すっかり兎川伊奈(なゆか)のダンスに魅了されている二人。
「あの……お気に召されたのなら専用サイト配信を見れますよ? 残念ながら警察関係者の方は店でご覧になる事はできませんが」
「それはどうしてだね?」と黒防。
「ここはあくまで楽しんでいただく場。警察の捜査目的の為に使われるのは避けたいと考えています。どうしてもとおっしゃるのであれば上に報告させてもらいます」
「そうですか……(禁止しようがなんだろうがいくらでも潜入手段はある……この店はあやしいと刑事の勘が言っている徹底的に調べてやりましょう~)」
「調子に乗るんじゃないぞ風俗店が! 無理やり全員しょっ引いてもいいんだぞ?」
大澤垓は拳銃を抜いて省羅(クリムゾン)を睨みつけた。
「大澤! こんなところで銃を出すんじゃあない!」
「撃たないですよ。俺は女が偉そうにしてるのが一番嫌いなんでつい……」
「もういい、帰るぞ大澤。今日の所はこの位にしよう」
「……はい」
去っていく黒防と大澤。
監視カメラで二人が出て行くのを確認したクリムゾンは変身を解除する。
「クリムゾン様……」省羅が駆け寄る。
「大丈夫よ。 LavaGarden は必ず守ります、従業員も全て。警察相手でもわたくしは怯みませんわ」
「今日の営業はどうしましょう?」
「流石に今日は止めておきましょう。でも安心して、 LavaGarden はここだけじゃあありませんの。なにかあった時の為に支店も準備していますのよ」
「え!」
「より安全な第 1 区です。大型商業施設があるでしょう? その一角にあります、カフェとリアルタイムで本店の舞台が見れる部屋を用意してます。省羅、明日から今のカフェの従業員は全て支店に移りなさい。明日は最終準備と研修、明後日にオープンします」
「は、はい!」
「あなたが支店の店長となります、頼みましたよ」
「はい!」
「今日は色々ありましたね、ゆっくりしなさい。今日のシフトの従業員には他の者に連絡をさせます」
「はい」
省羅は一礼するとバックヤードの奥にある丹羽家の住み込み区画に向かった。
「ラビット」
クリムゾンは舞台で小声で歌っているなゆかに声をかける。
「あ、はい」
「この後は自由になさい。このまま残って歌劇団のメンバーと交流を深めるも家に帰って休むもあなたに任せます。明日の院瀬見オープンカンパニーの準備は忘れないで」
「わかりました」
なゆかはクリムゾンがフロアーから去るのを見届ける。
「どうしよっかな……」
『なゆか、大澤垓が来てたけど大丈夫だった? 心拍数上がってたよ』
「かなり動揺したよ、けど今は私は【ラビット】なんだって思い込むと楽になって何とかやり過ごせた。ラビットの名前もらってよかった~」
『チワワじゃなかったね』
「チワワって予想してたんだけどな~でもウサギも大好きだし。昔話とかでさぁよく出てくるじゃん? いたずら好きとか賢いとか情に厚いとか。クリムゾンさんにとっての私のイメージってそういう事なのかな?」
『どうだろう。ウサギが似合うとか直感の可能性もあるよ? 今までがそうだったから』
「ウサギが似合う女か……サキュバスハーフとしてはウサギのイメージは合いそうかも」
『なゆか、かなりサキュバスハーフとしての自信持ってきてるね。さっきのダンスの時も力を解放してた』
「まぁね。ラビットの姿を目に焼きつけておけば他の歌劇団のメンバーにあの嫌な感じの警察官二人が付きまとわないようにできるかなって。黒防さんはともかく垓が常連になるのは不安だけど【なゆか】じゃなくて【ラビット】の方を向いてくれるならいいかな……」
『なゆかよりもラビットの方を追うようになったらどうするつもり?』
「ある日突然姿を消して永遠に幻影を追わせるとか? その内他に良い人見つかって一緒になるんじゃない?」
『もうすっかりなゆかは大澤垓に情はないみたい』
「元々幼馴染みってだけで特別な感情はなかったよ。今はもう【元・幼馴染みの怖い警察官】だよ、これからの人生に関わって欲しくないって思ってる」
『完全なる拒絶だね』
「うん。勝手に部屋に入って弄り回してカメラまで設置したのは許せないもの」
『またひとつなゆかの事解った。やっぱりチワワよりウサギが合ってるね』
「そうなの?」
『チワワは溌剌、警戒心が強い、敏捷、攻撃的、勇敢、献身的なんだけど、なゆかには当てはまらないかもね』
「えーでもさぁウサギって気が強く独立心が高く好奇心旺盛で臆病で体が脆くて寂しがりでしょ?」
『クリムゾン様から見てそうなのかも。後はさっきも言ったけど直感だね』
「じゃあさ、いつもクリムゾンさんの横に居るハートさんはクリムゾンさんのイメージはなんなの?」
『鯱(しゃち)だよ』
「シャチ……へぇ~……そうなんだ」
『納得してるね』
「あの可愛らしい見た目と何とも言えない怖い雰囲気がピッタリだなって」
なゆかは控室に戻る、省羅が携帯端末を操作していた。
「お疲れ様です」「お疲れ様、大変でしたね」
なゆかは省羅の隣に腰を下ろした。
「クリムゾン様の機転で何とか警察は追い払えましたが……例のブラックヴァリーの方はどうなるのでしょう? 他の従業員が心配です」
省羅は小さくため息をついて言った。
「あ、それなんですけど……もう少しで解決できるかもしれません」
その頃警察と消防が図書館でテンゾウの焼死体を発見していた。狐理子とシャパリュは図書館の見える位置で隠れて待機し SliME で情報を送っていた。
「 SliME 所有者のネットワークですか」「はい」
テンゾウが率いていたブラックヴァリーの一つの組織、天蟲党の残党はすでに何名か LOKI で見つけ出しアジトをしらみつぶしにしている最中だという。狐理子はテンゾウを討った後は秘伝書を取り戻さなくてはならないとなゆかに SliME ネットで伝えた。
「ホストクラブ側との衝突はどうなるのでしょう?」
不安な表情を浮かべる省羅。
「それは……えっと院瀬見の生城山もみじって人が裏で糸を引いていたみたいです。なので……オープンカンパニーで私が院瀬見に潜入して接触できないかとクリムゾンさんは考えておられますね」
「そんな大役……大丈夫なのですか?」
「その……私の力を試されるんだと思います。本気でクリムゾンさんが今すぐ生城山もみじをどうにかしたいのなら他の人を選ぶと思います。 100% ナチュラルで特殊能力持ちの私なら院瀬見の中でも上手く立ち回れると判断されたのでしょう。兎川伊奈さんの名前を使う意味もありそうでしたし」
院瀬見からしてみれば会長の秋馬光鴨の息子・秋馬鷹光の暴走で命を落とした院瀬見の者は全て行方不明扱いにしている為、存在を掘り返されてましてや生きている状態で現れても何も無かった事にするしかない現状であった。実際、鷹光の犠牲者の一人である江藤紅子に成りすましているクリムゾンには直接接触してこない。幾度か再び闇に葬ろうと刺客を放ったがその度消滅(ハートによる地下深くの永久監禁)しそれ以来安易に送り込んでくることは無くなっていた。
なゆかは省羅と別れ今日は狐理子の事を考えビジネスホテルに泊まる事にする。部屋に着くとベッドに大の字で寝転がりポポリンから SliME ネットに繋げる。
クリムゾン(秋馬昊菜)は変幻自在の SliME と錬金術で復活させた生体ゴーレムの集団 LOKI 。秋馬家と契約しているプロフェッショナル執事メイド組織の丹羽家。天才集団神名一族の一人、 SliME の生みの親の神名燐火。院瀬見派閥で唯一の良心とされる若手カリスマの鈴村功太朗とコンプレックス持ちであるが頭脳明晰で器用な弟の影彦を従えている。
対する秋馬光鴨(院瀬見グループ会長)は院瀬見グループの頂点に立つ者であり肉体変化の錬金術を使う。あらゆる手を使い長年オータムホースシティを支配していたが突如現れたグレイキャリバー、龍の兄妹、 LOKI に苦汁を飲まされ続けオータムホースシティに所有している戦力の 7 割をそれらの闘いで失っている。
なゆかはこれらの情報を SliME ネットから収集しラビット(兎川伊奈)としてオープンカンパニーに備える。
***
――翌日。
捜査会議を終えた刑事たちが交流している。
「碇課長、ちょっとお話が」
大澤垓が碇艇輔(いかりていすけ)にそっと近づきポケットから小袋を出して言った。
「なんだ大澤? それはなんだ?」
「盗聴器です。俺のジャケットに張り付いていました」
「やられたな、心当たりは?」
「 LavaGarden の事件の捜査に向かった昨日に仕掛けられたのかと。 LavaGarden の人間が怪しいですね」
「さて、それはどうかな? 警察相手にそんなバレたら困る事を安易にやるかね? やり手の経営者なんだろう LavaGarden のオーナーは。従業員にもそんなヘマをする奴を置かないだろう……と思うがな」
「しかし LavaGarden の可能性も捨てきれません」
「そうだな。それでいい、決めつけて視野を狭くするのはいかん。盗聴器は鑑識に回して出どころを探らせよう、昨日はクロと組んで捜査してたんだったな」
「はい、黒防(こくぼう)さんでした」
「今日は別の奴と組ませる」
「なぜですか?」
「まぁ~捜査の為だとだけ言っておくか。とにかくお前は LavaGarden 襲撃事件を引き続き捜査しろ。クロには別件を頼む事にする」
「了解です」
「百合崎」
碇課長に呼ばれ立ち上がった緑髪の女性刑事。改造度 50 %のサイバネである。
「大澤と一緒に捜査しろ」
「了解であります!」
大澤垓は百合崎を見る。
「百合崎和香(ゆりざきわか)捜査官ですか……元・自衛官で特殊部隊の所属だったと噂される……」
「ああ、百合崎はヒグマでも 6 秒でバラバラに解体出来るほどの超武闘派のサイバネ捜査官だ。 LavaGarden がらみの捜査は危険だからな、百合崎をつけておく」
碇課長は茶を煤って言った。
「よろしくであります大澤捜査官!」
瞬間移動めいた全身で大澤垓の目の前に移動して握手を求める百合崎。
「あ、ああ。よろしく」
大澤垓は百合崎に手を握られた瞬間大型の工業機械をイメージした。目の前に居るのは無害そうな顔をしている殺戮マシーンかもしれないと不安を覚えた。
碇課長はここ数日、大澤垓の不審な動きを知っており百合崎を付ける事にした。不良刑事の黒防には同じく不良刑事(第六地区と繋がっている)の粕谷白基(かすやしろき)を付けることにした。
「シロ、クロと一緒に捜査しろ。例の六区暴動の件だ」
「うっす……クロさんと俺、気が合いますし六区なら任せてくださいよー」
リーゼントの髪型を櫛で整えながら答える粕谷、出て行った黒坊を追いかける。
「碇さん」
コーヒーを持って碇課長の横に現れたのは特殊犯罪対策課・課長の比留山陶子。
「どうした比留山」
「柔軟なチーム編成と指示、流石です」
「俺はもう体がガタガタだからな、こうやって頭で捜査するしかねえのさ。で、なんの用だ比留山」
「 DMC の残党を昨日ウチの捜査官が六区で発見しました」
「ここでコソコソ話するってぇ事は……ヤベェ大物か」
「ええ、大臣の息子です」
「……怪人化してたか?」
「はい。ウチの兜金と才賀が確保しました」
「……行方不明のままの方が良かったな。確保しちまった以上対処しなければならん。上の判断は?」
「碇さんに取り調べをお願いしたいと。ウチの兜金と才賀で無理やり口を割らせる事も出来ると説明したのですが……」
「ちっ……面倒なのを押し付けやがる。解った、後で行くと言っておいてくれ」
「はい」
***
一晩中狐理子はシャパリュと共にブラックヴァリーのアジトを順に巡っていた。
「秘伝書は何処に……」
「残りのザコ共は歯ごたえナイ……」
抵抗する者は容赦せずに降伏するものは拘束して情報を吐かせていく。テンゾウの天蟲党はほぼテンゾウのワンマンチームで配下の者は殆ど何も知らされていなかった。
「残りは……院瀬見社員のマンション……一般人を巻き込むと面倒な事に」
「催眠術をかけて一般人に保管させている可能性が高まったナ」
「院瀬見のマンション……厳重なセキュリティを超えても部屋の中を探さなくてはならないし催眠術をかけられているのなら本当に秘伝書と知らないでいるのかも」
「問題はソレダナ。侵入するのは難しくない、隠し場所を特定するのが困難」
「部屋にないかもしれなし院瀬見ビルの中に保管されてたら……」
「だったらもう SliME に社員を喰わせてなりかわればイイ。バレて SliME を捕獲されるのをコウナは絶対に避けたいだろうガナ」
以前にクリムゾンとハートが院瀬見ビルに潜入し破壊活動を行った。それ以来院瀬見のセキュリティは一層厳しいものになっている。
『狐理子、 SliME が取り付いている警官を利用するのもありだよ』とコンキチが言った。
「呼んだところで通報記録残るから面倒な事になるんじゃない?」
『違うよ、狐理子がその警官にフォックス忍法で成りすませばいいんだよ。本物の警官側とは SliME ネットでアリバイ工作できるし』
「バレないの?」
『バレたところで SliME ネットは見る事は不可能だし SliME は離脱すれば追跡されない』
「う~ん……それはちょっとリスク大きいかな。クリムゾン様の手駒の警官が減っちゃうからな~」
『じゃあプラン B 、ブラックヴァリーになりすまして正面から堂々と制圧。狐理子は憎い敵になりきらないといけないけどね』
つづく
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