2003.10.22
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「テーブル席と座敷席とカウンター席がございますがどういった席になさいますか」
創作料理を出す和風ダイニングバーが並ぶ一角のビルの3階の店は、月曜のまだ早い時間帯ということもありかなり空いていて、中央にある調理場を取り囲むカウンター席にも、立て板で区切られた両サイドの座敷席にもまばらに人がいる程度だった。店のかなり奥の方からやってきた店員は我々に好きな席を選ばせてくれたが、できることならオレはカウンター席に座りたいと思っていた。
2人でテーブル席に座る場合、横に並ぶ光景は不自然だから、必ず向かい合わせに座ることになる。常に相手の目や表情を見ながら話さなければならない環境下に置かれるというのは、ちょっとした恐怖だ。どちらか一方が食事をしているときに話し掛けたり、話題に困って相手の顔から視線を外したり、あるいは話の途中で酒や料理を口に運ぶための動作に移ったりするためのタイミングは非常にシビアだ。相手の話を聞いていないかもしれないことや、つまらないと思っていることがちょっとした動作に現われる。だからといって常に相手の目を見つづけているのも照れくさい。そういった通常の会話に関係のない不安な要素が2人きりのテーブル席にはある。だから例えば調理場にいる板前の包丁の動きを見ながらでも話せるカウンターのほうが気は紛れるし、沈黙もそれほど怖くはない。
カウンターでいい?
伺いを立てることによってカウンター席を選んだ責任を分散させられるし、もし万が一彼女がテーブル席に座りたいと思っていた場合のリスクヘッジにもなる。
「うん、どこでもいい」
mimiはきっと断わらないだろうという予測はしていたがその通りだった。我々は靴を脱いでカウンターに上がり座椅子に座った。足元は通路から一段下がっている所に足が伸ばせる掘りごたつのようになっていて、板前と我々間には目と同じぐらいの高さにガラスケースがあって串焼きのための材料が置かれていた。会話に干渉されることはなさそうだった。
「落ち付いた感じのお店だね」
白熱灯によるほの暗い照明に照らされたシックな色合いの室内を見渡しながら、店内があまり騒々しくないことなどを指してmimiはそういった。

といわれてなんのことかわからず振り向くと店員が飲み物を運んできて差し出すところだった。
生ビールとカンパリオレンジがカウンターに並び、二つに切られたオレンジと搾り器を置いた店員は一礼し去っていった。オレンジを手分けして一つずつ絞りグラスを触れ合わせて、お互いの誕生日到来を祝う言葉を言った。自分の誕生日がそれほど特別な日だとは思っていない。祝いの言葉をもらうのは悪い気はしないが、なにがめでたいのかよくわかっていない。毎日賑わっていて楽しければきっと、誕生日に特別大騒ぎしなくてもいいんじゃないかとも思う。
紺色の制服を来た女性の店員がうしろから慇懃に「お食事はいかがなさいますか?」というときにはちゃんとかがみこんで、客である我々より目の高さを下にしてから注文を聞き始めた。
串焼きにしようか、うずら食いたいし。
「うずらの串焼きなんてあるの?食べたことないよ、それ頼もう!」
うずらの玉子でこれほど大喜びされるとは思ってもみなかった。オレも少し嬉しくなってしまった。誰かが喜んでいる顔を見るのはそれだけで気持ちいいのかもしれない。
「わたし和食屋でバイトしてるでしょ、もう全然ノリが違うって感じ」
慇懃な店員や、あまり騒がしくない店内の雰囲気をmimiは自分のバイト先とリンクさせていたりした。
最近だいぶ日記サボってるみたいだけどどうなのよ。
「うーん、夏休み休みだった頃はだいぶ書けてたんだけど、学校始まっちゃったでしょ?学校行ってバイト行って家帰って、日記書こうと思ったら何時間もかかるじゃない?わたし平気で5000文字とか行っちゃうからね。そうするともう寝る時間ないじゃない、で朝起きられなくなって、ついつい学校いかなくなっちゃうんだよね、やばいちゃんと行かないと、あー飲んだのってあれ以来かもしれないほら、京都のとき、あれから全然飲んでないよあ、飲んだわ、飲んだでも2杯だけだよ、あとはビール買って公園で飲むとかね、飲みきれなかったけどね、不思議知ってるでしょ?バカなことしてるよねもう」
mimiと初めて会ったのは夏の暑さがまだ冷めきらぬ9月で、3日前まで南国にいたという彼女の肌は健康的に焼けていたが、1ヶ月以上経ったこの日のmimiの頬はアースカラーではなく、ホットピンクのメイクで彩られていた。少なくとも夏が終わり時間が過ぎたということをオレはmimiの肌の色から感じとったが、まるで緊張感のかけらもなくまた永遠に続くかと思わせるようなmimiの話し方はあのときとちっとも変わっておらず、時の流れを全く感じさせてはもらえなかった。mimiはいつも自信に満ちている。自信があふれ出ているような話し方をする。なんなんだよその自信はどこから来るんだよ、その裏付けのない根拠のない自信はいったいなんなんだよ、とオレは彼女に対して言うのだが、「なんだろうね、よくいわれる、自信ありげだって」と彼女はいっていつも根拠を明かさない。その理由なき自信に押されてオレがつぶされてしまわないようにここでは酔うまでの間、虚勢を張らなければならないかもしれなかった。ルーズなファッションは反体制的な気持ちを表現するための方法であるとか、女性のタイトで挑発的なファッションは戦闘服だとかそういった理屈を展開して負けずに喋り続けようとオレはしたがmimiはあまり興味のなさそうな顔をしていたからますます自信がなくなってきたのだった。





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最終更新日  2003.10.22 22:56:46
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