2005.09.25
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 何の前触れも合図もなく、打ち上げ花火を打ち上げたのはPCBだった。「手に持ってはいけません」と注意書きされているはずなのに手に持ち、「人に向けてはいけません」と書かれているはずの花火を人に向けた。PCBが放つ花火はこすりつけの鼻先をかすめ、フランスの頭上に降り注いだ。全員が驚き戸惑ったが、それが開始の契機となった。
 さまざまな色に変色する閃光が打ち上げられた。火花が流星のように宙を舞った。戦場のような十字砲火が展開した。怒号と嬌声と笑い声が錯綜した。天の岩屋戸が開いた。ドラゴンが羽根を広げて地上に舞い降りた。解放感や恍惚感につつまれた。伝説のドラゴンが飛び去っていっても、我々の興奮は止むことがなかった。
 全員が一斉に花火を手にした。聖火を点すようにしてキャンプファイアの炎で点火した。なかなか点火せず、手や顔からジリジリと音が出そうになった。全員の花火に火がともった。そしてぐるぐると回転させた。閃光の残像が、輪になって空中にひるがえった。闇に極彩色の模様が浮かび、森の夜を彩った。
 花火は夏の終わりを惜しむように舞い、そして散った。私は、奇妙でデタラメなこの友人たちと過ごすこの時間が、永遠に続いてくれたらいいなと思った。

 カラコはワゴンの屋根から降りて、肉やコップや紙皿を片付け始めた。花火の残骸はバケツの中に入れられた。そろそろ祭りが終わる時間になったのかもしれなかった。ミミは慌てたようにウイスキーのボトルを取り出した。「もっと酔いたい」といってロックで飲み始めた。「片付けとか面倒なことは明日にしたらええやん?」といいながらジャージは椅子にふんぞりかえって頬杖をついてそのまま固まって動かなくなった。
 フランスは歌った。
 曲目はミミやカラコのリクエストによって決められた。フランスは歌本を用意してきていたが、10年前までの曲しか載っておらず、選曲は困難を極めていた。客席は暗がりに椅子を並べて設けられた。椅子と椅子との感覚はなぜか2メートル以上開いていて、浜辺でボサノバでも聴くような、優雅で贅沢な空間でフランスの歌をきいた。
 客席がどんな状態であろうとフランスはロックを歌い続けた。クラシックギターにはエレキ用の弦が張られ、1曲ごとにチューニングが狂うほど激しくピッキングされた。知らないコードをカンニングするため、しばし演奏が途切れたが、それらが一連の流れのようにも見えた。フランスはあたりかまわず歌い続けた。永遠に歌い続けて欲しいと願った。かくも短き過ぎゆく夏の調べとは、エンヤヤーレンソーラン、愛の言霊。

 どのぐらいの時が経ったのかわからなかった。遊びつかれたのかいつの間にか一人ずついなくなった。ピックを草むらに投げてフランスは、指でギターを弾き始めた。ボリュームが抑えられた。喧騒の音を気にしだすほど夜が深まっているのかもしれなかった。かまわず私は飲み続けた。この祭りを終わらせたくないと願った。朽ち果てるまで飲み続けようと誓った。フランスは歌い続けている。残ったビールは1本だけになってしまっていた。


「今ならなんでも出来るような気がする!」
 そういってミミはふらふらなステップを踏んだ。
「ほんならおれと一緒に風呂入ろか?」
 フランスがいった。
「まじでー、えー」
「なんでも出来るゆうたやんけ、こいつも入れて3人で入ろか?な、そうしようか?」
 こいつ、とは私のことだった。
「なんでー、わたしだけリスクー?」
 ミミは完全に酔っていたが、拒絶も承諾も先送りにした。したたかさだけは失われていなかった。

 「カラコ入浴中」という情報がもたらされた。その報せを聞いたフランスは一瞬カメラを持ちかけて潜入体制を布こうとしたが、さすがにためらった。
「おいミミ、カラコの入浴シーン撮ってこい、なんでも出来るゆうたやろ、撮ってこい」

「あほ、ミミが一番許してもらえる確率高いんや、な、ミミならできるがな!!」
 説得というよりも強制に近かった。しぶしぶカメラを持って潜入を試みたようだったが、脱衣所手前まで行ってひきかえしてきたミミは「やっぱり無理!絶対無理!」と逆ギレしてしまった。

 ビールが完全になくなったところで祭りは終わった。
家の中ではPCBとこすりつけがもう床についていて、ジャージも寝る気まんまんだった。洗いざらしの髪のまま台所の片づけを終えたカラコもパジャマを着ていた。フランスが風呂に入っていた。今朝の仕返しと思い入浴シーンを撮影しにいったが、戸惑うわけでも怒るふうでもなくフランスは、「チンコ撮るなよ」とだけいってポーズをつくった。返り討ちにされたような気分になった。つぶれて寝ていたミミはベッドに運ばれ、やがてジャージもカラコも床に就いた。

 リビングには私とフランスの2人しかいなくなった。

 付き合うのはかまわなかったが、ビールが残っていなかった。仕方なくカクテルジュースをあけて飲んだ。リビングは散らかっていた。明日にはきっときれいに片付けられるのだろうと他人事のように思った。そして我々は退室する。明日のことを考えると、少し寂しくなった。しかしここで遊びつくしたという満足感も確実にある。
 付き合え、といった割にフランスは、さっきから一言も口をきかず、携帯をいじっているばかりだった。反省会をしようというわけでもないのだろうか。不審に思ってフランスを見ると、
「これジャージのケータイやねん、イタ電でもしよか?」
 タバコの煙を大きく吐き出しながらフランスはいった。「しよか?」ということは私は誘われている。どこかへいざなわれようとしている。悪魔の誘惑に違いない。でも天使のささやきにも聞こえてしまった。





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最終更新日  2005.10.09 00:11:33
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