マニラ支店のオフィスが移転して、52階からの眺望はマニラ湾の向こう、バタアン半島のくっきりしたスカイラインをとらえていた。
あるプロジェクトを思い出して感慨にふけっていると、
「バタアン半島がこんなにきれいに見えることは、めったにありません」
と駐在員が言った。
あとになって、ブログ用に写真に撮ればよかったと後悔し、ちょっと落ち込んだ。
駐在員氏によるとマニラ在住の外国人は、韓国人がついに米国人・日本人を抜いてトップになった。
韓国人ならではのパターンが、母と子が英語留学でマニラに住み、父親が韓国で月給取りにいそしむというもの。
米国やオーストラリアでは予算オーバーだ。
「人間誰もが上下関係」 の韓国人にとって、周囲の人々への優越感を抱きつつ低コストで生活するための準英語国として、フィリピンは人気なのだそうだ。
* * *
マニラのビジネス街マカティ区にある アヤラ博物館
の一角で画家 Mia Herbosa さんの 個展<人生の万華鏡>
をやっていた。
Mia Herbosa さんは、昭和45年マニラ生れ。ニューヨークで活躍している。
不覚にも名前の読みを聞き忘れた。米国人なら 「マイア・ハーボウザ」 と読むだろう。
ここでは 「ミア・ヘルボーサ」 さんとしておこう。
彼女の自画像。Seeking To Know Thyself (「自分さがし」)。
放心の表情のように見えて、凝視しつづけると何かを語り出しそうな存在感。
黄緑の使い方もうまい。
会場には彼女のお母さんの Elaine Herbosa さんがいて
「昨日オープンしたんだけど、作品はほとんど即日完売だったわ」
と言いながら、いくつかの作品の説明をしてくれた。
唯一売れ残った静物画の小品を買わないかと、しきりにすすめられた。
「小さいからスーツケースにすぐ収まりますわよ」
個展会場の作品のなかで気にいったのが、ナイトガウン姿のフィリピン女性を描いた Mutya (Monica) (若い女、モニカ) という作品。
静かな誇りに満ちた顔つきがさわやかだ。
ナイトガウン (英語でいうところの kimono) は実際のガウンを裁断して貼り付けてある。写真からも伝わる質感はそのせいだ。
そこに垂れ下がる長い髪もホンモノの髪の毛を貼り付けてある。
会場にいた母のエレーンさんによると、
「何十年か先に、貼り付けた布や髪の毛が取れてしまっても作品として成立しつづけるように、青いガウンの下にもちゃんと絵の具で絵は描いてあるんですよ」
* * *
帰国して ミア・ヘルボーサさんのサイト
を見た。
彼女のサイトの ギャラリー
の絵でいちばん気にいったのが At The Mirror (「鏡のまえで」) という作品。 (今回のマニラの個展には出品されていません。)

確かなデッサン力が支えるしなやかさ。光と陰の処理がうまい。
躍動の寸前を切り取った美しいヌードだ。
ところが、鏡に映る彼女の不安げな表情が、見る者の心にしがみついてくる。
ぼくの好きな画家 Edward Hopper (エドワード・ホッパー) が描きそうな表情。
これこそ、絵画のちからだ。
もうひとつ、Henri de Toulouse-Lautrec (ロートレック) 作品を思わせるこの絵も好きだ。絵の題は Aviva (アヴィーヴァ)。
アクの強いキャラクターに負けない赤色の使い方が的確だ。
決して美しい女ではないけれど、美醜を超えたちからを感じる。
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