“飲食店の勉強代行業”大久保一彦の勉強録

“飲食店の勉強代行業”大久保一彦の勉強録

2014.11.15
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テーマ: 旅先にて(461)


本日は、2005年3月号日経レストランよりです。約10年前にどんなことを書いてましたでしょうか?


 ボキューズさんの著書には、便利さや快適さを追求した普及の時代に失われた大切なことが書いてあった。
人間が便利さや快適さを求めることで、かえって時間に追われ、日々の暮らしにバタバタするようになるのは、日本もフランスも同じようなのである。フランスにおいても、第二次大戦後からの30年の間で女性の一日に料理に費やす時間が3時間から30分に減少したそうだ。

 最近、私の事務所でDVDプレーヤーの普及率の話が出た。冷蔵庫普及率、ビデオ普及率、自動車普及率・・・この「普及率」という言葉、私にとっては、実に懐かしい響きに聞こえた。
確かに、私が子供の頃、自動車にエアコンなど標準で装備されていなかったように記憶している。
しかし、今、日本の国内だけに目をむけてみると、この普及率は必ずしも「豊かさ」を示す尺度にはならないのではないだろうか。

 便利さや快適さを求めた時代、豊かさを謳歌するかのように多くの人間が都会へ集まった。
「都会には何かがある」
家電製品などの耐久消費財などが順調に普及しているころ、みんなビジネスチャンスに起業家も投資家も群がった。
時代は流れ、世の中でものの普及が落ち着いたころ、遅れて飲食店の普及が始まった。当然のごとく投資や起業の対象となった。右肩上がりのこの市場に多くの輩が意味もなく群がった。しかし、みんなが群がれば、取り分けるものは少なくなる。そして寿命も同じように・・多くの店が産声をあげ、そして多くの店が逝去するか瀕死の状態である。

 拡大のスキームに乗ったものには店のパッケージという偶然の産物の普及自体がすべてであるのだから、目的を失えば、右往左往しているのももっともな話である。
その半面、「都会にはビジネスチャンスがある」と地方都市で躍進した企業が、かつてシーザーがローマに進軍した時のように都を陥落せんと攻め込んでいるのも面白い。

 都会は競争社会だ。強いものが残り、弱いものが消える。当然、多くのものが、都会の豊かさに憧れたが夢破れている。

 しかし、料理人諸君、あなたは富を得んと都会に向かったのだろうか?あるいはどこへ向かうのか?あなたはなんのために人間の命を預かる食を作る仕事についたのだろうか?そして、料理人という役割の大切なことを忘れてはいないだろうか?
 市場が拡大していた時、売上を上げて、儲けることがみんなの目標だった。財を成すことが美徳と信じてきた。だから売れそうなものから発想した。
しかし、圧倒的多数が求めた便利さや快適さは、豊かな国になることを命題としてきた高度成長期の日本の社会の大義名分だったんだ。それは、料理人とまったく関係のないものだ。
いまこそ、このみんなが信じてやまなかった嘘に目を向ける時代なのではないだろうか?
人間はその与えられた宿命や価値観により、人生において求めるものはいろいろあっていいはずだ。財を成すことだけが人間の幸せではない。
 それに、私たちは十分豊かであることを忘れてはいけない。世界を見渡せば、生活習慣病なんていうのは異常なことで、十分な食にありつけすらできない人のほうがが多いのだ。
 欲望は飽くことがない。例え、どんなに商売で成功したとしても、欲望は飽くことがない。そして、自分の欲を追及することからは、心の豊かさを得ることはない。
先般も申し上げたこのフレーズをもう一度思い出して欲しい。



 自分の宿命を理解し、自分の与えられた縁を大切にし、その役割を果たすことは、きっとあなたの幸せにつながるだろう。そして、料理人はもっとも可能性のある職業なのだ。

 「料理人よ、故郷へ帰れ!」
これは、故フェルナン・ポワンさんが言った言葉だ。ポワンさんは第二次大戦前後の偉人を結ぶ料理人の神様的存在で、フランスのヴィエンヌにあるレストラン「ル・ピラミッド」で腕を振るったオーナーシェフだ。ボキューズさんはそのポワンさんの一番弟子だそうだ。
レストランには、強い信念さえあれば故郷の人を十分に幸せにできる能力と資格がある。大切なのはあなたがあなたの与えられた役割をどうとらえるかだけなのだ。
あなたさえ、自愛を捨て謙虚になり、あなたをここまで育て上げてくれた故郷やそこに住む人に感謝し、その人々のために料理を作り、労を尽くせば、あなたは偉大なる一歩を歩みだせる。

 あなたが、これまで学び、触れ合い、たどり着いた確固たる悟り、それを基点にすべきだ。世の中の流行など関係ない。あなたがあなたの信じる価値観で現在のあなたに育て上げた地域の人のために料理を作るんだ。そして、あなたの故郷への思い、人生観、哲学やこだわりを店のすべてにこめよう。そして、力強く、あなたの故郷へ人を呼び、故郷を豊かにするのだ。
あなたの故郷をあなたのレストランで知ってもらうのだ!普及が終わった今、レストランは力強い存在になれるのだ!
「料理人よ、故郷へ帰れ!」





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Last updated  2014.11.19 17:26:34


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