小説を書こう!

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2005.01.04
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 私は返事はしなかった。ただ黙ってドアの外に意識を集中した。
「ちょっと話し合いたいんだ…。このドアを開けてくれないか?」
 父と私との間にしばらく沈黙が続く。私はその沈黙に耐えた。その沈黙に初めに耐えられなくなったのはやはり父だった。
「これからどうするつもりだ?」
 いつも決まって、父はこの言葉を吐くのだ。いつだって、「これからはどうするつもりだ?」だ。私を見ようとはしてくれないんだ。いつだって、未来だけを気にするだけなんだ。今を、今目の前にいる私自身を見ようとはしてくれないんだ…。
 心の中で、このような想いがわきおこる。だけどその想いが私の口を通して、言葉として形を得ることはない。いつも思うだけ…。
「聞こえているのか? …これからどうするつもりだ? このままじゃダメだって、おまえ自身だって分かっているんだろう」
 分かっているさ…。
 痛々しいくらい分かっているさ…。
 空気が掠れるくらいの小さな音で、ポツンと言った。当然、ドアの外の父には届かない。こんな小さな声では、すぐ隣にいる人だって聞こえやしない。
「なあ、何でもいいから、しゃべってくれないか?」
 その日の父は、少ししつこかった。もしかしたら母に、「絶対に何とかして!」と強く言われているのかもしれない。
「おい…。聞こえているのかって、聞いているんだよ」
 次第に私は、父の声が鬱陶しくなってきた。
「うるさい…。黙れ…」小さい、消え入るような私の声。
「え? 何て言ったんだ?」
「うるさい。黙れ」
 私の口からは、刺刺しい言葉がこぼれた。この言葉は私自身の心を傷付けて、そしてそれをぶつけられた父の心も傷つけてそしてどこかに消えていったのかもしれない、と、ふと思ったりした。
「結局、こんなことを続けて困るのはおまえ自身なんだぞ」
「分かってるさ…。痛いほど分かってるさ…」
 今度は、空気の掠れだけでなく言葉としてその思いは発せられた。
「分かっているなら、何らかの行動に移したらどうなんだ。このままじゃダメだって、おまえ自身も分かってるんだろ? 本当にこれからはどうするつもりだ?」
 まただ…。また、「これからはどうするつもりだ?」だ…。結局、自分のことを心配しているだけなんだ。未来も私みたいな人間を扶養しなければならなくなることを心配しているだけなんだ。私は絶望しながら、ドアを凝視し続けた。
「おい、何か言ったらどうだ?」
 私はもう再び口を開けることは無かった。ただドアを鋭い眼で凝視し続けるだけだった。
 父は、数回「何か言ったらどうだ?」を繰り返した後、それでも一言もしゃべらない私からこれ以上何かを聞くのを諦めた。数十秒黙って私の部屋のドアの前に立ち尽くした後、ドアを離れて階段を降りていった。
 その足音が私から離れていく。その事実に接して、突然私は、自分が見捨てられたような気持ちに襲われた。もう取り返しはつかないんだ、と思った。そんな圧倒的な見捨てられ感に発狂しそうなほどの恐怖を感じた。心の中で強く、救いを求めた。
「助けてよ…」
 どんどん遠ざかっていく父の足音。
「オレをここから救ってよ…」
 だけどあまりにもその声は小さかったので、階段の父に届く事は無かった。いつだってそうだった。心の中で救いを求め続けたとしても、それを外に出す方法が分からなかった。






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Last updated  2009.01.12 11:20:00


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