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家を持たない秋がふかうなるばかり 山頭火霜月晦日。テレビを見ていると京都の錦秋を映したり、北海道の冬景色を映したりと、この時季は秋と冬が同居していて、眺めている分には誠に興深いことです。(停電にて難儀を強いられている方々のご苦労は推察申し上げます。)行乞途上の山頭火は、晩秋と初冬の風情には句心を刺激されて多くの句を残していますが、それでもその時季はまた憂いでもありました。精神の束縛から解放されるためには、物質の保護を放棄しなければならないわけで、それがこの時季はせつなくもつらくなるのです。住む家はむろん、ときに一夜の木賃代すら事欠く行乞旅は、風景同様に眺めている分には興深いのですが、極端な言い方をすれば生命の危険を覚えるほどの大難儀の側面を有しておりました。「行乞流転のはかなさであり独善孤調のわびしさである。」句集のあとがきでそう綴る山頭火です。達観というか潔いというか・・・つまり「わびしさ」と書いてさほどにわびしさを感じないあたりに、世の山頭火好きはしびれるほどに感じ入るわけすね(^^)一銭も無くとも、貧乏臭や生活苦が出てこないことがなによりだと思います♪そして付け加えれば、山頭火の最大の魅力は、どんな時でも句をつくり続けた、ということでしょうか。だから山頭火の俳句は飽きません(笑)それをして山頭火自ら曰く『春夏秋冬あしたもよろしゆうべもよろし』とね♪蛇足ながら、興味をもたれた方は合わせて山頭火日記を持ったなら、きっと外を読む暇はないはずです(笑)とはいえ!明日から師も走るという暮れ。不肖私も走らねばならず(汗)、しばし山頭火は書架の飾りになりましょう。師走を前に、山頭火を想い、しみじみ「せめて今宵は上宿に恵まれますことを」と祈ってみました(^人^)
2012.11.30
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銀杏の木額と見ゆるところより光の如く四方に葉の散る 与謝野晶子寺田寅彦先生は、イチョウの木々が風もないのに、突然、申し合わせたかのように黄金色の葉を一斉に降らせた事の驚きを書き残しています。『何かしら目に見えぬ怪物が木々を揺さぶりでもしているか、あるいはどこかでスウィッチを切って電磁石から鉄製の黄葉をいっせいに落下させたとでもいったような感じがするのであった』似たような表現は散見するのですが、残念ながら私はいまだその「突然」にめぐり合ってはおりません。誰の文章かは失念しましたが『音を立てるように』という表現もありました。もの凄くそそられますぅ~そういうことで、今年は近所の銀杏の木を注視していたのですが、その日「時すでに遅し」でしたぁ。残念無念!思うに・・寺田先生が大自然の摂理を見たのはその晩年のことですから、長い間学究の徒として精進を尽くした応報の、つまりは自然界からのご褒美であったのかもしれません。ならば道半ばの我が身には、いまだ因に達しておらずということでしょう(汗)さすれば、ここは功徳を積んで、来年こそは寺田先生の様に「突然」のご褒美にあやかりたいと思うのでした。そうそう、物の本によると銀杏の実である「ギンナン」は食べ過ぎると中毒を起こすそうです。それもまた、大自然の摂理なのでしょうね。皆様、ご注意を♪銀杏(ギンナン)が落ちたる後の風の音 中村汀女
2012.11.29
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【車谷長吉(ちょうきつ)/赤目四十八瀧心中未遂】◆生への執着は、性への執着でもあるのかこの小説を読んだきっかけは、10年ぐらい前に友人が勧めてくれたことによる。当時、私もまだ若かったから、この狂信的な暗さに閉口してしまったが、今改めて読み直してみると、とてつもないリアリティに驚きを隠せず、つくづくその完成度の高さに舌を巻いてしまうのだ。無論、この作品で直木賞を受賞している。車谷長吉は私小説を書く作家として、内容的にも話題を呼んだが、最近は私小説家としての看板をすっかり下ろしてしまったようだ。残念。(ウィキペディア参照)車谷の作品を読むことでいつも感じるのは、生きるという行為は決して生半可なことではないということだ。慶応大卒の肩書きがありながらも、サラリーマン生活を辞めたあたりから徐々に傾き始めていく。自分自身に対する信頼を失いつつあった車谷は、半分ヤケっぱちになっていたのか、底辺へ底辺へと没入していく。浮浪者一歩手前のところでどうにか食いつないでいく状況は、ほとんど惰性で、自己実現からはほど遠い。せめて親元に身を寄せているならば食うことには困らないし、社会との接点を持たず、引きこもっていられるではないか。では一体何をどうしたいのか。サラリーマンを辞め、友人たちとの付き合いを断ち、親とも連絡を取らず、たった一人孤独の闇をさまよい、たどりついたのが尼崎だったのだ。主人公の生島は、汚い老朽木造アパートの一室で、焼き鳥用の臓物を切り刻み、串刺しにする仕事にありついた。世話をしてくれた女主人は、堅気の生島が一体どうしてこんな場末の吹き溜まりのようなところへ流れて来たのか不思議に思っている。その一方で、気安さから、自分が進駐軍相手の売春婦だったことを打ち明ける。生島は、この女主人のところへよく来る“アヤちゃん”と呼ばれる在日の女のことが気になって仕方がない。それはもう見ずにはいられない美貌の持ち主で、体じゅうから色気が漂っているのだった。内容は、主人公・生島が尼崎にたどりつき、“アヤちゃん”と出会い、この“アヤちゃん”という女がどういう女なのかもよく知らないうちに、その妖艶な美しさの虜となり、貪るように交わるまでを陰湿なまでに生々しく綴っている。将来に対してろくに夢や希望もない男が、死ぬことさえ叶わず、とりあえず生きているだけのその日暮らしの中に見出した一筋の光。それは、神や仏などではなく、惚れた女の肉体を得る悦びだった。この刹那的な交合に、どうしようもない孤独と絶望を感じてしまうのは、私だけであろうか?作中、著者が己の気持ちを赤裸々に語る。「私が私であることが不快であった。私を私たらしめているものへの憎悪、これはまるで他人との確執に似ていた」「私は私が私であることに堪えがたいものを感じた」とにかく自分自身がキライなのだろう、この著者は。10年前の私は、この小説に嫌悪さえ抱いていたが、今は全く平気だ。私は今の自分が好きだから、この主人公に対して半分同情さえ寄せられるほどの余裕もある。年月というものは、人を大人にしてくれるのだ(笑)上っ面な恋愛小説に拒絶反応を起こす、本格的な読書家の方におすすめしたい作品だ。 『赤目四十八瀧心中未遂』車谷長吉・著☆次回(読書案内No.21)は松尾スズキの『クワイエットルームにようこそ』を予定しています。~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?■No.14山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く■No.15佐藤春夫/この三つのもの細君譲渡事件の真相が語られる■No.16角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く■No.17室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛■No.18織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話■No.19谷崎潤一郎/痴人の愛 この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士。◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る!
2012.11.28
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【谷崎潤一郎/痴人の愛】◆この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士、大谷崎。友人がおもしろいことを言った。「谷崎の作品を好むのは、ある種の宗教だ」と。なるほど、さしあたり私などは谷崎教の信者だろう。谷崎潤一郎の小説は何冊か読んで、その中でも群を抜いているのが『細雪』だ。毎日出版賞も受賞している。長編であるにもかかわらず、何度も読み返してしまうほど、私にとってのお気に入りだ。だが谷崎の作品に限って言えば、『卍』『鍵』『瘋癲老人日記』のような、妖艶にして異常な性を描く世界観さえじっくり堪能することに、いささかの迷いもない。推理作家・江戸川乱歩も私と同様、谷崎教の信者(?)で、谷崎作品を愛読して止まなかったそうだ。売れっ子となった乱歩は、どうにかして谷崎との対談を実現させたいと骨を折り、やっとアポを取り付けたのであろう。そのへんの経緯が谷崎の書簡に残っているようだ。ところがこの対談は中止となる。お互いの健康上の都合によるものだが、乱歩が亡くなってまもなく谷崎も逝去している。今となっては残念で仕方がない。当時の売れっ子作家同士の顔合わせが叶わなかったのだから。さて、『痴人の愛』について。この小説に登場する毒婦・ナオミこそ、谷崎夫人の実妹・せい子をモデルにしたものだ。このせい子は、数え年15歳で谷崎と同衾している。西洋人とのハーフのような容姿に恵まれ、手足が白くてほっそりとし、大谷崎を魅了した。その代わり料理なんか作らないし、洗濯なんかもってのほか。家事一切は女中のする仕事として、ナオミ自身は谷崎に足を舐めさせたり、風呂場で自分の身体を隅々まで洗わせている。まるで谷崎を下僕のように扱っているからスゴイ女だ。終いにはナオミの鼻水まで谷崎が拭いてやっているし。ナオミが「あれが欲しい、これが欲しい」と言うに任せて、三越や白木屋(今の東急百貨店)などに連れて行き、買い物を存分にさせている。一体こんな女のどこがいいんだ?!と呆れ果てて、本を放り投げてしまう者もいるかもしれない。だがそんなことをしたら読者の負けである。逆に読んでいるうちに益々谷崎の異常なフェチに共鳴できたら勝ちというわけだ。一方この時期、谷崎夫人・千代は貞淑な妻でありながら、その生真面目さを夫から煙たがられ、邪険にされていた。酷い時は、谷崎がステッキで千代を殴りつけるなどして暴力に及んでいる。思い余った千代は、谷崎の親友・佐藤春夫に相談するのだ。こうして谷崎の身辺では、後世に残るドラマが生まれるのだ。谷崎潤一郎の小説は、どれもブルジョワ的でしみったれたところがない。倫理を重んじていないし、道徳的なことなどこれっぽっちも書かれていない。だから戦前、戦中は軍部の弾圧で、幾度となく苦汁をなめたに違いない。(新聞の連載小説の中断も、そこらへんの事情が大きい)あるいは一部の主義・主張にこだわるプロレタリア派から非難も受けた。だが大谷崎はそんなことをものともせず、我が道をゆく精神を貫いた。そんな谷崎潤一郎こそ、日本の誇る最高の文士であり、この人物の右に出る者は、今後現れることはないだろう。『痴人の愛』谷崎潤一郎・著☆次回(読書案内No.20)は車谷長吉の『赤目四十八瀧心中未遂』を予定しています。~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?■No.14山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く■No.15佐藤春夫/この三つのもの細君譲渡事件の真相が語られる■No.16角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く■No.17室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛■No.18織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る!
2012.11.24
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【織田作之助/夫婦善哉】◆大阪を舞台にした男と女の人情話この作品の著者である織田作之助のスゴイところは、作風が戦後の混沌とした世の中を生きる力強い庶民の姿を描いているように錯覚してしまうのだが、実は戦前に執筆したものだということだ。つまり、戦前の小説にありがちな主義・主張に囚われた、プロレタリア的なニオイが微塵も感じられず、至って健全な純文学なのだ。この理由は、文庫本の巻末の解説によって納得できる。「敗戦による、それまでの“聖戦”が“侵略戦争”と塗り替えられる時代の到来によって、戸惑わねばならない知識人が多かったなかで、作之助は、自分を変える必要が、いささかもなかったのだ」大阪人特有の商売気質と、底知れぬ生活力を表現するというのは、当時の文壇にあって、どんなスタンスだったのか? 革命とか変革を口にするインテリからは、黙殺されていたのではなかろうか?そんな中、作之助の『夫婦善哉』には、やたら金額の記述が目につく。“弁当自弁の月給二十五円”“朋輩へ二円、三円と小銭を貸す”“月謝五円で弟子入り”・・・一体ここまで明記するのはなぜか? それは、「あいまいな思想や信ずるに足りない体系に代るものとして、これだけは信ずるに足る具体性」とのこと。さすがである。一銭の天ぷらを揚げて商売している種吉夫婦はずいぶんと貧乏だったので、娘の蝶子を女中奉公に出すが、その後、本人の意思で芸者にさせる。その蝶子に入れあげたのは、すでに妻子持ちの化粧品問屋の息子・柳吉。この蝶子と柳吉のドタバタ転職生活を綴っている。短編小説なので、何度となく読み返してみたが、なんでこんなボンクラ亭主がいいんだろうか?と、つくづく首を傾げてしまう。だが、世の中こういうカップルは多い。美女と野獣、インテリと無知、そんな凸凹コンピがわりと上手くいったりする例はよく聞く。惚れたはれたの世界は、それほど簡単に割り切れるものではなく、最後のところは情によるものだろう。その男と女の互いに対する情を表現した作品、それが『夫婦善哉』ともいえる。正義だけを前面に押し出した文学に、鼻白む思いをするのはよくあることだが、幸い、織田作品にそれは見受けられない。『夫婦善哉』は、大阪をこよなく愛する大阪人による、伝統的な人情小説といって差し支えないだろう。『夫婦善哉』織田作之助・著◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆《追記》 2012/11/29時節柄でもあり、作者の豊かな情感から出る繊細な一面が表れていると思い、以下に書き加える。「秋という字の下に心をつけて、愁と読ませるのは、誰がそうしたのか、いみじくも考えたと思う」 「秋の暈」から◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆☆次回(読書案内No.19)は谷崎潤一郎の『痴人の愛』を予定しています。~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?■No.14山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く■No.15佐藤春夫/この三つのもの細君譲渡事件の真相が語られる■No.16角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く■No.17室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る!
2012.11.21
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わが友のいのちをはりしこの村の公孫樹はすでに落ちつくしたり 斉藤茂吉落葉は無常観を募ります。我が街の公孫樹(いちょう)はいまだ落ちつくしてはいませんが、言霊をおびた茂吉の歌は風景を変えてみせました。初冬の陽を浴び、黄金色に輝く公孫樹葉に無常の極みを見た気がしました。
2012.11.20
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人よりも一尺高くから物事をみれば、道はつねに幾通りもある。 司馬遼太郎:竜馬がゆく ~夕月夜~中岡慎太郎は決死の形相をもって竜馬に詰めよりました。「竜馬、言うちょくが幕府は砲煙のなかで倒す以外にないぞ。」竜馬はかく語ります。「しかない、というものは世にない。人よりも一尺高くから物事をみれば、道はつねに幾通りもある。」まずもって竜馬は議論をよしとしません。なぜなら議論は、幕末の混沌とした時期に、その大方は目的を失い、議論のための議論となっていると見ていたからです。つまりは時間が押し迫り(未来から見てるとね♪)待ったなしの竜馬には、議論に費やすいとまなど無かったわけです。そしてまた議論は、幕末の熱い輩をいっそう熱くするものであることを竜馬は見抜いておりました。竜馬は、ふっかけられた議論を上手にはぐらかしていたことでしょう。そういう背景の中で竜馬の言葉が冴え渡ります!人よりも一尺高くから物事をみれば、道はつねに幾通りもある。これは真理です。したがって神仏にはそっぽをむく竜馬ですが、竜馬の宗教観のようなものを見て取れます。また、勉学熱心と言うには程遠い竜馬ですが、竜馬の学問(実学を言う)の結集が見て取れるのです。心居つくことなく、物事を全面的に多面的に全体的にとらえて万策を導き出す。この真理は、竜馬が人生実学から得た、実行的かつ実際的な崇高な理念(哲学)だと思います。それが証拠に、実践(実行的かつ実際的)に即していたからこそ、薩長同盟の締結も大政奉還の成功も相成ったということでしょう。言うなれば、明治維新はこの理念の基に成った、そう言っても過言ではありますまい!だから我々は、事ここに臨むに至ったときは、竜馬の言葉を思い出し、『しかない、というものは世にない』→心そこに居つくことなく(心冷静に)『一尺高くから物事をみ』→物事を全面的多面的全体的にとらえ『道はつねに幾通りもある』→あらゆる方法を考え出す。竜馬を想い、これを常に心がけたいと思うのであります(^^)v世の中は騒々しいのですが、センセイといわれる方々は「心居つくことなく物事を全面的多面的全体的にとらえあらゆる方法を考え」お臨みくださいませ。夏目漱石曰く『いずくんぞ知らん、門外に一天開くを』と、貧弱な天井に固執せず、その先にある無限の青空をご覧なさいな♪※「竜馬、かく語りき。其之壱」はコチラから。
2012.11.19
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【室生犀星/杏っ子】◆愛娘に対する限りない情愛室生犀星という人は、主に詩人として活躍した人物だと記憶していた。だが意外にも『杏っ子』は、犀星の作品中、最も長い小説であることを知り、どれ、ひとつ読んでみようかと、わりと最近になって読了したものだ。この小説はいわゆる自伝小説で、ちゃんと実名で登場したりするのでわくわくしてしまった。犀星の生い立ちなどを読んでみると、本当にお気の毒としか言い様がない。それはもう辛酸と苦杯を舐めた幼少期で、よくぞ文士としてこれだけの地位を築くことが出来たと、賞賛したくなってしまうほどだ。私生児として育てられたせいなのか、あたたかな家庭への憧憬が強く、実に家族思いで、文章にも自然と健全な精神がたゆたゆと流れている。長女・杏子に対しては特に甘く、中古とはいえドイツ製のピアノを買い与えるくだりは、なんとなく微笑ましい気さえする。作中、何度となく読み返してしまったのは、関東大震災でそこらじゅうの商店が品不足の時、親友の芥川龍之介が出し抜けに「君、汁粉を食おう」と言い出すシーンだ。犀星は「汁粉なんてあるのかね」と、首を傾げながらも一緒に汁粉屋に行く。案の定、汁粉なんてあれだけの混乱の最中にあるわけがないのだが、なんとなく笑える。そうか、芥川は甘い物が好きなのかと、ここで初めて私は知った。他にも私のツボにはまった箇所がある。それは、犀星が震災後、しばらく故郷の金沢に引き上げようとし、それまでの住まいを菊池寛に貸そうかという段取りを芥川と話すシーンだ。「それから菊池が明日にも君の所に行く筈だが、家を見せてもらってから気に入ったら借りるそうだ」「狭すぎないか」「そういう点は無頓着な男だよ」なんだか錚々たる文士たちの付き合いが目に浮かぶようで、私にしてみたら感動モノなのだ。そうそう、他にも気に入ったところがあるから紹介しておく。それは、愛娘の杏子が自転車に轢かれて、瞼の上を二針縫い、翌々日、幼稚園を休む際のシーンだ。芥川の次男坊を連れた芥川夫人が登園の誘いに来て、犀星夫人と会話する。「おあとがのこらないでしょうか」「二針縫ったんですが・・・」大人たちの会話の傍らで、幼稚園同士の杏子と芥川の次男坊が何やら他愛もないおしゃべりをしている。この場面が、それはもうグッと来る。なんとも言えない柔和な雰囲気が、犀星の自然体の文章からふわふわと湧き上がるかのようだ。小説というものは、必ずしも作家の頭の中でちょこちょこっとこしらえたものの方が良いとは限らない。それが事実に基づくものであっても、そこに限りない真実と苦悩を見出した時、読者は思いがけず、新鮮さと高揚感を覚えることだろう。文学とは他者との共鳴により、意義とか意味が生まれるものだと思うからだ。『杏っ子』は自伝小説だが、きっと長く愛され続けていく作品だと思う。親子という目に見えない血の絆が、実は何よりも尊い情愛であることを物語っている。溢れんばかりの優しさと切なさに富んだ作品だ。『杏っ子』室生犀星・著☆次回(読書案内No.18)は織田作之助の『夫婦善哉』を予定しています。~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?■No.14山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く■No.15佐藤春夫/この三つのもの細君譲渡事件の真相が語られる■No.16角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る!
2012.11.17
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竜馬、かく語りき。人の運命は九割は自分の不明による罪である。 司馬遼太郎:竜馬がゆく ~秘密同盟~慶応三年十一月十五日、竜馬は京都の近江屋で賊に遭難し命を落としました(-人-)ちなみに生まれも十一月十五日(天保六年)、幕末の大立者は生没にも異彩を放っています。藤堂平助を評じた竜馬は人生論を語ります。相手は三吉慎蔵。これは竜馬の行動指針に他ありません。つまりはどう生きるのか(生き方)ということです。「九割は自分の不明」とは、己の采配(責任)によるもの、ということでしょう。竜馬の胆力(=覚悟)を知るものです。また、まんじゅう屋長次郎にはこう諭しています。男は、喧嘩をするときには断乎喧嘩をするという大勇猛心をもっておらねばならぬ。又曰く男はどんなくだならぬ事ででも死ねるという自信があってこそ大事をなしとげられるものだ。 司馬遼太郎:竜馬がゆく ~三都往来~薩長同盟も大政奉還も、すべてはこの覚悟があったからこそ成し遂げられた、そう思います。この故に、我々が竜馬を想う時は、『何事であれ覚悟を持ち、すべてを自分の責任と心得て臨むべし』そう心に誓わねばならぬと思うのです。ときに昨今、大先生方の間では「生命をかけ・・」は常套句。命も薄っぺらなモノに成り下がったわけですねぇ(汗)とはいえ、そういう御仁に限って何かと竜馬を引き合いに出す始末です、嗚呼(涙)願わくは、覚悟のない大先生方に竜馬をひいてほしくはない、そう思うのであります。全国の竜馬ファンを代表し、心よりお願い申し上げ奉りまするぅm(_ _)m竜馬に衷心の合掌(-人-)を捧げ、大先生には真正の言葉(^o^)を捧げます!『正直にやることだ、誠実に。』 司馬遼太郎:竜馬がゆく ~横笛丸~もちろん我が自戒をこめての事ですよん(^^)v
2012.11.15
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【角田光代/幸福な遊戯】◆男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く早大文学部卒の角田光代は、もともとジュニア小説を手掛けていて、異なる筆名でコバルト新人賞の受賞歴もある。さすがだと思うのは、直木賞作家となった今も、ティーンを対象にした当時の、新鮮で瑞々しい感性が失われていないということだ。デビュー作である『幸福な遊戯』は、既成の男女のあり方に囚われない、不思議な関係を綴った短編小説である。男二人と女一人の奇妙な同居生活から生じる、友情や恋愛とも異質の感情に翻弄される人間模様。思うに、主人公・サトコのあまり恵まれなかった家庭環境に原因があるようだ。人は結局のところ、親から無償の愛を与えられて初めて自分も同じように誰かを愛することが出来る生きものなのだ。とすると、ろくに親の愛情を知らないで育った者は、人の愛し方も知らない、ということになってしまう。全てが全て、それにはあてはまらないだろうけど、少なくてもこの作品の主人公は、そういうタイプみたいだ。親から与えられることのなかった家族愛みたいなものと、好きな男の子に対する恋心と、平和的な友情を全部ごちゃまぜにして、同居人のハルオや立人にそういう感情を押し付け、あるいは求めてしまったのだ。印象的なのは、サトコにとって唯一信頼のできる家族である姉(すでに他家へ嫁いでいる)のセリフだ。「人が持って生まれた運命の糸って、生まれた時からぐちゃぐちゃによじれているんだと思うの。だけどそれは、成長していくうちに、自分の手で真直ぐにできるもんなのよ。ほら、毛糸が絡まった時と同じ、焦らずいらつかず、丁寧にだまをほぐして、自分の糸を真直ぐ伸ばしていくの」余談だが私自身、過去には様々な苦しいこと辛いことがあった。それはもう、他人様には易々とは言えないほどのことだ。でも不思議にも、目には見えないいろんな力によって助けられ、一つ一つクリアして来た。そのことで、明日を生きる自分に自信を持つことができ、今の自分を好きになることができた。「成長していくうちに、自分の手で真直ぐにできる」ということは、実は、こういうことなのでは?と思うのだ。20年前に『幸福な遊戯』を読んだ時、なんの感想も持たなかった私が、今はこうしてしみじみと再読できる余裕を持ち合わせている。人が唯一神から平等に与えられたものは、この時間という優しい経過なのだと思った。『幸福な遊戯』角田光代・著~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?■No.14山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く■No.15佐藤春夫/この三つのもの 細君譲渡事件の真相が語られる◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る!
2012.11.14
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今日も今日とて江畔翁を読んでいます。冬の読書は詩に限ります(^^)米寿米寿だなんと云うて赤い頭巾を被らされて厚い座布団に座らせる者もあるここには又米寿の頭に鉢巻をして毎日々々鍬の柄に汗をしたたらしている者もある蒼い空人間 関口江畔「仏の道を日常の生活の中に取り入れ日と共に起きいでては土を耕し、月に脚をのべては詩を作り句を吟ずる。」荻原井泉水は江畔翁をそう評したそうです。なるほど、詩がすべてを物語ります。今風に言ったら『達人』とでもいうのでしょうか。(ちょっと薄っぺらいなぁ)具体的に「何が」「どうの」というわけではありませんが、もうとうていかなわないなぁ(汗)、詩を読んでそう思います。つまりは・・・次元が違う、そういったところでしょうか。ときに関口江畔と山頭火。非なるようではあるけれど、これが似ている!まず執著から離れている。そして達観を得ている。これは物の捕らえ方の問題で、物事を全体的全面的に眺めているということ。つまり「すべてをわかっている人」だということ。この二点で関口江畔と山頭火は同等であるという思いに至りました(^^)また、ご両人を比較しながら思いました。枝葉末節でなく、本質が何かを問う、それこそが真理を見るものであると。我もまた達観せり、なんてね(笑)~関口江畔~ その他■ 《前進》■ 《八十八年の人生》■ 《真理》■ 《俺は静かに》■ 《真赤の落日》■ 《法悦》■ 《己に克ちて》■ 《雲のように》
2012.11.13
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旅遠い旅空をとぼとぼと見えられるものを見聞かれるものをきき何なりと一心不乱に受けいれて行かれるところまでとぼとぼと 関口江畔秋風行きたい方へ行けるところまで 山頭火昭和十一年、山頭火は旅の途中で関口江畔を訪ねました。二人は雑誌「層雲」のよしみであり、山頭火は江畔翁の人がらにふれ長旅の疲れを癒しました。「江畔老の家庭はまた何というなごやかさであらう、父草君が是非々々といつて按摩をしてくださる。」「江畔老から牧水の事をいろいろ聞く。うれしくあたたかくやすらけく寝たり起きたり、我がままをさせていただく。」逢つて何より お蕎麦のうまさは 山頭火「さようなら、ほんたうに関口一家は親切な温和な方々ばかりであつた、羨ましい家庭であつた。」鼻の頭へ 重そうな眼鏡でござつた。 関口江畔そして山頭火はまた旅人となりました。後日譚ですが・・・江畔翁の厚遇に気をよくした山頭火は、この後ルンペンに出会いビールとビフテキをご馳走しています!誠に豪気の限り(笑)。ルンペン相手に人生訓を垂れ、おまけに別れ際には励ましの言葉をなげる山頭火。傍で見たらどちらがどちらかわからないようなていで、想像すると苦笑を禁じえません、プッ(^^)~関口江畔~ その他■ 《前進》■ 《八十八年の人生》■ 《真理》■ 《俺は静かに》■ 《真赤の落日》■ 《法悦》■ 《己に克ちて》■ 《雲のように》
2012.11.12
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【THE LAST MESSAGE 海猿】「海上保安官の奥さんだもん。彼にもしものことがあっても、あの子は私が守る。私がちゃんと育てて、何があっても一人で生きていけるような子にしてみせる。でもね・・・私のことは誰が守ってくれるの? もし大輔君がいなくなっちゃったら私どうしたらいい?(中略)大輔君がいなきゃダメなの!」『海猿』シリーズも3作目ともなると、なんとなくストーリー展開の予測がつき、安心して見ていられるようになる。予告では、よもや主人公の殉職か?!と、ハラハラさせられたけれども、途中の流れからハッピーエンドの結末がチラつき始める。邦画の特徴的なパターンとして、シリーズものは後味スッキリの爽快感がなくてはならない。それは例えば、水戸黄門の印籠や、寅さんの失恋みたいなものかもしれない。『海猿』においては、必死の救出劇と主人公の生還によって締めくくらなくては、この作品が成り立たない、とでも言ってしまおう(笑)主人公の仙崎大輔を演じるのは、前作までと同様の伊藤英明だ。この役者さんは、ジュノン・ボーイコンテストで準グランプリを受賞し、芸能界入りを果たしている。この作品では、精悍な海上保安本部の救難士として活躍しているが、実際の伊藤は、幼少期に内臓の疾患を抱えており、役所から障害者手帳を交付されていたほど深刻な状態だったようだ。(ウィキペディア参照)そういう背景のある役者さんなだけに、演技は体当たりの姿勢が見受けられ、見ていて清々しい。無論、作品は興行的にも大成功を収めている。国家プロジェクトとして建設された天然ガスプラント施設レガリアで、大規模事故が発生。また、運悪く大型台風が接近していた。福岡沖にあるレガリアまで、仙崎は吉岡らとともに救出に向かう。火災が酷くなる一方、レガリア設計者である桜木が、レガリアへのプライドと未練から脱出せず、結果的に取り残されてしまうはめに。また、救難士である仙崎、新人の服部、作業員の木嶋、レガリアの常駐医である西沢も、台風の通過を前に施設内に取り残されてしまうのだった。作品のタイトルからして完結編になるかと思いきや、そうではなかった(笑)皆さんご存知のとおり、今年、シリーズ4作目が公開されたのは記憶にも新しい。3作目の『LAST MASSAGE』は、世の女性にはかなり高い評価を受けたのではなかろうか。 仙崎が人並み以上の良きパパであり、愛妻家でサービス精神旺盛で、それでいて仕事ぶりも申し分ない。後輩育成にも余念がなく、皆から慕われ、正にパーフェクトなナイス・ガイなわけだ。(それでも役の上で、ちょっと教養が不足しているのはご愛嬌)「こんな人が私を守ってくれたらいいなぁ」と、目をハートにして鑑賞していた女性は多いはず。共働きで無気力亭主と子育てに追われている世の女性に夢を与えてくれる、血と汗と涙の感動ドラマなのだ。2010年公開【監督】羽住英一郎【出演】伊藤英明、加藤あい、佐藤隆太また見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)
2012.11.11
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【佐藤春夫/この三つのもの】◆細君譲渡事件の真相が語られるさんま、さんま、さんま苦いか塩つぱいか、そが上に熱き涙をしたたらせてさんまを食ふはいづこの里のならひぞや。あはれげにそは問はまほしくをかし。(「秋刀魚の歌」より抜粋)いつ頃このさんまのフレーズを覚えたのか、なぜか耳に残っている。この詩を作ったのが佐藤春夫だということも、恥ずかしながら最近知ったようなありさまで、よもや内容が佐藤本人と谷崎潤一郎と、その妻・千代との三角関係を憂えたものだなんて、知る由もない。私が読んだ小田原事件の顛末によると、まずは谷崎潤一郎の女性に対するおかしな嗜好から始まっているように思えて仕方がない。というのも、その作風からも分かるように(例えば『瘋癲老人日記』『鍵』『痴人の愛』など)、女性は型破りで、妙に気が強く、手足がほっそりとして美しくなければ存在する意味がないとでも思っている節が見受けられるのだ。だから谷崎の最初の妻・千代が、いくら家庭的で嫁としても申し分のない妻であろうとも、容姿があまりよろしくなく、ずんぐりした体型であっては、谷崎にとって幻滅だった。逆に、千代の妹・せい子なんかは女として妖艶で、谷崎を翻弄した。二人が深い関係になるまで、それほど長い時間はかからなかったに違いない。一方、佐藤も妻・香代子には泣かされた。谷崎とは逆で、香代子が佐藤の実弟・秋雄と深い関係になってしまったのだ。それだけに香代子は、まじめだけがとりえのような佐藤春夫に、男としての魅力を感じなかったのかもしれない。後に、佐藤はこの仕打ちに疲れ果て、香代子とは離別するが、谷崎の方の千代は女の身で簡単に離婚など出来るはずがない。そこには経済的な事情も絡むし、何より世間体というものがある。また谷崎も、せい子との再婚が叶いそうもないとなると、にわかに千代の存在を邪険に出来なくなる。どうやら千代と佐藤の間に、淡い恋心が芽生えているのを知ると、男としておもしろくない。(自分の不貞はさておき)結果、谷崎は佐藤と絶交。これがいわゆる小田原事件のあらましだ。この佐藤春夫という作家の、文士としてのプライドをかなぐり捨てた恋模様は、私小説というには余りにもドラマチック過ぎて、読む者を熱くさせる。どこまでも愛を貫く一途な男の姿は、偏屈な谷崎さえ折れずにはいられない。最終的に和解の方向へと傾いてゆくのだ。谷崎は佐藤の作家としての資質を高く評価し、また佐藤も谷崎に対する恩を忘れてはいなかった。不遇の身の佐藤を救ったのは、谷崎その人だったからだ。二人は長い年月をかけ、お互いを認め、理解し、漸く谷崎の離婚、そして佐藤と千代の結婚を果たす。(細君譲渡事件)佐藤が千代を恋する余り、谷崎との交友を絶ったのが29歳の時。やっと佐藤の誠実さが通じ、千代との結婚に踏み切ることが出来たのが38歳。実に、9年もの月日をかけた結果だ。この闘いは、佐藤のひたすらに恋焦がれるまじめさに、谷崎が負けたような形になるが、未完に終わる『この三つのもの』を手掛けた佐藤が、いかに谷崎を慕っていたかがよく分かる。愛情の苦悩と友情に生きる文士が書けなかった結末は、どちらが勝った負けたなんてどうでもいい。ただ、今ある我々が存在することの意義、意味こそが大切なのだと絶唱しているように思えてならない。重厚にしてリアリティに溢れたこの作品は、余りにも優れた純文学で、読了するのに切なさやら寂しさを伴う。未完で終わるのも、「まことの恋と友情と智恵の石と、この三つのもの」を限りなく尊んだ結果によるものだろう。『この三つのもの』佐藤春夫・著~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?■No.14山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る!
2012.11.10
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暦の上ではすでに、一昨日から冬ではありますが・・・柿くふも今年ばかりと思ひけり 正岡子規秋の締めくくりは寂しい一句。これは明治34年ですので、彼岸に至る前年の句。子規、最後の柿を詠むことになったのです。なんとなれば・・・子規の命日は明治35年の9月19日。したがってまだ柿の季節には早すぎます。何より、その最期は命の元なる「ヘチマの水」をも口にできぬほどに衰弱が激しかったようですから、いわんや消化の悪い柿をや。つまり、明治35年は柿を知らずに旅立ったわけですから、明治34年に詠んだ上句の通り、子規にとっては最後の柿となったわけなのです。食いしん坊の子規ですが、特に柿は好物中の大好物でした(^^)代表作の『柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺』の句は小学生でも知るほどに有名で(笑)、「柿の俳句」と呼ぶそうですから。子規に思いを馳せながら、声に出して句を読むと・・・最後の柿を、しみじみと食す子規をイメージするのに難くはなく、微苦笑がこみ上げ、やがてうら寂しさに全身を覆われるのです。そして季節は秋から冬にかわって行きました。《おまけ》友人の漱石も子規を意識してか柿はの句を多く詠んでいます。柿一つ枝に残りて烏哉 夏目漱石つまりは・・・柿はどこの家にもある安直な果物だったという事なのでしょうね。曰く、里古りて 柿の木持たぬ 家もなし 芭蕉
2012.11.09
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暦の上では昨日から冬ではありますが・・・快き秋の日和の匂ひかな 高浜虚子名残惜しいというか・・・立冬の昨日は好天に恵まれ、まさに天高き青空を拝する機会に恵まれました(^^)この青空をお蔵入りするには未練が残りそうで(笑)、暦の上ではもはや冬とはいえ、掲載させていただきましたm(_ _)mときに高浜虚子。子規大兄を知れば知るほど、このごろは何かと氏に目が行きます。そこでもう一句。ほのかなる空の匂ひや秋の空 高浜虚子本日掲載した二句は基本の基本といえるような俳句です。ともすると、物足りなさを覚えてしまうこの手の句なのですが、この二句は虚子兄の心を映しているように思え、読み手の心にストンとオチるのです。そしてそれが心地よく感じます♪冬の初日、虚子の俳句を味わいながら行く秋を惜しみました。それにしても、教科書に載せたくなるような俳句だなぁ~
2012.11.08
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【山の音/川端康成】◆戦後日本の中流家庭を描く川端康成という作家は稀にみるナショナリストで、こよなく日本を愛する文豪だ。ノーベル文学賞受賞作である『雪国』も、東北のひなびた温泉宿における芸者との淡い恋心を描いたものだし、『伊豆の踊子』も伊豆で出会った旅芸人の踊子に、苦悩を抱える旧制高校の男子が癒されていく話だ。この『山の音』でさえ、日本の「家」を舞台にした二世帯同居家族と、出戻りの娘に翻弄させられる父の姿があったりする。戦後、お茶の間を賑わせたホームドラマとは全く趣が違い、主人公の息子の嫁に対するほのかな恋心や、息子が浮気をしていることへの怒りなどを盛り込みながらも、老いへの恐れ、若さへの憧憬、生きることへの疲労感など、実に文学性の高い作品に仕上げられている。「家」という日本独特の家族のあり方から生じる苦悩は、おそらく西欧社会にはなかなか受け入れられにくいデリケートな問題なのではなかろうか?そんな中、川端康成は果敢に「日本」を描いていこうとする姿勢が窺える。それは孤高でさえあり、他の作家を寄せ付けない品格に溢れている。さて『山の音』だが、この小説はあまりにも有名で、様々な文芸評論家から高い評価を得ている。私自身、川端作品の中でこの小説が一番好きかもしれない。とりわけグッと来るのは、主人公が、息子の浮気に耐え忍ぶ健気な嫁に声をかけるところだ。「菊子は修一に別れたら、お茶の師匠にでもなろうかなんて、今日、友だちに会って考えたんだろう?」慈童の菊子はうなずいた。「別れても、お父さまのところにいて、お茶でもしてゆきたいと思いますわ」長年連れ添った古女房なんかより、長男の嫁の方が若いし綺麗だし、何より意地らしい。息子の浮気が原因で離婚してしまったら、そんな恋しい嫁とも別れて暮らすことになってしまうのかと思うと、内心、平常ではいられない。このあたりの心理描写は、さすが川端だ。嫁との関係はあくまでも潔癖なものだが、ほのかに漂う恋の調べが、耳もとで聴こえて来そうな気配なのだ。また、主人公の夢の中で、顔のない女を犯しかけるくだりは、一気に読ませる。本当なら嫁の菊子を愛したいのに、夢でさえ良心の呵責をごまかすため、顔のない女の乳房を触るのだから。『山の音』に関しては、皆が口を揃えて傑作と評価している。もちろん私も異論はない。 平成の世となった昨今、これほどの最高峰を登り詰める作家がどうも見当たらない。ぜひとも、何とかして、ポスト川端康成が登場してはくれまいか? 平成の川端を待ち望んでやまない、今日このごろなのだ。『山の音』川端康成・著~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人■No.13レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る!
2012.11.07
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引続き昭和十四年の山頭火です(^o^)秋の山山ひきずる地下足袋のやぶれ 山頭火思わず失笑。山頭火には申し訳ありませんが、破れた地下足袋を引きずりながら歩く山頭火の姿を想像するに難くはなく、失笑を禁じえませんでした。そういえば、この頃は地下足袋を見ないなぁ~若い方々に「地下足袋」と言ってもわからないだろうなぁ(汗)ときに難渋の山頭火は、でも救われます。「ゴム長靴の一方が捨てヽあるのを見つけた、それを裂いて足袋底に代用したので助かつた、求むるものは与へらるといふこと、必要は発明の母といふ語句を思ひだしたことである。」文字通り、捨てる神あれば拾う神あり、なのでありました(^^)vというか・・かつて観世音菩薩の句を詠んでいるから、神ではなく仏のご利益かもしれませんね(笑)昭和十四年秋空の元、今日も山頭火は行きます!
2012.11.06
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遍路日記よい宿が見つかってうれしかった。御飯前、一杯ひつかけずにはゐられないので数町も遠い酒店まで出かけた。酒好き酒飲みの心理は酒好き酒飲みでないと、たうてい解るまい。 昭和十四年秋秋の山道をゆく山頭火なのであります。ルンペン然として乞食然とした山頭火は、旅の先々で宿泊を断られること度々。悲嘆にくれながら野宿の運びとなることもあり、一見気楽に見える旅は、それはそれで「命がけ」でもあったわけです。だから程よい宿(それは主人のあたたかいもてなしと一灯、そして清潔な寝具にできれば入浴です)にめぐり合った時の喜びは、きっと我々が想像する以上のものであったと思います。さて、この夜はそんな上々の宿に宿泊できることに相成りましたが、いかんせん宿に酒は置いていないようで、荷をほどいた(というほどの荷ではありませんが・笑)後に山頭火は酒を求めて遠くまで出かけたわけであります。しかも、舌打ちのひとつもするわけではなく、イソイソと出かけるあたりが、山頭火の曰く「酒好き酒飲みの心理」なのでありましょう。出家得度と乞食旅であらかたを「無」にした山頭火も、酒だけは生涯「無」には出来ませんでした(笑)とはいえ、アルコールが嚢中の潤滑剤になってか(汗)、こうやって句が生まれてくるわけでもあり、痛し痒しのアルコールといった感じでしょうか。お山ののぼりくだり何かおとしたやうなこの句は現代人の我々には示唆的です。たくさん背負った荷物をそこいらへんに落とすことができれば、しかもそれが自然体であれば、もっとすばらしい人生となることなのでしょう(^^)
2012.11.05
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【ワイルド・スピードMEGA MAX】「レースやろうぜ」「本気か?」「ああ、賭けなしで、俺たちの最後の対決だ」「負けて泣くなよ」「お前こそ」公開されたのは2011年で、つい一年前の作品なのに、どういうわけかバブリーな雰囲気が作品全体からムンムン漂って来る。というのも、ドンパチ派出にやらかすのも然ることながら、名だたる車が次々と登場し、カーマニアを唸らせるしくみになっているからかもしれない。走る列車から盗み出したのが、シルバーのシボレーだったり、水色のポルシェがでーんと登場したり、日本人という設定らしい(?)ハンが、クールにレクサスを運転していたりする。また作中、アメ車の何年式だかクライスラーダッジが見事に潰され、こっぱみじんになったりするのを惜しげもなく披露しているのを見ると、いやはや世の中まだまだ捨てたもんじゃない、もしかして今って好景気? などと錯覚してしまうほどだ。生物学的なことから言えば、オスの本能を目覚めさせる仕上がりになっているとでも表現したら良いのか。例えば、クジャクのオスが、自分の羽を存分に広げて「おれってクールでしょ? イカすでしょ?」と、虚勢を張るのに似ているかもしれない(笑)そう考えると、カッコイイ車をスマートに乗りこなす、ちょっとやんちゃな男子は、実はオスとして本来あるべき姿なのかも。懲役25年の刑を言い渡されたドミニクは、護送中、元FBIのブライアンと妹ミアの手引きにより逃亡に成功。ブラジルのリオデジャネイロで、昔の仲間の宅に身を寄せることになった。今後、何かと金が必要となることから、急ぎの窃盗ではあったが、走る列車から伝説の名車三台を奪うことを計画し、実行。ところがその途中、仲間の裏切りにより、襲撃を受けるはめに。それはドミニクたちが盗んだ車の内部に隠された、マイクロチップにあった。チップには、リオの闇組織の帝王であるレイエスの秘密が記録されていたのだ。作品は、スピード狂にはたまらない仕上がりとなっている。どこを切り取ってもカーチェイスだし、猛スピードでくり広げられる世界観だ。ストーリーうんぬんの映画ではない。「わ、もう見てられない」と思ったら、視聴者の負け。日ごろの溜まった鬱憤を一気に晴らしてくれるような、ドキドキハラハラ感満載だ。アメリカならではのエンターテインメント性に溢れている、カーアクション映画だ。2011年公開【監督】ジャスティン・リン【出演】ヴィン・ディーゼル、ポール・ウォーカーまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)
2012.11.04
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【レディ・ジョーカー/高村薫】◆この社会に、本当の平等は存在するのか?長編にもかかわらず、一気呵成に読了した。この圧倒的な描写力はお見事!著者の高村薫を、ポスト山崎豊子とでも言ってしまって良いだろうか?(いや、まずいだろうな)複雑に絡み合う人物の背景を、最終的には「ああ、なるほど」と万人を納得させてしまうテクニックには脱帽だ。登場する個々のキャラクターそれぞれが、どうしようもない孤独の闇を抱え、持て余しながらも、その上さらに社会という荒波に揉まれていくのだ。この作品は、30年ぐらい前に日本社会を騒然とさせたグリコ・森永事件をモチーフとして描いている。ここでは製菓会社の代わりにビール会社がターゲットとなっているのだが、この企業テロをめぐる裏取引やら警察、公安、ジャーナリズムの世界が、おもしろいように現実味を帯びていて息を呑む。女流の社会派作家と言えば、やはり山崎豊子が白眉だと思う。だがミステリー作家と違うので、エンターテインメント性にはやや欠ける。比較の対象としては、むしろ宮部みゆきあたりになるのだろうが、こちらはどちらかと言えばのど越しスッキリ、ライトな感覚の作風で、高村の人間存在の意義や意味を問うた作風の前には撃沈かもしれない。事件の発端となったのは、岡村清二という東北大学理学部出身の、日之出ビール社員が解雇されたことに始まる。岡村清二が労組運動に関わったとするのが原因だった。晩年は痴呆を患い、郊外の老人ホームでひっそりと亡くなるという設定なのだが、この人物一人を取っても、人生って一体何なのか? という命題を突きつけられるストーリー展開となっている。被差別部落問題も扱っているので、いいかげんな気持ちで字面だけを追うなんてことは、一切できない。さて、ここまで書いてみると、『レディ・ジョーカー』がいかに優れた長編小説であるか、お分かりになっていただけたのではと思う。だからこそあえて釘を刺しておきたい点が一つだけある。それは、登場人物に同性愛的傾向のある男性二人が出て来るということだ。しかも主要人物。男でありながら女の心を持っているとか、女装趣味があるとか、そういうのとはワケが違う。しっかりとした男であり、男として男を愛しているようだ。(たぶん)性的マイノリティーについては、非常にデリケートな部分なので、多くは語れないが、この小説ではそこらへんが何かしら異質な雰囲気を漂わせている。平等主義・思想にこだわる著者の意図的な工作だったとしても、若干のムリを感じさせるものがあった。私は1997年に単行本化されたものを読んだのだが、その後、文庫化されるにあたり、かなり改稿されたようだ。このあたりの描写が一体どんなふうに変更されたのか、興味津々ではあるけれど、硬派なはずの社会派サスペンスが最後に来て「あれれ?」という感触は否めない。もちろん、こういう世界観もひっくるめて人間存在の深淵を追求するのだという意見もあるだろう。だがしかし・・・。高村作品に女性読者の多い理由が分かるような気がする。いずれにしても、圧倒的なリアリティで完成度の高い社会派長編小説だ。『レディ・ジョーカー』高村薫・著※今週は読書週間とのこと。日ごろ、その気はあってもなかなか本を手に取ることが出来ないあなたも、ぜひ最初の一ページだけでも。その最初の一ページが、読書の始まりなのです。~読書案内~ その他■No. 1取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ■No. 2複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!■No. 3雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!■No. 4完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する■No. 5青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ■No. 6しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる■No. 7白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す■No. 8ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている■No. 9女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説■No.10或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル■No.11東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず■No.12お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人◆番外篇.1新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る!
2012.11.03
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秋風の 傍へに居るは 唯一人われのみのごと 涙の下る與謝野晶子あな寒むと たださりげなく 云ひさして 我を見ざりし 乱れ髪の君與謝野鉄幹まあ、何と申しましょうか・・お二人のお二人だけの世界とでも申しましょうか。二人の短歌を、こうやって並べてみるとその世界に圧倒されます(汗)あらためて、凄い!秋の夜長、與謝野ワールドを存分に堪能できましたが、なんだか妙に目がさえてしまい・・今朝は寝不足気味の吟遊映人なのでありました(笑)さて、昨日は第一回目の古典の日でした。お二人の歌を古典と呼ぶには近すぎる気もしますが、出版の世界では、夏目漱石や太宰治までも「古典」と位置づけ販売促進の一戦略としているようです。明日は文化の日、與謝野ワールドの耽美にふれ、お二人の情念をお感じになってみてはいかが(^o^)ただし寝不足にご注意を(笑)◆與謝野晶子秋の風 空のひまより 吹くごとし 髪の端さへ 冷たかりけれわが日記 稀にまことの ことも書く 底なき洞を 覗くなりなど何ごとに よらず心は 貫くと 云へどわれにも 秋は身に沁む◆與謝野鉄幹秋かぜに ふさはしき名を まゐらせむ そぞろ心の 乱れ髪の君もみぢ葉を 誰の血潮と いひさして 古井の水を うかがひし人
2012.11.02
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ころげたる木の実の尻の白きかな 山口青邨一見、はて?この句は?と思えますが、実は作者の思索や示唆をおおいに読む事のできる一句である気がします。青邨氏は工学部教授(東京大学)、俳句の世界では異色と言えないこともありません。故に氏の五七五の奥に思索や示唆を、つまりは「構築の論理」や「存在の整合性」を感じるわけなのです(笑)さて木の実。作者の時代は取りざたされてはいなかったでしょうが、この頃は木の実の激減が話題です。それをして熊が里まで出てくるとか。話には出てきませんが、いわんや森の小動物をや、なのではありますまいか?一食抜いただけでも一大事な吟遊映人には、実に実に難儀この上ない事実であると思えます!少し前、不都合な真実という言葉が流行りましたが、森の生き物たちにとって木の実の不足は不都合な真実以外のナニモノでもないはずです。原因の元(地球温暖化は元にあらず)を論じて(見極めて)根本的抜本的本質的な対策を講じないと、子々孫々の世に禍根を残すことになりはしまいか・・・晴れやかな朝日を眺めながらそう考えました♪この思念は、山口青邨氏の句作に通じるもの、そう思います(^^)v
2012.11.01
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