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加齢とともに、一年の経過が早く感じられます。今年を振り返りますと、例外なく様々な出来事に見舞われました。御嶽山の噴火、広島の土砂災害、長野を中心とした地震。それはもう天災のオンパレードでした。テレビでその悲惨な状況を目の当たりにすると、この世には神も仏もないのかと絶望的な気持ちにもなりました。ところが人間というものは不思議なもので、かわいそうだ、気の毒だ、と思っているこちら側の立場にいますと、直接自分とは関わりのないことである以上、しばらくすると忘れてしまうのです。というのも、少なからず人は誰しも生きていれば、それなりの雑事に追われたり、身内の不幸に見舞われたりするので、他人様のことばかり目を向けてはいられなくなるわけです。 大切な人の死に直面するというのは、誰にとっても哀しいことで、それはある日突然災害によって亡くなるのも、事故で亡くなるのも、あるいは病気で亡くなるのも、「死」という現象は同じなのです。(もちろん、「死」に直面するまでのプロセスは人それぞれに違いはあり、衝撃の度合いというものも異なります。) 吟遊映人を管理している私たちそれぞれに、今年はいろいろとありました。それはプライベートなことにもなるし、ここであえてつらつらと語る内容でもないので省略しますが、「痛み」と向き合ったということだけお伝えしておきます。人が生きていく上で、決して避けては通れない感情の一端である「痛み」。おそらくこちらのブログを常々ご覧いただいている皆さまの中にも、一言では言い表せない辛さ、哀しみ、打撃を経験され、「痛み」に耐えて来られた方がいらっしゃると思います。どうかその気持ち、時間をかけてゆっくりと乗り越えて下さい。無責任な同情や励ましより、時間の経過こそが何よりの癒しであることと思います。 本年も吟遊映人の記事をご覧いただきまして、本当にありがとうございます。来年も何とぞよろしくお願い致します。皆さまのご多幸を心よりお祈り申し上げます。
2014.12.30
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【スリーデイズ】「あきれた。昨日はあなたのお父さんの誕生日よ」「僕の誕生日にオヤジは何をしてくれたのさ? 不機嫌そうに唸っただけじゃないか。うれしくて泣けちゃうよ」「あなたも早く大人になってちょうだい」気のせいかもしれないが、ここのところ「○○○デイズ」というタイトルが多い感じがする。ちなみに同名タイトルをネットで検索してみると、まずヒットするのが韓国ドラマの『スリーデイズ』というやつだ。内容は知らないけれど、韓流ファンには必見の作品なのだろう。だが、今回私が鑑賞したのはラッセル・クロウ主演の『スリーデイズ』である。ほんのチョイ役でリーアム・ニーソンが出演しているのも見逃せない。 『スリーデイズ』はもともとフランス映画で、それをリメイクした作品とのこと。ウィキペディアによれば賛否両論あり、まずまずの評価らしい。私個人の感想としては、ビミョーなところだ。全体的な作りは悪くないと思うけれど、脚本はイマイチのような気がする。でもどうだろう、サスペンスとしてなら問題ないのかもしれない。 ストーリーはこうだ。大学教授であるジョン・ブレナンには、美人で知的な妻と可愛い息子がいた。日々をつつがなく過ごす、ごく一般的な家庭だった。そんなある日、ブレナン宅に突然警察が令状を持って突入して来た。なんと、妻のララが殺人容疑で逮捕されてしまったのだ。ジョンは一人息子を育てながら、妻の無実を立証するために弁護士に掛け合い奔走するものの、裁判では覆ることなく殺人罪が確定してしまう。ララは全てに絶望し、獄中で自殺未遂を起こしたところ、ジョンは切羽詰まった状況に陥ってしまう。このままではララも自分も将来はないと思い、ある決断を下すのだった。 フランス映画のオリジナル版を知らないので無責任なことも言えないけれど、愛に生きる男性の象徴とも言えるフランス人男性なら、こういうのもアリかと思える。つまり、愛する妻のために地位も名誉も財産も失い、どこまでも逃げて行く生活。世界中を敵に回しても愛さえあれば、火の中水の中、どんな苦境にも立ち向かってゆくエネルギーが漲るのだ。当然、こういうロマンスは現実にはありえそうもない。だからこそ評価が分かれるのもムリはない。映画という娯楽の中のお話ではないかと、割り切ってしまえばそれなりに楽しめる。とはいえ、投獄された妻を脱獄させて、緻密な計画で出国し、どこかよその国で家族3人の生活を楽しむ、、、という設定に、ちょっと共鳴できない自分がいるのだ。そんな中、ストーリーそのものを受け入れられなくても、警察の追及を巧みにかわして逃げていく展開はおもしろいと思った。この逃走劇に限って言えば、実にスリリングで息もつかせないほどのアクション性にあふれている。興味のある方のみに、おすすめしたい作品だ。 2010年(米)、2011年(日)公開 【監督】ポール・ハギス【出演】ラッセル・クロウ、エリザベス・バンクス、リーアム・ニーソン
2014.12.28
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【村松友視/幸田文のマッチ箱】◆幸田露伴の娘・文についての世界観を探る一般的な女子にとっての父親という存在は、ある年齢まではあこがれであり尊敬の対象であるが、いつのまにか嫌悪感を抱くようになるものだ。何となく距離を置きたくなる存在とでも言おうか。何かの本で読んだのだが、それは当然の帰結であるらしい。遺伝子レベルで父娘の間違いを阻止するため、本能的に女子が父親を拒否するように作られているらしいのだ。それはともかく、娘は父性によって守り抜かれる。父の死ぬその日までーーー 幸田露伴は明治期の日本を代表する作家で、知らぬ者はないほどの天才作家である。代表作に『小説神髄』や『五重塔』などがあり、格調高く壮大な表現力で読者を魅了した。幸田文というのは、その露伴の娘であり、プレッシャーと闘いながらも自分流を貫いた女流作家なのだ。 『幸田文のマッチ箱』は、当時、中央公論社の名編集者であった村松友視が、自伝的な筆致で幸田文との出会いや人となりを語ったものである。村松友視は、慶応義塾大学文学部卒で、もともと中央公論社に入社したのだが、作家に転向。代表作に『時代屋の女房』や『鎌倉のおばさん』などがある。村松自身、数奇な生い立ちであり、祖父が村松梢風で、養子縁組をしていることもあり、友視が梢風の孫でありながら養子でもあるのだ。これは私の勝手な解釈だが、実父が偉大にして著名な人物の幸田文に、村松は少なからず親近感を覚えたのではなかろうか。 あらすじと言っても、あくまで幸田文という作家がどのように形成されていったのか、その内側に迫るものなので、一口に紹介することはできない。そんな中、私がとくに気に入ったのは、幸田文が銀行でもらうマッチ箱に千代紙を貼ってリビングに置いておくというくだりである。銀行のマッチ箱は味気ないので、季節の千代紙を貼ってみるという幸田文。何とチャーミングでピュアな女性なんだろう!そしてそのマッチ箱に気付いた村松友視が、珍しがって「欲しい」と言うのだ。それも幸田邸に来たたびにマッチ箱を手土産にもらって帰るというのが、ちょっとユニークではないか。 著名人の二世というと、何かともてはやされて七光を羨ましがられそうではあるが、現実はそうでもないらしい。幸田文の場合も決して羨望の対象ではなく、早くに実母を亡くし、姉を亡くし、さらには弟も亡くしている。父である露伴から厳しい躾を受け、露伴の後妻(文にとっては継母)との関わりも、微妙な空気が流れる。そういうデリケートな背景を踏まえながら一読すると、いっそう楽しめるかもしれない。村松友視、渾身の傑作なのだ。 『幸田文のマッチ箱』村松友視・著☆次回(読書案内No.153)は未定です、こうご期待♪★吟遊映人『読書案内』 第1弾はコチラから★吟遊映人『読書案内』 第2弾はコチラから
2014.12.20
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【曽野綾子/寂しさの極みの地】◆セレブの抱える心の闇今年も残すところあと一か月。この時期になると、必ず独居老人の孤独死や中高年の自死などが取り沙汰される。それもそのはず、クリスマスや大晦日など、家族や親しい仲間と明るく楽しいひと時を過ごすことがスタンダードな常識人のあり方と見なされるようになった昨今。その枠からはみ出てしまった人々の苦悩と言ったら、生易しいものではない。孤独なことが好きだという人、行事なんかに振り回されたりしないという人ならともかく、人並みの感情を持っていれば、世間が賑やかく浮かれ騒いでいればいるほど、絶望的な気持ちを味わうのではなかろうか。だからどうなのだと言われてしまうと困るのだが、曽野綾子の『寂しさの極みの地』を読むことで、私は少しだけ救われたことをここでお伝えしたいと思う。 主人公は諸戸香葉子で、大学受験を控えた息子がいる。夫は最高級ホテルのオーナーで、一家は何不自由なく暮らしている。本来なら絵に描いたようなラグジュアリーな生活で、波乱などなく、小説のプロットとしてはちょっと弱いぐらいに感じてしまうところだ。ところがどうだ、私はここ最近読んだ小説の中では一番孤独を感じてしまったのだ。それも底知れぬ闇をだ。 あらすじはこうだ。都内に高級ホテルを経営する夫を持つ諸戸香葉子は、一人息子にも恵まれ、何不自由のない生活を送っていた。しかし結婚後すぐに感じ始めたのは、夫婦の価値観の相違だった。それがとくにハッキリしたのは、息子が大学受験を控える年になってからだ。東大卒の夫は、息子に対しては何が何でも東大に入れたいと熱望した。一方、香葉子は、いずれ父親の後を継ぐ息子にさして学歴など必要はないという考えを持っていた。ホテル業は、人の心が読め、経理と語学に強ければ学歴にこだわることはないと思ったからだ。結局、香葉子は夫に反発することもできず、言いなりとなり、息子の東大受験を黙認した。しかし息子は東大に落ちてしまう。香葉子は、滑り止めに受けた大学が合格していたので、そこに入れたら充分と思っていたところ、夫は納得がいかず、一浪させる。その後、夫の仕事の都合で息子を都内のマンションに残し、夫婦は海辺のホテルに移り住む。香葉子としては、家族がバラバラに住むことに抵抗があったが、夫に意見することもできず、受験生の息子に一人暮らしをさせることとなった。だがそのことで、香葉子と息子の間にはますます亀裂が入り、会話もなく、親子としての関係が希薄になった。息子は自分勝手な言動を憚ることもなく、父に対する態度と母に対する態度を区別し、香葉子には何を考えているのかさっぱり分からなかった。 『寂しさの極みの地』のラストはあまりに衝撃的で、救いようがない。しかし、クリスチャンである著者の用意した赦しの手段は、やはり「神」への懺悔に近いものだった。神という存在が作中ではもっと漠然としたものになっているが(夫婦の絆なんてものは元々存在せず)、むしろ手も握ったことのないような異国に住む友人からの一本の電話に救われている。主人公の香葉子は、夫という存在をあてにせず、むしろ信頼を寄せた友情の中に魂の癒しを求めているのだ。 率直な感想として、これほど孤独を煽る小説はないと思った。その反面、これが現実なのだろうという苦し紛れの肯定をせずにはいられない。経済的に恵まれたとしても、精神の安定と充足がなければ、人生は空虚なものでしかないという定番中の定番とも言えるテーマだが、この年の瀬には持って来いの作品だと思う一冊なのだ。 『寂しさの極みの地』曽野綾子・著☆次回(読書案内No.152)は未定です、こうご期待♪★吟遊映人『読書案内』 第1弾はコチラから★吟遊映人『読書案内』 第2弾はコチラから
2014.12.13
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【真夏の方程式】「問題には必ず答えがある。だけど、それをすぐに導き出せるとは限らない。これから先、君はそういうことをいくつも経験していくだろう、、、それは僕も同じだ。でも焦ることはない。僕たち自身が成長していけばきっとその答えにたどり着けるはずだ」芸能人の相次ぐ結婚報道に、世の女性たちの絶望的な悲鳴を聴く。西島ショックに始まり向井ショックまで、何やら胸にポッカリと穴が開いたような気分なのであろう。あこがれの俳優がよそ様のご良人となられた日には、夢も希望も失ってしまったということなのだろうか。「経理課の女性社員がそろって机に伏して泣いている。その横で課長が“午後は仕事にならん”と泣いている」というツイッターがテレビで紹介されていたが、よっぽどの衝撃報道だったのだろう。しかし、世の女性たちよ、最後のとりで(?)があるではないか!そう、福山雅治その人である。最近は役者として活躍しているけれど、もともとはミュージシャンで、デビュー以来安定した人気を誇っている。そんな中、フジテレビのドラマ『ガリレオ』シリーズは、老若男女問わず、福山雅治を周知させるきっかけとなった作品だ。 原作は今や飛ぶ鳥を落とす勢いのある東野圭吾で、おもしろくないわけがない。天才物理学者・湯川学が、行きがかり上、謎解きをしていくストーリーである。 あらすじはこうだ。海底鉱物資源開発計画における住民説明会に際し、有識者の代表として物理学者である湯川学が招かれた。「手つかずの海」と謳われる玻璃ヶ浦の地元住民は、開発計画に賛成派と反対派が真っ二つに分かれていた。反対派の中には、湯川が宿泊する緑岩荘の一人娘・成実もいた。一方、その緑岩荘には、親の仕事の都合で夏休みの間、緑岩荘に滞在することになった小学5年生の恭平がいた。子ども嫌いの湯川だが、なぜか恭平にはアレルギー反応も出ず、恭平の屈託のないおしゃべりに付き合ったりした。そんなある日、堤防下の岩場で男性の変死体が発見された。その男は、湯川と同じ緑岩荘に宿泊する者で、しかも元捜査一課の刑事だったのだ。 今回の『真夏の方程式』では、これまで出演していた柴咲コウに代わり、吉高由里子が湯川の相棒役であり、女性刑事として登場する。ヒロインは川畑成実役の杏である。この女優さん、父親が渡辺謙ということもあって、物凄い存在感だ。水着姿の杏を見たら、同性でも息を呑む。とにかく手足が細くて長いのだから!ちょっと日本人の体型とは思えない洗練された身体つきなのだ。 『真夏の方程式』は、端的に言ってしまえば、「大人のエゴに子どもを巻き添えにするな」というテーマが隠されている。なので、登場する小学生の男の子の演技にも注目するとおもしろい。(緑岩荘にやって来たばかりの時と、緑岩荘を去って行く時の表情の違いに注目。)ロケ地は西伊豆堂ヶ島近辺のようだ。のんびりとした田舎の風景、懐かしくも切ない夏の海は、この西伊豆にピッタリだった。季節的には夏向きの作品かもしれないが、冬休みに鑑賞しても、充分家族で楽しめる映画だ。福山雅治ファン必見の作である。 2013年公開【監督】西谷弘【出演】福山雅治、杏、吉高由里子
2014.12.06
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