吟遊映人 【創作室 Y】

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2012.01.19
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18世紀のフランス、パリのセーヌ河沿岸に並ぶ魚市場でジャン=バティスト・グルヌイユは誕生した。
彼は何キロ先の匂いも嗅ぎ分ける超人的な嗅覚を持っていた。
成人して皮なめしの職人となったグルヌイユは、配達途中でプラム売りの赤毛の少女と出会う。
彼女の放つ香りをグルヌイユの嗅覚は捉えて放さず、激しく鼓動した。
彼はその香りを我が物にしたいと欲した。
犬のように付きまとうグルヌイユに怯えた少女は悲鳴を上げる。
彼は夢中で少女の口をふさぎ、過って死なせてしまう。
しかし、少女の放つ香りに至福の悦びを覚えて、思わずその衣類をはがし、首筋から乳房、腹部から股にかけて鼻を押し付けるようにしてその匂いを記憶する。
20080112


パリの群衆が、冷酷な殺人者の処刑を待ちかねて騒然とする場面から入るのは定石だが、プロローグとしては最も興味を掻き立てられ、作品の核心へと触れていくに相応しい幕開けなのだ。
人が人として生きる権利を全て剥奪されてしまったような劣悪な環境の中で生き抜いて来たグルヌイユは、感情表現が乏しく、口数も少ない。
その能面のような無感動さを表現した演技力は、まるでヒッチコック作品の「サイコ」に登場するノーマン・ベイツを彷彿とさせる。
猟奇殺人を題材にした作品の根底に流れるもの。
それはおおむね、母親への異常なまでの渇望、言い方を変えれば、女性への偏った愛情表現。
すなわち「執着」である。
この作品においても例外ではなく、主人公のグルヌイユは、若く美しい女性の発する香りの虜となり、次々とその身を手にかけ、香りを捉えておくために冷浸法で抽出するのだ。
誰からも愛されたことのない彼に、人の愛し方などわかるはずもなかった。
ただ己の欲するものを必死に手中に入れようと執着するのみ。
その手段など選ばない。
それは幾重にも歪んだ自己主張、あるいは愛情表現だったのかもしれない。


実はこの翻訳が凄い!
ドイツ文学者 池内 紀氏のペンにより、原作以上の「作品」に仕上がったといっても過言ではあるまい。
ゲーテを身近に据えてくれた池内氏の翻訳を、是非ともご一読されたし。
20120119b

2006年公開
【監督】トム・ティクヴァ


また見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。
See you next time !(^^)





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最終更新日  2012.01.19 08:16:23 コメントを書く
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