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2012.09.07
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カテゴリ: 読書案内
【取り替え子/大江健三郎】
20120907
◆伊丹十三の自死の真相を突き止めよ

この小説を、私生活を暴露したタレント本などと同列に考える人は、おそらくいないだろう。
だが、著者である大江健三郎とその義兄・伊丹十三をモデルにした小説ということもあり、あまりにリアルだ。
役者であり映画監督でもあった伊丹十三は、ある時、突然自殺してしまった。
その理由については今だ公表されず、大衆が想像する域を出ない。
だがそれは伊丹家の身内においても同じで、“一体何があったのか?”という永遠のテーマを胸にペンを取ったであろうことがうかがえる。
無論、真相は藪の中で、著者があらん限りの想像を巡らし、小説の力を借りて、伊丹十三という一人の男の実人生を追いかけてゆくのだ。

大江健三郎と言えばノーベル文学賞受賞者ということもさることながら、その難解な内容・文章でも知られている。
ある程度の読書量と見識に自信のある人でも、そのインテリジェンスな発想に二の足を踏んでしまうに違いない。
そんな中、この『取り替え子』はテキストとして実に読み易い。

この小説は文学であり、ゴシップを扱ったスキャンダラスな暴露本とはまるで違う。
大江健三郎が伊丹の死を哀しみ、絶望し、魂を必死に慰めようとするセラピー的な要素さえ感じる。

取り替え子=チェンジリングとは、センダックの絵本のタイトルにもあるように、妖精が秘かに取り替えてしまった醜い子どものことだ。
これが何を意味するものなのかは、読者の考え方しだいだと思う。
伊丹十三の受けたヤクザの襲撃や女性問題、さらには若かりしころ青春を謳歌した愛媛県松山市郊外での記憶の数々。
親友であり義弟でもある大江健三郎しか感じ得なかった世界観が広がる。
モデル小説であっても私小説ではない。
しかも、格調高く優れた文学であるこの小説を、一人でも多くの方々におすすめしたい。

わき目もふらず読み進めた私は、読後、喪失感というよりは一条の光を見たような気がした。

『取り替え子』講談社文庫あり。


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最終更新日  2012.10.18 14:51:25
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