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2013.06.22
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カテゴリ: 読書案内
【宮崎学/突破者】
20130622

◆グリコ・森永事件でキツネ目の男と間違われた男の自伝

まずはタイトルにある『突破者』とは何か? 著書によれば、「無茶者、突っ張り者のこと」であるそうな。
私は関西出身ではないため知らなかったのだが、土建業の親方に多いタイプらしく、「思い込んだら一途でがむしゃら」に突っ張って職人を守る(喧嘩などいざこざがあった時など)・・・みたいな人を『突破者』と言って持ち上げるらしい。
正に、そういう意味では著者の宮崎学は突破者にふさわしく、京都は伏見区の解体屋寺村組の次男坊として生まれた。
この上下2巻に渡る宮崎学の自伝によれば、戦後の裏社会を駆け抜けて来た男の度胸みたいなものが、そこかしこからプンプン臭って来る。
たとえそれがヤクザという、社会から大きく逸脱した集団であろうとも、その中にあってこそのやり方で筋を通し、ブレずにやって来たという誇りさえ感じる。
教養や知識などさほどなく、社会の底辺を生きるという括りでヤクザを描いているが、少なくとも宮崎学とその兄は、決して無学・無教養ではない。兄は立命館大学を中退、宮崎学その人は早稲田大学を中退で、卒業こそしていないが、学力レベルは人並み以上のものを持ち合わせている。
だからこそ、この自伝のような読み応えのある半生を、淀みなく綴る能力が備わっていたのだと言えよう。無論、宮崎学の過去がどうあれ、今やれっきとした文化人である。
内容は、幼い頃の身辺環境から中学校では喧嘩に明け暮れた毎日のこと。さらに、京大を目指したものの不合格となり、縁があって早大法学部に入学。そこでは左翼思想に目覚め、共産党の青年ゲバルト部隊を率いて大活躍したことなどが赤裸々に語られている。
興味深かったのは、グリコ・森永事件で犯人の似顔絵が公開されたのだが、そのキツネ目の男が宮崎学にそっくりで、「重要参考人・M」とされていたことの顛末が詳細に書かれていた。これは面白い。


我々一般市民にとっては、裏社会のことなどあれこれ想像をめぐらすのが精一杯で、実際のところは何も分からない。
そんな中、こうしてヤクザの世界の一端なりとも、その道にどっぷりと浸かっていた人物が披露してくれたことは本当に嬉しいし、有難い。
高倉健や菅原文太の出演する任侠の世界が全てだと思い込んでいるわけではないけれど、もっとエグイ、グロテスクなものを内包して存在するのを、改めて思い知らされる機会を与えられた。
ヤクザという、いわば社会のうしろめたい側にいる集団が、なぜ存在するのかというところにメスを入れている点を、大いに評価したい。また、中学生の学級会みたいな潔癖な正論が、マスメディアを経由して一気に世論と化す現代社会に警鐘を鳴らしているようにも思えた。
多数派こそが正義であり、少数派は全て切り捨てられていく現実・・・それは対ヤクザ社会に限ったことではないことを痛感する。
私は思う。
男女問わず、綺麗に脱毛し、デオドラント効果バツグンの制汗剤を振り撒き、情報に遅れを取らないようスマホを駆使する合理的な人々が、当然の多数派となっている。
私はほんの数年前までケータイなど持っていなかった。だが持つことにした。
友人の中には、いまだ持っていない少数派に属する人もいる。私はその友人を奇異には思わない。
こういう少数派が存在するからこそ、民主主義を謳歌できるのだ。

『突破者』は、様々な主義、思想、いやもっと漠然とした何かを持つ人々が右往左往しながら必死に生き抜いた、戦後の50年を描いている。


『突破者~戦後史の陰を駆け抜けた50年~』上・下 宮崎学・著

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.79)は花村萬月の『ゴッド・ブレイス物語』を予定しています。


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最終更新日  2013.06.22 09:06:53
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