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2014.07.05
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カテゴリ: 読書案内
【新田次郎/武田信玄 風の巻】
20140705

◆卑劣極まりない父の所業に、息子晴信が決断する
NHK大河ドラマで『武田信玄』が放送されたのは、もう30年ぐらい昔のことである。
信玄役として中井貴一が抜擢されたことで、世間の大河ファンから賛否両論が巻き起こったのだった。
「中井貴一が信玄役を演じるには、ちょっと線が細すぎる」というような意見が多かったように思える。(亡き母が週刊誌を熟読していた関係で、そのような話題にはいつも事欠かなかった。)
結局、今となってみれば、優秀な演出家による指導と、中井貴一ご本人による努力によって、気品のある武田信玄として何ら問題のない仕上がりだったように思えるが。

さてこの『武田信玄』は、新田次郎によるものである。
新田次郎と言えば、『八甲田山』などの山岳小説を多々発表している作家として有名だ。
そんな中、なぜ歴史上の人物を中心とした小説を書こうと思ったのであろうか?
それはどうやら、著者の出生地が長野県諏訪であることに関係しているようだ。
「先祖は代々諏訪家に仕えていた郷士である」とあとがきにあるが、その諏訪家というのは、なんと武田信玄によって亡ぼされている。

そして「調べ回るのはたいへん楽しかった」と語っていて、著者のこれまでにない有意義なライフワークとなったことがうかがえる。

そんな『武田信玄』~風の巻~のあらすじはこうだ。
甲斐の国をおさめていた武田信虎は、長男の晴信(後の信玄)を憎み、次男の信繁を盲愛していた。
最近の信虎の行為は、いよいよ常軌を逸しており、すでに元服して3年にもなる晴信を軍議にも参加させず、ことあるたびに「臆病者め」と口汚く罵った。
ある時、晴信が家臣らとともに馬を走らせていると、土下座した郷民が死を覚悟して直訴して来た。
内容は、父・信虎の所業についてだった。
郷民が言うには、信虎はこともあろうに、村の妊婦を捕まえて腹を裂き、胎児をあらためたりするとのこと。
初めて父の卑劣な行為を聞かされた晴信は、驚きのあまり返す言葉もなく、躑躅が崎の館に帰るのだった。
その後、側近である板垣信方の画策により、晴信はいよいよ父を甲斐の国から追放することにする。
信虎は駿河の今川義元の領地へ、引き渡されることとなった。

風の巻では、晴信の父・信虎を今川家へ追放する場面、そして諏訪家を亡ぼすくだりまでが山場となっている。

というのも、諏訪頼重を筆頭とする諏訪は、神氏の出と言われ、単なる武家とは一線を画し、格式の高い地位にあった。
そこに攻め入るというのは、当時としてはよほどの自信と尊厳と執着がなければ、成し得なかったに違いない。

一方、『甲陽軍鑑』に登場する軍師・山本勘助は、著者が調べたところ、実在の人物ではあるものの、「軍師ではなかったことは確実と見てよいだろう」とのこと。
しかし、だからと言って山本勘助の名を無視した史実中心にしてしまうと、何とも味気ない歴史小説になってしまう。
そこで勘助を軍師ではなく軍使として、つまり平たく言ってしまうとCIAのようなスパイとして登場させている。


私は思うのだが、新田次郎は、実はこういう小説を書きたかったのではなかろうか?
嬉々としてペンを運ぶ著者の姿が、目に浮かぶような情熱と活気にあふれた一冊であった。

『武田信玄』~風の巻~ 新田次郎・著 [吉川英治文学賞受賞作品]

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☆次回(読書案内No.133)は新田次郎の「武田信玄 林の巻(第二巻)」を予定しています。


コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から





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最終更新日  2014.07.26 04:26:43
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