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2022.07.09
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カテゴリ: 要約

第十八回


安永3年の秋のこと。
市九郎は主人の寵妾と非道な恋をしてしまった。そのせいで主人から不義を責められ斬りつけられた。どうせ死ぬのだと思ってヤケになった。気づいたら市九郎は主人を殺していた。
急に我に返った市九郎は自害も考えたが、女(お弓)から「逃げよう」と言われて再び活気づいた。女の提案で、この屋敷にある在り金すべてをさらって逃げることにした。
台所の方では乳母がガタガタと震えながら、この家の主の一子、実之助(3歳)を懐に抱いていた。

江戸を逐電した2人は上方へ向かった。
おもしろおかしく暮らしていこうじゃないかと度胸を見せたお弓にそそのかされ、市九郎はついに悪事の面白さを味わい始めたのである。
それから深みにハマっていくのは早かった。旅人を狙い、殺して金を奪い、死体を片付けるまでになった。
その汚れた金で峠の茶屋の主となった市九郎は、そろそろ稼ぎたいと考えた。
そんな折、市九郎の茶屋に信州の豪農の若夫婦が一服して旅立っていくと、お弓はもうこの2人からすべてを奪うことを考えていた。市九郎にそれ行けとばかりに合図した。

若い2人の命を奪うことまではしたくなかったからだ。
2人が大人しく金と衣装だけ差し出してくれさえすればと思った。
だが若い男は妻をかばって抵抗して来た。
市九郎は仕方がないとばかりに斬り捨てた。その妻も殺した。
その行為のあと、市九郎はこれまでにない良心の呵責に囚われた。
一方、お弓は市九郎の持ち帰ったものだけでは足りず、自ら現場へ出向いて行った。
市九郎はそんなお弓の後ろ姿を見て、浅ましさから嫌悪感でいっぱいになった。
もうこの女とは一緒にいられないと思った。
市九郎はすべてを捨てて、逃げることにした。

懺悔の心は、やがて真言宗の寺に向かった。
寺の上人の助言から出家得度し、了海という法名をもらい、修行することになった。

その間、絶えず半生の悪業を悔いる了海であった。仏道に帰依し、一人でも多くの人々のために何かしたいと願った。それこそが罪深き己の万分の一でも償いになるのではと思ったのだ。

了海が杖を頼りに筑紫に差し掛かったとき、これまでにない難所を発見した。山国渓谷は、年に何人もの遭難者を出している危険な難所であった。
了海はこの難所を除こうと決意した。
二百余間の絶壁にトンネルを掘り、人々を救おうと思い立ったのである。
そう決意してからの了海の行動は早かった。

人々は、その姿を見てムダだと嘲笑った。
だが了海の決意が揺らぐことはなく、一途に真言を唱え、懸命に槌をおろした。

一方、市九郎のために非業の死をとげた主の一子・実之助は13歳になったとき、自分の父親の最期についてを聞かされた。復讐を誓った実之助は柳生道場で鍛練を重ね、やがて免許皆伝を許された。
それからは諸国を遍歴し、憎い市九郎の影をしらみ潰しに追った。
やがて九州までたどり着くと、実之助は了海の噂を耳にし、それこそが仇である市九郎その人であることを確信したのである。

了海とおぼしき乞食僧が洞窟から這い出て来たところ、それを見た実之助は拍子抜けした。その姿は骨と皮だけで、足腰はほとんど役に立たず、目はもう見えていないようだったからである。
とは言え、実之助は己の身分を明かし、敵討ちにやって来た仔細を口上した。
ところが了海は少しも驚くことはなく、逃げも隠れもしないと言って、その身を差し出したのである。
実之助はそんな了海を前に、躊躇する気持ちが迫り上がった。
折よく、了海の作業を手伝っていた石工らが「待った」をかけた。
敵討ちなら、せめて了海の大願成就である貫通まで待って欲しい、と哀願したのである。
実之助は逡巡しつつも、それを受け入れた。
だが夜になって他の石工たちがいなくなったらこっそり了海を討ってしまおうと考えた。
了海を狙って打ち果たすことは簡単であったが、実之助にはどうしてもできなかった。ひたすら真言を唱えながら岩壁に向かって槌をおろし続ける孤高な背中に、刀を向けることなど出来なかったのだ。
実之助は覚悟を決めた。
了海の大願を成就するためにその作業を手伝うことを。
それから実之助は仇である了海と並んで槌をおろし続けた。それは昼も夜もなく、ひたすら黙々と。もはや復讐の大業を忘れてしまうほどに。

了海が槌とノミを持って穴を掘り始めて20年、さらに実之助と了海がめぐりあって1年半後、ようやく開通した。
了海は歓喜の声をあげて、実之助に「約束の日だ、お斬りなされ」と告げた。
だが実之助は老僧を前に復讐の執念は消え失せ、手を取り、その偉業に対する感激の涙に咽び合った。
(了)

なお、次回の要約は



を予定しています、こうご期待♪

《過去の要約》
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最終更新日  2022.07.09 08:00:10
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