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2006年08月08日
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ふと思い至って 新潮文庫版「走れメロス」
走れメロス改版

私はまだ一度も「太宰かぶれ」をしたことがない。中学生のとき一応は読んだけれども、すっと横を通り過ぎただけだった。クラスの隣にのちにボクシングチャンピオンになる奴がいたのに、悪ガキがいたとしか記憶していないことと少し似ている。(私の知り合いに辰吉の同級生がいるが、そういって悔しがっていた)

この年になって昭和13年から18年にかけての短編を読み返す。なんか一瞬「かぶれ」てしまうような気になる。太宰の孤独は私なら理解できる、というような気さえしてくる。おやおや……。

実はこの一ヶ月テレビを見ていない、8年間電源をつけっぱなしにしていたテレビのブラウン管が、ついに真っ黒になったためである。いまどきテレビなぞなくても、新聞とインターネットさえあれば、世の中の動きから取り残されることはない。一つか二つ残念なことといえば、NHKスペシャルの幾つかの番組と「純情きらり」を見ることができなかったことだ。もっともNHK受信料をいまだかってはらったことのない私が自慢げに言うことぢゃあない。

すみません。いつものことだけど、回りくどい書き方をしています。実はこの「走れメロス」の短編の中に「純情きらり」の桜子を見つけたということを報告したかっただけなのです。

この短編集の中に「東京八景」というのがある。津軽の大地主の家に生まれ、東大に入学するも、授業には出ず、左翼運動にかかわり、数度の自殺を試み、実家に無心をし、借金を重ね、薬物中毒におちいり、妻と別れ、心機一転作家として立ち直り、結婚をした半生を振返った自叙伝小説である。その小説の最後にまるで付け加えたように、ひとつのエピソードがある。小説で要約なんて野暮ではあるが、要約して紹介したい。

再婚した妻の妹には婚約者のT君がいる。「はきはきした。上品な青年」であるが、ついに戦地に出発することになった。妹から速達が来る。
「明朝9時に、芝公園に来てください。兄上からTへ、私の気持ちをうまく伝えてやってください。私はばかですから、Tには何も言っていないのです。」それから二時間もたたないうちにまた速達が来る。「よく考えてみましたら、先刻のお願いは、蓮っ葉なことだと気がつきました。Tには何もおっしゃらなくてもいいのです。ただ、お見送りだけ、してください。」これには太宰も妻も噴き出した。ひとりでてんてこ舞いしている様が、良く分かるから。当日太宰は妹に聞く。「どうだ、落ちついているか?」「なんでもないさ」妹は陽気に笑って見せた。「どうしてこうなんでしょう」妻は顔をしかめた。「そんなに、げらげら笑って」太宰はT君に「珍しく、ちっとも笑わずに言」う。「あとのことは心配ないんだ。妹はこんなばかですが、でも女の一番大事な心がけは知っているはずなんだ。少しも心配ないんだ。私たちみなで引き受けます。」



テレビはあと一週間ほどしてやってくる。宮崎あおいのあの大きな瞳は今は何を見つめているのだろう。

驚くのは、「東京八景」は昭和16年に発表されているということだ。太平洋戦争が始まる年である。転向する作家や、筆を絶った作家や、投獄された作家が続出する中で、戦争を賛美する言葉が一つも出ていないのは素晴らしい。だから戦後すぐに作品を発表することが出来た。太宰の小説の中に出てくるアイデンティティを捜し求める青年の姿はそのまま現代青年の課題でもある。左翼運動に挫折し、自殺を重ねる、この昭和のはじめごろの青年の姿が、現代と重なるような気がするのは私だけか。

「走れメロス」を久しぶりに読んで、少し思うこともあったのだが、それはまた次の機会に。








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最終更新日  2006年08月08日 23時54分34秒 コメント(5) | コメントを書く


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