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2009年09月25日
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カテゴリ: 邦画(09~)
崔洋一監督は白土三平とのスペシャル対談でこのように言っている。
「ぼくの前後の世代の多くの映画監督にとって、白土先生の「カムイ伝」はいつかチャレンジしたい高い山なんです。その根底に流れているものを腹のそこに抱えながら。その大河性を基準にして「スガルの島」(「今回の直接の「外伝」の原作)を描きたかったんです。」 (「ビックコミック」9.25号)

その監督の思いは意外なほどに私には良く伝わった。オープニングを漫画「カムイ伝」から直接とってきたのも驚いたし、「外伝」には無い非人村のエピソードを入れているのにも驚いた。

「貧しさゆえに忍びになり、忍びゆえに抜け忍になった。カムイが自由を手にする日はあるのか。」 という意味のナレーションが何度も流れる。これは「外伝」全体のテーマであり、その根底には 「真の自由を得るためには、個人の力では実現しない」 ということを言外に言っているのである。崔監督のこの映画には確かに「正伝」に繋がる思いが流れている。
監督・脚本 : 崔洋一
原作 : 白土三平
脚本 : 宮藤官九郎
出演 : 松山ケンイチ 、 小雪 、 伊藤英明 、 佐藤浩市 、 小林薫 、 大後寿々花 、 土屋アンナ 、 芦名星



17世紀の漁村の風景はよく作っていると思う。田中優子教授が「カムイの服は良く調べている」と感心していたように、そこは見応えがあった。ちなみに備中松山が舞台になっていたが、現実の松山城からは海は見えません。あれは架空の土地です。お間違えなきように。

しかし、である。作品としては残念な出来に終わってしまった。

クドカンは何を思ってあんなぶつ切りの脚本を書いたのだろうか。「抜け忍の身で一番恐ろしいのは、追っ手ではなく、何も信じられなくなる己の心である」ということが今回の映画の大きなテーマなのであるが、スガルの徹底して人を信じられない心は中途半端な描き方であるし、原作にある半兵衛たち海の男たちの「信じる心」は中途半端にしか描けていない。そして裏切り者は単に「狂った心」で裏切ったのだというようにしか思えない、説得力の無い裏切り方であった。だからどうしてスガルが簡単に死んでしまうのか、説得力持って描けていない。

この映画で繰り返し描かれているように、抜け忍はめったなことでは人を信じない。だから、あの最低の裏切り者が罠を仕掛けようとしたならば、それこそ数年かけて信じさせる実績を作らなければならなかったはずである。今回、彼が裏切りを実行に移すきっかけはカムイとスガルという獲物も手中に入ってきたからだと、いうのならばそれとわかる描写が欲しかった。それまでして、手柄が欲しいあの裏切り者の心中をきちんと描いて欲しかった。そして、それほどまでに欲しかったかカムイの首のはずなのに、どうして大頭は最後を見届けずに帰っていったのか、全く謎である。

「信じる」-「信じない」の微妙な分岐点を、明確に描くことがこの映画の全てだった筈なのであるが、見事に失敗している。

おそらく監督の想いは空回りしていたのだろう。
しかし、この映画版によって白土三平が九年ぶりにカムイを書く気になった。そのことだけは喜びたい。





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最終更新日  2009年09月25日 22時48分29秒
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