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前線に追いついたヨーディは作戦を伝え、兵を二分する。「このまま進むより、直接制圧する方が早い。 ゼリクトア軍も後詰としてきている。問題はないはず」ヨーディ隊は少しずつ進路を変えて、夜を迎える。バフタールに気付かれると大軍が帰還して目的を果たせなくなるが、ゼリクトア軍が怪しい動きをしているという情報は来ておらず、ひとまず安心して休息に入る。(明日、一気に突き進むしかない)翌日、本拠地を目前にして待ったがかかる。バフタール軍の一部が戻ってきているという情報が入り、行軍を止めて考え直さなければならなくなる。「敵は疲れていて今ならまだ間に合うのでは?」「ここで時間をかけるのはもったいないかと」強行突破を提案する者もいるが、ヨーディは何かが気になる。たとえ一部だとしても、戻ってくること自体が困難であるはずだ。イグリス軍の包囲網を抜けて帰還したということは、それまでに数日かけなければならず、戦況に変化があったとみる必要がある。それから報告が届き、撤退を決意する。「バフタールが前線から後退!イグリスも包囲を解き、 追撃する様子は見られません!」「ゼリクトア軍が行軍を反転させています!」これで戦争は終結を迎え、バフタールは大きく戦力を減らす。戻ってきたヨーディは結果を報告している。「すべてはイグリス王の手の内だったというわけか・・・」レイトは落胆を通り越して呆然としている。あのまま強行していれば、バフタールとの潰し合いになり、イグリスにとって最上の結果となる。たとえイグリスからの独立をやめていたとしても、ゼリクトア軍にバフタールを攻め込ませたに違いない。「あとは大国・イグリスの思うがまま、だな」ため息をつくレイトにヨーディは殴り掛かる。「やっとフューリッドを取り戻したところだろ! これから平和に向かっていけるんじゃねーのか!?」ウェントソンに腕を掴まれながら叫ぶと、静かに腕を下ろす。レイトは頭を抱えて机に臥せっていく。「レイトが創るフューリッドを見せてくれよ。 今度間違ってたら、ちゃんと殴ってやるから」「殴るな」とレイトとウェントソンはぼそっとつぶやく。とある日、ヨーディはビルクのところに来ている。「お前が来たってことは、噂は本当だったというわけだな?」噂とはレイトがアルケデニック派の処罰を決行したことだ。「階級を下げるくらいじゃ甘いんだよ。長いこと待たせたくせに」そう言うビルクの顔は緩んでいるのが分かる。「これからは協力してくれるんだろ?言うまでもねーか」「あぁ?不利益なことはしねぇぞ。これからもな」ヨーディはビルクと別れ、建設中の水路を見つめる。(まずはこれだな。出来上がるまではまだまだけど)結
2020/11/08
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レイトは方針転換を余儀なくされる。それでも押し進めようとするなら、ゼリクトア軍のうしろを突くしかない。レイトの様子を見守っているウェントソンは誰かが来る気配を感じる。入口に向かって出迎えると、思わず声を上げる。相手も同じように再会を喜んでいて、「じいさん、戻ってきたのか!」「久しぶりだな。元気そうで何より・・・」用件を思い出して話を止める。ウェントソンのあとについてきたのはヨーディだ。ゼリクトアも援軍としてきているならば、自分も出る必要があるのではないかと確認しに来たのである。レイトはヨーディをまじまじと見つめ、「行ってくれるか?ゼリクトアを止めに」ヨーディはレイトが何を言っているのか理解できず、詳しい説明を求める。説明を聞いて理解はできたが、納得できるものではない。「どう考えてもバフタールを叩いた方が平和には近道じゃないのか?」「このままだとイグリス大陸になるんだぞ!?」「それでも平和が保たれるなら、選ぶべきなんじゃないのか? 今までもそうやってきただろ?」「このままイグリスの操り人形でいろ、ってか」「んなこと言ったって、バフタールに味方して勝算あるのかよ?」ヨーディに言われて改めて冷静に考える。イグリスの監視を逃れることにこだわり過ぎていたようだ。時間が経つにつれバフタールが不利になっていくのは必定。それならいっそのこと攻め取りに行った方が早いのかもしれない。「改めて行ってくれ。隊を分けてバフタールの本拠を狙え」うまくいけばフューリッドの領地として組み込めるかもしれない。そうなればイグリスに対抗できる力を得られる。イグリス領のままなら、どうすることもできないが、同盟国としてなら、領土は分配。独立する意味が生まれる。そのためには、フューリッドがバフタールを降伏させなければならない。フューリッドを巡ってイグリスとバフタールが奪い合ったことは忘れるわけもない。もしかしたら、ゼリクトアにバフタールを占拠させようとしているとも考えられる。「難しいだろうが、やり遂げてくれ。やり方は任せる」今度の頼みは断れず、「やってはみるけど、どうなってもしらねぇぞ?」ヨーディは急旋回して来た道を戻る。フューリッド軍は国境を越えて先に進んでいるが、何かしら手間取ることがあればすぐにゼリクトア軍に追いつかれる。はからずもここでバフタールに言った経験が生きることになる。
2020/11/01
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ウェントソンは急な帰還を言い渡されて困惑している。どういう状況になっているのか尋ねると、正式に決めるのはレイトだが、イグリスでの生活はこれで終わりだ、と言われる。レイトに渡すまでが使者としての任務であるため、封を開けるわけにはいかない。ときどき手紙は送られてきていたが、ゲイドモールの検閲もあり、内容から想像することもできない。ただ、「無理して動くな」という言葉だけはいつも添えられている。何かしようとしていることが形になったのかもしれない。レイトはゲイドモールたちを含めた一軍を見送り、一息ついている。イグリスの支配から解放されれば、バフタールと組んで形勢を変えられる。まずはグラッカ王国が退くのを合図に、バフタール国内を通ってイグリス軍を挟み撃ちにできる。ゲイドモールたちは隙を見て捕らえればいい。これでバフタールの領土が増える。そのあとはゼリクトアとともに押し出していく。イグリスからの返答を待っている間、レイトは計画を練り上げていくが、予想しないことが起きる。「ゼリクトア軍が北上してきているとの情報!」それに先立って使者が送られてくる。使者によると、ゼリクトア軍も後詰として戦争に参加することになったという。「これからもともに協力してイグリスと手を組んでいきましょう」使者の言葉にレイトは息を呑み、言葉を選びながら、「このままではイグリスの天下となりますが、それも承知の上ですか?」「我々の協力があってこその天下です。我々が監視役となるのです」そううまくいくわけがないということは容易に想像できる。しかし、ここでゼリクトア軍を足止めさせることもできず、「わかりました。同盟国ですから、ともに戦うのは当然です」二日後、ゼリクトア軍が通っていってから間もなく、ウェントソンが帰還する。「レイト様、ただいま戻りました」「よく耐えたな。感謝してもしきれない」ウェントソンが戻ってきたということは、独立が認められたということ。だが、手紙の内容もまた予測を外れている。「独立について、それを希望するなら認めてもいい。 ただし、交易については変えるつもりはない」これでイグリスの狙いがはっきりとする。「先に抑えられたか・・・。選択を間違えたのか?」
2020/10/25
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ゲイドモールはイグリス王に手紙を綴っている。ゲイドモールたちは自身が人質となって迷惑をかけることを望んではいない。「国の足を引っ張るわけにはいきません。そうなるくらいなら死にます」「その気持ちはわかる。ウェントソンもそう思っているからな」やはりこの状況でウェントソンを交渉材料にするのは難しいようだ。が、「同盟関係を築くにあたり、すぐにでも援軍要請をさせてもらいます」それは当然のことだとレイトも考えている。「返事が来る前に出陣していただき、我々も参陣させてもらいます。 その代わりウェントソン氏の帰還を上申します」この戦争が終わるまではイグリス側につくよう、最大限の条件にも思える。それでも、イグリス王が首を縦に振らない可能性もある。「可能性は低いですが、そうなったら我々の首でも取ってみますか?」ゲイドモールたちが参陣するということは、万が一のときは二人に逃げ道もないということを意味している。手紙を読み終えたイグリス王は、少しずつ呼吸を取り戻していく。「まったく、一番いやな場面をついてくるな。ずっと狙ってたのか」イグリス王は内容を話してから、どうすべきか考える。「いずれはゼリクトアも反旗を翻してくるだろうな・・・」不安要素を抱えたまま、時を無駄にするよりは方針を変えたほうがいいかもしれない。いっそのこと強固な同盟を築くべきだろうか。そもそも強固な同盟など築けるのか。いや、こういう時こそ冷静に考えなければならない。こんな状況にならなければ、強気な態度には出られない。基本的な国力は完全に差がついているわけで、ひっくり返そうとするなら、他と手を組むのが必須条件である。バフタールとフューリッドが組んだとしても負けるわけではなく、ゼリクトアを奪われなければ優勢を保てる。逆に言えば、ゼリクトアを味方につけたほうが優位に立てる。不確かなフューリッドにこだわる前にゼリクトアを抑えておけば、フューリッドはこちら側に来るしかない。「返答内容は決まった。ゼリクトアには早急に同盟を要請してくれ」そして、ウェントソンが呼び出される。「急なお呼び出しですが、なにがあったのでしょうか?」畏まるウェントソンにイグリス王はゆったりとした口調で、「長きにわたる任務、ご苦労でございました。 最後にこの手紙を持ち帰る任務を請け負っていただけますか?」「最後?それは私に帰れと申されているのですか?」
2020/10/18
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イグリスの包囲網はなかなか狭められずにいる。「やはり南東から物資が送られてきてるのは間違いないな」グラッカ王国から送られる支援物資を止められないことが、バフタールの士気を下げ止める要因となっている。もともと戦争を仕掛ける前から、事前に準備していただろうし、地の利はあっても、長期戦になるだろう。なんとかしてこの補給路を奪う策はないかと考える最中、予想だにしない報告がもたらされる。ゲイドモールからの手紙が届き、封を開けると、「レイトの反乱!?だと。改めて同盟を結べ!?」戦場から離れたフューリッドは穏やかな日々を送っている。レイトはおもむろに立ち上がり、二人に銃を向ける。「我々、フューリッドは独立する。改めて同盟を結ぶなら、命は保証する」ゲイドモールたちは度肝を抜かれるが、レイトの説得を試みる。「独立するのは今じゃなくてもいいでしょう。 イグリスの下で力を溜めていくことが先決だと思われます」今、独立したところでイグリスの圧力に耐えられない、と。だが、レイトは別の予測を立てているようで、戦争している今しかないと思っている。「いずれはイグリスがバフタールを抑える状況になる。 そうなっては抵抗する術がなくなる。この機会を逃すことはできない」ゲイドモールはレイトの思惑を確認してみる。「大陸の平和を願っての行動だとは思えないのですが?」「大陸の平和など本当にあり得ると思っているのか?」平和を願ったとしても、結局、他人の思惑で戦争は起きる。それなら、この監視され続ける現状を打破したい。「もちろん感謝している気持ちもあるが、 監視されることがこんなにも息苦しいとは思わなかった」「では、監視を緩めるよう打診いたします」「今までも機会は十分にあった。その気がないことはわかってる」レイトの決意は固く、結論を求める。「独立を拒否して反乱を許すか、認めて同盟を結ぶか。 平和を願うあなたなら、答えは決まっているでしょうけど」
2020/10/11
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レイトの思惑では出兵をきっかけに、どちらにつくか見定めようとしていたが、方法を変えなければならなくなる。レイトは窓の外を見つめてもどんよりとした雲が広がっているだけだ。雨が降り始めた頃、戦況が変わり始める。「報告っ!南東方面より敵が侵入!」南東にはグラッカ王国との国境があるが、攻め込んできた軍隊は違うようだ。「わざわざ山を越えてきたのか、ご苦労なことだ」もちろんこれは想定内であり、あらかじめ部隊を配置してある。多少苦戦するかもしれないが、食い止められると高をくくっている。危機感は持っていても、心のどこかでは気が緩み、ここに付け込まれることになる。それぞれから不利な戦況が報告され、応援を要請される。詳しい報告によると、敵個々の力が強化されており、特にグラッカ王国方面は激しく押されているという。「してやられたな。おそらく高山訓練でもしてきたんだろう」「とにかく予備兵を送りましょう。至急、増員の手配もしなければ」拠点を奪われれば、取り返すのも手間がかかる。が、「逃げ場を無くしてすりつぶすのも悪くないな」高山訓練をしているのであれば、今争うのは厳しい。強化効果がずっと続くわけではなく、時間が経てば弱まっていくはず。その作戦は前線に伝わり、あきらめたように見せかけて拠点から退く。喜ぶ敵をしり目に、バフタールの補給路を断つように軍隊を配置する。バフタール軍は二つの拠点を結ぶために出撃する。それに対してイグリス軍は補給路を断ちながら、余力ある部隊が拠点をつついていく。強化効果が薄れてきたのか、補給路を断たれた焦りからか、戦力は拮抗し始めていく。だが、バフタール軍もこれで全兵力を出し切ったわけではなく、グラッカ王国方面からの第二陣が参戦する。再び士気を取り戻したバフタールが南東の補給路を回復させる。それでも、バフタールへの直接的な補給路を取り戻せないまま、時間が経つ。イグリスにとっては予定通りに事が進み、各地からの応援が続々と流れ込んでいく。「逃げるそぶりが見えたら迷わず追いかけろ。ひとりでも多く仕留めるぞ」
2020/10/04
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数日後、フューリッドにようやくイグリスからの知らせが届く。判断は任せるという言葉が、余計に悩ませる原因になっている。「噂とは状況が違う。これを出したあとで急変したとも考えられる」まず、噂が真実とは限らず、バフタールが意図的に出したものとも読める。それでも、急変したと仮定して対抗策を考えたほうがいいのではないか。そのときのために前もって準備しておく必要があるわけだが、それで間に合うのか、という疑問はぬぐい切れない。たとえ間に合わなかったとしても、とレイトは前置きしてから、「国境沿いを斬り取れれば、最悪の場合になっても交渉材料にできる」レイトの話を聞いたゲイドモールは、別の考えを口にする。グラッカ王国を押しのけるのに時間がかかるだろう。イグリスも一時的に奪われたとしても、それで引き下がるわけではなく、取り戻すための余力は十分に残しているはずだ。「だとしても、同盟を破ったことを黙って見ているわけには・・・」むしろレイトの方が出兵に意欲的だ。しかし、ゲイドモールたちは慎重になっている。不用意に戦禍を広げるのは得策ではない、というのが根本にはある。戦争には金がかかる、その割に得られるものは少ない。滅ぼして自国に取りこめられればいいが、そう簡単にはいかない。「今回は守る戦い。これくらいのことなら任せておいても問題ない。 我々がやるべきことは、国力を高めることだと思います」レイトは納得できる部分もあるが、不安に思うところもある。「長引くくらいなら、一気に終わらせた方が費用はかからないかと」これにもゲイドモールは持論がある。費用とは出兵にかかる費用だけではなく、その間、普段できることができずに手つかずになってしまうということ。今、出兵するということは、水路計画にも影響を与えるのは必然で、これと比べれば、不利益を被るとみて間違いない。「多少、状況が悪くなったとしても援軍を出す必要はありません。 お気遣いは感謝いたしますが、これで負けるようでは、 今後のイグリスに未来はありません」レイトは今までに見たこともないゲイドモールの気迫に圧され、これ以上は何も言わず、この話を終わらせるしかない。(まさかここまで拒否してくるか。これからどうするべきか・・・)
2020/09/27
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南側のイグリス経由に比べて、北側のバフタール経由は距離が短い。「不利な状況を流せば、判断も鈍る。この時間差は大きい」しかし、イグリスの援軍要請を拒否しようにもできない可能性もある。そのときのためにグラッカ王国へ出陣要請はしてあるが、全てを防ぎきれるわけではなく、長引く前に終わらせる必要がある。作戦としては、二方面に展開して辺り一帯を制圧するというもの。これをきっかけにそのあとを有利にしていこうとしている。「準備が整い次第、動くぞ。気取られないように注意しておけよ」バフタールに攻め込まれたイグリスは、落ち着いて対処している。常日頃から意識していたこともあり、想定通りに事が運んでいる。そして、フューリッドへの援軍要請についても議題に出る。「今の状況ならわざわざ出すべきではないでしょう」このまま抑え込めるのであれば、何の問題もないが、わざわざ仕掛けてくるぐらいだから、何かしらの狙いが必ずあるはずだ。狙いが見えないうちは用心するに越したことはない。だからといって、援軍が来ることは容易に予想できるわけで、何らかの対策を施してあるとみて考えたほうがいい。「援軍を要請するなら、バフタールを一気に崩すくらい反撃していくべきです」立ち直る余力を奪うくらい徹底的にやらなければ、この先もずっと緊張感をもって対応していくことになる。もとをたどれば、フューリッドに攻め込んでいった際、バフタールとの決戦まで持ち込んでおけば・・・といっても仕方がない。バフタールが存在している限り、戦争をなくすことはできないのかもしれない。とはいえ、ゼロにしようとすると反発はとてつもないものになる。「秘策を持って攻め込んできているのは間違いない。 全力で立ち向かえられるように準備しておけ」イグリス王の判断は、ここで力の差をバフタールに見せつけることで、士気を落として抑え込む、というところまででとどめる。全てを飲み込むには時間がかかりすぎてしまう。フューリッドについても、実行するかどうかは、ゲイドモールたちの判断に任せる、とする。「フューリッドの繁栄は諸刃の剣だ。我々の力が弱まれば、 隙を突かれてひっくり返されるぞ」
2020/09/20
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重苦しい空気が漂い始めたそのとき、「働ける者はこの国のために尽くさねばならぬ、 この町に縛り付けておくのはもったいないこと、そうは思わぬか?」長老の一言で意見はまとまっていく。「移動を希望する者は名乗り出てくれ。現時点での人数を確認したい。 条件があるなら、それも教えてくれ」各町への説得も順調に進み、受け入れるための住居が急いで建てられる。それが終われば、民の移動が始まり、本格的な計画が遂行される。ここまでくればヨーディたちの任務は完了、戻って報告する。「よくやった。そもそも失敗すると思って行かせてはなかったけど」二人だけの時以外で砕けた言い方をしてしまうほど、レイトも喜んでいる。ヨーディはついに、エインテルとして堂々と認められることになる。それは、レイトの傍で日々を過ごす、ということを意味している。「お前にとっては、ヒマな時間が増えるかもな」「謹んでお受けいたします」ヨーディはあくまで丁寧に頭を下げる。そうは言ったものの、やはり今後のことも気にはなる。「ですが、最後まで見届けさせてもらえないでしょうか?」手に汗を握りながら、ヨーディは希望を出してみる。「やっぱりそうなるよな。最後までやってこい」ヨーディは三度、北上していく。フューリッドでは水路計画が着々と進んでいく一方で、バフタールでも、とある計画について話し合いが行われている。「もうそろそろ出来上がる頃だと思うが、うしろについてはどうするべきか?」うしろとは、フューリッドのことを示している。以前、レイトへの手紙を送ったものの、これといった動きはない。「あてにならないものをあてにしても意味はないでしょう」「そうは言うが、挟まれることになれば、さすがにきついぞ」「ということは、動かなければいい、というわけですか」条件を付けて引き入れようとすれば、余計な出費もかさむ。その資金を足掛かりに、繁栄されるのもまた困ったものでもある。「イグリスからの要請があったら、動かざるを得ないのでは?」「そうなる前に戦功をあげる。向こうに状況が伝わるのは、 南側で遠回りするしかなく、どんなに早くても三日はかかる」
2020/09/13
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ヨーディたちはオポアに出向き、話し合いの場の中にいる。「残る者たちにまで保障、ですか。言いたいことはわかりますが・・・」あとに続く言葉は、そこまでの予算はない。「金銭面だけではなく、待遇面で調整しましょう」いつでも好きな時に、とまではいかないまでも、故郷に帰れるように考慮する。期間についても希望を聞き入れられるようにすれば、移動して来る者たちについては、補償金を抑えられるはずだ。「なるほど。それなら家族を残して出てくる者も増えるかもしれない。 予算には限度があります。それだけは忘れないようにお願いします」フューリッドにとって無理難題になっては元も子もない。ヨーディたちはそれぞれの地方に分かれて交渉に向かう。ヨーディは町長の元を訪ね、話をしていく。話を聞き終えた町長は、急な話に困惑気味で、懐疑的でもある。以前、バフタールに途中で投げ出されたことが、記憶に残っている。期待させるだけさせておいて、結果的には何も変わっていない。「それでも戻ってきたのは、ここが我々の故郷だから、です」貧しい暮らしだとしても、この町には愛着がある。その想いを押しのけてでも移動を要請するというのなら、なんとしてでも完成まで足を止めることは許されない。「それができますか?」町長は眼光鋭く見定めてくる。ただ残念ながら、すべての人を救い上げることはできない。ならば、一部の人だけでもまずは救い上げることによって、その人たちが残された人たちに手を差し伸べてもらうようにする。そうすればいずれ、みんなに行き渡るようになる。「これはやり遂げなければならないことだと認識しています」ヨーディは深々と頭を下げてお願いする。「そこまで申されるのであれば、協力いたします」協力するにあたって、移動先の住居を確保する必要がある。希望する人数を知るためにも、住民に説明する機会が求められる。翌日、朝から住民に対する説明が行われる。期待と不安が入り混じるものの、やはり別の町に造られる、ということで否定的な意見が多くなる。だとしても、今後の町の在り方を考える時が来ている。このままではいずれ廃れていくことには変わりはない。
2020/09/06
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ヨーディは部屋から出ると、やることを反芻している。「水路の道筋としてはだいたいこのとおりでいいだろう。 まずは水路を通さない離れた町に住む民に理解と移動の手配を整えろ」各町に赴き、了承を得るというだけでもかなりの時間がかかるに違いない。(そのあとは移動先の住まいも用意しておかないと・・・)ヨーディは考え込み、「あ、やっと戻ってきた」と言う声も聞き逃すほどだ。肩を掴まれてようやく気付き、ケジたちが心配そうに見ている。状況を説明すると、「なんか話が大きくなりましたね」と返ってくる。「俺たちもやりますよ。このまま終わらせるつもりもなかったし」そう言ってくれたことで別れて向かうことができる。「くれぐれも無理強いはしないでくれ。協力が必要不可欠だし」ゲイドモールからは強制的にでもと言われたが、そうしたくはない。人手はいくらでも必要になるし、移動できない人もいるだろう。「残る人にも何かしらの保証をするべきなんじゃないか?」保障については向こうで調整しろと言われているし、変更しようと思えば、それほど難しくはないはずだ。ゲイドモールは珍しく口調を緩めている。「想定通りに話は進みました。お見事でした」「本題はこれからだ。実際に事を為せるかどうか、あいつにかかってる」これまではヨーディの思考を予測して、うまく誘導させることに成功する。これからは大規模な計画を成就させるためにどうしていくべきか。以前にも計画として出されることもあったが、結局は実行までに至っていない。その理由は、二度、移動を余儀なく負わせているからだ。バフタール領となって移動を強いられ、フューリッドに返されてまた元に戻り、また今度移動しろとはなかなか言いづらいものがある。不平不満を募らせる原因ともなりかねず、この任務を任せてもいいのか、思案中の案件でもある。「あの者に任せてよかったのでしょうか? 誰に任せても不安が拭えるわけではありませんが・・・」一度失敗すれば、次にお願いしたとしても余計難しくなるだろう。やるからには失敗は許されず、一発で決めなければならない。レイトは目線を上げて、自分にも言い聞かせるように話す。「イチから這い上がってきたあいつならできるはずだ」(地の底から這い上がってきたあいつなら、な)
2020/08/30
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アロギラとの交渉は思うようにいかなかったが、フューリッドが先頭に立って着手するとなれば、協力は厭わないという。「フューリッドにとっても悪く無い話であろう。 完成すれば、皆が喜び、感謝するに違いない」港町に戻ったヨーディは、結果を聞いてため息を漏らす皆に言う。「だが、今度はフューリッドに頼んでみる。それまで待っていてほしい」これで一旦、任務を終え戻ることにする。四人で戻り報告を終えると、「そうか、わかった。戻っていいぞ」ヨーディはまだ言っていないことがあると言うと、相手は渋い顔をする。それでも強く願い、頼み込むと、時間はかかったがレイトとの面会が許される。川を利用して水路を造り、物資の流れを早くして経済を回していく。「よく考えてきた話だとは思うが、根本的なところが見えているのか?」やはり問題となるのは金銭面である。不確定要素が多いと指摘される。費用に比べてどのくらい効果が生まれるのか、目算よりも余計に費用も時間もかかるに違いない。「それでもやるべきだと、俺は思う」ヨーディが心情に訴えれば訴えるほど、レイトは冷静に見つめていく。「お前はその町に行ったから、気持ちがうつってるだけだ。 他の町に行っていたら、そこの町にいる人の気持ちに引っ張られる」さらにレイトは疑問点を浮かび上がらせる。「それに港町はそこだけじゃない。当然、他のところにもある。 その町に水路を造るなら、他の町のことも考えてしかるべきである」レイトの正論によって、部屋中に沈黙が広がっていく。このまま話は終わってしまうのかとヨーディの焦りは募るが、何ひとつ方法が浮かんでこない。しかし、退出を命じられることのないまま時間が過ぎ、「そうは言っても、何もやらないままと言うわけにもいかないのも事実」今まで黙っていたゲイドモールが口を開き、「水路を造ることでいくつかの町は廃れるとみて間違いないでしょう。 それを見越して強制的に民に移動してもらう必要があります」ゲイドモールはヨーディをじっくりと見つめ、「それをエインテル、あなたにやってもらいます。できますか?」ヨーディは気圧されながら、「やります」と言うしかない。
2020/08/23
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ヨーディは「あなた方のうちの誰か」として話を進めていく。「このような形で訴えるべきではなかった。直訴するべきでした」相手が黙っているのを見て、ヨーディは続ける。フューリッドへの依頼を裏から手をまわして失敗させ、問題を重症化させることで資金援助を取り付けようという作戦だったに違いない。本来の目的を読まれ、ようやくあきらめたようだ。その顔は悔しさでゆがみ、「直訴したところで何も変わらない。・・・変わらなかった」だとしても、そのようなやり方では根本的な解決には至らない。ヨーディたちもどうにかしたいと思い、一時的なものであっても、滞在している間はお金を落とすことを念頭に置いている。「完全な解決を目指すために、もうしばらく居させてもらいます」ヨーディには考えがあり、交易交渉しようと画策している。少なくともそれが終わるまではここにいることになる。ヨーディは交渉内容を精査してひとりで出発準備に取り掛かる。善は急げでヨーディは交渉に向かう。「それで、わざわざその港町からやってきたというのか」話を聞いたアロギラは難しそうな顔をしている。ビルクは今、新しい店に出向いていて留守にしている状況だ。判断についてはある程度任されているが、利益のあるものでなければ認められるわけがない。交易対象物としては主に海産物を考えているが、加工しなければ内陸には運べない、というのが壁になっている。「何とかして新鮮なまま運べれば、大きな利益となるはず」その利益のためにビルクたちも全く考えていないというわけではなく、どうすれば生きたまま運べるのか、頭を悩ませているのも事実。ヨーディたちにとってその方法がまだ見つかっていないというのは、交渉の余地があるということにもなるが・・・。アロギラは試した方法を順番に説明していく。ただ水槽に入れただけではうまくいかず、途中で水を入れ替える必要がある。思いついた方法の中で実行できないこともある。「水路を造って運ぶことができれば・・・」それはヨーディたちも考えていたことである。「これには根本的に問題がある。金がかかりすぎることだ。 フューリッドに頼まないと無理であろうな」
2020/08/16
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ケジたちは捕まえ一人を柱に何重にも縛り付ける。しばらく休んでいたところでヨーディが帰ってくる。「無事か?思ったより大丈夫みたいだな」そう言うヨーディの方がだいぶボロボロになっている。部屋を見渡して捕虜がひとりいることに気付く。「よく捕まえた。これでこいつらの目的もはっきりするだろ」ケジが「捕虜はひとり・・・」と言おうとしたが、人の気配がする。ヨーディのうしろに縄でつながった捕虜が並んでいる。「ひとりで四人も捕まえたんですか!?」仕掛けた罠で逃げられないようにしたのがうまくいった、と言い、「最悪、こいつらだけでも捕まえておかないと。 成果なしじゃ、帰るに帰れない。たとえお前らを犠牲にしてでも」「何言ってるんですか?どうしようもなくなったら逃げろ! って言ってたくせに」ケジは数時間前の言葉を思い出している。ヨーディも逃げずに戦い続けると予想していたが、初の実戦では引き際を見定めるのは難しい。「ケジが行く前に怪我してる可能性もあった。 それが原因で将来を失うこともある」ヨーディたちは真実を携えて報告しようとしている。「怪我は大丈夫でしょうか?襲われたとお聞きしましたが」なんともありません、と答えて犯人たちについて話す。「犯人たちの素性は町の荒くれ者で、今までの破壊行動も認めています」「そうですか、お手数をおかけしました。ありがとうございました」だが、話はこれで終わりというわけではなく、まだ続きがある。「彼らがなぜ、今回は強盗という手段を選んだのか? 今までの破壊行動とはあまりにも内容が違いすぎるとは思いませんか?」ヨーディは質問しているようにみえるが、答えを求めているわけではない。「こんなところと言っては失礼になるが・・・」と言い始め、こんな田舎に長期滞在していて、毎晩騒いでいれば、金を持っていることは誰にでもわかる。だからといって、実際に行動に移すかどうかは別の話。見た目だけではわからない情報を持っていたことから、自分たちを知っている誰かから情報をもらったとみて間違いないだろう。「それが私たちの中にいる、と言いたいのですか?」
2020/08/09
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ヨーディたちは強引に突破を図ろうとしているが、思うようにはいっておらず、囲まれたまま、あっちこっちに移動している。そして、ある場所に来たところで再び強行突破を狙う。周りにいる敵も逃すまいと追いかけていく。それを見たヨーディは仕掛けを発動させて、目の前を塞ぐ。「お前は先に行け。頼んだぞ」ヨーディの声にケジはうなずいてその場を去る。「しまった。罠か」逃げようとする敵をうしろの仕掛けが阻む。ヨーディたちの狙いははじめから、ヨーディが敵をひきつけ、ケジを先に向かわせるというものだ。「俺たちが食い止める。お前らは早くどかして追いかけろ」人数を割いて対応しようとする。ヨーディは詰め寄って圧力をかける。「全員でかかってきた方が早く片付くんじゃねぇか?」急いで駆けるケジに騒いでいる声が聞こえてくる。(まだ耐えてるよな?)幸か不幸か、敵はうしろに意識している様子は全くない。ケジは思いっきり引き金を引き、敵を混乱させる。発砲したのはシュライじゃないと確認すると、敵が振り向き、ケジは剣を振り下ろす。またひとりやられて焦りの色が隠せず、「あいつらやられたのか!?でも、こいつひとりだけ?」「こいつだけならなんとかなる。早く倒すぞ」「この状況じゃ、もう手遅れだと思うけどね」ケジは密かに合図を出し、シュライはすかさず下がって銃で牽制する。シュライがいた空間をゴドックは動きを大きくすることで埋める。そして、ゴドックの隙を狙われないようにケジが敵の背後を突いていく。三人の連携が流れを引き寄せ、敵の士気を奪い、退散させることに成功する。「誰でもいいから捕まえろ。本来の目的はこれからだ」三人がかりでようやくひとりを捕まえる。「お前らのこと、全部話してもらうからな」逃げようとしばらく暴れていたが、ついにおとなしくなる。全てが終わり、ようやく落ち着いたところで、ヨーディのことが気になるようになる。合流しようと考えるが、この部屋を空けるわけにもいかない。ヨーディが自力で戻ってくるのを待つしかないと、休む理由を見つけて、腰を下ろす。
2020/08/02
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隙を突いた二人目が侵入してくるが、破裂音に動きが止まる。無防備になったところをゴドックは見逃さず、確実にひとりを退ける。「こいつ、銃持ってやがる!弾切れを狙っていくぞ」狙い通りに弾を避けて、シュライが充填する隙を狙うもゴドックに阻まれる。敵がシュライの銃弾を避けてくれているうちは、まだ戦える。だが、時間が経つにつれ、多少の傷は構わず前に出て来ようとする。(ここからが本番ですか。どこまで耐えられるか、ですね)シュライは出し惜しみせず撃ち続ける。ついに弾が当たると痛みはあるが、耐えられないほどではない。「なんだよ、おもちゃか。ふざけた真似しやがって」敵の士気が上がり、状況は不利になるが、二人はあきらめてはいない。銃声が間隔を狭めて鳴り響き、そして訪れる静寂が、反撃の合図となる。しかし、踏み出した一歩目で銃弾が飛んでくる。「銃が一丁だと言った覚えはありませんよ?数当たれば我慢できないはず」両手に銃を構えてシュライは奥の手を披露する。(シュライが奥の手を出したか。最終局面だな)ゴドックは守備に専念しているが、前に出る時を見定めている。(シュライが弾切れする前に終わらせないと・・・)焦って前に出る間合いを間違えれば、一瞬にして終わる。だからといって、ヨーディたちが間に合うという確証はない。ここで出なければ、二人で勝つ可能性はなくなるが・・・。生まれた迷いから、守り続けていた身体が攻勢に転じる瞬間をとらえきれない。さらには、剣をはじかれ押し込まれる。(マズい)なだれ込もうとしたところをシュライが止める。意を決してゴドックは攻勢に転じ、剣を振り払って押し返す。そこから追撃するため、剣を突き出して仕留めに行く。またすぐに剣を引き抜いて目の前の敵に備える。ゴドックが作った時間でシュライはできる限り弾を充填する。ひとりずつ倒していきたいが、二人も疲れが見えてくる。「これ以上の時間はかけられない。全員で行くぞ」こうなると今までのようにはいかず、シュライも剣を手にゴドックの隣に行く。ゴドックは右側にいるシュライを気遣いながら戦う。「悪い、もっと早く仕掛けておけば・・・」「いまできることをやる。それだけです」
2020/07/26
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ヨーディのうしろでケジは笑いをこらえきれない。「ここまで読み通りだと、なんだか拍子抜けだな」そんな様子をヨーディは注意するが、本人は気にも留めない。「ここは武を極めた者の出番でしょう。俺の役目は終わりっと」「おわってねぇ。成し遂げてこその策略だろ?」ケジはおしゃべりをやめてヨーディに付き従う。ヨーディはじりじりと前に出る。「お前らの時間稼ぎにあわせるつもりはない。向こうも心配だし」「作戦がばれてるからなんだってんだ!防げば俺たちの勝ちだ」ヨーディは部屋に戻るため前に進む。「うしろは任せたぞ」ケジは一歩遅れてついていく。「無暗に突っ込むのは作戦にないって!」残った二人はこの日も不安を抱えながら、いつか来る敵を待つ。「この時間を狙って襲撃してくるに違いない」ケジの予測に対して、どう対策するかを考えていく。ヨーディの独断でゴドックとシュライに部屋の守備を任せる。「戦い方としては、狭い部屋を生かしたものになる。 中にさえ入り込まれなければ、二人でも十分対抗できる」戦い方を指南するため、武器を手に取らせる。「お前は銃使うのか?シュライ」「自作なんで、殺傷能力はあんまりないですけど・・・」シュライの荷物には大量の弾が入っている。シュライが飛び道具を使うということは、うしろからの攻撃になる。残りのゴドックが必然的に前衛に決まる。ヨーディとケジを相手にここの動きを確認する。「相手は二人以上いるだろうけど、落ち着いて動けば問題ない」連日の練習によって、二人の息も合い始め、シュライが弾を充填する間合いもわかるようになってくる。「戻ってくるまで何とか耐えてくれ」ヨーディたちが出ていく前の言葉が習慣のようになってきている。二人になってからしばらくして外がざわめき、戸が勢いよく開け放たれる。「金出すなら、命だけは見逃してやろう」数人が襲ってきているが、落ち着いて相手の動きを観察できている。「そんな気は全くないってか、死んでも恨むなよ」最初の一人が動いて、ゴドックが受け止める。その動きを予想して残りの者たちも半歩ずつ前に詰めてくる。
2020/07/19
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翌日、ヨーディたちは作戦会議に移っている。「黒雀を現行犯で捕まえるのは難しそうですね」「その前に何の目的で破壊行動を起こしているのか考えるべき」目的が分かれば、解決策が見いだせるとケジは言う。ヨーディは気になっていたことを聞かずにはいられず、聞いてみる。「ケジ・・・お前のその、恰好はなんだ?」昨日までと違って派手過ぎる服装に違和感を感じている。「俺はハデなのが好きなんで・・・と言うのはウソですけど」依頼の話を聞いてからずっと考えていた持論を展開して意見を求める。「それって・・・あんまりにも極端な気もするが」「こう考えれば応援要請する理由もわかる」このまま状況を見続けたとしても敵の正体が分かりそうにないと、ヨーディはケジの作戦を受け入れる。それから数日、とある部屋では数人が集まってきている。「エインテルが応援に来たというのは本当か?」「そう聞いてるが、あいつら毎日騒いでるだけだぞ!」昼間は何か調べているようだが、夜になるとずっと騒いでいる。計画ではもう少し様子を見るつもりではあったが、すぐにでも実行しようと苛立ちを抑えきれなくなっている。「一応、エインテルだけは注意しておこう。他は名家の御子息だとよ」さらに数日後の夜、ヨーディたちの部屋は相変わらず明かりがついている。虫の音が広がる夜更けに、戸が開いて二人出てくる。「出てきた。作戦通りに行くぞ、ぬかるなよ」夜風にあたりながら、二人はふらふらしながら歩いていく。(よし、そろそろ仕掛けるぞ)と目で合図して一斉に襲撃する。「なんだ?」驚いた声とは裏腹に、軽快な体さばきを見せる。思ったほどの流れを引き寄せることはできず、「エインテルはこっちか。気合入れていかなきゃな」すぐに仕掛けることはせず、距離を保って時間をかける。その理由はエインテルがいるからではなく、こちら側が引き止め役だからだ。残りの実行犯は、もといた部屋に乗り込んでいる。「金目のものを全部出せば、命だけは見逃してやる」だが、そんな脅し文句を言われてひるむわけもなく、「命も金もくれてやるつもりは微塵もねぇ!」
2020/07/12
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数日かけて目的地に向かう間、ヨーディは三人のことを聞いていく。それぞれ同世代ではあるものの、面識があるという程度だという。雰囲気からして性格や特長が異なっている感じがする。三人は未成年で遠征した経験もない、ということを聞いたヨーディは、「おそらくだけど、これ以上、資金が増えることはないと思う。 長期化することも考えて、無駄遣いはしないように気をつけよう」ヨーディの言葉に理解を示しながらも、「多少は持ってきてます」とそれぞれが口にする。「それにしても、お前は荷物多すぎねぇか?シュライ」「そんなことはありません!しっかりと考えればこれくらいは必要です」慎重なシュライに対して、ケジは真裏の考え方をしている。「むしろ現地で金を落とすべきだと思うけどね」意外ともっともなことを言うケジに一同は納得する。一日目の行程を終え、狭い部屋にみんなで休んでいると、ヨーディはゴドックの荷物に足を引っかける。それは予想以上に重く、突っ伏しそうになるのを必死でこらえる。「おもいな!なにいれてんだよ」「あー、すいません!重石入れてるんで」ゴドックは自主訓練に力を入れているようだ。「俺は今回、役に立つかどうかわからないんで」「ほどほどにしておけよ。いつでも動けるように」日程通り、目的地に到着する。「今回、依頼を承りました。エインテル・Y・オルディックと申します」「なんと!あのエインテル殿が来ていただけるとは。感謝申し上げます」挨拶もそこそこに依頼内容について詳しく聞く。ここ最近、器物損壊事件が多くなってきているという。それだけなら応援を呼ぶほどではないが、ひとつひとつの事件が関連していると思っているようだ。その理由が犯行現場に残された印。爪痕を交差させているもの。「我々はそれを黒雀、と呼んでおります」この集団が今後、大きく影響を与えるかもしれない。その前に早急な対処をしなければならないと危機意識が高まり、今回の応援要請に至っている。
2020/07/05
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ビルクはこれからの状況を予測している。イグリスにおけるフューリッドの立ち位置が変わるかもしれない。イグリスとバフタールの関係が悪化したりすると、フューリッドを引き込んで優位に立とうと考えてもおかしくはない。そうなれば、共闘するにあたって条件が良くなっていくはずだ。その一例として、監視の緩和が考えられる。「ま、期待はしてねーけど、がんばれや」ビルクたちが帰ると、ヨーディの日常が戻ってくる。「隊長の名前、初めて聞きましたよ」「まあ、隊長としか呼ばれないからな」ヨーディはガディーバ隊長とともに訓練に明け暮れる。「張り切り過ぎるなよ。怪しまれるかもしれないし」ビルクに言われたことを気にしつつも、それでも肩に力が入る。そんなとき、呼び出しがかかる。任務だ。「ある地域で事件が起こっているという。 そこからの応援要請のため、お前を派遣することになった」詳しくは向こうで話を聞け、ということだが、ヨーディひとりだけではなく、数人を派遣するという。「残りの者は呼び出し中だ。少し待て」数分後、三人が次々と入ってくる。同じように説明が繰り返される。場所は北東部の港町。費用についてもある程度渡される。もし長期化するようであれば、追加分を送ることも検討するという。「準備ができ次第向かってくれ。武運を祈る」ヨーディたちは二時間後、城門前に集合すると示し合わせて解散する。ヨーディは準備しながら、言われたことを思い出している。「今回はお前が班を率いて事に当たってもらう。 見ればわかるはずだが、あとの三人はお前よりも若い。 大変かもしれないが、経験を積ませてやってくれ」集合時間前には全員揃い、出発する。「俺はエインテル・Y・オルディック。よろしく」「知ってますよ、名前くらいは。俺は、ソアルディ・ケジです」「俺はボード・ゴドック。よろしくお願いします」「僕はマナトア・シュライです。お願いします」ヨーディは知らなかったが、この三人は名家の子息である。ヨーディは不安を感じながら、目的地を目指す。
2020/06/28
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レイトは納得して一呼級置く。「配置転換したとしても根本的な解決にはならない。 士気の問題については、それこそ隊長に頑張ってもらうしかない」レイトは手紙の内容について考えている。(今はどうすることもできねぇ。そもそもどうするつもりもないが。 余計な手間をかけさせちまったな・・・)ビルクたちはようやく気を楽にして談笑している。ヨーディが国外に出ていたことを聞いて、ビルクは驚いている。「俺より先に国外に出やがって。どうだった?」ヨーディは見た感じ、そこまでの差はないと率直に言う。ただ、ところどころに過去の戦争の爪痕が残っていて、フューリッドからも攻め込んでいたという証拠を目の当たりにする。「チッ。着々と名実ともにエインテルになってんじゃねーか」そこでヨーディはアロギラに面と向かう。「エインテルとしての立ち振る舞いを教えてもらえませんか?」畏まった言い方をするヨーディを見てビルクはにやついてちゃちゃを入れる。一方でアロギラはレイトに言ったことを繰り返す。肩を落としたヨーディにアロギラは付け加える。「お前はお前が思うように、レイト様を支えていけばいい。 昔と今じゃ、ここも周りの国々も状況が違うのだからな」満足げに話しているアロギラに対してもビルクはにやついている。「こういう話をしようとずっと考えてたんだろ?満足したか?」「お前も他に言うことはないのか?まともに話す機会なかったであろう?」ビルクは言いたいことは以前と変わってない、と言ってから付け加える。「レイトには直接言ったし、その上での言動なら、 ヨーディに言われて考えを変える可能性は低いかもしれねぇ」ビルクの頭にヨーディがレイトに論破される姿が目に浮かぶ。それよりも何よりもまず、ヨーディがレイトの近くにいないのが問題だ。「こればかりはイグリスの壁をどう超えるか、じゃな。 信頼を得るしかないのはそうだが、完全に得られるものでもなかろう」無理難題なことを言われているようで、ヨーディは怒りと困惑の色を示す。だが、ビルクはある考えを持って口を挟む。「今までならそうだった。が、これからもそうだとは言い切れない」
2020/06/21
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ヨーディは考えるのを放棄し、「そのまま言っちまえばいいんじゃねーの?」「そういうわけにはいくか。疑われたら終わるんだぞ」ビルクは考えが浮かんだようで、「イグリスの奴らに用事はないのか?」イグリスの奴らを呼び出している隙にレイトに渡すという方法だ。「いや、用事は作ればいい。となると、あとは・・・」ビルクの手紙はウォルバーに託される。なにがなんでも二人を部屋の外に誘い出し、扉を閉める隙にレイトへの手紙を差し込むという算段だ。部屋の外で話をするために、「レイトには知られたくない」と言えば、おそらく問題はないはずで、あとは二人とも出てくるかどうかだ。ウォルバーは速やかに移動し、実行に移す。厳しい顔で部屋に入ると、ゲイドモールにひそひそと話しかける。ウォルバーの思いがけない行動が功を奏したのか、二人とも話を聞くために立ち上がる。ウォルバーの状況説明を聞きながら、ゲイドモールは手紙を開く。「フューリッドではなく、イグリスと直接取引がしたいというわけか。 はたして、信用していい話なのか?」「あなたは護衛隊長として、この行動は正しいと思われるのですか?」「初代・エインテル殿にはお世話になっていたこともあり、 今回だけは頼みを受けることにしましたが、審議には口を出すつもりはありません」直接取引によって得られる利益はさほど変わらない。だが、レイトが市民からの信用を得られていないとなれば、今後の方針に影響を与えることになる。役目を終えたウォルバーは戻り、ゲイドモールたちも部屋に入る。「何か問題か?」レイトは目線を落としたまま尋ねる。「問題と言うほどではありません。城の警備について、 体制の変更を願い出てきたという次第です」担当する任務時間を短くすることで、任務に対する集中力を持続させたいという、現場からの要望が出ていると。「ここで話してもいい事案だと思うが?」「警備以外の任務がなく、隊員の士気も下がりつつあるとのこと。 まぁ、気持ちはわからなくはないですが・・・」レイトの外出に同行する機会も最近はなく、そのことで気を煩わせたくはないとウォルバーなりの心遣いだ。配置換えも含めて考えていただきたいと。
2020/06/14
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これまで黙っていたアロギラが口を開く。「もっと反論するかと思っておったが、さすがに遠慮でもしたのか?」反論を控えた理由として、ビルクはレイトの様子にあるという。「脅し文句をつけて取引するような奴だとは思わなかった。 それに、あいつは本音を隠してたような気もする」ビルクはそれ以上何も言わず、考え込んでいる。それから現在、ビルクたちはレイトとの面会を果たしている。「今回はご挨拶できる場を設けていただき感謝申し上げます」面会中は終始、アロギラが話をして終える。本来の目的はこれからにある。以前と同じ部屋ならば、そこにいるはずだ。扉を叩くとちょうど人の気配がする。「ん?え?ビルク?」ヨーディの現状を聞いたのち、ビルクは本題を切り出す。「これ(手紙)を渡してきてくれねぇか?」と言われたヨーディは困惑している。「さっき渡し忘れたのか?」と言う疑問に、「レイト以外には知られたくない」という理由でヨーディは納得する。そうはいうものの、レイト以外には知られたくないというのは至難の業だ。それに、レイトに会うことすら簡単ではないというのが、今のヨーディの立場である。話が行き詰まる中、不意に扉が開き、「今から行くが、お前はどうする?」「先客がいたのか、失礼・・・」出ていこうとしたそのとき、二人に目が行く。「あなたは、まさか・・・」隊長の見たこともない様子にヨーディは首を傾げる。「ウォルバーか?懐かしいな」アロギラは思わず口元を緩める。思い出話が長引く前に、ビルクは咳払いで止める。アロギラはレイトへの手紙をウォルバーに頼むと、二つ返事で受け入れる。それを見ていたヨーディはビルクにこっそりと不安を口にする。「俺が言うのも変なんだけど、隊長ははこういうの不向きだと思う・・・」ビルクも不安を感じていたようで、「具体的な方法をお聞かせ願いたい」と。ウォルバーは神妙な顔つきになり、あれこれと考え始める。「そう言われると、難しいようにも思われる」ずっと見ているわけではないが、レイトに会うときには、必ずイグリスの者たちが付いて来ている状況だとウォルバーは語る。方法が見つからないまま、時間ばかりが過ぎていく。「このまま諦めて帰るしかねぇのか?」
2020/06/07
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バフタールからの帰り、レイトはビルクのところを訪ねている。ビルクはひとりで来ていることに驚きながらも、イグリスの監視下にある状況を考えれば、最善の策だと理解できる。「今回は何の御用で参られたのでしょう?」「今日は本音を語り合いに来た。今日ならそれができるだろ」ビルクたちが何も言えないままでいると、レイトは続ける。「これから協力関係をより強くしていくために、 フューリッドの一員として仕えてもらいたい」またアロギラに対しては、「初代エインテルとして後見を頼みたい」と言う。レイトの要望に対してまずはアロギラが答える。「今更、年寄りが出張っていくものではありません。ご容赦を」その間、考えを巡らせたビルクは、「俺たちにとっての利益はどこにある?フューリッドに仕えろと言うが、 やりたくもねー仕事やらされるだけだろ?」レイトは表情を変えず、ビルクの希望について聞いてみる。ビルクは勿体ぶりながら、希望「過去の清算」について語り始める。それを聞いたレイトは、ビルクとヨーディがあのときの一味にいたことを再確認する。「あいつが最初、エインテルとして認められたとき、そんな気はしてた」そして、レイトは一呼吸おいてから、「それには応えられそうにない」と言う。今のフューリッドに置かれている状況を説明していくが、ビルクにとってもそれはよくわかっている。これだけが唯一の条件であり、絶対に譲れないとビルクは念を押す。「お前にとっても忘れられない事件のはずだろ!? もっと言うなら、討伐隊も処罰してほしいくらいだ」感情的になるビルクに対してレイトはあくまで冷静に、「やり方はどうであれ、こっちからすればお前らは同じだ。 結果として、アルケデニックの謀略に嵌まったというわけだ。 どうしてもと言うなら、生き残りとしてお前らを罰することになる」「なんだと?あいつも罰するっていうのか!?」レイトの言葉にビルクは動揺を隠せず、レイトに付け込まれる隙を与える。「もちろんそんなことをするつもりはないが、こっちの提案を呑んでくれれば」ビルクは冷静を取り戻してから、仕官の話は改めて固辞する。「市民には市民にしかできないこともある。できるだけのことはする」その言葉でレイトは満足したかのように去っていく。「うまくはいかねぇもんだな、やっぱり・・・」ビルクは無意識にため息を漏らしている。
2020/05/31
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バフタールの狙い通り、時間稼ぎがうまくいっている。それでも不安がないわけではない。「動くべき時に動けるような状況じゃなくなってきてるわけだし」バフタールの準備が整ったとしても、イグリスに攻め込めるわけではない。前提としてフューリッド・ゼリクトアとの足並みをそろえる必要がある。しかし、連絡を取ることすらままならないのが現実だ。「うまくいくかどうかわかりませんが、つてを探ってみます」ビルクはめんどくさそうに手紙を放り投げる。「無視しても問題ないが・・・、つなげるだけつないでやるか」「それは、レイト様がバフタールと組むと予想している、ということか?」ビルクはその質問にはあいまいにしたまま、「どういうつもりでいるのかはわからねぇが、何か企んでるに違いない」そう言いながら、白い紙に手を伸ばす。「じゃが、どうやって届けるつもりじゃ。人知れず渡すことなどできるのか?」よくよく考えてみれば、その方法はかなり面倒なことになる。トワールに渡したとしても、イグリスの目をかいくぐることができるとは思いにくい。それ以前にトワールに知られるのも気持ちがいいものではない。となれば、残っている選択肢は・・・。「あいつがどこにいるかわかるか?」「はっきりとは言えんが、新規訓練は終わったであろう。 エインテルとして認められていれば、城に戻っているだろう」「城、か。それ相応の理由がねぇと入れねぇじゃねーか」城に行くとなると、ヨーディに会うというより、レイトに会う方が早いだろう。ヨーディが城にいない場合、レイトのところまで行きつけるのか、その方法が見つからないような気がしてくる。今度はアロギラが笑い始めている。「会いに行く理由ならば、おあつらえ向きのがあるであろう?」アロギラの考える理由とは、レイトに挨拶しに行けばいいというものだ。それはレイトに従うということを意味している。ビルクは明らかに嫌な顔をするが、「それしかないってんなら、そうするしかねぇか。 こうなるんだったら、この前に話しとけよ。まったく」
2020/05/24
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戻ってきたヨーディは新たな配属先へと向かう。「本日より、お世話になります」すると、奥の方からどたどたと騒がしくなる。奥から出てきた大男はヨーディを見るなり、「お前が、そうか!そう畏まるな。 うちの預かりとはなっているが、自由に出入りしてくれればいい」どうやらヨーディのことは覚えていないようだ。(そりゃ、覚えてないか。あのときにちょっと会っただけだもんな・・・)「よろしくお願いします。隊長」今後は護衛隊とともに訓練に励みながら、個別の任務に対応していくことになる。イグリスでは、バフタールとの交易問題が沸き上がってきている。少し前から価格の見直しを迫っているが、それから話は滞っている。同盟関係であるため、強く主張しているわけではない。また、経済的な格差は明らかであることもその一因となっている。しかし、このまま黙ってみてはいられないという意見が出る。反対意見として、この状態のままを保っていれば、いずれは反発する力すらなくなるであろう、と述べる者もいる。「今もなお何かを企んでいる可能性があります」企んでいるということで思い浮かぶのは、兵器の開発だ。とはいえ、イグリスもまた兵器開発に着手しているが、思うような成果には至っていない。「今なら兵力差で押し切れます。今こそ後顧の憂いを絶つべきです」兵力差についても疑問符がつく。「万が一にでもフューリッドやゼリクトアがバフタールにつくようなことになれば、 追い込まれるのは我々の方だぞ」「そうならないために人質がいるのではないですか!?」人質を使えばうまくいくとは思われるが、そのあとの関係に悪影響を及ぼす。「よくそんなことが言えますね? あの計画を立てた人の口から出てきたとは思えません」あの計画とは、バフタールの船を襲わせておいて、その犯人をフューリッドに擦り付け、レイトを引きずり落とそうとしたことだ。「あの計画がこの現状を生み出していることをお忘れなく。 もうすでにフューリッドが疑心を抱いていることは容易に想像がつきます」「状況は刻々と変化する。変化に応じて考えるのが私の仕事です」話し合いは結論まで至らず、現状を維持させるしかない。
2020/05/17
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ヨーディはまた城に戻ってくるように言い渡される。だが、「現在進行中の訓練課程については、最後までやり遂げてもらう」というわけで、訓練課程が終わるまでの間、ナキュアに留まることが決定する。それから、最後には修了試験があるわけだが、もちろん合格が必須条件だ。「言わなくてもわかっているだろうが、ただ合格すればいいというものではない」ヨーディに求められているのは、エインテルという名にふさわしい結果だ。翌朝からヨーディはより一層鍛錬に励む。周りを気にしないヨーディに対して、周りからの視線は集まっている。ヨーディの噂は広まっていて、野心を抱く者から付け狙われる。「お前に勝てば、俺がエインテルってことでいいんだよな?」1対1の勝負ではあるが、次々に相手が現れるヨーディにとっては連戦となっていく。それが毎日のように続き、ヨーディの疲れはたまっていく。どんな理由があろうと負けるわけにはいかない。その意地だけがヨーディを動かす原動力になっている。そしてまた1日が終わり、挑戦者たちが待ち構えている。「クソッ。あと少しだってのに」最後の挑戦者が不満を垂らしているのを、ヨーディは地面に座り込んで眺めている。周りで見て居るやじ馬たちの中にはちらほらと気付き始めている。(あんなに疲れてるくせに勝てないんじゃ、普通のときだったらどうなんだよ・・・)(これって、挑めば挑むほどあいつが強くなるだけだよな)挑戦者は減り始めたものの、全くいなくなるわけではなく、最後まで続いていくことになる。修了試験を終えた最終日、ヨーディは文句なしで合格を伝えられる。「今までありがとうございました。 ここで学んだことをこれから生かしていきたいと思います」振り返ったヨーディは、照れ臭そうに笑う。「お前らも悪かったな。わざわざ特訓に付き合ってくれて」「なんだよ!気づいてたのか」「そりゃ、そうだろ。気迫が全然なかったし」「そんなら話は早い。今後、引き上げてくれるんだよな?」「んな権限あるわけねーだろ」ヨーディはもう一回ありがとうと言って頭を下げる。長い訓練が終わりを告げる。
2020/05/10
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レイトは一足先に城に戻って話し合いを始めている。その内容に一同は驚くが、すぐさま冷静を取り戻して考えることに集中する。「これで目標値に届くことができる。あとは予定通り進めていくだけだ」レイトはあえて鼻につくような言い回しをする。様子を見られているゲイドモールは沈黙を保っている。フューリッドとバフタールの取引はイグリスとの取引にも影響する。価格もさることながら、その量も当然改めることになる。全体の総量が変わらなければ、価格を下げた分だけ利益が減るということ。そう考えれば、そこまで損をするという話ではない。はたしてイグリスを意識するあまり我を失っているのか、わかったうえでの提案なら、真の目的が隠れているはず。「どちらにしても報告しなければなりません。 取引したいという許可をもらえるように連絡します」それからレイトはゼリクトアとの取引についても議題に挙げる。「実は先行して話をつけに行っている。問題なくまとまるはずだ」「そうですか、とりあえず今は連絡を待つしかありません」数日後、ヨーディはナキュアに戻っている。「よくやったな、なんかあったらまた頼む」と言われて任務を終える。ヨーディは部屋に戻ると、どっと疲れを感じてくる。そこまで久しぶりではないが、レイトに呼ばれたあの日から、あちこち行っていたことに感慨深くなる。いつのまにか無意識のうちにヨーディは眠りにおちている。レイトたちの前で報告を終えたヨーディは、異様な空気を感じ取っている。その空気感の原因は、エインテルの名を無断で使ったことだ。「そのことについて、何か言いたいことはあるか?」ヨーディは無断で使ったことを謝罪したうえで、こう答える。「エインテルの名を穢さないよう、言動には注意したつもりです」そのあとは、ヨーディを置き去りにして話は進められていく。賛成も反対もどちらの意見も出るが、最終的には名前の使用を認めるという方向に流れていく。決定的となった理由は、他国から認められたからだ。「今後もさらに精進するように」
2020/05/03
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ヨーディはぶつぶつと念仏を唱えながら、城門に降り立つ。「フューリッド領のエインテルと申します。ゼリクトア王にお会いしたいのですが」急用につき、事前に連絡していないことを謝罪する。知らせはすぐに送られる。「エインテル?は以前、いなくなったのではなかったか?」疑いの声が上がるものの、ゼリクトア王は本物であると確信している。手にしている書状に目を通すと、ヨーディは中へ通される。部屋の中は緊張感にあふれている。「ようこそ、おいでくださいました。早速ですが、詳しい話を聞かせていただけますか?」ヨーディは以前行われていた交易の再開を希望し、価格についても提示する。ひとまず話し終えると、思考している沈黙が流れる。もちろん、ここにもイグリスから出向いて来ている者がいる。「これはイグリスにとっても有効な取引か?」レイトの考えからすれば、輸送効率などを含めれば有効であるとしている。この理屈に誰も異論はないようだ。取引は滑らかに進んでいく。そして、終わろうとしていたそのとき、「あなたもバフタールに行かれたのですよね?」ヨーディはそうですと答えると、バフタールの状況についても聞かれる。「今回、わざわざ呼び出して交渉してきたことから見ても、 かなり追い込まれてきているとみて間違いないのではないでしょうか」ヨーディは忘れないうちにすべて吐き出す。「いずれはイグリスとバフタールの取引についても見直す時が来るかと。 状況次第では、バフタールを従わせることができるかもしれません」「それができるならどれだけ楽なことか。 強硬な態度をとれば間違いなく、同盟関係は崩れ去る。 バフタールにどの程度の奥の手が隠されているかにもよるが・・・」ヨーディはレイトの想定通りに進んでいくことに、笑いがこぼれそうになる。「簡単なこととまでは言いませんが、可能ではないでしょうか? フューリッドのときと同じです。挟み撃ちにされれば降伏せざるを得ない」そう言われると、納得する者もいれば、しない者もいる。どちらにしても今ここで結論を出すような案件ではない。「まぁ、そういうことになれば改めて話し合うことになるでしょう。 その折にはレイト殿にも再会できるかもしれませんな。 ともあれレイト殿によろしくお伝えください」ヨーディはゼリクトア王から返答の書状を受け取り、帰還の準備をする。(なんとか終わった)ヨーディは解放感とともに暗記が抜けていくのを感じる。
2020/04/26
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ヨーディは先に出てきたバフタール王に、「お前が、あれか」と横目で見られる。ずいぶんゆるくなったもんだ、と言いながらどこかへ消えていく。時間を置いてからレイトが出てくる。思っていた以上に何事もなく終わったように感じる。話し合いの内容を聞いたヨーディは、ただただ安心する。それに対してレイトは、「話はこれからだ」と語気を強める。「これからお前は俺と一緒に帰ったあと、ゼリクトアに行って交渉してこい」突然何を言われたかわからないヨーディは、レイトを凝視している。「これは時間との戦いになる。イグリスに干渉される前に交渉を結ぶ必要がある」ヨーディは相変わらず口が半開きになっているが、レイトは話をつづけ、「ま、覚える時間はまだある。心配すんな。正式な文書は書いておいた」そして渡されたのはきれいに封された紙だ。さっきの会談のあと書き綴ってきたという。それからゼリクトアへの地図も渡される。「こういう話になるとは予想外だった。うれしい誤算ってやつか」ヨーディは不安を抑えて、「俺が行くのか!?」と聞くが、「一番早いのがお前だろ?国境越えたら、馬飛ばして行けばいい」レイトはさらっと言い放つ。ヨーディはそう言われるとまた何も言えなくなる。ここを出発するのは明日。明日からはゆっくり寝られそうにない。翌朝、帰国の途につき、国境まで戻ってくる。「レイト様!よくご無事で」「誤解されるような言い回しはするな。ここまで送っていただき感謝いたします」バフタールの護衛を見送り、一息つくと、馬の準備を指示する。「お前は先に行ってくれ。頼んだぞ」とヨーディを送り出す。それからレイトは新たな指示を出す。「ここからはひとりで戻る。日常を見て回る機会はそうないからな」そう言われると誰も何も言えず、レイトの姿は見えなくなる。ヨーディは城の少し前で夜を迎えている。「城には入るなよ。お前がいるべき場所とは違うんだからな!」レイトに言われた通り、極力人目を避けている。「エインテルとして行けば、話は早くなるはずだ。 いずれはただの肩書きだっていうのがわかるだろうけど」
2020/04/19
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毎日コロナですね必要最低限の外出は控えたいですが、外にいる仕事でもあるので、なんとも・・・接触は控えています5月6,7日になっても治まらないような・・・↑コロナとも読める失礼しました
2020/04/15
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話が来た時からレイトは別の狙いがあるのではないかと感じていて、「わざわざ呼び出すくらいですから、それ相応の事柄なのでしょうか」バフタール王は「イヤなガキだ」とつぶやいたあと、「イグリスとの交易について教えてもらおうか」と聞いてくる。フューリッドにとっては、交易というより決められたやり取りでしかない。取引している物をメモ書きしているバフタール王は、「この単価なら出せる、この場で即決しろ」指を差している輸入品は元々、バフタールからイグリスに流れている物だという。単価についてもイグリスよりも高い設定だと。つまりはバフタールからイグリス、イグリスからフューリッドへと、単価が割り増しされている、ということだ。輸出品についてもまた然り、割高で買い取るという。「ですが、勝手に決めてしまうというのは・・・」「互いに利益が増えてるんだ、何の問題がある?」今回の狙いはイグリスとの収益格差を縮めることにあるようだ。レイトは内容が内容だけに、慎重に考慮する。ただ、この交易が結ばれれば、課せられた目標値に届くことができる。イグリスにのみ生じる不利益は、イグリスとバフタールの問題であるため、説得できるやり方が見いだせる気がする。全体的な利益で考えれば、イグリスにとっても損な話ではないはずだ・・・。「いつまで考えてやがる。なげぇぞ」バフタール王に急かされ、レイトはついに交易を結ぶことを選ぶ。それから一案が思い浮かぶ。「これはゼリクトアにも同様に提案できるかと」「へぇ、交渉できんのか?」ゼリクトアも加われば、言うまでもなく効果は上がる。ゼリクトアにとっても目標値に頭を悩ませているはず。バフタール王も満足したようで、不意に語り始める。「お前の親父は頭が固過ぎた。人が交われば優劣がつく、これは必然だ。 比べることで個人の価値が生まれる。違うことが人を生かしてる。そうだろ? 国だって同じだ。ってこんな話はいらねぇな」話を打ち切って部屋を出ていく。ひとりになったレイトはあとを続ける。(確かに他人との競争が自分を高めることにつながってはいる。 けど、憎悪や嫉妬が生まれるのも他人と比べるからこそ、だよな。 ・・・あの王は、アルケデニックに似てる気がする)
2020/04/12
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今回の呼び出された理由は、ヨーディですらわかっている。この前のビルクとの会談について聞きたがっているに違いない。「似顔絵見て、もしかしてとは思ったけど、やっぱりそうか」ビルクの狙いについてはわからないにしても、顔見知りであるということが安心感を生み出している。だが、レイトがヨーディを呼んだ真の理由はそれではなく、護衛として付き添わせることだと。「トワールからのお墨付きは得てる。死んででも護りとおすってな」「死にに行くのかよ、俺は!そんなヤバい状況なのかよ!?」ヨーディの大げさな態度にレイトも笑っている。二人で行くことで相手の怒りを抑える効果が出るだろう、と予測している。話し込んでいるうちに国境へ。そこには互いの国の者たちが待ち構えている。レイトはここでもまた、「留守を頼む」と言い残して進んでいく。そして淡々と段取りを聴き、バフタール領へと導かれる。レイトは用意された馬にまたがり、ヨーディはそのうしろを歩く。ヨーディにとって、見慣れない場所に足を踏み入れているわけだが、その景色はフューリッドと大して変わらず、日数をかけて活気が増していく。色鮮やかな街が見え、その中へと入っていく。城内ではバフタール王が直々に出迎えている。「まさか二人で乗り込んでくるなんてな。 今日はゆっくり休んでくれ。話し合いは明日だ」翌朝から直接会談が行われている。レイトのイメージとは違い、バフタール王の機嫌は落ち着いているようだ。「このような機会を設けていただき、感謝申し上げます」と切り出したレイトは、今回のことは全く身に覚えがなく、我々の知るところではないときっぱり言い放つ。それを聞いてもバフタール王は表情を変えることなく、「お決まりの台詞はもういい、そう言える証拠はあるのか?」証拠を見せろと言われるのは当然。しかし、そんなものがあるわけもなく、「証拠があるわけではありません。ですが、そもそもの証拠自体が怪しいのではないかと」その答えにバフタール王も的を得たようで、「そう思うんなら、真犯人が誰なのかもわかってるってことだよな?」レイトはそれについて語ることは控えたが、それこそが答えになっている。「このはなしはこれくらいでいいだろ。これからが本題だ」バフタール王がレイトを呼んだ狙いは別にあるようだ。
2020/04/05
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時を同じくして、バフタールでも問題が起きている。「連絡はまだ来ねぇのか!?」イラついた怒号が広がっている。バフタール王が待ちかねている連絡は、予定を超えてだいぶ遅れている。そこへようやく連絡が届けられる。だがその結果、余計に怒らせることになる。その経緯は、バフタール船が海上で襲われ、その廃船を見つけたという。どこの誰にやられたのかを判断するに値する手掛かりを得たと。実物が一緒に届けられており、それを広げると見たことのある旗だ。「これは・・・、あからさますぎる気がします。そもそも・・・」「言うな。わかっている。だが、問いただす必要はあるだろ」「呼び出して来るとは限らないのでは?」「これを機に進められることもある。まずはこっちに来るかどうかだ」その呼び出しは壁を越えて届けられる。いきなり矢文が送りつけられ、辺りは騒然とする。最速で城内に送られ、こちらも恐々としている。「レイトの出動と説明を要求」はまさに濡れ衣としか言えない。拒否の主張が多数占める中、レイトだけははっきりと「要求に従う」と言う。「今は同盟関係が続いている。これをどんな理由であれ、壊すわけにはいかない。 少なくとも出向いていけば、手荒な真似をすることはないだろう」レイトはゲイドモールにも意見を求めるが、「それも一理あります」と尊重する。そうなると流れは定められ、レイトは話を進めていく。「護衛に割くほど人員は余ってない。が、ちょうどいい奴がいる」と言って、ひとりで準備を始めようとする。家臣たちは慌てて止めようとするが、レイトはすれ違いざまに小声で指示する。「留守を頼む。これ以上、状況が悪くならないようにこらえておいてくれ」レイトは国境に向かう途中、ナキュアに立ち寄る。「出迎え、ご苦労。また引っ張り出して悪いな」ヨーディは上官の目があるため、ぎこちなく畏まっている。少し進んで、上官が見えなくなったところまで来ると、ようやく解放される。「はあぁっ、いつ噴き出すかひやひやした」「ったく、すこしは慣れろよ。この先、大丈夫か?おまえ」レイトは不安を口にしながら、口元は緩んでいる。久々に気が緩んでいることに気付いて、ひとり噛みしめている。このわずかな時間をレイトは無意識に求めていたのかもしれない。
2020/03/29
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トワールはヨーディと別れ、レイトの元に戻ってくる。話し合った内容を伝えてトワールの任務も終了となる。「後継者についてはまだ素性が知れず、油断ならないこともあります」レイトはヨーディについても聞くが、「特に変わった様子はなかったです」と答える。これで事態は収束する。それから間もなくして、ゲイドモールが戻ってくる。「ただいま戻りました。何か変わったことはありましたでしょうか?」会議室は穏やかな口調とは裏腹に緊張感が増していく。「努めて順調です。目標についても滞りなく進めております」資料を眺めるゲイドモールの横で、すでに読み終え端を整えている者がいる。「今後はより一層、励んでもらわなければなりません。 目標についても改めて見直すことになります」すると、隣の者に目を配り、起立を促す。「本日よりこのゴーレンが補佐役として加わることになりましたので、紹介します」挨拶を促されたゴーレンは、よろしくお願いします、と言ったあとで、「特別扱いする期間は終わりました。これからはイグリス国の一員として、 国のために働かなければならないという意識を持っていただきたい」あらかじめ想定していたことではあるが、直にその言葉を聞かされると、全身に重み感じて体が硬直しそうになる。もし目標を達成することができなければ、レイトたちはその責任を取らなければならない。つまりはフューリッドが完全に消え去るということ。これがイグリスの狙いでもあるし、できうる限りの無理難題を押し付けてくるに違いない。(あとのことを考えれば、余力を少しでも残しておきたいが・・・)とは言え、そんな方法が見つかっているわけではない。「利益率の目標値ですが、南部では5%。北部では8%に設定させていただきます。 期間は半年、これはイグリスの目標値でもあります」イグリスと目標値が同じでは、異議を申し立てるわけにもいかない。「わかった。全力で取り組んでいこう」レイトは言い聞かせるように了承し、そこで確認したいことがあるという。「別々の目標値が掲げられていますが、片方が足りなかったとしても、 もう片方で補うことができれば、認めてもらえるのでしょうか?」「そう捉えていただければ結構です」その答えを聞いてレイトはひとつ安堵する。
2020/03/22
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これが事実だとすれば、フューリッドはまだ民から見放されてはいないということだ。アロギラは「これ以上、貧しさが続けば、どうなるかぐらいはわかるだろう」と言い、トワールは必ず応えてみせる、と誓う。ヨーディはずっとビルクを見ていたが、一度も目を合わせることなく終わる。(トワールには、いえねぇよな・・・)「いきなり出てくるとは思ってなかったな。で、なんか気付いたことあるか?」ヨーディは我に返って取り繕う。「俺らと同世代、かな?」「身内じゃなさそうだな。いったいどういうつながりがあるのか?」ヨーディにもどういうつながりがあるのかはわからないが、リーダーとアロギラが顔見知りなのかもしれない、と感じる。トワールはそうだな、と言ったあとで「アロギラの方はどうだ?」と聞く。ビルクのことで頭がいっぱいになっているヨーディは、言葉に詰まる。なんとか絞り出したのが、「雰囲気は護衛隊長に似てる気がする・・・」「向こうはやっぱりお前に興味持ってたな。お前は引いてたけど」「なんだよ。あのじいさんはただの一兵卒なんだろ?」ヨーディに興味がないのは、トワールがあえてアロギラの情報を最小限にとどめていたからだ。その理由は、ヨーディの態度から感づかれるのを防ぐためだ。今更伝えられたヨーディは、「もうおせぇだろ!」とツッコむ。「おそかねぇよ」とトワールは言う。今後も続いていくわけだから。(あのじいさんがエインテルなら、問題なさそうな気もするけど。 存在を隠してるのは、やっぱりなにかあるってことか・・・)「これで正々堂々、面が割れたな」「向こうとの約束はこれで終わらせて良いのか?」「大丈夫だろ。そう簡単に文句が言える状況じゃないし」アロギラの心配は今後の方針にも及ぶ。それに対してもビルクは、「これからも天秤にかける。イグリスも含めてな」「あくまでもフューリッドには属さない、というわけか・・・」そうは言ってないだろ、と前置きしたうえで、「あのことは必ず清算させる」ビルクはそう言うものの、アロギラにはその計画の詳細は知らされていない。アルケデニックはもうこの世にいない。それでどうやって清算させるというのか?「アルケデニックの部下が処罰されたという情報は入ってきてない。未だに、な」今の状況で人材を減らすのは、フューリッドのとって不利益でしかない。そんなことをすれば、イグリスに飲み込まれていくのは目に見えている。「だから、時間与えてやってるだろ?待っても無駄になるかもしれねぇけど」
2020/03/15
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二人は部屋で待つように言われる。その二人に会いに行くまでの会話。「思ったより時間かかったな。で、あいつが来た、か。 あんたの希望が叶ったってわけだ。うれしいんだろ?」「お前もうれしいんじゃろ?本当は」「あ?次々来るから、うざくなっただけだ」扉が開いて二人が入ってくる。ヨーディは二人目を見て心臓が飛び出しそうになる。(ここにビルクがいるってことは、そういうことなんだよな)ヨーディは驚きを隠していると、トワールが合図を促しているのが見える。「本日はお忙しいところ、お時間を作っていただき・・・」そう言い終わる前に、「滅相もない。本来であれば、こちらから向かわねばならぬのに、誠に申し訳ない」アロギラはヨーディを見るなり目を光らせ、「いやしかし、此度のエインテル殿はお若いですな!」ひとりで盛り上がっている姿に他の三人は唖然とする。「おっと、すまぬ。こっちにいるのがビルクだ」紹介されたビルクは丁寧に頭を下げる。何食わぬ顔で話しているビルクをヨーディはまじまじと見つめている。軽い話を終えたところで、トワールは今後の協力体制を申し込む。だが、一転アロギラの表情は曇り、以前、疑われたことを持ち出す。「そのような関係から協力というのであれば、それなりの利益がなければなりますまい」トワールは用意していた条件を提示する。それでもアロギラの表情は変わらない。「我々にとってこの土地はかけがえのないものであると、理解が足りぬようで・・・」バフタール領となったあの日、周りの者たちは移住を選択していく中で、アロギラたちだけは移住を拒み、この土地に居続けることを選ぶ。他の町が手つかずのままなのに対して、この街だけが成長を遂げる。「そなたらにわしらの苦労が、そう簡単にわかるはずもない」この言葉にトワールが食い下がる。「俺もバフタールで苦渋を呑みました。気持ちはわかるつもりです」しばらく時間をおいて、「我々にとって重要なのは利益。相手がどこであろうと関係ない」トワールは提案を書き換えて差し出す。「別の場所にも拡大させていく場合、その資金を援助させていただきます」それでようやく、前向きに検討する、と返ってくる。「手土産、というわけではないが、どうぞこれを」アロギラから渡されたのは、これまでに逃亡した者の一覧表だ。「調べればわかることだが、ほとんどは前科者か放浪者だ」
2020/03/08
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レイトはその後継者に会いたいと言うが、アロギラは丁重に断りを入れる。「将来のことを考えれば、ここで顔見知りになっておきたいのですが・・・」アロギラは汗が滲む手をごまかしながら、しばらく戻らないので、とだけ言う。レイトはこれ以上言うことをやめ、「こちらに来るときにはぜひ」と終わらせる。「本人にもそのように伝えておきます」と言うアロギラと別れる。拠点に戻ったレイトは絵描きに耽っている。その絵を持ってみんなを集める。「この顔に見覚えはあるか?」そう聞かれた一同の中で、重鎮たちが口を開く。口々に出てくる名前は同じだ。「では、あのエインテルということで、間違いないな」「しかし、それならば疑う必要はないのでは?」「いや、身分を明らかにしなかったことが、何かを隠してる証拠だ」「そうですね。もしかすると後継者がもう実権を握っているのかもしれませんね」だが、その後継者がすんなりと姿を現すとは考えにくい。「この件についてはトワールに継続して当たってもらう」了解しました、とトワールは頭を深々と下げるものの、(これ以上、どうやって調べればいいんだ?)と困惑する。そんな表情を読み取っているのか、レイトは「ヨーディを連れていけ」と一枚の紙を渡す。ヨーディをエインテルとして連れていき、アロギラに揺さぶりをかけるという作戦だ。後継者の情報を何かしらつかんできてくれ、とレイトたちは帰還の準備をする。トワールはひとり見送ったあと、すぐさま西へと向かう。ヨーディは汗だくになりながら、死にそうな顔をしている。そこへ教官から呼び出しを食らう。「急げ!早く来い!」ヨーディが走っていくと、誰かが笑っているようだった。(チッ、ふざけやがって)「こんなんでへばってるようじゃ、ダメだな。どうすっかな・・・」ヨーディが睨みつけると同時に誰だかわかる。「トワール・・・?」「せっかく来たし、こいつは預からしてもらいます。ちゃんとしごいておきますから」教官たちはレイトの手紙もあったことで反対するはずもなく、二人を送り出す。「まさか、お前を呼ぶことになるとはなぁ」ヨーディはトワールから状況を説明され、自分の役割が何かを知る。うまくいけば、後継者を引っ張り出すことができる。たとえ失敗したとしても、やる価値は十分にありそうだ。「一兵卒だったと言ってるし、前のエインテルについて知ってることもあるだろ。 その辺から聞き出していくかな」「身なりは崩すな、ってのは無理か。ありのままの方が受け入れられるかもな」
2020/03/01
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トワールが追い詰めても相手は知らぬふりをし続ける。「最初にケンカ吹っかけた奴はお前と知り合いだよな?」「知らないって言ってるだろ!証拠でもあるってのか!?」そこへひとり駆け寄ってくる。「悪いな。(金)くれるなら、言うだろ?」ちょっとした諍いで、不満や不安が煽られることもある。そこから新たな諍いが生まれる。相手はうなだれ、「(金は)先にもらう」と右手を差し出す。トワールが金を渡した瞬間、駆け出していく。「お前を撒けば、問題ない」「なめやがって」トワールはあとを追う。それから各地を巡ってきたレイトがとある町に踏み入れる。レイトを迎え入れるため、トワールは待ち構えている。トワールの姿を見たレイトは安堵と喜びの表情を示す。一方で、トワールは喜びきれないというのが現状だ。「結局、バフタールの奴に頼まれた、としか聞けませんでした。 いまも逃亡する者はあとを絶ちません」「そんなことはない。他の者も追いかけてるし、直に片付く」「いえ、その大元の話です」というと、トワールはアロギラのことを話す。「わかった。そこに直接乗り込めばいいんだな?」レイトは承諾したものの、この行程の中で一番最後にさせてくれ、と言う。オポアを最終地点にすることで、ようやくこの行程の意味が芽生える。「お前の力を貸してくれ」レイトはトワールに同行してほしいと頼む。レイトたちの各地訪問は、終わりが見えてきた頃には逃亡者数も減り続けている。そして、オポアで最後の演説を終えると、視察という名目であの場所を訪れる。トワールが事前に設定していた通り、奥の部屋へと通される。「レイト様、直々に来ていただけるとは恐悦至極。さ、どうぞこちらに」レイトは用意されたところに座ると、「あなたはどうやってここを立ち上げたのですか?」アロギラは丁寧に過去の話をする。少しずつ金銭と資材を集めて小屋を建てるところから始めたという。レイトはアロギラの話が終わったところで、「その前はどちらに所属されていたのですか?」アロギラは恥ずかしそうに、ただの一兵卒です、と答える。「そうですか、なぜでしょうか。どこか懐かしさのようなものを感じるのですが・・・」「・・・それはなんともうれしきお言葉」レイトはこの話を切り上げて、次の話に移る。「ところで、あなたには後継者がいらっしゃいますか?」その問いにアロギラは慎重に言葉を選ぶ。「えぇ、まぁ、私もそれなりの齢なので」
2020/02/23
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アロギラとの話を終えたトワールは一旦退き下がる。(もう少し調べてみるか。まだなにかあるかもしれねぇ)「そんで帰った、か」ビルクは椅子に寄りかかって、ギシギシと軋ませる。軋む音を止めて、ビルクは話題を変える。「そういや、レイトが来るみてぇだな」「ここに来る頃には、片をつけるのだろう?」「いつまでもやってると、バレる可能性があるからな」と言ったあとで付け加える。「見に行くなよ?向こうから来るんだからな。格が下がる」トワールと会ったことでいずれは正体がばれる。だとすれば、レイトから会いに来ることは間違いない。「長生きのためには楽しみを取っておかないとな」トワールの調査はなかなか進まないまま、ついに事件の片鱗が浮かび上がる。場所は国境沿いの町で、数十人がいなくなったという。(ってことは、実際はもっといるってことだよな。くそっ)数日見張ってはいるものの、特に変わった様子もなく、アロギラが動く様子もない。ただ、この街に限らず、フューリッドの北側はバフタールの手に落ちている。しかもそれは、武力によるものだけではなく、計算された策略だ。事情を聴いても、あの戦争のあの状況ではどうすることもできず、無抵抗で降伏するしかない、というのも理解できるし、致し方のないことだ。だからこそ、ここに何らかの秘密があるはずだ。(やっぱり現行犯で捕まえる方がはやいかもな)トワールは立ち上がる。街の中を歩いていくと、どこかで騒いでいる声がする。おそらく喧嘩だ。頻繁に見かけるわけではないが、よくある光景である。この街にも治安部隊はいる。今までも割り切ってきたし、首を突っ込むつもりはない。それからしばらくして、またちょっとした騒ぎが起きる。今度は窃盗だろうか。そうした喧騒が新たな喧騒を呼ぶ。どさくさに紛れて、というやつだ。「それにしても今日はやけに騒がしいよな」とトワールは話しかける。話しかけられた相手は怪訝な顔で立ち止まる。「あんた、この街の奴だよな?ちょっと話聞かせてくれよ」トワールは相手をがっちりと掴んで奥の路地に入る。「あんたは任務を果たし、そのあとで俺がたまたま捕まえる。これでどうだ?」「ふざけてるのかっ!そもそも一体何の話をしてるんだ?」「お前が裏で何をやってるか、わかってるんだぞ。ここで締め上げてやろうか」トワールは手に力を入れる。
2020/02/16
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びるくはつぶやく。「ついに今夜、か」それに対して、うまくでしょうか?と心配を耳にするも、「不手際さえなければ必ず成功する。計画は万全だ」これが成功すれば、次また次と繰り出していけるし、回数が増えれば手際もよくなる。窓の外では薄暗い雲が広がり、夜になって雨が落ち始める。雨が降ってきたことで成功確率は上がってくる。この雨は現地にいる者たちにとって、心躍らせる状況となっている。「全員揃ってるな。向こうに着くまで休みなしで行くぞ。 はぐれたとしても置いていく。準備はいいか?」頃合いを見計らったかのように雨脚が強くなる。こうして計画は成功を収める。その報せが届くと、すかさず次の準備に取り掛かる。「時間との勝負だ。気を引き締めて行け」「じゃあ、お前は先行して調査しておいてくれ」トワールは一足先にオポアにたどり着く。(ここなら関係してる奴らも出入りしてるはず)街を調べるため、町長のもとを訪ねる。「この街が賑わっているのは、アロギラさんのおかげである」と聞き、その人に会いに行く。街一番大きな施設に入り、身分を証明した上でアロギラに会いたいと伝える。杖を突いた老人がゆっくりと出てきて、「わしに何か用か」と目を細くする。目の奥の眼光は鋭かったが、トワールは臆せず聞いていく。アロギラが街を発展させたことに驚嘆の意を伝えると、わしの力などたいしたことではなく、皆の力のたまものだと笑う。ひと通り話の流れを聞き終わってから、トワールは本題に探りを入れる。「それにしてもよくバフタールの支配下の中、これだけ発展できましたね」「それはあいつらにとっても必要なことだったからであろう」「それはそうかもしれませんが、他のところではうまくいかなかったようで・・・」「ほう。その違いは何かしらよくないことをしていると疑っているわけですな?」トワールは気取られたことに動揺して言葉を失う。「確かに税の上乗せを条件に取引もしたが、生活は厳しいままだった。 それにしても、こんなにも早く元に戻れるとは思ってもみなかった」アロギラは感謝の言葉を口にしたうえで、こう付け加える。「他の町の者にとっては、恨まれることなのだろうな・・・」トワールは思い切って聞いた。「そういった者たちを導く奴がいるのでは?」「そんな奴がこの街にいるというのか?まあ、灯台下暗しという言葉もあるくらいだからな」アロギラは笑い飛ばす。「いつぞやのことのように紛れ込んでいるというのか?」
2020/02/09
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あちこちから聞こえてくるのは、別の道を辿ってきたという内容だ。ヨーディはしまった、ということにようやく気付く。(道を知ってる奴についていけばよかったってわけだ・・・)ともかく時間には間に合っている。それで十分だと思い込ませる。ヨーディが本人確認を終えてしばらくすると日が沈み、責任者が現れる。「これより、晴れてお前たちは国境隊としての任務を請け負うことになった。 その名に恥じぬよう、日々の訓練に精進せよ!」ひと通りの挨拶が終わり、ついに始まる。「準備運動も終わったところで随分と待たせて悪かった。では、訓練を開始する」レイトは窓の外を見つめて、「今年はナキュアで一括してやるのか?」と聞く。「えぇ、安全確認のできた場所がそこしかなかったものですから」土地と兵士が戻ってきたことで、配置転換をする必要があり、それにあたって新たに兵士を増やさなければならない。「島争奪戦にて任務を全うした者もおりますので、その補充も兼ねて。 これでひと通りは片づけましたので、一旦戻らせていただきます」ゲイドモールは以前からイグリスに戻る予定になっており、再び来るまでの間、イグリスの監視役はいない、ということになっている。「わかった。くれぐれもイグリス王によろしく伝えてくれ」ゲイドモールは一礼して部屋をあとにする。残されたレイトはまだ外を眺めている。(あいつは問題なくやれるだろ・・・)それから数日後、北部調査の内容がもたらされる。その内容は予想通り、以前の状態と大差のないものだという。ただ、開発しようと手を付けていた痕跡は残っている。その中で「ひとつだけ発展している街がある」という。それは、オポアというところだ。報告を聞き終えたところで、やはりバフタールの狙いは「民の自主的な移住」という見解に至る。向こうでの暮らしが快適なものであれば、当然戻りたいという感情が湧き出る。以前のような保障では不満が出ると思われるが、それ以上となると、財源が追い付かなくなる。出ていこうとする者を無理やり止めようとすれば、余計に状況が悪化する。各地に訪問して心情に訴える、というだけでは押しとどめておくことはできないだろう。(・・・ほかの方法が見つからない今、できることをやるしかない)「レイト様、準備ができました」レイトは供の者を連れて北を目指す。(ゲイドモールが戻ってくる前に終結させられるだろうか。 やっぱり、間に合わなかった場合も考えておかないとな・・・)
2020/02/02
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明日、行われる配置転換によって移動するかもしれない。「それなら、行けるんじゃないか?行けるだけだけど」トワールは笑いをかみ殺している。結局、理由は聞けないまま、話は進んでいく。「お前だって自由に行けるわけないだろ。どうするつもりかは予測つくけど」トワールはレイトに直談判して行こうとしている。自分一人だけなら了承が得られる、という算段だ。「じゃあな。これから準備して来ねぇと」トワールは去っていく。ヨーディは残っているクイントに聞いてみると、「あいつと同じ道。ってことだ。覚悟しといたほうがいいぞ」翌日、入隊志願者とともに集められた中にヨーディはいる。「では早速、運動能力を図るためにナキュアに向かってもらう。 期限は3日、それ以外の条件はない。解散!」そう言われてもすぐ動ける者などいない。ナキュアという町は普通に行くと4日はかかるところにあり、急がなければならない。が、食料を中心に持っていかなければならないものを準備する必要がある。その場に立ち尽くしている者たちの中には、早くも判断力の差が出ていた。ある者たちはまとまって考えを導き、準備を分担して行動に移そうとしている。ヨーディはいち早く動いた。食料と寝る時の布さえあればいい。あとは、雨風が防げるような場所が見つけられれば問題ない。昔のことを思い出して笑いが込み上げてくる。(まさか、こんなんでキツいとかそういう話じゃないよな?)ヨーディは食料を買い集め、そのまま街を飛び出していく。地図通りに整えられた道を走っていく。知らないところに行くだけに、回り道になってでも道に迷って時間をロスすることは避けたい。1日、2日と進んでいく。ヨーディは先頭を走っている気分だ。寝ているうちに抜かれているかもしれないが、前に人影が見えることもない。時間が経つにつれ、不安が膨らんでいくものの、目的地には近づいている。坂を上っていく途中で人の話し声が聞こえてくる。まさかとは思いつつも、そこには人だかりができている。「あー、結構ギリギリになっちまったな。迷ったから仕方ねぇけど」「あの分かれ道で間違えなければな」「お前が遅れて前の奴らが見えなくなったからだろ」「まぁまぁまぁまぁ、間に合ったんだから」
2020/01/26
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レイトたちは小部屋に移動して話し合っている。「レイト様、ここはひとつ妻を娶っていただき、体制の安定を図りましょう」「できうるならば、世継ぎを授かることができれば・・・」いつの間にか話が脱線し始めている。そんな話をしている場合じゃない、と言いかけたレイトを遮り、「民を安心させることも上に立つ者の務めです」「さすれば、その妻として、どなたがふさわしいか・・・」「ならば、ウェントソン殿の孫娘が最適でしょう」ざわつく一同を「待て!」とレイトは抑え、「それは無理だな」と冷静に告げる。「お前たちには知らせていなかったが、向こうに一緒にいる。 唯一の身内だし、言ったら聞かない頑固一族だからどうにもならねぇ」それをバレないようにするため、身代わりが用意されている。「何なら、その者に頼んでみようか?」とレイトは笑い、「世継ぎについても、いざとなれば養子という手もある」それから、「今の時代、世襲にこだわるのは時代遅れだと思わないか?」さらには、「そもそも後継者を立てる必要があるか?こんな状況で・・・」レイトの言葉によって小部屋が紛糾し始めたところで、扉が開く。「休憩中でも盛り上がってますね」とゲイドモールが戻ってくる。「いや、ただの雑談だ。続けようか」レイトは休憩時間の終わりを告げる。「ご主人様、準備が整いました」そう声を掛けられてウェントソンは振り返る。「わしのことはもういい。フューリッドに帰ってくれぬか」と小声で言う。また、その話?と小声で返すのはミリィだ。「向こうに居たってひとりだし・・・」ミリィはいつ戻れるかわからないウェントソンを心配して付いて来ている。最悪の場合、もう会えないまま・・・ということが、ミリィを動かした。一行に紛れ込み、途中で見つかったものの、イグリスの手の者がいるため、ウェントソンは黙っているしかなかった。「今ならまだイグリスに気付かれてはいない。帰ることができるのは今しかない」とは言え、帰る手立てはない。それよりもミリィはこの状況を利用しようとしている。「私は帰らない。ここにいるからこそできることがあるわけだし」ミリィの狙いはフューリッドとイグリスの絶対的なつなぎ役になろうというものだ。もちろんウェントソンは反対の意思を示す。「そなたの一生を捧げる必要はない!」それでもミリィは考えを変えない。ウェントソンに何かがあれば、代わりの者が必要になってくる。「この異国の地で一人で生きていく、というのか・・・」「その覚悟はあるってこと。一緒に帰るのが目標だからね」「そうだな。一緒に帰ろう」ウェントソンは笑みを浮かべながら部屋を出ていった。
2020/01/19
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雨が滴り、微かな音があちこちから集まり始める。静かな夜が様子を変える。この雨とともに歩みを進める者たちがいる。「さぁ、行こう。余計な音はたてるなよ」水を含んだ土が跳び、足元がドロドロになる。だが、それを気にする者はいない。一行は闇夜に吸い込まれていく。三人のところにはそれぞれにつながりのある人物が次々と顔を見に来ている。それが終わると、それぞれが思い出を語る。「やっぱり手柄でいえばお前が一番だな。俺も結果出していかねぇと」トワールは息巻いたが、今後の状況は内政重視である。クイントの見立てはもっともだが、トワールには引っかかっていることがある。バフタールのフューリッドに対する態度はまさに「普通」だった。さらに、一般兵や民に対しては気を遣っているという噂さえあった。もしもそれが事実なら、心から取り込もうとしていたことになる。その上で返還してきたとなれば、その先を見据える必要があるはず。「改めて招き入れる、という算段か」確かに現状での生活水準で見れば、バフタールより劣っているとみて間違いない。そういう事態が起こりうるならば、対策を打っていかなければならないが、今にも動き出そうとするトワールをクイントはなだめる。「もうすでに上は動いてる」と指差した先にはさっきまでいたレイトたちの姿が消えている。「やっぱりお前は体力勝負だな」とクイントは目の前にある皿に手を伸ばす。「そう思ってんなら、配置転換願い出たほうがいいぞ?お前」トワールは何をするかも考えている。それは、計画の阻止。どこから逃げるかもわからないのに、どうやって阻止するのか?だが、ただ単に民が逃亡するわけではなく、必ず先導を務める者がいる。そいつを見つけ出せばいい。しかし、そう簡単なことではない。むしろ、そのあとどうするべきかを考えないといけない、とクイントは言う。「それは今、考えてんだろ?上が」今度はトワールが向こうを指差す。トワールは真顔に戻ると、「俺が調べに行く。誰かが行く必要はあるだろ?」「そこまでわかってるなら、任せる。ちょっと前なら、一緒に行ってたけど」話が途切れて、ヨーディが「俺も行きたい」と言い出す。「あれ?お前の身分て、今なんだっけ?」「一般兵・・・じゃないか?戦いにも参加したし。でも、明日の配置転換で変わるかもな」
2020/01/12
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もうすでに明け暮れてますねおめでとうございます。今年はまた始めて見ることにしますかとは言ってもいつまで続くか、未定ですけど。それでは、また
2020/01/05
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いつものごとく年末は忙しい。。。曜日感覚もくるってます去年よりは楽か。楽でもきついけど。そういうわけで、来年は?よろしく
2019/12/30
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御本人登場!はあ、白が似合う ご挨拶のあと、 MuseKの野崎さん登場 ここでしかきけないことを色々 ゲリラ豪雨で予定が変わって終了 駅についた頃にはもう止んでた ついでに行きました、白糸の滝へ あぁ~涼しい!コレコレ というか、バスの中が寒すぎ しょうがないよね、暑いんだから
2019/08/10
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避暑地・軽井沢行ってきました 初の北陸新幹線。座席垂直。 そして、軽井沢。暑い! でも、別荘地区は木陰いっぱいで涼しい こんなところお目にかかることはもうないでしょうね さあ、到着 ドレスコード・白い服がいっぱいいる! 食前酒のワインを飲んで(一口) コース料理 貧乏舌にはもったいなさ過ぎました 撮ればいいというので全部 一旦、〆ます
2019/08/10
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なんか異様に暑い・・・すぐ汗だくになるし。消耗が激しい。とにかく、耐えたなんとか、耐えたまだまだ暑いんでしょうけど、さぁ、避暑地に行こう
2019/08/09
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