貴方の仮面を身に着けて

貴方の仮面を身に着けて

2007/07/22
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「三峰様、お休みの所を申し訳御座いません」
白神(しらかみ)が頭を下げた。
「いや、良いのだ」
三峰の顔は昼間の激痛に蒼褪めてはいたが、その表情は穏やかであった。居並ぶ一同は、三峰の白き姿を見てその声を聞くと、清涼な風が胸を吹き過ぎた様な心地良さを覚えた。異様な緊張からたちまち解き放たれ、”盾”達は落ち着きを取り戻した。三峰が”人ではない”身になっても、その人望は損なわれる事はなく、特に苛酷な任務が多い”外”の盾達にとっては精神的支柱となっていたのである。

古本屋のビルの”盾”の詰所である。表向きは朱雀の会社関連の事務所となっている。事務机と電話と幾らかの機器と戸棚があるだけのありふれた部屋である。三峰は中央の席に着いた。
「状況を説明せよ」
白神がその前に立ち、百合枝の失踪、鞍人の出現、千条の重傷、朱雀のマンションの警備システムの破壊、殺害された盾の事、このビルには異常がない事等を簡潔に述べ伝えた。三峰が尋ねた。
「幸彦様と真彦様には?」
「まだ何もお知らせしておりません」

「はい」
白神は頷いた。
「朱雀には?」
「磐境の方から連絡済みです。急ぎ出張先からお戻りになる最中だそうです」
(朱雀の遠出の時を狙ったのか)
三峰は赤い髪のタキシード姿の男の顔を苦々しく思い浮かべた。

夕暮れから降り出した雨は、夜半からどしゃぶりとなった。その後も百合枝捜索の指揮と警備体制の再検討もあり、三峰は朝になり再び痛みがやって来ても、なかなか寝所へ行く事が出来なかった。ようやっと目処がついた時には、古本屋の開店の時刻となっていた。雨はまだ激しく降り続いていた。

地下の寝所で眠りに入ろうとしていた三峰は異様な気配を感じた。
(これは・・かなり強い)
痛みに耐え、三峰は表に飛び出した。古本屋の店の前には敵の姿はすでになく、異様な気配は消えていた。店の前にずぶぬれの塊のようなものが転がっていた。幸彦と真彦は何も気がついておらず、仲良く開店の準備をしていた。一緒に店の中から入り口のシャッターを開け、真彦が雨の中に立っている三峰を見つけて声をかけた。
「どうしたの?」

「見るな!」
幸彦は真彦を抱きしめ、自分の胸に真彦の顔を押し付けた。三峰は腕の中の百合枝に微かな生命を感じた。
「まだ、生きておられます」
三峰の”人でない”感覚は確かだった。三峰はただちに奥へ走りこんだ。廊下に居た当番の盾に”盾”の息のかかった病院に連絡する様に指示した。
「僕らの部屋へ運んでくれ、あそこなら温かい」

「はい」
三人は階段を二階へと上がった。


がらんとした広い灰色の部屋で、建角(たけつぬ)は鞍人に怒りをぶつけていた。
「何であの女を返した!俺が喰いたかったのに!」
鞍人は上着の襟をいじっていた。新しいレースを縫いつけてみたのだ。
「あっさり殺してしまうより、命だけは助けて返した方が面白い事に気がつきましてね」
鞍人はにやりと笑った。
「どっちにしても、あの女は力を失った。役立たずになった女を彼はどうしますかね」
不機嫌なまま建角は吼えた。
「俺なら、喰ってやる!」
鞍人は眉を上げた。
「優雅という言葉を知らない奴ですね、お前は」
鞍人が片手を振った。建角は身を翻した。建角の後方の壁に衝撃で亀裂が走った。
「言っただろう、俺は馬鹿じゃな・・」
言い終わる前に、建角は背中から大きな力に押され、額から反対側の壁に激突した。鞍人の放った力はUターンして来たのである。
「馬鹿以前ですね」
鞍人は吐き捨てる様に言うと、鼻歌を歌いながら何処かへ歩いて行った。




(続く)
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Last updated  2007/07/22 10:17:24 PM
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