貴方の仮面を身に着けて

貴方の仮面を身に着けて

2009/07/30
XML





青く光る魔性の目が柚木を見た。
底の無い青い泉のような目が、柚木を恐怖に満たしていった。

悪鬼達がその気配を感じただけで脱兎の如く逃げ去り、”盾”の剛の者すらひれ伏すという絶対の存在。言い知れぬ畏怖と恐怖に、柚木の全身が締め付けられていく。人外の者は厳かに言った。
「二度と、ここへ来るな」
それでも柚木は首を縦に振らなかった。柚木は目をそらさなかった。柚木は必死で竹生の目を見た。
(せっかく逢えたのだ。お父さんかどうか分かるまで、僕は絶対・・・)

竹生の腕に、そっと朔也の手が触れた。
「・・柚木は、悪くない」
か細い声で朔也が言った。

竹生の瞳に柔らかな光が灯った。
「私は・・柚木を失いたくない。優しい目で私を見てくれる人を、私は二度と失いたくない」
朔也はそう言うと、竹生を見上げた。

竹生は朔也に頷いた。
「お前がそう言うのなら」
竹生は朔也を抱きあげると寝台へと運んだ。情のこもった手付きで朔也を寝台に寝かせると、竹生は手を打ち鳴らした。軽やかな音が響いた。桐原がやって来て、竹生の前で頭を下げた。
「私が戻るまで、朔也の側にいてやれ。私は柚木と話がある」
桐原は黙って頭を下げた。竹生は朔也の顔を覗き込んだ。
「すぐに戻る」
涙に濡れた瞳で、朔也は幼子の様にこくりと頷いた。竹生は目顔で柚木に着いて来る様に合図した。柚木はちらりと朔也の方を見た。朔也は目を閉じていた。

隣室は空き部屋だった。絨毯も敷いておらず、木の床が剥き出しになっていた。

「はい」
柚木は素直に返事をした。竹生を前にすると自然と柚木の背筋が伸びた。
「お前は目をそらさなかった。さすがは風の家の子だ」
柚木は誇らしい気持ちになった。竹生様に誉められている。”盾”始まって以来の最高の盾と呼ばれ、村の守護者であった竹生様に。佐原の村を嫌ってはいても、竹生への尊敬の念は、柚木の中で健在だった。
「その力、無駄にするな。お前は強くならねばならぬ、いずれ来る戦いの為に」

柚木は誇りと共に頷いた。
「私が教えよう」
「竹生様が?」
柚木は驚いた。

今の竹生は、めったに人前に姿を現さない。屋敷の者も桐原以外には逢う事は稀であった。柚木も数える程しか顔を見た事はない。”盾”ですら直接竹生を見た者は少なかった。
「お前も、この屋敷に住めば良い」
「僕が、ここに?」
「嫌か?」
ここに住めば、朔也の事がもっと分かるかもしれない。柚木は勢い込んで言った。
「そうさせて下さい」
竹生は満足げに頷いた。
「この部屋が空いている」

竹生は古いカーテンを巻き上げたままの窓から外を見た。夜になりかけた庭は、柚木の目にはほとんど何も見えないが、竹生には隅々まで見えているのだろうと柚木は思った。
「お前には、知りたい事があるだろう」
竹生は庭を見詰めたまま言った。
「教えてやる」



(つづく)








お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2009/07/30 05:28:55 PM


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Profile

menesia

menesia

Archives

2024/11
2024/10
2024/09
2024/08
2024/07

Comments

龍5777 @ Re:白衣の盾・叫ぶ瞳(3)(03/24) おはようございます。 「この歳で 色香に…
menesia @ Re[1]:白衣の盾・叫ぶ瞳(1)(03/20) 風とケーナさん コメントありがとうござい…
menesia @ Re[1]:まとめサイト更新のお知らせ(03/13) 龍5777さん 「戯れに折りし一枝の沈丁の香…
龍5777 @ Re:まとめサイト更新のお知らせ(03/13) おはようございます。「春一番 風に耐え…
menesia @ Re[1]:まとめサイト更新のお知らせ(03/13) 龍5777さん 「花冷えの夜穏やかに深まりて…

Favorite Blog

織田群雄伝・別館 ブルータス・平井さん
ころころ通信 パンダなめくじさん
コンドルの系譜 ~… 風とケーナさん
なまけいぬの、お茶… なまけいぬさん
俳ジャッ句      耀梨(ようり)さん

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: