貴方の仮面を身に着けて

貴方の仮面を身に着けて

2010/09/16
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「しばらくだな、鵲(かささぎ)」
口まで出かかった言葉をぐっと押さえ、鵲は頭を下げた。白き守護者は、鵲の部屋のソファで寛いでいた。
「何時こちらへ?」
「今しがた、幸彦様のお供をして来た」
「お側を離れて、よろしいのですか?」
「親子水入らずで話したいとおっしゃるのでな」
三峰は息子を暖かく見た。
「お前の働きで、真彦様がお元気になられたそうだな」

「お前への信頼なくば、真彦様も鳥船を受け入れようとはしなかったであろう」
「高望(たかもち)は、幸彦様をお守りした火高(ひだか)様の息子です。それもあったと思います」
「謙虚だな」
鵲は答えなかった。

三峰は息子が遠くにいる気がした。村から来た当初は、父と共にいられる嬉しさを全身に滲ませながらも、周囲を気遣って馴れ々々しいそぶりを控えている風だったが、今は二人きりでいる事を、明らかに鵲は喜んではいなかった。三峰は言った。
「私に言いたい事あらば、遠慮なく言うが良い。今はここには二人しかおらぬ」
鵲は大きく息を吸い込んだ。
「父上、桜子の事はご存知ですか」
「高遠の計らいだ。これから十年余り閉鎖される村に居るよりも、多くの事を”外”で学ばせたいと。将来の村の為にも、風の家の為にも」
「許婚とは、高遠様と父上が決めた事なのでしょうか」
「特に決めたわけではない」


「高遠が風の家の長となった時、反対派を納得させる条件として、お前が成人して、正式に風の家の長となるまでとしたのだ。高遠としては、娘を将来の長の妻として良き人生を歩ませたいと思い、桜子にそれとなく言って聞かせていたのかもしれんな」
「では、父上のご意志ではないと」
三峰は微笑して鵲の顔を覗き込んだ。
「桜子が嫌か?」
鵲は目をそらし、首を左右に振った。

「急ぐ事ではない。桜子もお前もまだ若い」

「少しお待ち頂けますか」
「ああ」
三峰は壁際のソファから、息子の部屋を見回した。左手に廊下へ出る扉、右手の奥の窓の前に鵲の机が置かれていた。扉から入ると正面に鵲がいる事になる。背後に窓を背負う無用心さに、鵲はこの配置を嫌がった。だが鳥船は「長は偉そうにしているものだ」と押し切ったのだ。部屋の半分は自分の組の詰所として使用している。部屋の中央の仕切りの向こうに寝台や私物のある空間がある。その仕切りが、今の鵲の心にも立てられている事を、三峰は感じていた。仕切りの向こうにある鵲の本心が、三峰は何故か痛ましく思えてならなかった。

「お待たせ致しました」
仕切りの奥から鵲が手にして来たのは、名刀「雪白(ゆきしろ)」だった。風の家の宝である。人である事を捨てる決心をした三峰が、生まれたばかりの鵲の枕元に置いて出た刀であった。鵲は三峰の前に膝をついた。三峰は眉をひそめた。
「何のつもりだ」
鵲は両手に捧げ持った雪白を三峰に差し出した。
「お返し致します」
「これはお前の物だ」
三峰は刀を押し戻そうとした。だが鵲は引かなかった。
「雪白は風の家の長の持つ刀、私にはふさわしくありません」
「お前は、風の家の直系の唯一の子だ」
「風の力なき者に、皆が従うでしょうか」

三峰を見上げた鵲の目は、悲痛な思いに満ちていた。
「高遠様は立派な方です。なのに従わぬ者がいる。ましてや牢屋で生まれた私に、従う気になるでしょうか」
「保名(やすな)の罪は許された」
「犯した罪が消えたわけではありません。私が罪人の子である事実は、消える事はありません」
「何を言う。お前は私の子、風の家の正統と、我が祖父・臥雲(がうん)長老も認めたのだ」
鵲は最早堪える事は出来なかった。
「父上、やはり貴方は何もご存知ないのですね。貴方のご不在の間、盲目の母と私がどんな目にあっていたか」
「何だと」
「母と私は、食べる物にも事欠く日々を送っておりました」

(つづく)





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Last updated  2010/10/05 03:55:30 PM


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龍5777 @ Re:白衣の盾・叫ぶ瞳(3)(03/24) おはようございます。 「この歳で 色香に…
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