貴方の仮面を身に着けて

貴方の仮面を身に着けて

2010/09/18
XML



「ごめんなさい」
鍬見は微笑み、詩織の顔を覗き込んだ。
「落ち着かれましたか?」
百合枝の世話係として常に付き従う千条も、男として並以上の容姿を兼ね備えていたが、鍬見も負けずに良い男で、医師らしい落ち着いた雰囲気と柔和さを持っていた。端正な白い顔に覗き込まれて、詩織の顔に朱が走った。
「はい、失礼を・・すみません、鍬見先生」
「先生はおやめ下さい。鍬見とお呼び下さい、詩織様」
(詩織様・・)
自分の名を柔らかい響きを持つ声に呼ばれると同時に、詩織の胸に甘い痛みが疼いた。


「入ってもよろしいですか?」
鍬見の声だった。詩織は深呼吸をしてから言った。
「どうぞ」

寝台に腰を掛けた自分の前に、ひざまずいて傷の手当てをしている鍬見の柔らかそうな髪を見ながら、詩織は悩ましい気持ちになっていた。鍬見は丁寧に傷口の汚れを拭い消毒をしていた。誠実がこもった仕草だった。
(指も細くて綺麗、爪の形も)
詩織は自分に触れる鍬見の指の感触に愛撫を思い描いていた。このまま素足の爪先の唇を押し付けて欲しい。そんな自分の淫らな幻想を、もしこの人が知ったらどうなるだろう。そんな事を思う自分に呆れもした。

廊下で行き会った鹿沼に、鍬見は先程の”盾”について尋ねた。
「警備部の人間ではないな」
「見張り役か。詩織様を先にお助けするべきではなかったのか?」
「奴が凶器でも持っていたら、そうしただろうな」
「気に食わないな」


詩織が百合枝の部屋へ戻ると、朱雀と見知らぬ紳士がいた。詩織が入っていくと、紳士は穏やかに微笑んで詩織を見た。
「貴方が詩織さんですね」
品の良い紳士だった。ソファにゆったりと寛ぐ彼は、この屋敷の客人に似つかわしいと詩織は思った。人々の態度が彼に恭しいのを、詩織は不思議に思った。朱雀が説明した。
「我らは、代々幸彦様の家にお仕えする家系でね」
皆はそれを当然の如く思っているらしい。詩織は今時珍しいと思ったが、不快ではなかった。彼らは皆、礼儀正しく誇り高い人々であったから。幸彦と呼ばれた紳士は、詩織に好意的なまなざしを向けた。

「はい」
詩織は微笑んで応じた。優しい声が遠い記憶を思い起こさせた。父或いは祖父の。垣間見た真に豊かな暮らしと共に。それは物だけではなく心も豊かな世界だった。

(つづく)





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2010/10/05 04:03:14 PM
[白木蓮は闇に揺れ(完結)] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Profile

menesia

menesia

Archives

2026/08
2026/07
2026/06
2026/05
2026/04

Comments

龍5777 @ Re:白衣の盾・叫ぶ瞳(3)(03/24) おはようございます。 「この歳で 色香に…
menesia @ Re[1]:白衣の盾・叫ぶ瞳(1)(03/20) 風とケーナさん コメントありがとうござい…
menesia @ Re[1]:まとめサイト更新のお知らせ(03/13) 龍5777さん 「戯れに折りし一枝の沈丁の香…
龍5777 @ Re:まとめサイト更新のお知らせ(03/13) おはようございます。「春一番 風に耐え…
menesia @ Re[1]:まとめサイト更新のお知らせ(03/13) 龍5777さん 「花冷えの夜穏やかに深まりて…

Favorite Blog

織田群雄伝・別館 ブルータス・平井さん
ころころ通信 パンダなめくじさん
コンドルの系譜 ~… 風とケーナさん
なまけいぬの、お茶… なまけいぬさん
俳ジャッ句      耀梨(ようり)さん

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: