貴方の仮面を身に着けて

貴方の仮面を身に着けて

2010/12/22
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「腹違いの訳ありでね、公にはしていない」
寒露は片手に銀盆を載せたまま、部屋の隅から小さなテーブルをもう片方の手で軽々と運んで来た。細身の身体に似合わぬ怪力に、詩織は目を見張った。寒露は盆をテーブルの上に置くと、朱雀の隣に折りたたみ椅子を広げて腰を下ろした。
「俺からのお見舞いだ」
寒露は顎でテーブルの上のケーキを示した。黄金色のスポンジに白いクリームとたっぷりのフルーツを載せたケーキは美味そうだった。
「まあ、ありがとうございます」

朱雀は銀のポットを取り上げて、三人分の珈琲茶碗に黒く熱い液体を注いだ。珈琲の香りが、詩織の心を更に和らげた。朱雀が珈琲を詩織に渡しながら言った。
「私達は珈琲だけでいい。食べ物はすべてキミのものだよ、詩織」
「あら、こんなに食べられないわ」


温かい珈琲が胃の腑に落ちると、詩織は急に空腹を覚えた。マグカップのスープを飲んでみた。コンソメの良い香りがした。柔らかく煮込まれた野菜を飲み込んだ時、詩織はこれが久しぶりの食事である事を思い出した。今の詩織に食べやすいように工夫された料理であると、詩織は感じ取った。男達はさりげなく二人で言葉を交わし、詩織から目をはずしていた。二人のいたわりと気遣いも詩織の中に暖かく染みた。

「そのスープ、金谷が作ったのだ」
寒露が言った。
「金谷さんが?」
「金谷は弟を尊敬している。それはあいつのせめてもの心尽くしだ」
朱雀が口を挟んだ。
「金谷は自分のせいだと悔やんでいる。せめて自分が同行すれば、こんな事にはならなかったのではとね。キミに同情していても、自分の立場ではどうにも出来ない事にも苦しんでいるのだよ」
詩織は自分の態度を反省した。
「私、あの人に八つ当たりしてしまったわ。後であやまらないと。スープのお礼も」

寒露が聞いた。
「美味かったか?」

「それは白露(はくろ)、俺の双子の兄貴の得意な料理だった」
「双子の?」
「ああ、今はもういない。金谷は白露の下にいた事があったからな」
「不思議ね」
「何が?」

寒露は一瞬だけ、暗い顔をした。死んだ白露の事を思い出したからだ。だがすぐに笑顔を取り戻した。
「俺は、俺達は、詩織に感謝してる。詩織が俺達の弟の命を救ってくれた事を」
詩織は驚いた。
「私が?」

朱雀が言った。
「キミには、不思議な力があるだろう?」
「私に?」
「キミ達を襲った敵が、青い炎に包まれて見えたのではないかね?」
詩織は頷いた。
「やはりな。その力ゆえに、キミは奴らに狙われたのだ」

(つづく)





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Last updated  2010/12/22 05:07:17 AM
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