貴方の仮面を身に着けて

貴方の仮面を身に着けて

2011/09/14
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開け放った窓辺に腰を下ろし、鳥船は愉快そうに言った。
「ダブルベッドの方が良かったか?」
「その時は、ベッドを真っ二つにしてツインにしてやる」
高望がむっつりとして答えた。さっそく愛刀の手入れを始めた所だった。
「仕事熱心だな」
「遊びに来たわけではないからな」
「鵲(かささぎ)様には仕事はさせない。するのは俺達だ」
「そういう事だ」



「しばらく煩いと存じますが、ご辛抱の程を」
桐原は竹生に進行状況を報告した。”人でない”竹生の行動時間は屋敷の他の住人と異なる。彼は昼間は眠り、夜に活動するのだ。黒い絹のシャツとゆったりとまとい、安楽椅子に寛いだ竹生は機嫌が良かった。表情は変わらないが、長年仕えて来た桐原には解った。
「斤量(きんりょう)が来ている。工事が幾ら煩くても、ここまで音も気配も届かない」
斤量は異界の者である。彼の”手”に覆われた場所には、外部から一切の干渉が出来なくなる。
「ワシが斤量に頼んでやった」
桐原の足元から声がした。青いひょろりとした影が、床から伸び上がった。それはみるみる人の形になった。肌の色の青さを除けば、その姿は朔也に瓜二つであった。

この干瀬(ひせ)も異界の者である。今の桐原には彼の姿を見る事が出来た。津代も干瀬を見られるようになり、楽になったと喜んだ。洗い物でも片付けでも、干瀬はまたたく間にやってのけた。干瀬も津代と話せるお蔭で多くの美味い物にありつけるようになった。今も干瀬の両手には、蒸かしたての饅頭があった。屋敷の警備の”盾”達への差し入れに、津代が作ったのだろう。美味そうに食いながら、干瀬は言った。
「すぐに家族が増えるぞ、風の家の跡取りだ。竹生、お前に似た美しい子だぞ」
竹生はちらりと干瀬を見た。そして美しい目を流し、桐原を見た。魔性の美に桐原ですら抗う事は不可能であった。桐原の頬に赤味が差した。桐原は取り繕うように頭を下げた。
「鵲様のお部屋の件、変更の手配を致します」
「頼む」


「何故、未来の話を?」
干瀬は床に座り込んで、饅頭の最後の一欠片を飲み込むと答えた。
「祝言の前祝いだ」
干瀬は天井を仰いだ。
「怒るなよ、斤量」

「目出度い事であるならば」
干瀬は安心してにっこりと笑った。

(つづく)






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Last updated  2011/09/15 12:02:29 AM


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