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両国橋 橋番逸話 第二話 四文押し屋 ~よいしょよいしょと押し屋の声だ 両国橋に 江戸の意気~ 「よいしょ、よいしょ、両国橋の坂はきついねえ、」 「押そうかね、押そうかね、橋の上まで4文だよ、」 車押しの熊さんが声をかける。 両国橋には荷を山積みした荷車や大八車がひっきりなしに行き来した。「おおい、あぶねえぞ、荷車は避(よけ)けられねえよ、」 ねじり鉢巻きに尻っぱしょりで威勢のいい車力の前の者は大声を出しながら 人を避けさせる役目も担い、 車曳きを生業としてる車力の大八車の後には押し役がついていた。 石や材木などの重量物を載せた大八車は橋が傷むので 通行禁止になっているが、車力は莚を被せて荒縄で縛り、 ごまかして、橋を渡ろうとするが、橋番は轍(てつ)の響音で それとわかるるが、折角橋の袂まできた大八車を追い返すわけにもいかず、 「おいっ、静かに渡るんだぞ、」 お目こぼしすることもままあり、橋番屋の茶菓子代になった。 本所両国の味噌、醤油、塩、酒、炭、野菜などの問屋では小僧に 一人で荷車を曳かせて、日本橋の方面へ運ばせることも多かった。 たっぷり積まされた荷車が両国橋の坂を超えるのはきつく往生することも多かった。 両国橋の袂にはそんな荷車を手助けする押し屋という商いをする者がいたのだ。 「あれっ、急に楽になったぞ、、」 「橋のてっぺんまで4文だよ、」 「おお、熊さんか、助かるよ、」 押し屋とは、両国橋を渡る荷車、大八車が橋の坂にかかると、 橋の急坂で往生するのを手助けする仕事なのだ。 亀有の百姓 佐八が荷車を押してその両国橋の坂を登ろうとして苦戦していた。 橋の上はいつだって込み合っていて人通りが多くもたもたしてると、 ~馬の小便じゃあるまいし、いつまでそこに留まってんだ、邪魔だ邪魔だ、さっさっさと、渡らねえか!~と、どやされる。 そんな時には橋番の又右衛門が 「おいっ、熊さん押してやってくれ!」 と一声かける 「あいよっ、4文」荷車は嘘のように軽々と橋の坂を上っていくのだった。 ~思い通いどおりにはいかねえこともおおいが、 両国橋だったら、思わぬことで動き出すこともあるってえことだ~ 朽木一空
2024年01月31日
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両国橋 橋番逸話 第一話 一文話 ~暮れ六つに 一文話 江戸の橋~ 「あいっ、橋銭二文だよ、、」 大川の橋を渡ろうとすると橋番小屋からにゅっと長い竿の先にぶら下げた笊が出てきて、そこに橋銭を納めるのだった。 「橋番さん、橋の真ん中までだから半分の一文だよ、」 「まさか、橋の真ん中から身投げしようってんじゃねえだろうな、」 「さあてね、心配なら橋番さん、ついといでよ、」 橋番の又右衛門は橋番小屋をのぞいて橋を渡る婆さんにからかわれる。 大川に架かる橋を渡るのには武士や僧侶以外は渡し船と同じ二文の橋銭が必要だった。 なにせ、木橋なので橋柱は腐るし、渡橋の人数も多いので、傷みが早く 年中修繕しなくてはならない、橋は銭くい虫なので渡橋料を頂かなくては橋が存続できないのだった。 橋番のお役目は渡橋銭の二文を頂くとともに、橋の管理や掃除、ちょっとした修繕もするし、橋の上のもめごとや喧嘩の仲裁、橋の上で具合が悪くなった町人の面倒や身投げなどを防ぐことなど橋の上の出来事全般を裁くのが仕事であった。 「しょうがねえ、婆さんにに付き合うか、」 おとき婆さんはいつだって、 ~今生のお別れだ大川に身を投げるよ~と、 橋番を脅すのだ。橋番たちは おとき婆さんのことを 「死ぬ死ぬ詐欺婆さん」だと笑っていたが、 又右衛門はどうも気がかりで、婆さんの話し相手をしてやっていたのだった。 暮れ六つの両国橋からの眺めは江戸の町が威張り散らすようなこともなく、 曖昧色にくすんで、物悲しい夕闇に包まれるのだった。又右衛門もこの夕暮れの 景色が好きであった。 「ねえ、橋番さん、あそこに見えるのは本石町の鐘だろう、 私しゃあね、あの鐘の下の宗兵衛長屋で育ったんだよ、」「そうなのか、そりゃあ、懐かしいだろうね、、」 「それがね、かあちゃんが家からいなくなって、十三の時にゃ、 本所の味噌問屋に奉公に出されちまったんだよ、 あの頃はまだ両国橋も架かってなくてね、渡し船できたもんだ、 本所がまだ江戸だなんて云われてなかったから、心細かったよ、」 「たしか、本所の丸味屋という大きな造り味噌屋だったね、」 「そうだよ、味噌樽の中を年中ひっかきまわしていたんだよ、 でもね、この年になって、体が思うように動かなくなれば、 番頭さんから役たたずの無駄飯食らいのばあさんだと、ぞんざいな扱いを受けてるんだよ、終いには店を追い出すってんだから、 身寄りもない婆さんはどこへ行きゃあいんだよ、 わたしゃあ、生きていく気がしなくなったんだよ、」「そりゃあ、気の毒だ、人生なんてものは思い描いた筋書き通りにはいかないもんだが、その丸味屋の番頭さんには慈悲がないねえ、」「そうだろう、私しゃあねえ、悔しいから、丸味屋の番頭に言ってやったよ、 あたしがかき回さなけりゃ、樽の中の味噌が腐っちまって、 中身は味噌だか糞だがわからなくなっちまうよ、」ってね、 橋番の又右衛門はおとき婆さんのいじけ話を日が暮れるまで聞いてやるのだった。 橋銭を半分の一文にまけてやって話を聞いたので、 周りの者は又右衛門の一文話だと茶化していた。 寒い日には又右衛門はおとき婆さんに焼き芋を馳走することもあった。 おとき婆さんの愚痴を聞いてあげる人がいなかったのでおとき婆さんも 又右衛門と橋の上で一文話をするのを楽しみにしていたのだった。 如月、寒い日だった。その日は運悪く、暮れ六つ過ぎに橋番を統括している北町奉行所の本所方与力の牧野帯刀様がお見えになることになっていて、 おとき婆さんの話を最後まで聞いてやれず、橋番屋に戻らなければならなった。 「おとき婆さん、今日はよんどころのない用事が出来ちまった、 一文話の続きはまた今度にしよう、」 「おやっ、橋番さんもあたしを捨てるのかえ、それとも、 あたしの話が嫌になっちまったのかい、まだ大事な話の続きがあるんだよう、、」 「おとき婆さん、また今度続きを聞くからね、」 又右衛門は寂しそうに縋るおとき婆さんを振り切って橋番屋に戻ってきた。 橋番屋には両国橋橋番所も支配内の本所方与力の牧野帯刀が 赤塗りの煙管の雁首を煙草盆ので角でぽんぽんと叩いて灰を落として、又右衛門の方に顔を向けた 「又右衛門、どうじゃ、橋番の仕事にも慣れたかな、」 「へいっ、なんとか無事にやっております、」 北町奉行所本所方見回り与力の牧野帯刀は、橋番長のおどきち、 通い橋番のお舟と、又右衛門の顔を茶を飲みながら、 「両国橋は江戸じゃ一番大事な橋じゃからな、よろしく頼むぞ、 橋銭の徴収の方も順調なようだな、よいよい、」 大きな事件もなく、橋の損傷もなく牧野帯刀は満足そうに頷いた。 そのとき、橋番に町人が駆け込んできた。 「てえへんだ、身投げだ!婆さんが大川に身を投げた!」 「えっ、!」 又右衛門は橋番を飛び出した。 ~大川の 川面揺らした 悲しさよ ~ つづく 朽木一空
2024年01月29日
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長屋 人情歌 みそひともじ 12 野良犬迷う裏長屋 たわむれに ポチと名付けた 捨て犬が だれが親だか 長屋で迷う 可愛いな 長屋みんなで 世話やくが 飯がまずいと 消えた犬 水汲んで 小僧せっせと 運ぶなり 老婆の家の 小遣いほしく 伊勢屋稲荷に犬の糞なんて言われてるくらいに、 江戸では犬は可愛がられていたのですが 野放しの犬が町中をうろうろして、道端には犬の糞が 散らばってることが多かったのでございます。 大名屋敷や武家では犬を屋敷の中で飼ってますが、 長屋じゃ犬は飼えませんので捨て犬を拾っては 長屋みんなで面倒を見ることもあったそうで、笑左衛門
2024年01月27日
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長屋 人情歌 みそひともじ 11 浪人哀歌 裏長屋 一人寝る夜の 侘しさよ 月の明かりに 故郷おぼろ笠張の お手伝いだね 浪人の 文字の一つも 教えてくれや井戸端で 薄日をもらい 目を細め 故郷の母 雲に映れり 長屋にはうらぶれ疲れた浪人もいたのです。 田舎から江戸へ出てきて暮らしてみても、 日の目を見ることもかなわずに、 ふと、寂しくなって故郷のことを思い出すのでございます。笑左衛門
2024年01月25日
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笑左衛門 拙作ざれ歌2 佃島 佃島 人足寄せ場 見つめつつ 帰る日あるかと 帰燕(きえん)飛ぶ 火付盗賊改の長谷川平蔵が提案したといわれる、 石川島の人足寄場には無宿人や刑期の軽い者や引き取り手のない罪人が集められた。 大工、建具製作、塗物、紙すきや米つきなどの仕事について技術を習得し、社会復帰させる無宿人の更生施設だったのだが、しだいに、犯罪者を収容する刑務所の役割も担うようになったという。 鬼平の 石川島に 流刑の身 船頭頼むと 艶文託す 忘れられない 娘子がいるのでしょうね、 きっと、帰(けえっ)てくるからな、それまでは誘惑に負けず女の操を守り通すのだぞ、、 ~あなたのために 守り通した女の操 泣かずに待ちます いつまでも 女だから~ 佃島 渡しの船の 泣きしぶき こらえきれずに 桟橋で 石川島に送らえる色男が忘れられないのでしょうね、 危険な匂いのする男ほど忘れられねえてていいますからね、 まったく、女の心持はわかりませんなあ。 流刑地ではない筈だが、 「金助、石川島人足寄せ場送りとする、、」 なんて、奉行の金さんが咎人にいうものだから、 いつしか石川島人足寄せ場も流刑地のようになってしまいました。 江戸から見えるせいか、男女の哀愁漂う石川島なのでございます。 笑左衛門
2024年01月23日
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笑左衛門 拙作ざれ歌 大川の渡し 江戸追われ 笠で隠した 無宿顔 時雨に濡れた 橋場の渡し 大川には 幾つもの渡し場がありまして、 江戸を追われた無宿者でありましょうか、 役人を避けて渡し舟で江戸を去るのでございましょうか。 木枯し紋次郎ですかな、 橋番に 四文借りて 深川の 老婆見舞いに 橋渡る大川の橋の橋銭と呼ばれた渡橋料が2文で、両方の橋詰に仮小屋あり、 橋番が見張っておりました。お武家様はただでございます。 橋の向こうのばあさんを見舞いに行くのに娘さんが、橋番に2文の銭 を借りたのでございましょうね、、 お武家様の格好していけばただなのにねえ、、 橋銭の 二文もあれば 向こう岸 小雨に濡れて 子雀泣いて 若いおなごの気持ちでしょうか、 二文手にして、いい人に逢いに行きたいのでしょうね、、 渡し舟も二文だったそうで、 毎日行き来する人にとっちゃ痛い出費でございましたよ、、 笑左衛門
2024年01月21日
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お江戸破礼句(ばれく) その2 はちゃめちゃで卑猥な俳句か川柳の如きでござりまする ~大笑い 夜這い 手に踏む 猫の糞 ~ 気を付けなされよ、、 ~炬燵より自由にならぬ涼み台~ 炬燵なら手も握れるし、足も出せるんだがねえ、、 ~気があれば 目も口ほどにものを言い~ まず目と目それから手と手口と口、それから、、、 ~おかしさは 昼寝の へのこ 動き出し~ へのこは男根のこと、独り者の長屋は淋しいものでございます。 ~誰が嗅いでみて 喩(たと)えたか河童の屁~ 河童の屁だけではござらんぞ、面倒臭いと胡散臭い、 いんちきくさい、野暮くさい、きな臭い、誰が嗅いだのかどんな臭いやら、、 笑左衛門
2024年01月19日
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お江戸破礼句(ばれく) はちゃめちゃで卑猥な俳句か川柳の如きでござりまする ~とんだこと 婿の寝床に 母の櫛~ ~もう後家を やめねばならぬ 腹になり ~つぶれ前女衒(ぜげん)まで来るむごい事~ (つぶれ前とは破産目前の家のこと) ~路地口に 籠を待たせて女衒くる~ ~嘘も少しはつきますと女衒(ぜげん)いい~ 路地口とは裏長屋の入口の門でしょうな、 女衒とは女を買い、岡場所に売る男のことでございます。 破礼句でもこうなりますと、悲しくなりますな、、 笑左衛門
2024年01月17日
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笑左衛門 拙作都都逸 貧乏かみさん泣くんじゃないよ 髪の毛売って 盥(たらい)で湯あみで あたしゃ女を やめたいよ 裏長屋の隅っこで、飯も食えずにかもじ屋(髪の毛を買う商人)に髪の毛を売り 湯屋にも行けず、盥(たらい)で体を洗ってる、 おとみさん、夜鷹にならずにすんでまだましよ、、 武家奉公も お払い箱かね 気位高い 大店娘 何不自由なく育った我儘娘が武家奉公に出るも 耐えきれずに宿下がりだとさ、いい気味だ、、 加賀藩ならば 鼻が高いね お駕籠に乗りて 宿下がり さすがに加賀100万石の大大名でございますね、 同じ宿下がりでも、格式が違います。 女人も鼻高々でございましょうね、 そうだそうだ もっともだ、、 笑左衛門
2024年01月15日
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笑左衛門 拙作都都逸 茶殻侍 煎じ詰めれば 年寄り茶殻 身分なくして 茶殻者 年取っちまえば武士も町人も、男も女もありゃしない、 みんな茶殻みてえなもの、、余生楽しくいきましょうや、 鼻下伸ばす 茶殻侍 股下垂れて お辞儀する 若いおなごを横目で流し、ちょっかい出せど、 茶殻侍じやあ、息子は知らんぷりですかな、、 士官の道無し おけら侍 糞も屁も出ぬ からっ尻(けつ) 浪人とは、藩取り潰しなどで、家禄を失い、 放浪している武士のことだが、士官先(勤め先)も見つからず、 腹をすかして浮浪している武士が江戸にはたむろしていたのでござる。そうかそうか、、武士も辛いのじゃな、笑左衛門
2024年01月13日
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笑左衛門残日録 80 老残のぼやき ~気ばかりさなどとご隠居酌へさし~江戸川柳 隠居の身でありながら若い女子とさしすさされつ酒を汲みかわし、 ~まだまだ、やる気だけはあるのだが、息子が役立たずでな~ とぼやきながら過ごす様子でございますな、拙者もご同様、わかりまするぞ、、 残日録とはあといくばくかの命の残りを川の流れのようにさらりと記録するもので、愚痴を並べる愚かなことではないこと承知しておるのだが、、 身体が日増しに弱ってきて、昨日までできたことができなくなって、情けない限りである。 そんな某に、歩けだの、体を動かせだの、前向きにとらえろだの、夢を持て、挑戦しろ、希望を捨てるなだの、青春は年齢ではなく気持ちの持ち方だの、笑顔でいろだのと、いろいろな養生法を押し付けようとする輩がいるが それはまだ、命の残りがふんだんにある人とのことで、 棺桶に足の半分取られ、寿命が見えてきた 老残の身にはそんな説法や励ましは屁の役にも立ちやしない。 老いさらばえたこの身では息をしているだけでも十分なのだ。 ああまた愚痴になってしまった。 隠居後は気楽に何も気にすることなく暮らすはずだったのだが、 死に近づいていくことの侘しさは老人でなくてはわかるまい。 死ぬその日まで、空嘘でなく夢や希望を捨てずに生ききった人がいれば、素晴らしいことだ。 ~おいぼれて 老残晒し 恥重ね 生きゆくことで 自分史汚す ~ 拙作 笑左衛門
2024年01月11日
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笑左衛門残日録 79 薄月夜 みそひともじ(江戸短歌)21 凍て土を 突いているよ 寒雀 燗酒飲むか 蒲団に寝るか 拙作 おいしそうなものもない庭に来てこつこつと、 餌を探してつんとくちばしを動かしている。 寒さに身をちじめ炬燵に入って眺めている拙者、 思わず優しい言葉をかけたくなったのじゃ、 年開けて 訃音飛び交う 江戸雀 大往生だと それでも淋し 拙作 横丁の植木屋が餅詰まらして死んだ、向こう長屋のおいね婆さんが井戸端で転んで死んだ、大工の源さん元気だったのによいよいで死んだ、草履屋の坊主が流行り病で死んだ、 おしゃべりな江戸雀が来ては井戸端で世間話をするが、 正月明けに死んだ人の話を得意げにするのがどうもねえ、、 人間寿命というものがるが、大往生であろうが、周りの人は死んでいくのは寂しくていけねえな、、 初散歩 番太の世話で 家に着く 月も爺も 薄月夜かな 拙作 ほろ酔い機嫌で散歩としゃれてみたが、ここはどこだ?と迷い道、 番所の番太の世話になって何とか長屋に帰れたよ、 薄月の夜だったが、某の頭も薄月夜になっているようだ、 笑左衛門
2024年01月09日
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笑左衛門残日録 78 隠宅に 遊びに来たり 鶺鴒(せきれい)が 寒椿の赤い花だけを残し、隠宅の庭はすっかり寒色に染まり、 庭が寒々として侘しくなるころに、毎年セキレイのつがいが遊びに来る。 チチッ、チチチチッ、と甲高い声で鳴くので、姿見えずともああ来たなとすぐにわかる。 人がいても怖がらない人懐っこい鳥で、逃げない鳥とも呼ばれているそうだ。 隠宅の庭をまるで我が家のようにして尾羽を上下に振りながら、ぴょんぴょんとせわしなく歩く姿がなんとも可愛らしく、寂しい庭に福が舞い降りたような気分になるのである。 お筆は、毎朝ご飯粒を少し残して、欠け茶碗にいれ、 庭の隅に水と一緒においておくのが日課になっていた。 律儀なセキレイ夫婦者は毎日欠かすことなく遊びに来てくれるので、 お筆もセキレイの朝飯の用意を忘れるわけにはいかないようだ。 今では、老人の隠宅を賑やかす大事な家族になっているのである。 某とお筆は飽きずに仲良しつがいのセキレイの動きを見ていた。 長い尾羽を上下に振りながら歩く姿は 男が腰を前後に振り振りしながら歩き回る卑猥な姿にも重なってきて、 令和の国ならセクハラで捕獲されてしまうかもしれない鳥の動きである。 某とお筆は思わず顔を見合わせて含み笑いをした。 「鶺鴒(セキレイ)は神への性の教え鳥と云われておるのじゃぞ、 イザナギとイザナミが性交の方法で迷っていた時に、 セキレイが尾を上下に振る動作を見せて無事性交の仕方を知ったという話じゃからなあ、、 そんなめでたい鶺鴒(せきれい)じゃから、セキレイの川柳が江戸にはたくさんあるのじゃよ、 意味深だが、お筆さんならわかるじゃろうな、、ははは、、」 ~かよう遊ばせと鶺鴒(せきれい)びくつかせ~ ~鶺鴒(せきれい)は一度教えてあきれはて~ ~鶺鴒の曰く さてさて御器用な~ ~も一つの伝授 鶺鴒せきれい泣いてみせ~ 「旦那様、セキレイ真似て腰を振って歩くのおやめなさい。 腰を痛めるだけでございますよ、おほほほ、」 笑左衛門
2024年01月07日
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笑左衛門残日録 77 凧凧あがれ、 蛸もあがれ、 ~もういくつねるとおしょうがつおしょうがつには たこあげて こまをまわして あそびましょうはやくこいこいおしょうがつ~ 「元旦の朝っぱらから商いしてるのは どこのどいつでい」「へいっ、凧売りでございます、」 江戸の元旦は静かなものでどこの商店も戸を閉めて休んでいるが 軒下で葦簀(よしず)を囲った辻の凧商人の 凧売りだけは元旦から商いをした。 奴凧(やっこだこ)鳶蛸(トンビ凧)剣凧など種類も色々あって 絵柄は武者が多く、字凧には端を塗りつぶした勇ましい文字の凧に人気があった。 江戸の男の子は正月といえば凧揚げを楽しみにしていて、 凧売りの店の前の道にはは、お年玉を握りしめて子供らが集まり、 通行の妨げにもなるが、正月の風物故あれこれ言うのは野暮なことで、 ご容赦くださるのであった。 凧の買えない子供らには、おから長屋の小太郎の親の大工の寅太郎が篠竹に障子紙を張った凧を作って直弼や佐吉や与次郎らに与え、某がその凧に名入れを頼まれているのである。 この頃では、どこで耳にしたのかおから長屋の子供だけじゃなく方々から手作りの凧に文字入れを頼まれて、小生も元旦から寝正月というわけにはいかなくなっていたのである。 黒墨と朱墨を使って名入れをするのだが、 賀正、迎春、招福、日の丸などの正月らしい文字がいいという子もいれば、 龍、鬼、強、勝、武、など、勇ましい文字を入れてくれという子もいた。 巳の刻(朝10時)ともなれば、神田川の土手の上には 数えきれないほどの凧が空を舞っていたのでございます。 昼下がりには某とお筆も柳原土手の上を歩きながら 凧あげを見物を楽しんだのである。「ほら、あの凧は佐吉の凧だ、龍という字が見えるか、」自分名入れした蛸が正月の空に浮かぶのをみるのもおつなものだ。 「さて、お筆さん、お正月じゃ、私らも姫はじめでもといたしましょうか。」「そうでございますね、でも、旦那様のふにゃふにゃした蛸ちゃんがお空を飛べるでしょうかね、」 あははは、正月初笑い 笑左衛門
2024年01月05日
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御慶申し入れます 正月の歌 庭隅の 苔にさしこむ 初日の出 浮世の世には 裏表なく 庭の隅にも陽があたり、苔の緑も鮮やかに光っていた。 武士町人百姓まで身分で区切られているが 身分を捨てた隠居ともなれば裏表もないのである。 新年おめでとう こそばゆくなる 年寄りには 還暦すぎりゃ 老年めでたしという 新年?いやいや老年でございますよ、 老年じゃ、目出度いやら、淋しいやらでございますが、 ひとまず、今年もおめでとうでございます。 初日の出 神社の石段 息切れし やっと登れば 雲に隠れて 江戸人は初日を拝むのですが、年寄りには 眺めのいい神社の高いところへ行くのは大変なのです。 せっかく登ったら、陽は雲に隠れてしまって、 今年はいいことなさそうな、、、 元旦に 餅いくつかと 問われてる のどに痞(つか)える 雑煮かな 餅幾つ?は子供に聞いてくださいな。 細切れにして、少しづつ食べてくださいおじいさん。 笑左衛門
2024年01月03日
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御慶申し入れます、正月の風景 子供らの 弾む元気や お正月 もすこし生きると 爺闊歩する 元旦になれば、江戸の町々から子供らのはしゃぐ声が聞こえるのだった。 凧揚げに 独楽回し、羽根つきの音、、、 爺も元気をもらって、町を散歩してみるのだった。 無邪気だね 正月素直に 喜んで 子供に帰り 独楽まわしたし 親はお屠蘇を頂き寝正月だが子供らは 長屋を飛び出し外で遊ぶのが江戸の正月。 しがらみを捨て、無邪気になって子供に戻って遊びたいものよ、 隠居所に 正月きたり 門飾り 年玉並べ 子らを待つ婆 隠居所でのお筆の寺子屋に子供らが新年の挨拶に来るという、 お筆婆さんは料理を作り朝からそわそわ、 わが子を待つような喜びに浸っている、いい正月だ、、、 笑左衛門
2024年01月01日
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