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慙愧 氷月左近 7闇夜の毀れ花 冤罪なんぞ気にしてたんじゃ、江戸の町はきれいにならねえよ、 悪なんざ、構わずしょっ引いて島送りか斬首の刑にしてしまえ、 お江戸の大掃除だよ、、 江戸庶民の味方、人情裁きと弱い者の味方、町民の立場を理解したお裁きで名奉行遠山金四郎という評判が高かった遠山金四郎ではあったが、過ぎこしかたに無念の裁きをしたことが心の粉瘤(しこり)となって残っていた。 天保11年、遠山金四郎が北町奉行に任命されて間もなくの頃、無実の大工寅松を死罪にしてしまったことがあった。冤罪である。 寅松の女房おけいから、寅松は無罪であると訴えがあり、訴えどおりに調べると、寅松の弟分の大工見習の末吉という男を捕らえて吟味すると、あっさりと、末吉は、「あっしが殺(やり)しました、」と自白した。 この件は老中水野忠邦が内密に治めてくれた。奉行になったばかりの遠山に傷をつけるより、遠山に貸を作った方が後々役立つだろうという判断だった。 寅吉も普段の素性がよくなく、喧嘩はする、博打は打つ、女は買う、脅して金を巻き上げる、大工と言いながら遊び人の顔の方が強い悪であった。 江戸の奉行所ではそういう男であれば冤罪であろうとも、死罪にしたところで、問題にはならなかった。 だが、~おれはやっちゃあいねえ、遠山は人殺しだ!~ と、土壇場で叫んだ寅松の恨めしい眼が今だに遠山の頭にこびりついていた。奉行としての遠山金四郎に重いとらうまとなって残ったのだった。 遠山金四郎は、札差しから内密に五十両の金を借り、寅松の女房のおけいに届けて謝罪し、寅松の月命日には三年経った今でも深川円祥寺に墓参りを欠かしたことはなかった。以来、北町奉行遠山金四郎の裁きは慎重であった。拷問による自白もさせなかった。疑わしきは罰せずの指針も守ってきた。「遠山は甘いのよ月番が南なら、間違いなく死罪だ」 北町の遠山金四郎に比べると、南町奉行の鳥居耀蔵の調べは無慈悲で酷かった。 拷問による自白の強要は当たり前、罠に陥れる、家族をだしにして白状させる。様々な手を打って、一度捕らえた下手人が無罪だろうが、奉行所から解き放たれることはほとんどなかったといってよかった。 だから、罪人仲間では、お縄になるのは、北の月番ががいいよ、南の妖怪(鳥居耀蔵)じゃあ、罪を犯していようがいまいが、拷問で命を落とすか、首を刎ねられるか、行く先は決まってらあ、 「冤罪には目を瞑る、よいか、そもそも、冤罪になる者も、悪さをしているから疑われ容疑者になるのよ、手を緩めれば、江戸あちにの悪が蔓延するだけだよ、お江戸は悪の住みよい場所になっちまうよ、江戸を綺麗な町にすることに躊躇いなんぞは要らねえよ、さっさと掃除しな、、、」 鳥居耀蔵の口癖であった。それにも一理あった。南の月番の時には悪者も怯え犯罪が減少するのも事実だった。 遠山金四郎が庶民の味方、疑わしきは罰せずという裁定で江戸庶民の味方になっているが、なに、冤罪のとらうまで今でもびくついてるだけのことだ、 内心じゃあ、鳥居耀蔵の裁きが羨ましくてしょうがねえと、思ってるのさ、、ねえ旦那、、 つづく 朽木一空
2022年01月30日
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慙愧 氷月左近 8 闇夜の毀れ花 裏裁き、袈裟懸け斬り ~どうせ、この世は浮き沈み、 浮いたと思えば また沈み 沈んだと思えば また浮かぶ、 なにがどうしてどうなるのやら、~ 北町奉行の取り調べを受け、奉行所から解放されたすけこましの新三郎が、神田小川町にある、父である旗本佐伯祐太郎の屋敷の門を潜ったのは一年ぶりのことであろうか、今度の色事の事件で父祐太郎が裏から遠山金四郎に圧力を加えていたことは理解できていた。 そのおかげで解き放ちになったのだ。父に礼を述べ、小言を聞かねばならなかったが、命が救われたのだから頭も下げねばならぬだろう、 だが、父佐伯祐太郎は新三郎に対して思いのほか厳しかった。「新三郎、お前が江戸にいては、儂もおちおち眠れぬ、お前は佐伯家を捨てて、上方へでも行け、今後佐伯家を汚すようなことをしても、一切関わりがないと思え、勘当だ、お前とは永遠の絶縁だ、わかったか、、」 冷たい父の言葉であった。 たった五両のケチな手切れ金を懐に仕舞って佐伯新三郎は屋敷を追い出された。やけのやんぱちで柳橋の船宿「風雅」で芸者と飲んで大騒ぎしたが、強気な顔とは裏腹で、心の底の淋しさは疼いたまま消えなかった。「どうせ、おいらは次男坊、旗本の次男坊など屑だ、産まれなくともよかった余計者なのだ。こうなりゃあ、落ちるとこまで落ちて、面白おかしく生きようじゃねえか、太く短く面白く生きてやる。」 酔いはだんだん新三郎を太っ腹に変えていったようだ。 七つ半、新三郎は船宿「風雅」を出、酒で火照った顔を川風に吹かれて、小唄を口ずさみながら、月も出ていない、暗い闇夜の中を新三郎は千鳥足でふらついていた。 その、柳橋の土手を 背丈の高い痩せぎすで着流しに、裸足に雪駄履きの浪人が近づいてきた。不気味な殺気を漂わせていた。 「お主が、すけこましの新三郎だな、、」 氷ったような冷たい視線が佐伯新三郎を突き刺していた。「なんだと、貧乏浪人が、いかにも、拙者がが直参旗本佐伯新三郎でござんすがよ、何の御用でしょうかねえ、」「別に用ではない、ただお命頂戴するだけのことだ」 「何をほざく、なんの怨みがあるというのだ、儂の何が悪いのだ」 「拙者はお主とは何のかかわりもござんせん、いいも悪いも無関係でござる、ただ斬るだけのこと、それが拙者の仕事なのだ」 「話にならぬ、無礼者めが、道を開けてもらおうか、」 しこたま酒を呑んできた新三郎は浪人の冷たい視線にも動じず、怖気好きもしなった。浪人を無視して立ち去ろうとしたその時、 「佐伯新三郎、地獄の閻魔様の尻でも舐めてもらおうか」 浪人の刀の柄(つか)にかかった手が動いた、刀身はあっという間に、袈裟懸けに佐伯新三郎を斬り下げた。刃先は新三郎の頭から、顔を斜めに切り裂き、肩から、心の臓まで一直線に斬った。 新三郎は信じられないという眼(まなこ)を虚空に踊らせたまま、ばっさりと倒れ込んだ。 その、新三郎の死屍 に小男の曲猿(せざる)が素早く寄ると、襟首をつかんで引っ張り、柳橋の土手下の神田川に沈めた。ドボンっ、という音がして、水の波紋は川面に拡がった。 浪人は三日月のような冷たい眼で、その波紋を見つめていた。無表情な男の名は氷月左近であった。遠山金四郎の密命を受けた隠密同心であった。 掘割の水に歪んだ月が嗤って映っていた。 つづく 朽木一空
2022年01月30日
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慙愧 氷月左近 6 闇夜の毀れ花 疑わしきは罰せず、 へっ、それが遠山裁きでござんすかい? そのほうが人気があるってえことですかい? 北町同心日下部退蔵には紫房の十手を与えられてていた。 これは特別な働きをした同心に与えらえる名誉の十手である。それほど、日下部退蔵は奉行の遠山金四郎の信頼は厚かった。 その、日下部退蔵の捕縛によって、奉行所へ連れてこられた新三郎だが、相変わらずの蛙の面に小便で、、「ふんっ、不浄役人めが!」と、反省の色もなくふてぶてしい態度だった。 北町同心日下部退蔵も岡っ引き吾平も新三郎をしょっ引いてきたものの、たび重なる悪行を調べ上げたが、どれにも、確たる証拠を見つけりことができなかった。 「女が向こうから勝手にあっしの方に転がり込んできて、惚れたなんだと言いよってきますんで、好い思いをさせてやりましたよ、銭まで運んできた女もございますよ、でもねえ、惚れられたあっしのほうこそいい迷惑でございましてね、勝手に大川に身を投げておいて、こっちに詮議の眼を向けられてもねえ、色男も体がもちませんねえ、、」 吟味与力の調べにおいても新三郎を罪人にする確固たる証拠を示すことはできず、 さすがの、名奉行遠山金四郎も新三郎の悪が透けて見えても、罪にすることに躊躇いを隠せなかった。 新三郎の後ろには、老中水野忠邦直参旗本三千石、書院番組頭を務める大身旗本佐伯祐太郎の存在がある。もし、新三郎の罪が確定し、刑を受ける身となれば、直参旗本佐伯祐太郎の書院番組頭のお役御免だけではすまず、お家断絶、切腹まで考えねばならぬであろう。だがそれは、遠山金四郎にとっても同じこと、確固たる証拠がく、迂闊な取り調べで新三郎を罪人にし、もしも、まちがっていれば、やはりお家断絶、切腹は免れぬところであろう。 老中の水野忠邦を介して旗本佐伯祐太郎は遠山に圧力も加えてもいた。 遠山金四郎にとっては腹を括らねばならぬ判断であった。 佐伯新三郎の悪事は明白であったが新三郎を罪に問うことはできないいらいらから、遠山金四郎の眉間にも悔しさが滲み出ていた。 その遠山金四郎の白州での裁きは 佐伯新三郎、解放(ときはなち)、すなわち無罪放免であった。 佐伯新三郎は薄笑いを浮かべて、北町同心日下部退蔵を見下すようににして、奉行所を出た。 「日下部の旦那、妹様はお元気でお暮しかな、暇があったらいつでもお相手しますとお伝えくださいな」 「何を、この野郎、ふざけやがって!」 「おやおや、お奉行様、この不浄役人が直参旗本に向かってそのような口をきいてもよろしいのですかな」 北町定廻り同心日下部退蔵の腸は煮えくり返っていて悪臭を放っていた。 「奉行、新三郎のやった悪行は明白なのです。それを野放しにしたままでよいのですか」 「儂もお主と同じ気持ちだが、感情や、憎しみ、恨みや思い込みだけで裁定を下すわけにはいかねえよ、疑わしきは罰せずが御定法だ、白州に私情を挟み込んじゃいけねえんだよ」「お奉行、それじゃあ、ずる賢い悪はやりたい放題じゃありませんか、それで江戸の町は守れるのでしょうか」 遠山金四郎には、配下の定廻り同心、日下部退蔵の怒りは十分理解できていたが今は動けなかった。 名奉行としての名声と、お役目の立場に凝り固まり、義理と人情も所詮は口先だけに落ちてしまった自身の不甲斐なさの狭間で、遠山金四郎はある決断を下したのだ。 氷月左近との繋ぎの曲猿(せざる)に刺客の符牒を伝えたのだった。 ~きれいごとだけじゃあ、すみそうもねえや、、、~ つづく 朽木一空
2022年01月28日
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斬月刃 氷月左近 闇夜の毀れ花 5 百両の美人局たあ、高すぎる、、 その三日前、大川に紗枝という、小料理屋の女の水死体があがった。 それだけならよくあることだが、おんなじ場所に次の日に、伊勢屋藤五郎の番頭喜助の死体があがったのだ。 岡っ引きの吾平が探索を進めると、その二人の死の原因に旗本佐伯新三郎が絡んでいるとが分かった。 紗枝は、桶町の裏長屋に住み、柳橋の料理屋”楓”の通い女中で、真面目で明るい性格で女中にしてはなかなかの別嬪だった。 だが、紗枝の親父は指物師で、腕はいいのだが、博打に目がなくて、二十両もの借金をこさえ、毎夜、長屋に借金取りが押し寄せ、挙句紗枝は博奕の借金のかたで岡場所に身を売られる寸前だった。 そんな時期に、柳橋の料亭、楓に顔を出し、優しい口ぶりで紗枝に言い寄ったのが新三郎だった。 その二枚目な面妖と恋の手管で、男慣れした紗代もあっという間に新三郎の虜にされてしまった。 出会い茶屋で幾度か体を合わせたあとで、 ~美人局(つつもたせ)でもすれば、親爺の借金も返せ、岡場所に売られなくと済むぜぃ~ と、巧みに話しを持ち掛けてきた。 「いいか、紗枝、言われた通りにやらねえと、おめえのおとっつあんの博打の借金はけえせ(返せ)ねえよ、だいじょうぶ、ちゃんとやれば、日本橋の大店伊勢屋藤五郎の番頭から貰う慰謝料で何もかもうまくいくさ、うまくいったら、おめえと所帯を持とうじゃねえか、」 「本当ですね新さん、」 仕組まれた筋書とも知らずに、紗代は伊勢屋藤五郎の番頭喜助とまぐあった。 ところが、何も知らぬ実直な番頭の喜助の方は、紗代の躰ににぞっこん、惚れこんでしまったのだ。 こうなると、なにも新三郎が出て行って修羅場を演じなくとも、紗代を利用して、 番頭の喜助から銭を引き出したほうが足がつかなくていい、新三郎は安全な場所から紗枝を操った。 だが、紗代は思わぬ体の変調を感じていた。孕んだのであった。新三郎の子だった。 「二人の子だ、大事に大切に育てようじゃねえか、そのためには、わかってるな紗枝、喜助から、あと100両引き出してくれ、その銭でおめえの親父と三人で暮らそうじゃねえか、なあ、紗枝」 新三郎は、孕んだ紗代を利用して、番頭の喜助をしゃぶり尽くそうと目論んでいた。紗代は新三郎に言わたとおり、出会い茶屋の蒲団の上で、 「あなたの子ができました。ほら、もう少し膨らんでいるでしょう」 「だってお紗代、お前とはたった三回契っただけじゃないか」 「それが、命中したのですわ、わたくし、嬉しくて、産んでもいいですか、」 「困った、どうしらいいか、」 店主の伊勢屋藤五郎が身元のしっかりした娘でなくては喜助の所帯を持つことを許すはずもなかった。「百両頂けないでしょうか、そうしたら、江戸を出て、武州へ帰って子を産んで帰ってきます、その後、私は町家で喜助さんの女として生きていきます。それともこの子は流しましょうか」」「それでは不憫すぎる、百両あれば、私の子を産んで、紗代と暮らしていけるのだな、」 丁稚から手代、遊びもせずに算盤片手に、一生懸命伊勢屋の仕事に励み、やっとつかんだ番頭の座布団だった。それに、初めて知った女の味であった。両方とも失いたくはなった。 紗枝にぞっこん惚れこみ、盲目の恋に落ちた喜助は、伊勢屋から100両を持ち出し、紗枝の前に置いたのだった。 「紗枝、いまの私にはこれしかできないが、この銭で子を産んで、私の女になってくれるのだね、」「はいっ。喜助さんの子を産んで、帰ってきます」 出会い茶屋から喜助が帰ると、隣の部屋であらましを聞いていた、新三郎が現れた。「よくやったな、紗枝、約束だ、おまえの親父の借金二十両は渡すぞ、それじゃあこれで、、」 残りの八十両を懐に仕舞って、新三郎はにたっと笑った。「待って,新さん、このおなかの子はあなたの子ですよ」「何を言いやがる、さっき、喜助の子だと言ってじゃねえか、武州でも帰って子を産むと言ってじゃねえか、おいらににゃあ関係がねえよ、」「それじゃあ、あんまり、」「あんまりも、くそもねえよ、あばよ、」 こう、言って、新三郎は紗代を捨てて姿を消してしまった。 紗枝は親爺に二十両を届けると、喜助を騙したことの罪の意識、お腹の子のこと、 新三郎に捨てられたことが重なり、悲観し絶望して大川に身を投げた。 伊勢屋の番頭喜助も、大川に紗枝が身投げしたという話を聞き、いずれは伊勢屋から100両を掠めたこともわかってしまう。わかってもいい、紗代と暮らせればという夢にかけていた馬鹿さ甘さに気づき翌日、同じ大川に身を投げたのだ。「旦那、紗枝も喜助も哀れですねえ、 新三郎をしょっぴきましょうか、」「あんな悪をいつまでも江戸の町に放しておいたんじゃ、江戸の町の女は安心しておちおち歩けねえ、証拠にゃあ乏しいが、とんでもねえ悪を、証拠が乏しいだけでほったらかしにしておいたんじゃ、江戸の町奉行が腐るってもんだ、よしっ、手配りしろい!」 こうして、北町奉行所同心日下部退蔵は佐伯新三郎のいる柳橋の料理屋”静水”に乗り込んだのだった。 つづく 朽木一空
2022年01月26日
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慙愧 氷月左近 4 闇夜の毀れ花 すけこましの新三郎 4 誰の腹の中にだって穢ったねえ悪の無の虫は住んでいるんだ。 その虫が動き出さねえように罰ってもんがあるんだが、 悪の虫に餌をあげるようなことをする女もいるそうじゃねえか、、 北町奉行定廻り同心の日下部退蔵が酔って愚痴っていたそのこととは、、 「新三郎、御用だ、観念しろい!」 「何をほざきやがる、木っ端役人が、我らは直参旗本だ、不浄役人など失せろ!」 北町同心日下部退蔵と岡っ引き伍平、その手下の者どもが、柳橋の料理屋”静水”で 芸者相手に、どんちゃん騒ぎをしていた旗本佐伯新三郎の座敷へ乗り込んだのだった。 佐伯新三郎は直参旗本三千石、書院番組頭を務める大身旗本佐伯祐太郎の息子であるが、 次男である故家督は継げず、先々、養子の口でもなければ生涯、無役の閑人であり、兄の屋敷に居候する部屋住みの身分であった。 兄に小遣いを貰わわなければならない厄介者であり、頗る悲惨な境遇に置かれていたのだった。 新三郎は、そんな立場に置かれ、家にいてもやることもなく、町をふらついては女に手を出し足を出していたのだ。 江戸の町々で素人女と悶着をおこしては、再再、奉行所の世話になることもあった札付きの悪であった。 新三郎は産まれながらにして、目鼻立ちがはっきりとした色白の優男で、上背は六尺もあり、 役者のような二枚目の顔で、女を誑らしては、銭を巻き上げる、俗にいう女食い、”すけこまし”であった。 『すけ』は女を意味し、『こまし』は、たらし込む、誤魔化す、騙すという意味で、早い話、女を食い物にして遊んでいる野郎のことだ。 女を騙す、誑かす、たらし込む、泣かす、その気もないのに、所帯を持とうなどと甘い言葉で誘い、嘘をついて口説き、金を貢がせ、挙句、女を女郎屋に売り飛ばすこんなことを繰り返している、 江戸の町の女の敵のくず野郎だった。 馬鹿な女は男の眉目秀麗にやたら弱く、育ちの良さを醸し出している新三郎にすぐに一目惚れし、 悪い男と知りながら騙されてしまうのだった。女なんてものは、考えが甘い単純な生き物だった。 北町奉行定廻り同心、日下部退蔵の妹お里も新三郎の見せかけの優しさにあっさり凋落し、毒牙に罹り、女の操を奪われ、銭を貢ぎ、さんざん弄ばれ捨てられた一人であった。 さる御家人の家に嫁入りが決まっていたお里だったが、嫁入りも水の泡と消え、 今では、羞恥心に苛まれ、町に出歩くこともできずに廃人のようになって屋敷に閉じこもって暮らしている。 北町同心日下部退蔵はそんな妹が不憫でならなかった。 日下部退蔵は、なんとか妹お里の怨みを晴らし、とっちめてやろうと、新三郎の身辺を嗅ぎまわっていた。 探索を進めると、案の定、新三郎は、岡場所での女遊びなら許せるが、素人娘や、後家さんから、囲い者の女、商家の奥方まで、 素人女を手玉にとっては弄び、金を巻き上げていたのだった。 店から銭を持ち出し貢いで、家を追い出されて途方に暮れた商家の御新造、浮気がばれて、亭主に斬られた旗本の奥方、 身籠って捨てられ、大川に身を投げた娘、新三郎の毒牙にかかった女は数知れない。 新三郎が悪どい”すけこまし”だったことは明白であった。 奉行所には女からの投げ文もあり、訴えもあった。 だが、新三郎はお縄になり、お白州に座らせられたこともあったが、 「何を証拠にそのようなことを申されるのかあちきにはとんと合点がいきませぬ、お奉行様、わたくしが直参旗本佐伯けの者だとお忘れになっている訳じゃあないでしょうな、」 そう涼しい顔でとぼけては、にやりと笑う、ふてぶてしい振る舞いであった。 奉行所方も確たる証拠を掴めず、罪を断定することができずにいた。 「女のほうから、勝手に寄って来るんでございますよ、あたしゃ、可愛そうだと思って慰めてやっただけ、色男はつろうござんね、ねえ遠山様」」 と嘯(うそぶ)いていた。 強気に言い放つその裏には直参旗本三千石、書院番組頭を務める佐伯祐太郎の存在が影を落としていたのは言うまでもなかった。 北町奉行遠山金四郎も二の足を踏んでいたのである。 だが、~今度という今度は逃がさねえ、許さねえ、~ 北町奉行所同心日下部退蔵は新三郎を縛った縄にぎゅっと力を入れた。 つづく 朽木一空
2022年01月24日
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慙愧 氷月左近 3闇夜の毀れ花 いつの世だって きれいごとだけじゃおさまりはしねえよ 裏がなけりゃ きれいなままじゃいられねえよ 人間だれしも そううじゃねえのかい、、、 遠山金四郎と榊原無道との話が纏まると、曲猿(せざる)は無言で、また蜘蛛が昇るようにすっと天井裏に消え、 「遠山様と一緒のところを見られては拙者も都合が悪いのでな」 と、言い残し、榊原無道も二階の障子を開け、蕎麦屋の出入り口を避けて、屋根伝いに姿を消した。 遠山金四郎は、ほっと一安心して、膳の上のおかずに手を伸ばし、酒を口にした。 「これでよかったのか?」 だが、賽は振られたのだ、もう後戻りはできない。人情裁き、庶民の味方の看板を背負っているのだ。 遠山金四郎がやくざ者のように江戸の町で喧嘩まがいの捕り物をすれば町奉行としての人気は地に落ち、南町奉行の鳥居耀蔵のように妖怪だ蝮だと罵られるかもしれないのだ。 いいひとの遠山奉行でいるためにはこれしかない、これでいいのだ。だがよ、誰にも内緒だ、口に閂だぞ、 酒を含んだ遠山金四郎の唇が歪んだように笑っていた。 ~おお、くたびれた、、~ 遠山金四郎は座布団を枕にしてうつらうつらした。 四半時も眠っただろうか、 階下の店にどかどかっと、北町奉行定廻り同心の日下部退蔵と岡っ引きの吾平が入ってきた。 酔っていた、声がやけに大きい。二階で眠っていた遠山金四郎も目を覚ました。日下部退蔵の声は遠山には筒抜けであった。 「お奉行の、遠山の金四郎も焼きが廻ったんじゃねえのかい」 「日下部の旦那、そんな事を言っちゃあいけませんや」 「だってな吾平、佐伯新三郎なんて悪党の首も刎ねられねええで、何がお江戸の見回りでえ、何のための奉行所でぃ、老中から圧力があったかどうか知らねえが、そんなことじゃ江戸町奉行なんざ、屁のつっぱりにもなってやしねえよ、ふんっ、遠山桜にも苔がはえてるんじゃねえか」 「ちょっと、酔いすぎですよ、奉行所の同心ともあろうお人がお奉行の遠山様の悪口を言って、いくら、自分の妹が遊ばれて捨てられたからと言って、遠山様の責任じゃありませんからね、悪いのは旗本佐伯新三郎でしょう、八つ当たりにしても見当違いですよ」 本所の蕎麦屋”ひさご”で酔い潰れていたのは北町奉行定廻り同心の日下部退蔵、であった。 ”ひさご”という蕎麦屋は遠山金四郎が贔屓にしている蕎麦屋である。贔屓というより、金四郎が奉行所を抜け出し、忍びで町の探索に当たる時の住処である。 ここで着替えをし、髪を崩し、変装した。いわば遠山が忍びで江戸の町を探索する時の隠れ家でもあったのだ。 店主の吾平は元博徒で喧嘩でやくざ者を刺してお縄になり、島流しになるところを遠山のお慈悲で命拾いをし、以来、蕎麦屋の亭主をしながら、遠山金四郎の隠れ家を提供し、狗(いぬ、密偵)も務めていた。 定廻り同心の日下部退蔵も、遠山金四郎と、よく打ち合わせでこの店を利用していたし、見廻りの途中には立ち寄っては蕎麦で腹を埋めていた。いわば常連、身内と言ってもいい、気心の知れた、仲間内のような蕎麦屋であった。 だからであろう、その日の日下部退蔵は、酔った勢いで、思いきり、上司である、遠山金四郎への鬱憤を吐き出していたのだった。 遠山の耳には充分日下部退蔵の悲鳴にも近い戯言が聴こえていた。 江戸庶民の味方名奉行遠山の金さんの名声は汚したくはなかった。かといって、江戸を我が物顔で闊歩する悪をのさばらせておくわけにもいかなかった。 南町奉行の鳥居耀蔵は隙を見つけては遠山の失脚を狙っていたのだ。遠山金四郎は、あくまでも名奉行という顔を捨てたくはなかった。 そのために、第三の隠密の力を借り、裏で悪を抹殺しようとしていたのだった。 これが、名奉行遠山金四郎の二重底の顔なのであった。 つづく 朽木一空
2022年01月22日
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慙愧 氷月左近 2 闇夜の毀れ花 お江戸にはまだ隠れながらも忍者ってえ者がおりましてね、 そう、めったに人目は触れませんので、、、忍びと申します、 隠密同心斑目又四郎を失った遠山金四郎は極秘に第三の隠密同心を探し始めていたのだった。 隠密同心は定廻り同心か臨時見廻り同心の中から選ぶのが奉行所の常道であったが、彼らの中には、悪を叩っ斬る度胸と、剣の腕の立つ男は見当たらなかった。 また、誰一人として危険を伴う隠密同心になりたがる者はいなかった。 遠山金四郎からすれば、与力同心たる武士は、朝が来るたびに死を覚悟し、幕府のために己を捨てても魂をとして悪を滅ぼすという不屈の気構えを持つ者だと確信していたのだが、それが叶わぬ期待であることも感じていた。 かといって、悪をこのままのさばらせていては江戸の町の治安が守れず、庶民から怒りの声が上がり、北町奉行遠山景元の名に傷がつくことであった。 名奉行遠山の金四郎はこのままでは恥さらしになることが目に見えていた。 隠密同心二人の他に、悪を叩っ斬ることのできる第三の隠密同心がどうしても必要であった。裏の隠密同心を奉行所の誰にも知らぜず、遠山個人が召し抱えるつもりであった。 本所相生町の蕎麦屋”ひさご”の二階の座敷の障子からぬうっと榊原無道は姿を現して腰を下ろした。伊賀忍者の元締めの”縄十”の榊原無道は遠山からの申し入れはあらかじめ聞いていた。 「遠山殿、ひとりだけ、ご所望に叶う腕のたつ氷月左近という男がおります。人を斬ることに躊躇いを感じない残虐な面を持っているが、与えた密命はどんなことをしても果たす男です。」 「うむ、ぜひ、その 氷月左近という刺客に会いたい」 「いや、遠山殿、逢わぬほうがよろしい、隠密中の隠密のお仕事、誰にも悟られぬように裏始末をする男でございますが万が一ということもありまする、後々のため。遠山様との繋がりは探ってもないほうがよろしいかと、、、」 そう遠山を制すると、榊原無道は天井に向けてぴっと指を鳴らした。 間髪を入れずに天井からすっとまるで蜘蛛のように音を立てずに降りてきた男が遠山の目の前に現れた。背丈は三尺少し、子供のような身体つきで機敏な動きであった。きいっーと、声を発した。動きも声もまるで猿のようである。 遠山が面食らっていると、 「この男は忍者曲猿(せざる)と申す、 氷月左近との繋ぎの男じゃ、 曲猿が遠山様と、拙者と、氷月左近の繋ぎ役にする。耳は聞こえるが曲猿はキィーと発するだけで口はきけない。従って、この符牒(暗号)で連絡を取り合うことになる。」 といって、遠山は符牒の記された紙片を渡された。 榊原無道によれば、氷月左近は深川南六軒町に住み、背丈は六尺(180㎝)を超えていて、痩せ形で無口、人とは交わりたがらない孤独な男だという。 剣は伊賀水月流免許皆伝で、忍術も使い武術にかけては榊原無道配下の中でも一二を争う剣客だということだった。 話を聞いた遠山金四郎はその氷月左近という男を第三の隠密同心として抱えることを迷わずに決めた。 つづく 朽木一空
2022年01月20日
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慙愧(ざんき)氷月左近 1 闇夜の毀れ花 隠密同心暗殺される 天下の名奉行遠山の金四郎だって? 笑わせるんじゃねえよ、、、、てっんだい 北町奉行遠山金四郎は非番の月だった。非番だからといって暇な訳ではないのだが、金四郎は非番の時には江戸の市中をお忍びで歩くのが習慣になっていた。 庶民の生の暮しを見聞きしたことが役に立ち白州での裁きにも生かされ、名奉行遠山の金さんなどと江戸の町民から慕われていたのだ。 遠山金四郎が忍びで町を歩くときには着流しに草履をひっかけた遊び人の金さんの姿で、賭場にも矢場にも、岡場所にも、いかがわしい酒場にも顔を出した。 悪とは無縁の場所で高みの見物では真実が見えてこない。悪所に顔を出さなければ、悪の本質は見抜けない。そう、遠山は思っていた。 だが、その日の忍びの外出にはある意味が込められていた。 遠山金四郎は本所相生町三丁目の蕎麦屋”ひさご”の二階の座敷で、ある人間を待っていたのだった。 四谷の伊賀忍者の”縄十”の元締め榊原無道である。 榊原無道は配下に忍者、刺客、凶手、を抱え、大名や幕閣の要人から懇請されると、求めにあった、配下の者を差し向けるのだった。 潜入、密偵、諜報、探索、密告、錯乱など、極秘中の仕事を請け負うのだが、無論のことほんの一握りの人間しかこの事実を知らない。 遠山金四郎も闇に生きる榊原無道に頼みごとをせざるを得ないことは、泥水を飲むことの他ならならなかった。だが、その泥水を啜らければ、江戸の町を護ることができない、否、自らの立場を保てないのだった。 やむを得ぬ決断を下し、榊原無道に隠密同心に相応しい刺客を口ききしてもらうためであった。 北町奉行配下の隠密奉行は二人いるのだが、そのうち斑目又四郎からの連絡が途絶え、数日後、本所横川の堀で惨殺された死体が見つかったのだった。 隠密廻り同心は与力配下でなく、奉行の遠山直属の部下であり、奉行の密命を受けて行動する仕事は奉行所の他の者には知らせていないことが多かった。 密命を受けた隠密同心は八丁堀の組屋敷を離れ、町人に変装し特命に従って、標的の組織に潜入し、また囮になりるなど、様々な手段を駆使しながら探索、事件の裏にはびこる悪を暴き出すのが仕事であった。 頗る危険な仕事であり、精神力も忍耐力も体力もまた知能も武術の技量も人並み以上のものが必要であった。 奉行とは、密偵と符牒で繋ぎを取り合いながら連絡を取り合っており、一旦密命を受けると奉行所に出所することはなく、半年も一年も仮の姿が続くこともあった。 隠密同心同斑目又四郎は名を変え、姿を変え、身分を隠し、旗本佐伯祐太郎の次男坊の佐伯新三郎に近づき、悪行の証拠固めをさせていたのだった。 だから、遠山には隠密同心斑目又四郎を斬った男が誰なのかの見当はついていた。 だが、その男を捕縛し裁くことができなかった。その男は斑目又四郎が探索をしていた大身旗本の次男坊佐伯新三郎だった。 町奉行は町民を取り締まるのがお役目で、寺社内は寺社奉行が、旗本は若年寄り支配の目付の管轄であり、旗本を捕縛するどころか、武家屋敷には入ることさえ許されていなかった。 遠山は地団駄を踏んで悔しがった。可愛いがっていた部下である、このまま泣き寝入りはしたくなかった。 老中に訴えたが、「相手は大身旗本だ、こらえてくれ、」というだけで、取り合ってはもらえなかった。 つづく 朽木一空
2022年01月18日
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笑左衛門 都都逸 天秤棒担いだ 棒て振りの元気な声が江戸の長屋には朝から聴こえた。 蜆(しじみ)売りだな 三太の声か 明け六つ(午前6時)まえに おこされる 粘っこいのは 納豆売りか 嚊(かかあ)とおれも べっとべと 粋のいいのが 魚屋(ととや)の金太 錆び包丁じゃあ、 切れやせぬ、 楽しそうだね 貧乏暮し 盗むものなし 愛もねえ ああ、今朝も棒て振りの声で起こされた、、 笑左衛門
2022年01月16日
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笑左衛門 都都逸 陰間茶屋(男色)なんてものが流行ってまして、 やっぱり綺麗な男(器量よし)が持てたそうでございますよ、 器量が悪けりゃ 買い手がつかぬ 娘じゃないよ 男もだ 袖下あさり 目明し行けど 睨み効くのは 猫と犬 土竜(もぐら)みてえな 長屋暮らしじゃ 花の吉原 目に痛い 命も泡も はじけりゃおわり 野暮なこだわり おすてなさい こだわっちゃいまんよ、借りた銭、、、、 笑左衛門
2022年01月14日
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笑左衛門 都都逸 お江戸では捨て子が多かったのでございます。 捨て子禁止令なんて御法があったくらいですから。でね、捨てられた子を邪険扱いしないで、町内みんなで育てたんでございますよ。 よっ、人情のお江戸の町だね。 あかんぼ天下の 授かりものよ 坊やよい子だ ねんねしな 拾った子供 長屋の宝 世話焼きたがる お人よし 憎くて捨てる 親などいない 命預けた 裏長屋 小童(こわっぱ)泣きべそ 迷子か捨子 菜っ葉飯だが 食ってきな 笑左衛門
2022年01月12日
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笑左衛門 都都逸 道々にはお地蔵さんがいて、ほっといたしますねえ、 案山子の顔は へのへのもへじ あたいのお尻 屁のもへじ 犬に吠えられ 馬に蹴れれて 猫とかかあに ひっかかれ 仕事もせずに 銭降る夢か 湧いてきたのは ぼうふらよ 生きていくのが 苦しいなんて 道の地蔵に 笑われる 生きてくのはおもしれえですよ、、、 笑左衛門
2022年01月10日
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イモリの黒焼き 惚れ薬 女子(おなご)が惚れるいい工夫はないだろうかと薬問屋に聞きにいけば、 イモリの黒焼きでも使ってみるかという、イモリは性欲が強く、淫情が強く、求愛行動が激しい動物なので、イモリを黒焼きにした粉を惚れ薬として売っていたのだ。 思いを寄せている相手にそのイモリの粉を振りかければ、粉をかけた人に惚れるという惚れ薬なのだった、じゃんじゃんじゃん、こいつはいい薬だね、、、 てってえんで、遊び人の菊之助、イモリの黒焼きを手に持って、日本橋辺りをふらついていると、どこかの大店の娘であろうか、色白で、育ちの良さが見える上品なふるまいの別嬪の娘に出会ったのでございます。 さっそく、菊之助その娘に近寄ると、ぱあっと、惚れ薬のイモリの黒焼きの粉を振りかけたのですが、その途端にびゅうーと、春風が吹いたのでございます。 イモリの黒焼きはその美しい娘にはかからずに、娘のお供のおへちゃなおたふく娘にかかってしまったのだからさあてえへんでございます。 イモリの惚れ薬の効果てきめん、そのおたふく娘、あっという間に菊之助に夢中になってしまったのです。 ~菊さああん、菊さああん~ 惚れてしまった、恋してしまった、愛してしまった、どこまでも菊之助の後を追ってくるのです。菊之助が逃げても逃げても追ってくるのです。 ~菊の助様ああ、どこまで逃げても本懐を遂げるまではお主を離しませんぞう~ 菊之助、逃げて逃げて逃げて、大川の渡しに出ると、船頭に二分金握らせて、大川の中へ船を漕ぎだした。ほっと一息、、、 かと思ったら、それでもおたふく娘は諦めずに、着物のままざぶんと川に飛び込み追いかけてきたのですが、が、が、、、 大川の水の流れにイモリの黒焼きの粉が流されてしまったのです。 するとまあ不思議、おたふく娘、まるで狐に化かされたように。きょとんとして菊之助の方を見向きもせずに、さっさと帰っていったとさ、、、 江戸の小咄 笑左衛門 脚色でございました。
2022年01月08日
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草鞋 (わらじ)と草履(ぞうり) 履物にも下駄、草履、雪駄、草鞋,足袋、と、色々ありますなあ、 草鞋(わらじ)と草履(ぞうり)は似てはいるが使い道が違うのです。 足元をみれば、草鞋は紐が足首に巻いてあるから旅に出たり遠くへ行くときには重宝するが、草履の方は、足指をつっかけて歩くので、遠くに行くには不便だが、ちょいとした用足しには面倒がなくて便利なので、男の普段履きはもっぱら草履履きが主流でございます。 ~草鞋(わらじ)を脱ぐ~なんてえことをやくざ者がよく言いますが、、、 各地を転々とした渡世人などが土地の親分の家に身を寄せることを草鞋(わらじ)を脱ぐというのです。草鞋を脱ぐ、紐をほどいて、一時身を落ち着けるってことなんでございますね。 草鞋を脱いで世話になれば、一宿一飯の義理も産まれ、やくざの繋がりができていくってことになるのでございますよ。 無宿の渡世人が悪事を働けば役人の手を逃れるために、暫くの間、遠くへ旅に出ることを~長い草鞋を履く~と申します。 ~二足の草鞋を履く~なんてことも申しますが、 一人が趣の異なる二つの仕事を兼業することをいいます。 ~仲人はわらじ千足~ 長屋じゃ、大家や、世話焼き婆さんが口利きをし、両家を取り持って縁談をまとめてくれ、仲人を引き受けてくれたのでしたが、その仲人は両家の間を行ったり来たり、千足の草鞋を履きつぶすほど大変な苦労をするものだというたとえ話でございます。 ~駕籠に乗る人担ぐ人、そのまた草鞋を作る人~ 身分の違いですかな、 ~江戸っ子の草鞋を履く らんがしさ(さわがしさ)~ ちょっとそこに旅にでるために草鞋を履くのにも江戸っ子は騒々しいのです。 ~一歳上の女房は金(鉄製))のわらじを履いてでも探せ -~ 年上の女は、男の気持ちを読み取ることに長け、気が利くので重宝がら、重いが磨き減らない金(かね)の草鞋を履いて(藁のわらじでは擦り切れてしまうほど歩き回る覚悟で)探すべきなんですってよ、、、 二束三文でございます。 ~金剛草履~、大判で丈夫な草履が二足で三文という、安さで売られておりまして、以来、極めて安いことを二束三文というのでございます。 草鞋にも色々な意味があるのですな 笑左衛門
2022年01月06日
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お正月の湯屋 お江戸の初湯 江戸の町では風呂がある家はめったになく、町内に二三軒の湯屋がございまして、みな湯屋へ行くのでございます。 湯屋は正月も元旦から湯を沸かしておりまして、初湯に入る老若男女で大変にぎわっておりました。 鏡餅の前の三方(さんぼう)には、客からの湯銭のお捻(ひね)りがうず高く積まれています。元旦の湯に浸かるには、客は湯銭の他にお捻りをだし、湯屋からはお年玉として貝柄杓(ひしゃく)を頂きました。 洒落ていますねえ、、 てなことで、 正月都々逸でございます 目出度いことが あるのかどうか 正月がきて 探してる 新年挨拶 酒飲み過ぎて 何処をふらふら 奴凧 おもしろ年に しようじゃないの 羽付きの音 軽やかに 銭は小粒で 願いは小判 神田明神 初詣 口から祝儀 羨ましいね 儂もなりたい 獅子舞に 稼ぎ時だね 神社仏閣 きんちゃっ切りも 稼ぎ時 寒空の中 正月もなく 枝で震える 四十雀(しじゅうから) 大家親だね ことしも頼む もらった餅を 網に乗せ 笑左衛門
2022年01月04日
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お正月 年が改まったら一番に井戸の水を汲みます。 この水のことを若水と申し、若水を飲めば病気をしないと云われております。 若水を沸かしたお湯に梅星、塩昆布を入れ、山椒をぱらぱらっと振ったお茶を福茶と申しまして、元旦に頂きますと、今年も達者に過ごせるってえもんでございます。 さてと、江戸っ子は初日の出見物と参ります。 初日の出を拝むため朝早くから日の出の名所にでかけるのでございます。 江戸一番の初日の出の名所は深川洲崎の堤で、南に江戸湾、東に房総、西に富士山を望むことができる絶好の場所、堤の端には洲崎弁財天もあり、初日の出を拝んだ後には初参りもできるので大人気であった。 ほかにも、愛宕山や湯島、神田明神などの高台や、品川、高輪などの海沿いの見晴らしのいい場所には多くの人が詰めかけたのでございます。 初日の出をおがみますと、長寿延命の薬とも言われております縁起のいいお屠蘇を頂きまして、雑煮を食って、まあそれから、寝正月でございますな。 初詣?、まあ神社は江戸の町中どこにでもありますんで、恵方(その年の大吉の方角)にある近くの神社にほろ酔い気分でお参りもいたします。 では新春笑左衛門都々逸度ございます。 早く老けるよ 元旦房事(ぼうじ) 我慢できずに 姫はじめ 宝船 吉夢(きちむ)見たさに 蒲団の下へ 敷いた絵柄へ 寝小便 火の見櫓で 初日見ている 晦日見廻り 番太かな 旗本の 見る初夢は 借金消える 棒引き令を 待つ夢か 長屋浪人 正月ごろ寝 独り屁を放り 笑い初(そ)め へっ、本年もお引き立てのほど、隅から隅までずずずいっと、、笑左衛門、
2022年01月02日
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