ア 本件各書籍(本件書籍一~三)の記載について ① 被控訴人本多執筆,被控訴人朝日の出版に係る本件書籍一(1『中国の旅』単行本,2『中国の旅』文庫本,3『本多勝一集 第14巻 中国の旅』)の中の番号一の1~3の記事(原判決別表記事番号一の1~3の各1・2)は,両少尉(向井少尉及び野田少尉。ただし,匿名処理がされた本件書籍一の2の第16刷以降及び本件書籍一の3においては「M」「N」の二少尉)が,上官から,100人の中国人を先に殺した方に賞を出すという殺人ゲームをけしかけられ,それをいわゆる「百人斬り」「百五十人斬り」の殺人競争として実行に移し,捕虜兵を中心として多数の中国人を殺害したこと,その結果,両少尉(「M」「N」の二少尉)が南京軍事裁判にかけられ,死刑に処せられたことを事実として摘示したものである。 ② 被控訴人本多執筆,被控訴人朝日の出版に係る本件書籍二(1『南京への道』単行本,2『南京への道』文庫本,3『本多勝一集第23巻 南京大虐殺』)の中の番号二の1~3の記事(原判決別表記事番号二の1~3の各1・2)は,本件日日記事(庶判決別紙七~十の東京日日新聞の記事)に掲載された「百人斬り競争」が虚偽ではないこと,両少尉(ただし,本件書籍二の2,3においては匿名表記され,「M」「N」の二少尉)による本件日日記事記載の行為がいわゆる「据えもの斬り」であり,描虜虐殺競争を行づたものであること,その結果,両少尉(「M」「N」の二少尉)が南京軍事裁判で死刑に処せられたことを事実として摘示したものである。 ③ 本件書籍二のうち,原判決別表記事番号二の2の2及び同二の3の2の記事においては,「M」「N」の二少尉が,本件日日記事掲載の契機に関し,その遺書等において,Mは「Nが言った」と書きNは「Mが言った」と書いていることを事実として摘示し,「一種なすりあいをしている」と記述し,責任のなすり合いをしている旨の論評(本件論評)が記載されている。 ⑳ 被控訴人柏の出版に係る本件書籍三(『南京大虐琴否定論13のウソ』)の中の被控訴人本多執筆部分(番号三の記事.原判決別表記事番号三)は,本件日日記事に掲載された「M」「N」の二少尉による「百人斬り競争」が虚偽ではないこと,二少尉による本件日日記事記載の行為がいわゆる「据えもの斬り」であり,捕虜虐殺競争であったことを事実として摘示するとともに,本件日日記事掲載の契機に関し,二少尉がその遺書等において責任のなすり合いをしている旨の本件論評をしたものである。 1 イ 両少尉の名誉毀損について 私法上,死者の名誉等を毀損する行為は独立の人格権侵害を構成しないから,両少尉各固有の名誉が毀損されたとする控訴人らの主張は理由がない。 l ウ 控訴人らの名誉毀損及びプライバシー権の侵害について 本件各書籍は,控訴人らの生活状況や控訴人らの経歴,行状などについては何ら言及していないから,控訴人らの名誉やプライバシーの権利を侵害しているものとは認めることができない。
エ 控訴人らの両少尉に対する敬愛追慕の情の侵害について歴史的事実に閑する表現行為を違法と評価すべき判断基準を述べた上(原判決109頁7~14行目),次のとおり判断した。 ① 本件摘示事実について両少尉の社会的評価の低下にかかわる摘示事実の重要な部分,すなわち,両少尉が「百人斬り」と称される殺人競争において捕虜兵を中心とした多数の中国人をいわゆる「据えもの斬り」にするなどして殺害したとの本件摘示事実は,一見して明白に虚偽であるとまでは認めるに足りない。 ② 本件論評について 両少尉の社会的評価の低下にかかわる論評の基礎事実の重要な部分,すなわち,両少尉が本件日日記事掲載の契機に関しその遺言書等において互いに相反する事実を述べていること自体は真実であると認めることができ,そのような状態を「一種のなすりあい」とした本件論評を論評の範囲を逸脱したものということはできない。