5月12日(日)
現代俳句(抜粋:後藤)(42)
著者:山本健吉(角川書店)
発行:昭和39年5月30日
飯田蛇笏(4)
秋雨や 田上 のすすき二穂三穂
昭和二年作。
「田上」は、田のほとりの意。刈り入れも近い田の畦に、痩せたススキが二、三本穂が出ていて、秋雨に冷たく打たれている。「田上のすすき」と言っただけで、そのひょろりとして貧弱な、うちすてられた哀れな姿が目に浮ぶ。生命の機微に参入するのに、一草一木で足りるのが俳句。
刈るほどにやまかぜのたつ 晩稲 かな
昭和三年作。
晩稲刈るころと言えば、風も冷たい。この句には山村の晩秋のもつ哀愁がある。晩稲の収穫をすませば、山村は冬に入る。この句の背後に、無慈悲な重苦しい冬が、近づいてくる足音を感じる。日の暮れに追われる農夫の心は、同時に近づく冬に追われる心でもあった。晩稲をそよがす夕べの山風に、冷酷な自然の無関心の姿を感じ取っている。それがこの句に、ある寂寥と不安とをもたらす。
(つづく)
現代俳句(抜粋:後藤)(56) 前田普羅… 2024.05.26
現代俳句(抜粋:後藤)(55) 原 石鼎… 2024.05.25
現代俳句(抜粋:後藤)(54) 原 石鼎… 2024.05.24