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2026.06.05
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カテゴリ: 坐禅
大智禅師偈頌講話 沢木興道

偶作(一) 
倒騎仏殿入燈籠 (倒(さかしま)に仏殿に騎って燈籠に入る)
逆順門中有路通 (逆順門中路の通ずる有り)
頂上鉄枷重脱下 (頂上の鉄枷重ねて脱下せば)
可聞秋雨送梧桐 (聞くべし秋雨の梧桐を送ることを)


『大智禅師偈頌』の中には「偶作二首」という題が、二ケ所に出ているが、その最初に出ている二首中のはじめの一首。「倒(さかしま)に仏殿に騎って燈籠に入る。逆順門中路の通ずる有り」仏殿は大きいもの、燈籠は小さいものというが、われわれの通常の概念である。それを倒(さかしま)に仏殿に騎ってというのだから、どういうぐあいに騎るか知らん。とにかく倒(さかしま)に仏殿に騎って燈籠に入る。
 大体大きいとか、小さいとかいうが、これが大きいということはない。これが小さいということはない。ここに倒(さかしま)に仏殿に騎って燈籠に入るとあるように、この人生なんだか分らん。大きくもない。小さくもない。この中に入る。そんな中に入れるか、そんな理屈をいうものではない。湯呑が大きいということはない。「ワアー、どえらい湯呑」それなら風呂桶より大きいか。
 わたしの行くところに小さい風呂桶がある。わたしが入ると、ザブッと湯が出る。小そうてかなわん。では湯呑より小さいか。そんなことはない。そこにいろいろな概念がある。しかし、人間自由の世界には、大きいもなければ小さいもない。お天道様が眼の中に入るではないか。僅か二三寸の絵はがきの中に、千里万里滔々限りない太平洋も描けるではないか。ここに宗教的自由―。十方億土も一歩の問題ではないか。三祇百千劫、長い間の時間も一刹那の問題ではないか。(大智禅師偈頌講話p.33-34)

 昔、房州のある地頭さんが、娘を連れて紀州の新宮に参った。そこに有望なる青年僧が修行しておった。その娘さんの顔を見たところが、朝から晩まで、どうにもこうにもその娘さんの面影が離れんという。不動さんを拝んでおっても。それがどんどろんどろんとその娘さんに見える。「オンムニャムニャ」とやっておっても見える。いわゆる昔の言葉でいうたら、恋患いー。
 町方より白い脚絆をはいて、旅僧姿になって鎌倉まで来た。鎌倉から昔は船で渡る。船宿に泊った。それから船に乗って、房州へ訪ねて行った。そうしたら「よう来た、まあ当分滞在するがいい」それで、もてなして貰った。それからだんだんと娘さんと心安うなった。そうこうするうちに、娘さんに子ができた。サア、大変。それからとうとう、それが親に分った。「不埒な者は家に置くことはできん。出て行け」というけれども、自分の大事な娘だから、本当に出す訳にはいかん。親類からそおっと手をまわして聞かして、「あの坊んさんが還俗するなら、養子に貰う」「そんなら、もう還俗します」還俗して正式に養子になって、地頭の若殿さんになっておった。
 そうして、だんだん子供が三つになり、四つになり、三人でき、五人でき、一番総領息子が十七になった。それから船に乗って、鎌倉の八幡さんに元服ということになった。その一番総領の十七の子供を連れて、坊んさんの還俗したお父さんが船に乗って出かけた。途中になってから大変に荒れて、どうした拍子か、船の舳先におったその十七の子供が、ヒョロッと転げ落ちて、波の渦巻きの間に消えてしまった。
 そこで眼を覚ました。見たら波もなんにもない。自分の頭の毛はなんにも生えておらん。まだ元の坊主じゃ。鎌倉の船宿に泊って、これから渡って房州へ行こうという、その晩の夢に、もうそれだけチャンと見ておる。十七年間の夢をずっと見てしまった。人生をなめ尽くしてしまった。ハハア分かった。人生十七か年、やってしまったら同じことじゃ。馬鹿なことじゃ。そうして暮らして見れば、世の中にはあんなこともあった。こんなこともあった。そのまま船宿から海を渡らずに、紀州へ戻って、立派な坊んさんになったという話が、無住法師の『沙石集』に書いてある。
 こういう例はいろいろあるが、実にこの夢、夢と現実との交錯、それがたった一人の人間の迷い、長うもない。短うもない。迷えば三祇百千劫、それが悟れば常在一刹那、迷えば十万億土、それが波長が合えばー。(大智禅師偈頌講話p.34-36)





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最終更新日  2026.06.05 02:00:05


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