仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2007.10.31
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カテゴリ: 教育
1 概要

 県立高校などの入学式と卒業式の国歌斉唱時に起立しなかった教職員の氏名を神奈川県教委が校長に報告させている行為について、神奈川県個人情報保護審査会は県個人情報保護条例が禁止する「『思想、信条』に関する個人情報の収集」に該当するとの判断を示し、県教委に情報の保管や利用をやめるよう答申した。
 県教委は同日、「答申を尊重せざるを得ない」として、05~07年度の報告分を破棄する方向で検討を始めた。
 県教委は06年3月の卒業式から、国歌斉唱時に起立しなかった教職員名と校長らの指導内容などを記載した経過説明書の提出を、校長に指示。同年6月、県立高教職員23人が「思想信条に関する個人情報」に当たるとして、収集した情報の消去や利用停止を県教委に請求した。
 これに対し、県教委は「集めた情報はいずれも客観的事実で、不起立の理由も聞いていないので思想信条に該当しない」との決定を出し、報告を継続させた。23人のうち16人は審査会に不服を申し立てたもの。
 審査会は、(1)明確な理由のない起立拒否は想定しがたい、(2)起立しない理由の多くは、過去に日の丸、君が代が果たしてきた役割に対する否定的評価に基づく、などの点から「不起立の理由を聞かなくても一定の思想信条に基づく行為と推定できる」として、経過説明書に記載された情報を思想信条に該当する個人情報と判断。決定を取り消すよう県教委に答申した。
 県教委高校教育課は「主張が(答申内容に)生かされず残念」とし、今年度の卒業式以降については「これまで通り学習指導要領にのっとり、国歌斉唱時に教職員は起立するよう指導する。(不起立者の氏名を報告させるかは)県個人情報保護審議会への諮問も含め対応を検討したい」としている。不起立者の人数は「個人情報に当たらない」として、今後も各校に報告させる方針。(毎日新聞記事10月29日から)

2 評価

 ちょっとビックリしたのは毎日新聞がこれを評価する解説を付していること。要約すれば、次のような論理だ。

 思想・信条など「センシティブ情報」は保護する度合いの高い個人情報として、神奈川県のように、個人情報保護条例の中で取扱い自体を禁止する規定を設けている地方自治体は少なくない。県個人情報保護審査会が出した答申は、こうしたプライバシー尊重の流れに沿った判断と言える。一方で国の個人情報保護法には同様の規定はなく、日弁連などの主張にも政府は条文化を見送った経緯がある。しかし今年6月には陸上自衛隊情報保全隊がイラク派兵に反対する国民の個人情報を「反自衛隊活動」などとして収集していたことが発覚。今回の審査会の答申を機に「官」による収集のあり方が改めて問われそうだ。
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 これは、短絡的に過ぎる評価だと思う。公務員たる教員ではない一般国民県民のセンシティブ情報なら、まさにそうだろう。プライバシー重視の流れに乗せて考えるべきだろう。しかし、事は学校教育行政の問題であって、的はずれ。

3 考え方

 教育を学校組織で行う以上、おのずと統制は必要だ。法制的には学習指導要領もあるが、さらに、職員会議での話し合い、あるいは校長の指示などにより、組織的秩序が保たれているだろう。公務員だと職務命令という形式をとることもある。
 もちろん、学校が統一的に決めるべきだから、あるいは公務員だからといって、思想信条の自由やプライバシーを軽視して良いとは言えない。公務員であっても尊重されるべきだ。例えば、職務に無関係の政治的思想や加入団体を問うことはもちろんできない。校長が、あなたは参院選で誰に投票したか、あなたは創価学会員か、などと聞くのは許されない。
 また、例えば校長や県教委が、教育は一致団結が大事だとして教員全員に、一定程度の研修を受講させるのは許されるだろうが、特定の信条や教義を唱えさせたりするのは、思想信条の自由に反するだろう。校長と教員の間の問題もだが、そもそも教育の中立性の問題もある。
 国旗国歌については、個人としての受け止めには、たしかにナーバスな面があるだろう。しかし、少なくとも教員として職務に従事する限りにおいては、国旗国歌を教える責任こそあるとしても、これを教えない自由はないというべきである。
 この点は、もちろん異論もあるだろう。私も、意見の多様性という意味では認めたい。しかし、本件の問題は生徒や父兄ではなく、教員なのだ。学校として国旗国歌をどのように教え、あるいは式典でどのように扱うか、は個人の勝手な発意で決めるものではなく、学校として統一的に決めるべきであるし、そう決めた以上は学校スタッフとして従うべき、この問題はそういう程度の問題だと思う。それでも抵抗すべきほどのナーバスさではない、と思うのだ。国民一般の意識もそうだと思う。
 俗っぽく言えば、生徒や父兄が立つのに、先生はバラバラのママで良いのか、ということにもなる。本当はそれでも良いのかも知れない。しかし、ここで考えるべきは、学校として教育指導の内容、あるいは式典運営のあり方として、起立を決めているなら、そうすべきだ、ということだ。
 実質的に考えても、起立させることが、ことさら個人の人格的核心を害するとも考えられない。



 ハッキリ言わせてもらえば、判断主体が「個人情報保護審査会」だから、かような結論を出すのだ。このことは、有る意味割り切って受け止めなければならないし、そうすれば良いのだろう。審査会に教育現場の問題を裁断する責任もないし、期待もしてはいけない。報道するマスコミにも、個人情報保護に軸足が乗るだろう。(そのことを悪いと言うつもりはない。体制ないし権力とマスメディアとの間の、ある種の健全性だから。)
 少々意地悪く考える。この卒業式に参加した父兄である県民が、「我々も起立したのに教員には起立しない者がいた。誰々なのか教えてくれ」と学校に説明を求めたとしよう。
 少なくとも、校長としてはどの教員が起立しなかったかは頭にメモしていなければならない。万一校長自身が起立反対論者だとしても、管理者である以上、教員と学校行事の状況を把握しないでは務まらないからだ。
 しかし審査会の論理だと、「いや、それは答えられないんですよ」というのが校長の正しい対応となる。そんなバカな。
 ではその父兄は資料を開示請求した。校長の頭の中のメモは文書でないが、紙にメモしていたら、文書はあるが教員の個人情報が記載されて非開示、ということか。


5 国旗国歌問題

 国旗国歌問題は、上記3の整理で一応カタが付いているのだが、昨年の東京地裁判決のように(起立・斉唱義務はないと判示)、ヘンテコな判断が出てくる。これは、教育現場を管理しようとする風潮が強いばかりに、教員の権利救済という形で管理主義に警鐘を慣らそうという価値観が発露するのだ。確かに画一的な管理主義は改められるべきだ。
 しかし、教委の管理圧力が強いからといって、教育行政の正当な統制力を歪める判断をしてはいけない。一種の政治的偏向判断に陥ってしまうのだ。
(東京地裁判決の批評と、管理主義の意味などについて、当ジャーナルの意見は下記過去記事を参照下さい。)

5 その後
 30日の記事によると、神奈川県教委は審査会答申通りに収集した情報は破棄するが、来春以降については個人情報保護審議会(審査会とは別)に諮問して検討する、という。
 個人的には、破棄せずに毅然として欲しいとも願うのだが、一定の教育上の配慮もあるのだろうか。審議会の判断も見守りたい。

6 附言:条例の法文の解釈について

 以上は問題になっている神奈川県個人情報保護条例の法文を見ずに書いてしまったが、条例を読むと、確かに「思想、信条及び宗教」に該当する個人情報(第6条第1号)は取扱いの制限を受けるとあり、職員が職務として行っている場合を正面から除外(正当化)する規定はみあたらない。
 私は、職員の職務執行に関わる情報収集は、地方公務員法の服務監督権などの法令に基づくもの(第6条但書)として正当化されると解釈するか、あるいはそもそも「思想信条」に該当しないと論理解釈する余地も十分あるとは思うが、思想信条の自由の優越性に鑑みて文面上だけで解釈すべきという立場(憲法的考え方)も一理あるから、多少の苦しさは免れない。
 従って、同条但書にあるように、「あらかじめ神奈川県個人情報保護審議会(以下「審議会」という。)の意見を聴いた上で正当な事務若しくは事業の実施のために必要があると認めて」取り扱う、というのが王道のようだ。県教委の方針はこれで明確に合法化したい、ということだろう。
 条文の文理上では、「思想信条」なら職務遂行でも一律(?)保護される。これは立法の配慮不足のようにも思うが、個人情報保護の理念からはそう考えたのだろうか。
 できれば立法(条例)上も明確にして欲しいと思う。

 国歌反対の教員側は着眼点が卓越していた、とも言えよう。

■関連する過去の記事
東京地裁「国旗国歌通達違憲」判決を考える (06年9月24日) 
財政審議会の教員給与引下げ論議と教育の質について考える (05年10月22日)





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最終更新日  2007.10.31 00:58:12
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