仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2011.10.17
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カテゴリ: 国政・経済・法律
興味深い論点について最高裁の姿勢が報じられた。報道によると、混合診療禁止を不当として保険適用の確認を求める訴訟の上告審で、第三小法廷は、弁論を開かずに判決期日を25日に指定した。これにより原告側敗訴とした二審の判断が維持される見通しとなった。原告は藤沢市のがん患者男性で、腎臓がんを患い保険適用のインターフェロン治療を受け、その後に保険適用外療法も併用したため、治療費全額を自己負担とされたもの。(日経、毎日など15日の報道)

訴訟の最大の争点は、混合診療について現行法上は禁止規定がなく、国が法解釈で禁じていることの妥当性である(日経)。07年11月の一審東京地裁判決は、混合診療を保険適用から排除する規定がなく、国の法解釈は誤り、として混合診療禁止は違法とする初の判断を行って注目された。これに対して09年9月の二審東京高裁判決は、一定条件で保険外併用療養費制度があることから、同制度以外は保険給付を受けられないと解釈すべきで、混合診療は原則禁止と解するのが適当として、原告逆転敗訴とした。

混合診療の禁止とは、保険適用診療と適用外診療(自由診療)を併用した場合に、自由診療分だけでなく本来の保険適用診療分も含めてすべてが保険適用外となるルールのことだ。裁判は法の発見であり、法解釈論だから、まずは実定法規定をみよう。健康保険法には混合診療に保険適用を禁じる旨の明確な規定は、ない。(そして、このことが一審の判断の根拠でもある。)

他方で、保険医療機関及び保健医療担当規則(形式は厚生労働省令)第2章(保険医の診療方針等)に位置づけられる第18条には、「保険医は、特殊な療法又は新しい療法等については、厚生労働大臣の定めるもののほか行つてはならない。」とあり、二審判決はこれを混合診療禁止の根拠と解釈した。

そもそも、混合診療を原則禁止するという考え方を支える医療上のあるいは社会的な合理性とは何だろうか。実は、そこが難しい。肯定派(医師会が代表だろう)は、所得格差により受けられる医療に差が出ることは良くないという思想が根幹にあると思われる。解禁派(経済界か)は、保険対象の裾野を広げれば受療機会も広がるという考えが根本で、規制緩和の立場からは、新しい治療法や薬剤にいちいち国が個別に関与して適否をチェックする関与のあり方自体を忌避するのだろう。

医療ツーリズムやTPPなど規制緩和の論議でも、日本医師会は混合診療の全面解禁には反対の姿勢だ。経済界サイドから保険外併用療養を届け出制にしてチェックを緩める方向の議論がなされたが、医師会側は、保険収載を前提とする従来の制度の拡大にとどめるべきとしている。

実はあまりかみ合っていない議論なのだが、これに、総医療費抑制の是非や、最近クローズアップされてきた高額療養費のあり方論議も絡むので、複雑だ。さらに、自由診療の通常分娩費の場合には、国の出産一時金支給制度と絡み合って、保険適用とすべきかどうかの論議もなされている。実証的に政策代替案の効果を研究している人もいるのかも知れないが、それ単独では保険対象の医療が何故に混合されると対象分も含めて対象外とすべきかの論拠は、かなり難しいだろう。

一患者の立場として、最新の療法をちょっと受けただけで全体がひっくり返るのは納得がいかない、という気持ちはわかる。病院から十分な説明はあっただろうが、社会的に異を唱えて議論することは、一つの意義があるとは思う。

しかし、考えるべきことは、裁判所がどこまで医療政策に踏み込むべきなのかという視点だ。この点が興味深いと冒頭言ったことだ。裁判所は国家予算運営に責任を持てる立場にはないから、迂闊に判断すべきではないのだ。加えて、保険適用とするか否かには、治療や薬剤の安全性を評価するという専門的視点も含まれているのだろう。とすれば、なおさらである。現行制度に、相当程度以上の害悪性がなければ、やはり判断をするのは踏み込みすぎだ。


願わくは、政策論としての混合診療禁止の根拠と、かりに解禁した場合の影響などを国民が納得できるようにオープンに論議してもらいたいものだ。もちろん裁判とは別の場で、だが。

実定法規の明文規定の有無で疑義があるのなら、内閣と国会が責任を持って立法上解決すべきことだろう。ただ、おそらくもともと優れて政策的で裁量的な扱いだったのだろう。厚生労働省の得意(というより特異)な手法で、法による行政の視点や経済合理的思考などよりは、政治圧力の間で物事を決めてきたツケかも知れない。

ところで、生存権侵害として合憲性も争われており初の憲法判断が示される見通しというが(毎日新聞15日記事)、これは本当だろうか。下級審の判決文を詳細に読んでいないから論じられないが(時間があれば検討したい)、わざわざ憲法論議をする必要がないと思われ、判断することはないと思うし、するべきでない。がんの治療に関わることだから命に関わることとは言えよう。しかし、だからといって最高法規を持ち出して立法の誤りを指摘するのは、ほかに手のない場合とすべきだ。保険適用外でも治療の道が閉ざされたわけではない。古くは堀木訴訟で併給禁止規定が合憲とされたが(基本的には裁量論)、今回の件は、基本的に健康保険法の解釈の問題で済む。加えて、堀木訴訟のような平等権侵害の点の配慮も関係がないから、憲法判断をするまでもない、と思うのだが、上告受理した以上は判断が示されるということなのだろうか。





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最終更新日  2011.10.17 21:50:23
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