仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2013.02.24
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カテゴリ: 東北
子供の頃はヤナアサッテは明後日の次の日だった。ヤノアサッテ、ヤナサッテなどと発音することもあるだろうが、基本的には東北ではこれらは、明後日の翌日、つまり今日から数えて3日後をさす言葉だろう。

個人の体験で言うと、テレビなどで耳にしたのだろう、シアサッテが3日後でヤノアサッテが何と4日後を指す地域があるらしいと知った。シアサッテは私の幼少の頃は地域ではあまり使わなかったが、使うとすれば4日後を意味するだろう程度の理解。大きくなってからは、「明日」「あさって」に続く3日後、4日後は、それを示す言葉を用いずに、何日とか何曜日とか絶対値をもって会話していた。混乱を避けて自然にそうなったのだが、別に不都合もない。

方言の世界では、同一の語が意味を変えて分布する例は少なくない。例えば、コワイが「恐ろしい」の意味とは別に、東北、北関東、中国地方などでは「疲れた」の意味で使われる(ちなみに東北で「恐ろしい」はオッカナイ)。

以下、徳川宗賢編『日本の方言地図』(中央公論社、中公新書533、1979年。佐藤亮一執筆部分)に基づく。

明後日の翌日(3日後) をどう言うか
シアサッテ
石川県・福井県、近畿以西で広く分布。名古屋市、東京都区部
シラサッテ
広島県・鳥取県・佐賀県の一部
シャサッテ
島根県東部、岐阜県の一部
シガサッテ
愛知県東部、静岡県西部、長野県南部

シノアサッテ
長野県の一部
サアサッテ
三重県、愛知県の一部、岐阜県北部、富山県の一部、能登半島一部、鹿児島県薩摩半島南端と大隅諸島
サンアサッテ
長野県の一部、八丈島
ヤノアサッテ
新潟県・長野県北部・山梨県・静岡県伊豆半島以東の東日本と北海道で広く分布


赤字で記した3語が基本語形かと思う。すなわち、東のヤノアサッテ、西のシアサッテ、両者の中間帯にサアサッテ。ただし、東日本でも東京都区部はシアサッテ。

それでは、4日後はどう言うのか。

明後日の翌々日(4日後)
(注:無回答とは該当する言葉がないこと)
シアサッテ 栃木県・山梨県・千葉県、群馬県(一部無回答)、埼玉県(同)、長野県の一部、静岡県伊豆半島、東京都の一部、神奈川県(大半は無回答)の一部、佐渡、北海道
サアサッテ 福島県の一部、茨城県の一部、山形県北部、秋田県沿岸北部、青森県西岸部
ヤノヤノアサッテ 岩手県の一部、宮城県の一部
キササッテ 青森県の一部
ココノサッテ 青森・岩手の県境付近、山形県村山地方
サラサッテ 秋田県の北部
サラヤノアサッテ 秋田県の一部、山形県庄内北部
ヤノアサッテ 東京都区部、長野県の一部


上の表は東北・関東を記した。東北地方や新潟県は「無回答」が多い。また、表中の関東一円のほかに、ごく部分的にのようだが、4日後にシアサッテを使うところが、岩手、宮城、福島の各県に見える。

また、中部以西になると、4日後の呼び方は、ゴガサッテ(3日後をシガサッテと呼ぶ地方)、ゴアサッテ(北陸、近畿、九州)、ゴラサッテ(3日後をシラサッテと呼ぶ地方)シアササッテ、サキササッテ、サシアサッテ(高知県)、などとなっている。

なぜ3日語と4日後について、全国的にこのような食い違いがあるのか。上掲書の解説をまとめてみた。

いかなる過程を経たのか、考えられる第一のケースは、東西のシアサッテが無関係に生まれたとする考え方。いずれも数字のシ(四)に由来するが西は今日を第1日として数え、東では明日を第1日としたと考える。しかし、3日後についてはシアサッテの領域に隣接する石川・富山・岐阜・三重と大隅諸島にサアサッテが分布するが、4日後の分布図でも、シアサッテの外側にサアサッテが見られる。この事実は東西のサアサッテ・シアサッテが互いに無関係に発生したものとは言えず、一方から他方に伝播したことを示すと考えられる。

第二は、サアサッテ・シアサッテが、かつては「明後日の翌日」の意味で西日本から関東一帯、東北にも及ぶ広い地域に分布していたが、その後東日本にヤノアサッテが発生して、在来のサアサッテ・シアサッテの座を奪い、その結果として、サアサッテ・シアサッテは4日後の意味に変化したとする考え方。しかし、3日後をめぐるシアサッテとヤノアサッテの対立は典型的な東西二大対立をなし、一般的にこの種の地域差は非常に古い時代から存在したと考えられるため、ヤノアサッテが新出とする根拠がない。

第三の説は、東日本では3日後の意味のヤノアサッテが強い勢力を持っていたために、西日本から伝播したサアサッテ・シアサッテがヤノアサッテの座を奪うことができず、隣接の意味分野である4日後の位置に侵入したというもの。明後日の翌日(3日後)の分布図ではサアサッテがシアサッテの両側の地域にあること(周圏的分布)は、サアサッテがシアサッテより古いことを思わせるもので、かつてはサアサッテが西日本に広く分布し、その後西日本中央部で生まれたシアサッテによってサアサッテが周辺に追いやられたと推定される。4日後の分布図のサアサッテ(福島など)とシアサッテ(関東)の分布配列も、西日本における両語形の発生順序を反映していると考えられる。

ただし、東日本のサアサッテ・シアサッテは、西から東へと漸進的に地を這うように伝播したのではなく、西日本中央部から関東中央部に飛び火的に輸入されたのかも知れない。かつて西日本にサアサッテが勢力を持った時代にサアサッテが、次の時代にシアサッテが輸入されたと考えると、東西ともにサアサッテが外側にシアサッテが内側に分布する理由を説明することができる。

上掲の書では第三の説を無理がないとして採用する。

ところで、西日本では、明後日の翌日をシアサッテ、その次の日をゴアサッテとする地域が多い。これは、シアサッテの「四」が意識されて生まれた表現だろう。高知のサシアサッテは、「次の」の意味の接頭要素「サ」を冠したと思われる。(サアサッテも、明後日の次という意味で「サ」をアサッテに冠したものと考えられる。)

また、明後日の翌々日(4日後)について東北地方ではヤノヤノアサッテ、サラヤノアサッテがあるが、ヤノアサッテを基盤に生まれたと言える。山形や青森の一部にみられるココノサッテは、ヤノを「八」と意識した結果。



なお、北海道は一般に東北系や西日本系のほか、標準語・共通語の勢力が強いが、この項目に限っては、標準語でも全国共通語でもない関東方言(ヤノアサッテ-シアサッテ)を採用していることが興味深いのだそうだ。


以上、学説も大変面白いが、改めて「明後日の翌日」と「明後日の翌々日」の呼び方を大まかに整理して終えたい。

明後日の翌日 その翌日
東北
ヤノアサッテ (なし)、サアサッテ、ヤノヤノアサッテ他
関東一円
ヤノアサッテ シアサッテ
東京中心部
シアサッテ ヤノアサッテ
西日本
シアサッテ ゴアサッテ、(なし)他
三重・岐阜・富山
サアサッテ シアササッテ他





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最終更新日  2013.02.24 18:07:22
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