~さわやかに香る風~

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「バランスが…崩れてる…?」

「そう。いないはずの人間がいたり、いるはずの人間がいたり…とかね。ボクがこっちの世界に足を踏み込んでること自体、すでにバランスが崩れていることの証なんだよ」
 ミクタのその語り口からは、たったこれだけの情報を話されただけでも、十分にそれが真実を語っていることが窺えた。
「なんか、ゲームみたいな話だよな」
「うん、私もそう思った。ファンタジーを扱った本とかで出てきそう。でも、最近は舞台は普通の世界で、ゲームで起こるようなことが現実で起きちゃうっていう構成のお話もよく聞くよね」
 亮介と希色が口々に言う。
 その話には乗らずに、巧はミクタに再度確認をした。
「じゃあ…ミックはそのバランスを元に戻すために…?」

「ほんとに、ゲームみたいな話だな…。ミックが世界を救う勇者ってところか」
 「勇者」という言葉に、ミクタは大きくため息をついた。
「勇者、ねぇ…。そんな歓迎される立場だといいんだけど」
「と、言うと?」
「そんなの、言うまでもないじゃないか。現に君達がもうすでにボクを歓迎してないはずだけど?」
 ミクタが少しイラついた表情になってきたのを感じ、巧は慌てて首を振る。
「な、何言ってんだよ?そんなことないって。初めは驚いたけど、今はこうやって普通に話せてるんだし」
 しかしミクタは首をかしげた。
「そう?まぁ、そうかもしれないけど、一般には同じ姿の人間が二人存在してるのは、どう考えても歓迎はされないと思うけどね」
「確かに…こりゃ冷静になって見ると変だよなぁ…」
 二人のやりとりを顎に手をつきながら眺めていた亮介がボソッとつぶやいた。

「ねぇ、ミックくん?だったら、ミックくんはどうやってこっちに来たの?ここに来たこと自体がバランスが崩れてる証だ、って言ってたけど…」
「あぁ、それは、マジョンナの力なんだ。いや、違うのかもしれないけど」
 希色の問いに、イラつきを見せていた表情を引き締めるミクタ。
 彼の表情の変わりようを見て、巧はなんだか面白くない気持ちになる。
 なんか…希色ちゃんには態度違うような気がするんだよな~。俺には当たってくるくせに。気のせいかな…ってか俺、何こんなんでイライラしてんだ?あぁ、やな性格だな、俺。ごめん、ミック。

 巧の気持ちには全く気付かないまま、ミクタは話を続ける。
「さっきも言ったように、世界をまたがって移動するためには、同じ姿をしたもう一人のボク、つまりこの巧が必要なんだ」
「えっ??…あぁ、それで?」
 急に名前を出され、巧は気持ちを見透かされたかと思い焦ったが、話は半分聞いていなかったものの、すぐにミクタに続きを促した。
「それで、一番初めにこっちに来る時には強力な力が必要だったから、あの鏡を使ったんだ」
「あの…鏡って??」
 巧からおおよその話は聞いていたが、希色にはすぐには話が飲み込めない。
「ボクが出てきた手鏡だよ。恐らくマジョンナが作り上げたものなんだろうけどね」
 そこまで聞いて、巧は嫌な予感がした。
「ね、それで鏡はどこにいったんだっけ…?」
「えっ?」
 ミクタもぎょっとした顔をする。
「どこにいったって…あの後どうしたんよ、あの鏡。あれを失くすと大変なことになるってのに!」
 その言いように巧の不安はさらに煽られる。
「し、知らないよ…!あの事件の後、慌てて学校行ったんだから。ミックこそ知らないのかよ、ずっと家に居たんでしょ!?」
 焦った巧を見て、肩をすくめるミクタ。
「そう言われても…。君が行った後もこの部屋には来たけど、あの鏡は見当たらなかったよ」
「そんな、無くなったらどうなるんだよ!?…あ、もしかしてニージョが…?…でも逃げていく時には持ってなかったし…」
 …その時、希色が「あれっ?何か足に…」と声をあげた。
「鏡って、これのことかな…?テーブルの下に落ちてたけど…」
 そう言って、希色は足元から拾い上げた古い手鏡を、手に持って眺めはじめた。
「なんか、結構年季入ってるね。形見か何かなのかな…?でもかわいい!小っちゃくて使いやすそう♪」
 まじまじと鏡の面を見つめだす希色。それを見て、ミクタは慌てて希色の元に駆け寄った。
「だ、ダメだっ!そんなにじっと見たら…!!」
「えっ?」
 ミクタの声に希色が振り向こうとした瞬間、悪夢は起きた。


「きゃあああああああああああああ!!!!」
 希色の持つ手鏡の面の向こうから、ゆっくりと顔がこちらへと姿を露わにし始めたのだ。
 驚きと恐怖のあまり、手鏡から手が離せない希色。目は大きく見開き、体全体がブルブルと震えている。
「…な、なんなんだよ、これは…!?」
 反射的に希色の近くから飛び退き、少し離れたところながら事の進行を見つめる亮介。初めて目にする恐ろしい光景に、立っていることがやっとの状態でいる。
 その点、すでに同じ事を経験済みの巧。心臓がバクバクしながらも、自分の時よりも気持ちを冷静に保てていた。
 希色の元に駆け寄るが、鏡の中から出てくるものを間近で見た瞬間、その足が言うことを聞かなくなってしまう。
「鏡を離すんだ!」
 その場で最も冷静なミクタが、希色の手元から鏡を離そうとする。しかし思ったよりも強い力で握られており、なかなかそれができない。
 そうしている内に、鏡からは希色と同じ顔の部分がすべて出てしまっている。そして今度は同じところから、手と思われるものが瞬時にニュッと出て、希色の頭を掴んだ。
「きゃあああああああああ!!!」
 突然鏡の中から出てきた手に、希色の恐怖は最高潮となり、その瞬間、彼女は意識を失ってしまった。







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最終更新日  2006.06.07 22:30:32
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