~さわやかに香る風~

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   探れ!赤髪美女の正体

        1

 翌日。
 巧は昨日よりは時間に余裕をもった登校途中、頭の中ではかなり余裕のない思考を巡らせていた。
「どういうつもりなんだ…?」
 結局、朝になってもミクタが姿を現すことはなかった。
 朝、歯を磨く際にももう一度鏡の前でその存在を確認してみたのだが、こちらに出てくる気配など全くなかった。
 今日は問題の新任教師、マジョンナと接触し、ニージョの所在を掴まなければならないと言うのに、話もできないまま家を出る時間になってしまった。
 それに、ミクタの言うとおりだとすれば、こちらの世界に戻ることができるのは、自分がいる鏡の前だけのはずだ。万一学校の鏡から出てこられなどしたら、それこそとんでもないことになる。

 と、いうことは、希色の方はどうなのだろうか。
 ロイキの場合も同じであるとしたら、こちらの世界に来る時には希色を通しての鏡からしか来ることはできないということになる。
 昨日は希色の身を案じ、何とか誤魔化すことはできたものの、もし今朝になってまだ真実を告げないままに突然希色の前に現れたりしたら…そちらの方もかなり心配である。
 そこまで考えてしまうと、学校まで歩む足どりも、どんどん重みを増していくような気がした。
 しばらく考えを巡らせていると、巧は後ろから声をかけられた。
「巧くん!おはようっ!」
 後ろを振り向くと、希色がこちらに駆け寄ってきていた。
「あ、希色ちゃん…おはよう」
 そう返事をする巧の横顔を、希色は不思議そうに見つめたが、すぐに笑顔で応える。
「どうしたの?そんな顔して、また元気ないみたいだけど…。昨日は私のこと励ましてくれたじゃん!おかげで昨日のこと引きずらずに済んで、今日も元気に家出て来れて、感謝してるんだ。巧くんも元気で居てくれなきゃ困るよ~」
 懸命に自分を励まそうとしてくれている希色の気持ちが嬉しくて、巧もつい笑顔になる。

 それを聞いて、希色も「よかった」とさらに笑顔になる。
 この様子だと、ロッキーとの対面はなかったのかもな。巧はほっと息をつく。
 しかしやはり気になることであるので、少し間を置いて、遠まわしに訪ねてみた。
「あのさ、希色ちゃん、今朝家で変わったことなかった?恐いこととか…」
 希色は笑顔のまま、頭の上に疑問符を浮かべる。

 そんな聞き方をしたら、勘のいい人なら真実を悟りかねないではないか。
 しかし幸いなことに、その心配には及ばなかった。
「恐いこと??どうして?…あ、昨日のこと、心配してくれてるの?その事だったらほんとに大丈夫だから気にしないでね。今朝は気持ちよく目が覚めたし、昨日みたいな夢も見なかったよ。なんだかごめんね、余計に心配させちゃったみたいで…」
 と希色は謝罪をしだしてしまった。
「い、いや、こっちこそごめん…」
 思わず謝罪の言葉が口をついて出てしまう。
「え?何で巧くんが謝るの?」
 すかさず突っ込みを入れる希色。
 希色のその優しさを受けると、巧はこちらが隠していることが本当に申し訳なく思ってしまう。一瞬、流れで真実を伝えてしまおうかとも思ったが、その言葉は奥に引っ込み、代わりに別の言葉を引き出した。
「あ…いや、ごめん。そうじゃなくて、今朝から…いや、昨日あの後家に帰ってから、ミックの姿が見えないんだ。だから、もしかして希色ちゃんの所に現れたりしてないかな、って思って」
 巧としては咄嗟の言い訳のようでかなり強引に話をつなげたつもりだったが、希色は話通りに受け取ってくれたようだった。
「えっ?ミックくんが??ううん、私の所には来てないけど…。そっか、鏡の中とこっちを行き来できるんだっけ」
「あ、うん、そうなんだ。だからもしかしたら、って思って」
 巧はそう言ったが、希色が鏡の移動のノウハウを知らないからこそ言えるセリフである。
「そっか…ミックくんが出てきた時はびっくりしたなぁ。いきなり手が出てきて…あ、やめとこう。昨日のあの夢思い出しちゃいそう。でも困ったね、今日はマジョンナ先生と会うけど、その先のことって何も話し合ってなかったし…」
 希色も頭を抱えてみせる。やはり気を失う以前のことは鮮明に覚えているようだ。昨日の希色の身に降りかかった出来事に関しては、本当に夢と割り切ってしまっているようだった。
「そうなんだよ。昨日帰ってからその辺りを話し合っておこうと思ったんだけど、肝心のミックがいなくて…今朝も鏡を確かめてみたんだけど、出てくる様子もないし。そのことでさっき悩んでたんだ」
 ここでようやく話が本題に繋がる。
「そうだったんだ…」
 希色もやっと話を飲み込めたようで、巧が大丈夫そうで半分安心、話の内容で半分心配、の表情で共に考えを巡らせた。
「もしかして、浅葱くんのところだったりして!まさかとは思うけど…。今日マジョンナ先生に会ってからどうするかとかも話したいし、早目に学校行って浅葱くんに話聴いてみようよ!」
 思い立ったら行動は早い希色。善は急げとばかりに駆け足になり、巧も付いてくるように後ろを振り返っている。
「う、うん…」
 希色にはロイキが現れてはいないかの確認のために聞いたが、まさか亮介のところに現れてはいないだろう。彼のところにはミクタもロイキも移動のしようがない。亮介にも「もう一人の自分」が現れたなら話は別だが。
 巧はそこまで考えると、例の手鏡を机に伏せたままだったことを思い出した。
「ま、いっか」
 わざわざ持って行くものでもなし、他人が見るようなことさえなければ問題ない代物だ。逆に持って行ってまた同じ惨劇が起きたとなればそれこそ問題である。
 それよりも今は、三人で話し合い、マジョンナという先生と対面した後にどうするのかということ、そして、その問題の先生(いや、先生とは表向きの仮面である可能性が高い)がどんな人物であるかということが新たに心の中を大きく占め始め、巧は希色の後に続いた。

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最終更新日  2006.06.27 11:55:33
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