~さわやかに香る風~

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 四時間目。
 三組の教室の黒板前には、いつもの担当の女性教師ともう一人、スレンダーなボディを持った外国人女性が隣に付き添っていた。
 その姿を発見した生徒たちは、早くも彼女に興味津々といった感じでそれぞれに隣近所で囁き合い、教室内がざわついた。
 その反応に、満面の笑みを浮かべる外国人女性。
 隣の英語教師はというと、こちらも体型ほど立派ではないものの、今が盛りのフレッシュな女性である。笑みを浮かべながら髪を払うマジョンナの様子を見て「かなわないわ」と感じながら、気を取り直して授業を始める。
「みんな、今日はとっても素敵な新しいネイティブの先生を紹介するわ。マジョンナ先生よ」
 名を呼ばれた彼女は一歩前に出て、一度教室内をぐるりと見渡すと、あいさつを始めた。
「ハーイ、皆さん!Nice to meet you. マジョンナと言いマス。これカラ皆さんと楽しく英語を学んでいきたいと思ってマス。よろしくネ!」

 マジョンナはあいさつを終えると、生徒たちに向かって投げキッスをした。
 それに対して「きゃー」とか「うぉー」などという反応がチラホラあったが、やがて皆歓迎の拍手で彼女を迎えた。
 しかし、巧は拍手などしている場合ではなかった。
 この人が…マジョンナ…。
 希色の言うとおり、非の打ち所のない美女だった。彼女が本当にミクタの言うマジョンナという人物ならば、いったいどのような秘密を握っているのだろうと思う。そしてニージョは彼女の元にいるのか、彼女らの関係とは…様々な考えが頭の中で巡る。
 拍手が鳴り止んだところで英語教師が付け加えた。
「マジョンナ先生は三年生の各クラスと、他の学年のクラスも少し担当されているから、毎回っていうわけにはいかないけど、みんなが英語を楽しく学べるように頑張ってくれます。もう十一月だから一緒に学べる期間が短いけれど、マジョンナ先生と楽しく仲良くやっていこうね!」
 そして教師は、生徒達の「はーい」という返事を確認すると、「では授業を始めます」と教科書を開くように促した。
「今日は八十九ページだったわね。…あ、そうそう、宿題のプリントはしてきた?今回はマジョンナ先生に見てもらうからね」
 そう言われて「え~」などと言いながらプリントを取り出す生徒達。巧が前方を見ると、詩織が希色に対して指で輪っかを作り、オーケーのポーズをしていた。休み時間の間に終わらせていたようだ。
 希色はそれに笑顔で応えると、今度は後ろの巧の方に振り向き、目を合わせて頷いた。どうやらスーパーで会ったというのは彼女で間違いないらしい。巧も頷き返した。

 プリントを集め終えると授業を再開し、英語教師が文章を読み上げる。
「The environment in the world is threatened by global warming now. えっと、この文を誰に訳してもらおうかな…じゃあ、マジョンナ先生に決めてもらおうかな?」
 マジョンナは自分に振られると、「OK」と言って教室内を見渡した。
 巧は先ほど目が合ったために当てられるかと思い、その間下を向いていたが、当てられたのは別の生徒だった。
 マジョンナはしばらく「ウ~ン…」と唸っていたが、しばらくすると「oh!」と小さく叫んだ。

 呼ばれた希色はマジョンナと周りからの視線に戸惑いながら「は、はい…」と立ち上がり、英訳を始めた。
「現在、世界の環境は地球温暖化によって脅かされています」
 希色がその英訳の正誤をマジョンナに目で確認すると、彼女は「Very very good!」と手を叩いた。その反応に希色は安心して座る。
 そして英語教師が再度答えを確認する。
「はい、立花さんその通りよ。みんなもこれくらいの文法は楽勝になってきたかな? …それよりも立花さんはマジョンナ先生とお知り合いなの?」
「あ…はい、昨日近くのスーパーで声を掛けてもらって…」
 希色がそう言って笑顔になると、マジョンナもその時を思い出したのか、
「キイロ…グッドネームよね!チヂミ作ったノ?」
 そう、会ったのはちょうどチヂミの材料を揃えている時であった。希色はその言葉に閃いたのか、
「あ、はい!実は今日持ってきてるんですよ。おいしく作れたので後で先生の所にも持って行きますね!」
 と話を持っていった。
 巧も、これで会いに行くいい口実ができたと思い、希色に心の中で感謝する。
「oh!サンキュー!楽しみネ~待ってルヨ!」
 マジョンナも嬉しそうに言葉を返した。
「ふふふ、もうすっかり仲良しって感じね。そっか~、三組はチヂミなのね。うちのクラスは定番中の定番で焼きそばだけど、負けないわよ~」
 英語教師も文化祭の話題に乗っかって語りだすが、それもそこそこにし、続きの文を読み上げる。
「…えっと、次のこの文だけど、今度は誰がいいかしら?」
 と言ってマジョンナの方に目を向けると、彼女はもうすでにターゲットを決めていたようで、すぐに口を開いた。
「あそこの…後ろから二番目のカレ?ネームがわからなくてごめんナサイだけど…stand up please?」
 その視線は明らかに巧を捕らえていた。
 マジで…?さっきのはフェイントかよ…。
 皆の視線が一気に巧に集中する。
「は、はい…」
 頭を掻きながら立ち上がると、マジョンナがニッコリと笑って言った。
「アナタは、キイロのフレンドでしょ?? sheと一緒にガッコウに来てるのヲ見たから…」
「えっ!?」
 まさかそんなことを言われるとは(しかも見られていたとは)思いもしなかった巧は、明らかに動揺した。
 マジョンナの発言に教室内がざわつき、どこからともなく「ヒューヒュー」だの「マジ?」だの冷やかしの声が聞こえてくる。
「な、なんだよ、そういうんじゃ…」
 顔を真っ赤にして抵抗したが、ふとした瞬間に希色と目が合う。
 希色も同じく顔を真っ赤にしていた。言い返すのも恥ずかしいのか、顔を上げることもできず下を向いている。
 そういう扱いをされると何だか意識してしまう。
 そこで英語教師がパン、パンと手を叩きざわつきを鎮める。
「はいはい、すぐそういうことに反応するんだから。今はそういう時間じゃないでしょ?…赤崎君、答えを聞いていいかしら?」
 名を呼ばれてハッと我に返った巧だったが、
「あ、あの…すいません、どこからでしたっけ?」
 余計なことに囚われ、完全に当てられていたことなど忘れてしまっていた。
 周りに笑われ、さらに顔を赤くする巧。
 恐るべしマジョンナ。曲がった考えで彼女をただ者ではないと感じるのであった。
 再度希色の方に目をやったが、赤い顔のままではあったものの、今度は笑顔を見せていた。

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最終更新日  2006.07.05 02:18:28
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