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yahooニュースによれば、私も見ていたのだが、安倍晋三首相が1月28日の衆院予算委員会で発言した、「桜を見る会」に関する“珍”答弁「募ってはいるが募集はしていない」が、ツイッターのトレンドワードになるなど大きな反響を呼んでいるらしい。 安倍首相の地元事務所名で、桜を見る会を含むツアー参加者を募る文書が、地元有権者に送られていた問題で、共産党の宮本徹議員が募集時期をいつ知ったかと質問したところ、首相は「幅広く募っているという認識でございまして、募集しているという認識ではなかった」と回答した。 宮本氏は「私は日本語を48年間使ってきたが、『募る』というのは『募集する』というのと同じです。募集の『募』は『募る』っていう字なんですよ」と、日本語の意味を総理大臣に説明するという場面が展開された。 私はテレビを見ていて、思わず吹き出してしまった。私の大学の学生が間違えたのなら、またかで済むのだが、いや、私の学生だってそんな間違いはしません、一国のCEOが、たびたび言葉のミスを国権の最高機関である国会の場でやらかし、公共電波で全世界へさらけ出すなど、本当に日本人として恥ずかしいやら情けないやらを通り越して、涙が出てしまう。隣では、女房が「あーあ」とため息をついている。 私も大学では、学生に言葉の意味や、その使い方、不用意な使い方をすると、人に変な誤解を与えたり、関係を台無しにしたりすることがあるので、日ごろから口うるさく注意しています。人は正しい言葉と適切な使用を心がけることで、良い関係性を保ち、ひいてはコミュニティの健全な発達と維持につながり、自己を活かしてくれる根本だということを指導の根本と心がけています。 私が、このCEOの使用する言語や、言葉遣い、あるいは返答の言い回しを見ていて思うことは、一国のCEOに値しない拙劣な内容だということです。正しい漢字が書けること、読めること、正確な意味を熟知していること、またその使用法に細心の注意が払えることなどは、一市民、国民として常識的なことだと思います。思想信条、政治理念の相違は別として、私たち国民が最も心しておかなければならないことを蔑ろにする様では、人はいずれその人を見限るでしょう。
2020.01.30
お笑い芸人で、最近売れてきた光岡瑠偉は、自宅近くの場末の居酒屋で焼酎をやりながら、昼間の疲れをいやしていた。この二、三日、忙しくて、ろくな睡眠時間が取れず、食べるものもワンパターン化して食傷気味であったが、時間に余裕ができて食欲が出てきた。この店はたまに来るのだが、メニューが豊富なので、食欲に任せて口に合うものなら何でも注文した。暴飲暴食はマネジャーからきつく注意されているので、アルコールは控えめにした。 光岡瑠偉はもともとバンド出身で、大学のころから組んでいたロックバンドで、今のプロダクションに売り込んで活動していたのだが、芽が出ずに、バンドはメンバー間のトラブルもあって解散し、芸人に転向した。売れてきたとはいえ、ライブハウスでの前座やCMの引き立て役、クイズ番組のその他大勢のような、目立たない起用ばかりでは、知名度は知れたものだ。それでも、懐具合は依然と比べれば格段に豊かになり、時たま預金通帳を見て驚くほど残高が増えて、仕事を実感することがある。ソロシンガーとしての再デビューが次の目標だった。 ラジオ番組の収録を終えて、電車で自宅のある郊外の駅に着いたのが、午後10時だった。自宅は、新宿から私鉄で至近距離の八幡平にある。時たま、生まれ故郷が恋しくなることもあったが、このままでは死んでも死にきれないという思いで、必死に夢にしがみついている。 専属マネジャーもいるにはいるが、別の売れっ子タレントにつきっきりで、光岡瑠偉にはお構いなしだ。そのほうがありがたい面もあったが、連絡はほとんどメールで送られてくる。居酒屋の店内は結構混んでいて、大きな笑い声がところどころに聞こえる。「やあ、瑠偉君。と声をかける常連客もいる」 光岡は、最近自由になるカネが増えたこともあって、ちょくちょく友だちを連れてこの店にやってくる。かと言って、光岡に気付くものはほとんどいない。女友だちはいなかった。所属事務所は、東京のユニバーサル・プロダクションで、黒田研一マネジャーについていたが、事件に巻き込まれた黒田が死亡したことで、別の女性マネジャーに世話になるようになった。ほろ酔い気分で、光岡は黒田マネジャーが殺された件を思案していた。「いい人だったのに。俺が有名になったのも、あの人のおかげと言ってよい。小さな仕事でも手抜きをしないように頑張れば、きっといい仕事が来る……」 光岡は葬儀に参列した時の無念さを思い出して、グラスを高くかざした。「黒田さん、天国で見ていてくださいよ。オレ、きっとあなたの描いたような立派なアーチストになりますから。それにしても、一体誰だろうな、あんないい人を殺すなんて。黒田さんにも、きっと人に言えない隠し事があったに違いない……」 光岡は、ミュージシャンの夢を捨ててはいなかった。湿っぽくなってくると、焼酎も味がしなくなり、帰ることにした。明日も朝早くから仕事の打ち合わせがある。光岡は居酒屋を出た。自宅の賃貸マンションに帰るには、大きな通りの信号を渡らなければならない。光岡はいつものように歩道を渡ろうとして、信号が青に変わるのを待った。家に着いたら、作りかけの曲の続きをやらなければならなかった。少しアルコールが入ったほうがスムーズにメロディ―が流れてくる。ライブで発表する予定の曲だった。 信号の右手の方向に一台の車が、ハザードランプもつけずに停車していた。反対の信号が黄色に変わると、その車は勢いよく発信し加速していった。ライトはつけていない。電気自動車だろう、音はほとんどしない。光岡はあまり気にすることなく、横断歩道を渡り始めた。右手に異変を感じた光岡が、車の急接近に気付いた時はすでに遅かった。 かろうじて体をかわすことができたのが不幸中の幸いだったが、光岡は車のボンネットに乗り上げ地面に叩きつけられて意識を失った。後続車がこれを発見し緊急停車し、110番通報した。すぐにパトカーと救急車が現場に到着して、光岡瑠偉の応急処置をして、猛スピードで救急病院へ向かった。時刻は、横浜の中華街で神奈川県警と鳥取県警、それに民間人を交えた情報交換会がお開きになったころだった。(続く)夏光一郎警部シリーズ(既刊)(既刊)『野獣の美学殺人事件』文芸社、2011年『リオの蝶殺人事件』文芸社、2011年『磯の香りの謎殺人事件 夏光一郎警部巨大地震と戦う』文藝書房、2011年『夏光一郎警部 猫の一分 美人博士とブッチーの活躍』Kindle版『夏光一郎警部 夏光一郎警部 湯河原発量子力学の女』Kindle版『連続僧侶殺人事件(上)夏光一郎の試練』Kindle 版『連続僧侶殺人事件(下)』Kindle版『夏警部 ブラック企業を追え 中国塩城に舞う鶴の化身』Kindle版『夢を売る女』Kindle版
2020.01.29
横浜中華街の料理店 仲村と滝川刑事は、慣れない場所へ来たせいか、何ともぎこちなくそわそわとした様子で、約束した中華料理屋へ入ってきた。ホテルは中華街の近くに取った。先に来ていた夏と蜜柑が、手招きをすると、鳥取県慶の二人は、「やあ」と手を挙げて、人懐こい顔で予約された席へ来た。個室が用意されていた。店長は神奈川県警の夏と知って、一番奥の個室を用意した。「どうぞお座りください」 夏が勧めると、二人は恐縮した表情で、「ありがとうございます」と言って、神奈川県警の二人の対面に座った。「遅れて来る人は待たない主義で」と言って、夏が瓶ビールを勧めると、「それじゃ」と言って、鳥取県警の二人は、受けたグラスをかざして遠慮がちにビールを口にした。「早速ですが、鳥取から電話が入り、君川社長は鳥取駅前のステーションホテルへ泊まっていたことがわかりました」「ほう、で、どんな具合でしたか」 夏は、やんわりと聞いた。「はい、君川社長は殺害される日の前日、18時にステーションホテルへチェックインしています。8月1日ですね。殺害されたのは翌日2日の深夜です」「翌日はどうしたのでしょうか」「それがどうしたことか、翌2日にチェックアウトしているのです。時間は午前9時です」「その後の足取りは」「わかりません」と、仲村刑事が答えたところで、藤堂麻里矢と山梨玲子、それに中年の男性が入ってきた。藤堂麻里矢が私立探偵の山梨と、事務所のマネージャーを紹介して席についた。夏が娘と鳥取県警の二人を紹介して、飲み物のオーダーを取った。コースの料理が来るまでの間、夏が中華街やミナトミライのことなどを鳥取県警の二人に案内して、これまで横浜と鳥取で起きた事件の概要を説明して言った。「なかなか話せないこともあるのですが、今度のことに関して、業界筋のことを教えていただければ幸いです」と、話を切り出した。藤堂麻里矢の所属事務所はかぐや姫と言ったが、麻里矢のマネージャーを勤めてもう10年にもなる谷田敬一郎が、「ご紹介いただいたばかりで僭越ですが、ユニバーサルプロダクションの黒田さんは、私もお付き合いをさせていただいておりまして、仕事上のことに過ぎないのですが、仕事熱心でまじめな方でして、人から恨みを買うということは考えられないのです。しかしながら、芸能界というのはルールがあって無きに等しい業界でして、ご存じのとおり、世間の常識が通らない、いわば別世界のようなところがあります。藤堂から事件のことは聞きましたが、黒田さんの交友関係は調べましたか」と、いきなり突っ込みを入れてきた。おそらく麻里矢のプッシュが入っているのだろう。「それが、黒田さんは仕事一筋というか、友人関係はあまりないようで、事務所で2,3尋ねてはみたのですが、手掛かりになるような情報は得られませんでした」と、夏が答えた。 谷田敬一郎が続けた。「この業界は、芸人さんやタレントさんの関係もさることながら、芸能プロダクション同士の関係もありまして、横の関係が密なのです」「タレントさんの融通みたいなことですか」夏が、乏しい知識で聞いた。「その通りです。ほかにもありますが」「大阪のドリーム・プロダクションと東京のユニバーサル・プロダクションに仕事上の関係があったと」「はい。うちのスタッフに聞いてみたのですが、とくに濃密な関係というほどではないのですが、いくつか、共同で仕事をしているということでした」「君川社長は、鳥取の白兎海岸でユニバーサル・プロダクションの関係者と会っていた可能性が……」と、滝川が返した。「その絞り込みは、早すぎるかもしれませんが、可能性はありますね」と、夏が引き取った。「そういえば」と、山梨玲子が思い出したように言った。「黒川さんの使っていたノートパソコンを調べているのですが、いくつか仕事に関係するメールが残っていて、今話のあったユニバーサル・プロダクションの代表メールと思われるメールが受信されているのです。私の事務所にノートパソコンがあるので、帰ったらもう一度確認しますが、確か「例の件ではお世話になりました」というようなメールを受信しています。info-universalというメールでした」「やはり」と、夏が納得した。やり取りが進んでいるうちにも、第三の殺人事件が密やかに進行していた。(続く)
2020.01.22
ヨシモトと権力(官邸)との癒着を指摘した記事として興味深い記事が昨年7月の「日刊ゲンダイ」に出ていた。本ブログはサイトの貼り付けができないので、ネット検索をしていただくしかない。 お笑い芸人は、芸能人(界)全体もそうだが、「芸」によって身を立てていくべき存在であり、芸の奥義を窮め、大衆に愛されるのが天命である。芸能人の天職とはそういうものである。芸の道の追及を忘れ、クライアントの要求に安易に妥協し、そうでなくとも忖度しおもねて、芸を曲げることは身の破滅である。 クライアントあっての芸能プロダクションであり、そこに露出の機会を得て初めて芸人の未来があるわけだから、酷なことを言うようだが、現代の芸人は「河原乞食」でもなくGPSによって常に位置確認される「奴隷」でもない。 関西人は「反権力」をもって自己のアイデンティティとしてきた歴史を忘れてはいないだろうか。安易に東京にすり寄り、金欲しさに権力忖度する時、大衆はおのずと愛想をつかし顔を背けていく、いわば自然の浄化作用が、「干される」以前に作用する。私は、物心ついたころからヨシモトのファンであり、今でもヨシモト芸人の支持者だ。「新喜劇」は勉強よりも好きだった。しかし最近の芸人を見ていると、目先ばかりの「笑い」に満ち満ちており、漫才などは「バカ騒ぎ」の域を出ない。この薄っぺらな「芸」が世界に通用するはずなど決してない。カップラーメンを世界の主食にするようなことは、絶対にやめてもらいたい。(2020年1月22日)
2020.01.22
(一三)「会う約束した場所は白兎海岸でしょうか」「君川社長の携帯は奪われているし、判断ができないのですが、社長の車は自宅に置いてあることからすると、鉄道で鳥取方面へ向かったと思われます。岡山から津山線、因美線で鳥取です。奥さんには、ホテルでくつろいでいるというメールを送っていることから、さっそく署のほうで、鳥取市近辺のホテルを当たらせています」 仲村が答えた。「目撃情報があるということでしたね」「はい、その通りです。夜中近くですが、白兎海岸のコンビニで、君川社長が焼き鳥と焼酎を買っているんです。アルバイトの店員の証言です。外に男を待たせていたようなのですが、残念ながら顔は見ていません」「その男が犯人だとすると、警戒して暗闇に潜んでいたんでしょうね」「それ以外には、全く目撃情報がないのです」「君川さんの会社、ドリームリサーチ・プロダクションでしたか、会社では何か?」 夏が聞いた。「君川俊夫社長の息子の翔さんが、会社でマネジャーをしているのですが、何もわからないと言っているのです。何か隠しているような雰囲気ではあるのですが。奥さんんも、急に鳥取に行く用事ができたということだけで、あとは、横浜の事件の切り抜きを作っておくように、メールが来ただけだというのです」 若い滝川が答えた。「君川社長が鳥取から切り抜きを作るように奥さんにメールをしたということは、鳥取で犯人から横浜の事件のことを聞かされて、大阪に帰ってからゆっくり横浜の事件のことを考えようということで、まさか殺されようなどとは考えなかったのでしょうね」 蜜柑が割って入った。「私の娘ですが、一課の刑事を勤めています」と、夏警部は改めて紹介した。「蜜柑さん、犯人のプロファイルはいかがでしょうか」 若い滝川が聞いた。「いえ、そういうつもりでお聞きしたのではないのですが、横浜と大阪の同じ芸能プロダクションの関係者が殺害された。横浜では東京のユニバーサル・プロダクション、大阪はドリームリサーチ・プロダクション、何か見えない関係性があるような気がしたのです」 滝川刑事が相槌を打った。夏警部と仲村警部は、他人事のような表情になっている。「ずばり、横浜の事件の犯人が、大阪の君川俊夫社長を呼び出した。殺害目的で」 滝川刑事が、蜜柑刑事の推理に同調していった。「おい、滝川」と、仲村が制したのを見て、「横浜のマネジャー殺しの犯人が、なぜ、大阪の君川さんを呼び出す必要があったのでしょうか」と、推理を一歩進めた。「その辺を伺いにやってきたのですが」と、滝川が頭を掻きながら弁解した。すると、夏が、「君川俊夫社長には、犯人にとって何か都合の悪いことを握られていたか、あるいは……横浜の事件と鳥取での殺害事件は別問題で、君川社長が横浜事件に関心を示したのは偶然だったかもしれませんね」と、蜜柑と滝川の推理に水を差した。「横浜の事件では、赤い傘の女性が、黒田研一の背中を一突きにしたうえで、海へ突き落したという手口です。近くのホテルの窓から、この様子を目撃した人がいます。この赤い傘の女性は、同じホテルに宿泊していたのです。目撃した女性は、私と面識のあるシンガーソングライターの藤堂麻里矢さんです。それからこの事件の被害者の黒田さんの奥さんが、内々探偵社に事件解明の依頼をしています。山梨という女性です。どうでしょう仲村さん、せっかく横浜までおいでになったのですから、藤堂さん、山梨さんと食事でもご一緒にいかがでしょうか」と言って、蜜柑に目配せをした。蜜柑が笑うと、若い滝川刑事の目が輝いた。滝川にとって都会の神奈川県警の若手女性刑事は、アイドルか女優に映ったに違いない。 携帯で連絡を取っていた蜜柑が、携帯を折りたたんで言った。「藤堂さんはオーケーです。山梨さんはメッセージを入れておきました。藤堂さんからも誘っていただけるそうです」 夏警部は、遠方の刑事をもてなす軽い気持ちで夕食を誘ったのだが、ここから推理が進むなど考えてもみなかった。しかし、予期せぬ第三の殺人事件が着々と準備されていたなど、刑事たちは知る由もなかった。(続く)夏光一郎警部シリーズ(既刊)(既刊)『野獣の美学殺人事件』文芸社、2011年『リオの蝶殺人事件』文芸社、2011年『磯の香りの謎殺人事件 夏光一郎警部巨大地震と戦う』文藝書房、2011年『夏光一郎警部 猫の一分 美人博士とブッチーの活躍』Kindle版『夏光一郎警部 夏光一郎警部 湯河原発量子力学の女』Kindle版『連続僧侶殺人事件(上)夏光一郎の試練』Kindle 版『連続僧侶殺人事件(下)』Kindle版『夏警部 ブラック企業を追え 中国塩城に舞う鶴の化身』Kindle版『夢を売る女』Kindle版
2020.01.21
神奈川県警の夏警部と蜜柑は、県警の食堂で昼食をとりながらテレビを見ていた。ちょうど昼の報道番組が始まったばかりで、あまり興味はなかったが、最近ニュース番組などで話題になっている、お笑い芸人の反社勢力との癒着問題を扱っていたので、二人肩を並べて見ることにした。蜜柑は横で紅茶を飲んでいる。 山下公園の殺人事件の被害者が芸能プロダクションのマネジャーであったので、自然とテレビにひかれたのだった。刑事課では、芸能人の刑事事件というのは、なぜだかほとんど案件がない。それだけ、芸能プロダクションの人材管理が徹底しているということだろう。夏警部には、芸能界の知識はほとんどなかった。 数年前に、歌手の藤堂麻里矢が、歌に行き詰まりを感じ、ある殺人事件に巻き込まれて、失意のうちに放浪の旅を繰り返すうちに、事件の真相を知る麻里矢があわや犯人の手にかかりそうになったのを、間一髪で救出したことがあった。夏警部にとって、これが初めての芸能界の絡んだ事件の解明であった。 今回の殺人事件は、正直なところ、何が手掛かりになるのかすらつかめずにいる。その点、藤堂麻里矢は芸能界そのもののひとである。もう一度会って参考になることを聞きたいとは思っていた。そんなもやもやとした頭の中に、番組の声が入ってきた。「反社勢力との交友がもとで、彼らと一緒にうっかり写真を撮ってしまったことで、Yさんはついに芸能事務所の逆鱗に触れ、謹慎処分となってしまったのですが、Aさんいかがですか」と、司会者が男か女かわからないようなタレントに振った。「そりゃ自業自得いうもんちゃいますか。いくら面識がない言うたかて、腕の入れ墨や目つきを見りゃわかるでしょうが。謹慎処分で済むわけないんとちゃいますか」とまくし立てた。「ちょっと待ってください。あなたも経験があると思いますけど、我われ芸人は、街を歩いているときだって、ちょっと写真いいですかと言って頼まれれば、ファンサービスなんで、断れないですよ。その人がたまたま反社勢力のひとだったからと言って、咎めるのはかわいそうですよ。穏便に扱うべきですよ」と別のコメンテーターBが弁護した。「しかしですね。Yさんはその席で多額の現金を受け取ったというじゃありませんか。最初はこれを否定していたのですが、どうも受け取ったらしい。これ、どう思いますか」 司会者がまた別のコメンテーターHに振った。H女性弁護士は、最近この昼の報道番組によく出演するようになった。「この芸能プロダクションでは、専属マネジメント契約が結ばれているだけで、芸人さんの権利義務関係があいまいなんですね。それに、闇営業、闇営業って言いますが、正確には事務所を通さない直営業なんですね。芸人さんを丸抱えにしている建前上、勝手なことをするなと言うのが本音で、契約違反に腹を立てているというのが現実ではないですか」と言えば、「では、反社勢力との直営業は違法じゃないとおっしゃるのですか」司会者が反論する。「そうは言いません。芸人さんの人権を無視したあいまいな契約なので、こういうことが起きると言っているだけです。アメリカのようにエージェント契約にもっていくべきだと言っているのです」そこへ、「無契約の芸人さんがすべてエージェント契約を結ぶとなると、6千人、7千人のタレントを抱えているプロダクションだと、契約にかかる費用も莫大になり、必要な弁護士さんもおびただしい数になります。現実的に無理ですよ」と、CMで稼いでいる男性の芸人Dが割って入った。「アメリカでは、ハリウッドのあるカリフォルニア州で、アーチストの人権擁護のために法律を制定しているところもあります」と、女性コメンテーターが論戦に参加した。夏警部は、この女性タレントをどこかで見たと思ったが、すぐには記憶に浮かんでこなかった。「彼女は、最近売り出し中の評論家で、確か令和大学の先生じゃなかったかしら」と、蜜柑が助け舟を出した。そういえば、いつだったかある政治討論番組に出ていたのを思い出したが、急に鳴った携帯電話の音で記憶はかき消された。夏警部は、電話に出た。面識のない鳥取県警の刑事からだった。「はい、あの事件ですね。承知しています。たしか、白兎海岸で発見された死体の件。大阪の芸能プロダクションの社長でしたね」夏警部は、新聞で得た知識をもとに応答した。「はい、夕方の4時半に。結構です。お待ちしています」夏は、電話を切った。 鳥取県警の二人の刑事は約束の時間に神奈川県警に到着した。仲村と滝川刑事は、白兎海岸殺人事件の概要を伝えたうえで、社長の君川俊夫が妻の携帯に送ったメッセージに、山下公園殺人事件の記事の切り抜き依頼があったことを伝えた。「するとドリームリサーチ・プロダクションですね。そこの社長さんは誰かと鳥取県の白兎海岸で会うことになって、山下公園事件のことを知る必要が出てきた、そういうことですね」夏警部は単刀直入に聞いた。「その通りですが、鳥取県の事件と横浜の事件との間には何かつながりがあるような気がして、それでやってきたと言うわけです」 若い滝川刑事が言った。蜜柑も興味を示して身を乗り出した。(続く)
2020.01.08
ドリームリサーチ代表、君川俊夫が鳥取の白兎海岸で殺害される前日に、妻あてに送ったメールには、次のように記されていた。君川が白兎海岸の岩場へ打ち上げられた格好で発見されたのは、梅雨明けが間近に迫った7月20日の朝、ユニバーサル・プロダクションの黒川研一が、山下ふ頭の氷川丸の近くの海で、水死体で発見された7月1日から20日たってからのことだった。 メールの日付は7月19日、時間は午後4時となっている。 「昨日は、鳥取市内のホテルに一泊した。久しぶりの旅行で、鋭気を養っている。こんど、一緒に山陰を旅行したいね。ところで、うちでとっている関西新聞の7月21日の朝刊に、横浜で起きた芸能プロダクション関係者の殺人事件の記事が載っているはずなので、探して切り抜きを作っておいてくれないか。そのあとの新聞も見ておいてください。明日は遅くならないうちに帰るつもり。土産は何がいいかな」 滝川刑事は声を出してメールの全文を読んだ。 「奥さんは、この旦那さんのメールにある新聞記事をご存知ですか」 仲村刑事が聞いた。 「はい、メールを受け取ってすぐに新聞を探しましたら、三面に出ていましたので、切り抜いておきました」 と言って、ファイルを取りに行った。 「横浜の事件のことは新聞で読んだが、まさか君川俊夫が、何で、鳥取からわざわざ奥さんに知らせたのか」 仲村は、部下の滝川に小声でしゃべった。 「鳥取へ行ってから、横浜の事件について、何らかの事情で、詳細を知る必要ができたんでしょうね」 ここで、君川の妻が記事の切り抜きを持ってきた。 「この記事が、うちの主人の件と何か関係があるのでしょうか」 君川の妻は、落胆した表情で聞いた。記事に一通り目を通した仲村が言った。 「同じ業界関係の事件なので興味を持ったのか、それとも特別に事件の内容を知る必要があったのか、何とも言えませんが。ご主人は、横浜の事件のことについて何か話しておられませんでしたか」 気落ちした妻に、気を使いながら聞いた。 「いえ。何も話しておりませんでしたし、切り抜きを作るまで、事件のことはちっとも知らなかったのです。あの、そのことが、うちの主人のことと何か関係でも?」 妻は、何かただならぬものを感じたように聞いた。 「私どもも、実は、横浜事件のことは詳しくは知りませんので、少し状況を把握してから、もう一度出直してくることにします」 と言って、鳥取県警の二人は、君川宅を後にした。 「横浜の芸能プロダクションのマネジャー殺人事件と、鳥取への旅行と何か関係があるかもしれないな。どうだ、これから急きょ予定を変更して神奈川県警へ行かないか」 仲村は、滝川に打診した。 「そうですね。手掛かりの糸が見えてきましたね。一気に核心に迫りましょう。その代わり中華街へ連れて行ってくださいよ」 若い滝川は、笑いながら言った。仲村は鳥取県警の刑事課宛連絡を入れ、許可を得てから、神奈川県警へ電話で面会を求めた。新大阪から、のぞみで名古屋まで行き、ひかりに乗り換えて新横浜につくと夕方になっていた。なれない地下鉄に乗って県警に到着した二人を夏警部が出迎えた。 夏光一郎警部シリーズ(既刊)(既刊)『野獣の美学殺人事件』文芸社、2011年『リオの蝶殺人事件』文芸社、2011年『磯の香りの謎殺人事件 夏光一郎警部巨大地震と戦う』文藝書房、2011年『夏光一郎警部 猫の一分 美人博士とブッチーの活躍』Kindle版『夏光一郎警部 夏光一郎警部 湯河原発量子力学の女』Kindle版『連続僧侶殺人事件(上)夏光一郎の試練』Kindle 版『連続僧侶殺人事件(下)』Kindle版『夏警部 ブラック企業を追え 中国塩城に舞う鶴の化身』Kindle版『夢を売る女』Kindle版
2020.01.04
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