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ヘンリー・フィールディング「トム・ジョーンズ」(1749) と、まあ堂々たる10作ですが、 1954年 現在の選択なので 世界の「近代文学ベスト10」 というおもむきですが、今、成立年代を見直すと、ほとんどが、日本なら 「江戸時代」 の作品であることに、ちょっと驚きました。
ジェイン・オースティン「高慢と偏見」(1813)
スタンダール「赤と黒」(1830)
オノレ・ド・バルザック「ゴリオ爺さん」(1835)
チャールズ・ディッケンズ「デイヴィッド・コパフィールド」(1850)
ギュスターヴ・フロベール「ボヴァリー夫人」(1856)
ハーマン・メルヴィル「白鯨」(1851)
エミリー・ブロンテ「嵐が丘」(1847)
フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」(1879)
レフ・トルストイ「戦争と平和」(1869)
「愛の不可能性」―夏目漱石 『明暗』 有島武郎、武田泰淳、 そして 大岡昇平 が選ばれているのがうれしいのですが、特に 大岡昇平 の 「レイテ戦記」 を、ノンフィクションの 「戦記」 としてではなく 「小説」 として選んでいる見識が光っていると思います。
「女の孤独と聖性」―有島武郎 『或る女』
「故郷と山と狂気」―島崎藤村 『夜明け前』
「愛と超越の世界」―志賀直哉 『暗夜行路』
「四季をめぐる円環の時間」―谷崎潤一郎 『細雪』
「愛と戦争の構図」―野上弥生子 『迷路』
「根源へ向う強靱な思惟」―武田泰淳 『富士』
「暗黒と罪の意識」―福永武彦 『死の島』
「人間の悲惨と栄光」―大岡昇平 『レイテ戦記』
「魂の文学の誕生」―大江健三郎 『燃えあがる緑の木』
多くの戦記は体験者の記憶だけに依存したり、通り一遍の文献調査だけで書き上げられているが、そのような安易な記録法では、記憶違い、自己の正当化、他人への過小評価、出来事の誤解などの、錯誤や意図的操作が入り込んでくる。大岡昇平の言葉で言えば、「旧職業軍人の怠慢と粉飾された物語」になりがちなのである。彼は、既成の戦記を徹底的に批判し吟味し、日本側の膨大な資料だけでなく、アメリカ側の資料も広く渉猟して、実際の戦闘がどのように起こったかを、とことん突き詰める努力をした。例えば敗軍の参謀の手記には、自分の作戦の欠陥を軽くするために第一線の将士の戦いぶりの拙劣さを糾弾したり、アメリカの公刊戦史には、勝利を誇張するために、遭遇した日本軍の戦力を課題に記録する傾向があり、こういうウソを、大岡は、粘り強い読解と比較と推理とで見破る、事実を示そうとする。 この 加賀乙彦 の解説を読みながら気づいたことですが、 「レイテ戦記」(中公文庫) を書き終えた 大岡昇平 は裁判における事実の認定をめぐる疑惑を描いた 「事件」(新潮文庫) で 推理作家協会賞 を受賞しますが、戦場の 「真実」 にたどり着こうとした作家の苦闘を、 「法廷小説」 として推理小説化した傑作だったといっていいのではないでしょうか。
《中略》
ここでいう事実とは、ある個人が、自分の体験を記憶によって変形させる前の、裸で生な、言ってみれば赤裸な真実である。これは事実を描くノンフィクションに属する作品であるが、しかしノンフィクションで洗い出された事実は、事実であると認定する瞬間に、作者の推理力経験や趣味がするりと入り込むのであって、結局、作者が「これこそが真実だと思う」出来事にすぎない。それは、人間の真実を描くための想像力を駆使して捜索するフィクションと人間の真実という一点で相通じている。 (「人間の悲惨と栄光」P231~232)
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