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読書案内「鶴見俊輔・黒川創・岡部伊都子・小田実 べ平連・思想の科学あたり」 15
読書案内「BookCoverChallenge」2020・05 16
読書案内「リービ英雄・多和田葉子・カズオイシグロ」国境を越えて 5
映画 マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、クロアチア、スロベニアの監督 6
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山村 浩二「『幾多の北』と三つの短編」元町映画館no175-1 上にチラシを貼っている「『幾多の北』と三つの短編」というプログラムのメインは山村浩二という監督の「幾多の北」という作品です。もちろんアニメーションです。 元町映画館で映写とかを担当していらっしゃる黒ぶちメガネのおじさんと最近口がきけるようになって、時々おしゃべりの相手をしていただいています。「これなんか、いかがですか?結構、お好きかも、ですよ。」「アニメーション?知らん人やなぁー。」「この山村浩二という人は、日本ではあまり知られていませんが、海外での評価が高いようですよ。」 まあ、そんなふうな会話があって、差し出されたチラシの裏(下に貼ったチラシです)の子供が描いた落書きのような、へんてこな絵に惹かれて見ました。 へんてこで、かわいい絵の方は7分とか10分とかの短編で、作者が山村浩二ではありませんでしたが、別に感想を書きました。 で、チラシの表の絵の方の「幾多の北」というのが山村浩二という人の作品でした。 題名がまず意味不明で、見終えても「わかった!」にはならなかったのですが、60分くらいの、なかなか気合の入ったというか、不安が充満しているというかのアニメーションでした。 一つ一つのカット、カットが物語を構成するつながりを拒絶しているような、コラージュというのでしょうか、筋を追いかける見方をしているとイライラしてしまうのですが、まあ、意味不明の現代詩を読むのと同じような感じで、表現者の差し出している謎を解くカギを探しながら、ボンヤリ浸りながら見ました。 こちらのチラシの下に女性(?)の顔が描かれています。この目を閉じて、おそらく眠っている顔が画面の下に時々出てくるのですが、ボクにはカギというかヒントに見えました。 だから、どうだということはうまく言えませんが、この女性の意識を共有するような位置をさぐりながら、不思議な音楽に合わせてコラージュされていく、意味不明な映像の連鎖を不安な夢の世界のありさまようにボンヤリ、しかし、そこはかとない息苦しさを感じながら見終えました。 わからないままいうのは変ですが、この山村浩二という人、面白いかもしれませんね。とりあえず拍手!でした。他の作品も、出てくれば見続けると思いました。音楽はオランダの前衛ジャズミュージシャンで作曲家のウィレム・ブロイカーという人らしいですが、そっちもちょっと気に掛かりました(笑)。監督 山村浩二原作 山村浩二脚本 山村浩二アニメーション 山村浩二 矢野ほなみ 中田彩郁彩色 山村浩二デジタルワークアシスタント 山村早苗サウンドデザイン 笠松広司音楽 ウィレム・ブロイカー2021年・64分・G・日本・フランス合作2023・06・24・no77(その1)・元町映画館no175-1
2023.06.30
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矢野ほなみ「骨噛み」元町映画館no 元町映画館で観た「『幾多の北』と三つの短編」というプログラムの中の作品です。矢野ほなみという人が作った「骨噛み」という10分の短編アニメーションでした。 絵が点描風なんですね。点が集まって来て絵になって、ワラワラと集まりがほどけていくと点になります。それがアニメーションの描いている物語のイメージとリズムというかテンポのようなものを作り出していると感じさせるんです。で、ボクには、それが不思議でしたね。 「骨噛み」というのは、死者の骨を噛むという習俗のようなのですが、登場人物はまだ幼い少女です。上に引用している絵の中で浮き輪に乗っている子供の一人です。その小さな少女のお父さんが亡くなって、お葬式の後、火葬場でお骨になったお父さんを前にして、おじいちゃんから「骨噛み」ということを教わります。ボクの記憶では、そこで、シーンがほどけていったような気がしますが、そのあと、主人公が何かいったような気もします。よく覚えていません。 ただ、人の意識の中で、記憶の粒が集まって絵になったり、また、粒に戻ったりしているような印象で見終えました。大人になっても、まあ、ボクのような老人になっても、どこかに持っている、あどけない、しかし、どこか不安で哀しい記憶を描いているのでしょうか、とても印象的な作品でした。監督 矢野ほなみアニメーション 矢野ほなみサウンドデザイン 滝野ますみ音声録音 高木公平整音 浅倉努声 田野彩雲2021年・10分・G・日本2023・06・24・no77(その4)・元町映画館no175-4
2023.06.28
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幸洋子「ミニミニポッケの大きな庭で」元町映画館 元町映画館で観た「『幾多の北』と三つの短編」というプログラムの中の1本です。幸洋子という人が作った7分のアニメーションです。「ミニミニポッケの大きな庭で」という題です。NHK のテレビの、たぶん、こども番組でアニメーション作っている人らしいです。落書きというか、絵日記というか、これで色合いが暗かったらたまりませんが、妙にあどけないイメージの絵に子供のようなナレーションです。音楽も楽しげです。子供になって、一緒に鼻歌うたうしかありません(笑)。フンガ、フガ♪ フンガ、フガ♪ もしもこの1本のために料金を支払って座っていたら、ちょっと、どうしていいかわからない感じですね。意味ネ~じゃん! 心のどこかで、そんな気分をあじわいながら意味を探して座っていることだけはよくわかりました。楽しいにはたどり着けませんでしたね。たとえば5歳の子供にはどう見えるのでしょうね。 でも、まあ、やっぱり、69歳の老人には意味不明でしたね。なかなか思い切った世界ですが、何なんですかねこれ?監督 幸洋子詩 幸洋子アニメーション 幸洋子サラウンドミックス 滝野ますみ音楽 honninman2022年・7分・G・日本2023・06・24・no77(その3)・元町映画館no175-3
2023.06.27
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山村浩二「ホッキョクグマ すっごくひま」元町映画館no 山村浩二という監督の「『幾多の北』と三つの短編」というプログラムの中の1本です。たった7分間の白黒の画面でしたが楽しかったです。 ホッキョクグマが主人公で始まりますが、アザラシとかラッコとか、まあ、海獣くんたちが歌に合わせて次々と登場します。 画面のマンガに手書きのテロップがついていて、それをナレーターが歌いながら読み上げています。「ホッキョクグマ すっごくひま」、ふんふん♪♪「アザラシあくび、あさらしい」、ふにゃふにゃ♪♪「ラッコねんねこ、ダッコでねんね」ありゃこりゃ♪♪ まあ、そういう感じです。最後にはやっぱりデカいのが登場しますが、7分ですからね、それでどうなると思っていたら終わりました。 よろしいですね(笑)。監督 山村浩二絵 山村浩二アニメーション 山村浩二サウンドデザイン 滝野ますみ整音 浅倉務音楽 CASIOトルコ温泉2021年・7分・G・日本2023・06・24・no77(その2)・元町映画館no175-2
2023.06.26
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アマンディーヌ・フルドン バンジャマン・マスブル 「プチ・ニコラ パリがくれた幸せ」 久しぶりに同居人と二人でやって来たシネ・リーブル神戸です。まあ、行きも帰りも別行動でしたが(笑)。観たのはアニメ映画「プチ・二コラ パリがくれたしあわせ」です。思いのほか、お客さんが多くて焦りましたが、無事着席です。「これは、行くわよ。」「ああ、ボクも行く。ヨーロッパのアニメ好きやねん。」「あのね、教養のフランス語の時にね、教科書だったのよ、プチ・二コラって。」「ホトケのHさん?」「ちがう、ちがう。女性の先生。」「名前は?」「わすれたちゃった。」 まあ、こんな会話があっての同伴鑑賞でした。同居人は、フランス版(?)を教科書にしていたようで、ちょっとうらやましいのですが、実は、ボクには読んだ記憶がありません。絵だけは知っていましたが、ルネ・ゴシニとジャン=ジャック・サンペという二人の合作マンガだったとか、1950年代の終わりごろから70年代にかけてフランスでは誰もが知っている作品だったとかいうことを、このアニメに教えられて初めて知りました。 二人の作者の人生が、ニコラ君の案内でたどられるという、シャレた展開でしたが、なによりもアニメの絵柄が上品というか、ページを繰りながら物語が展開するアイデアも落ち着いて、美しいアニメーションでした。多分、子供たちが見ても面白いと思いますが、日本の子供アニメにありがちな、驚きを狙ったというか、奇を衒ったようなシーンは皆無でした。「やっぱり、ヨーロッパのアニメっていいねえ(笑)。」「シャレてるだけじゃなくて、チャンと歴史が描かれていてマトモなのよね。」「うん、クレヨンしんちゃんとかサザエさんとかのネタで、あんなふうなアニメを作るジョーシキというかは日本とかにはないからね。」それぞれ、なぜか、別々に帰宅して、夕食での話題でしたが、やっぱりヨーロッパのアニメはいいですね。 日本語の吹き替え版もあるようです。こちらがそのチラシです。子供連れで見るなら、こちらがいいのでしょうかね。こちらが裏面です。監督 アマンディーヌ・フルドン バンジャマン・マスブルアニメーション監督 ジュリエット・ロラン原作 ルネ・ゴシニ ジャン=ジャック・サンペ脚本 アンヌ・ゴシニ ミシェル・フェスレール音楽 ルドビック・ブールス声優アラン・シャバ(ルネ・ゴシニ)ローラン・ラフィット(ジャン=ジャック・サンペ)シモン・ファリシモン・ファリ2022年・86分・G・フランス原題「Le petit Nicolas: Qu'est-ce qu'on attend pour etre heureux?」2023・06・21-no74・シネ・リーブル神戸no195
2023.06.22
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ヨナス・ポヘール・ラスムセン「FLEE」シネ・リーブル神戸 日本の子供向けアニメはほとんど見る気がしないのですが、ヨーロッパとかの外国製のアニメ映画に気づいたときは、できるだけ見ようと思って出かけることにしています。 今回はヨナス・ポヘール・ラスムセンという監督の「FLEE」というデンマークのアニメ映画でした。全く予備知識なしで見ましたが心打たれました。 画面の中央に髭面の青年が座っていて、語り始めます。彼の名前はアミン・ナワビ、話を聞いているのは、金髪の白人インタビュアーでした。 映画はアミンという男性の回想と告白を、一部には実写も挿入されますが、おおむねアニメの画像として描いていました。 1980年代のアフガニスタンに生まれた彼が、2010年代の「今」、デンマークで学者として暮らすようになるまでを語った「語り」がドキュメントされています。 見ながら1980年代以降のアフガニスタンのことをぼんやり思い浮かべていました。ソビエトのアフガン侵攻が1979年で、撤退が1989年ぐらいだったと思いますが、その当時から、イスラム原理主義に対するソビエト、アメリカによる戦場化が現代まで続いている国だったはずです。 少年だったアミン・ナワビが、タリバン政権による父親の連行と行方不明を機に、兄と母とともに。スウェーデンに住む長兄の援助を頼りに故郷アフガニスタンの首都カブールからこっそりと国境を超え、ソビエトで不法入国の難民として隠れ棲み始めるのが1980年代の終わり、ソビエト撤退の直後だったようです。 長兄の援助による逃走資金の不足のため、同行する家族から選ばれた彼は、たった一人でデンマークまでたどりつき、そこでようやく亡命が認められ、やがてこの映画を作ることになる少年と、通い始めた学校で出会います。二人とも10代です。 そこまでの回想で、充分見るに値する内容でした。例えば、ボクなんかが「難民」とか「亡命」とかという言葉を、いかに「他人事」としてしか受け取っていないか、痛感させられるアミン少年の命がけの体験が淡々と語られています。 しかし、この映画に「Free」ではなく「Flee」という題名がつけられている理由は、もう一つありました。アミン・ナワビが、自らをゲイであるとカミングアウトしていることです。彼がゲイである自分を自覚したのは、成人したのちのようですが、祖国アフガニスタンから、今、この時も、「Flee=逃亡」し続けなければならない理由がそこにあること、この映画がアニメとして、登場人物をアバター化して隠さなければならない社会はアフガニスタンだけでなく、ぼくたちが平和だと思って暮らしている現代社会であることを、静かに訴えていると思いました。 「他人事」として知らん顔をするのは「抑圧」や「差別」が再生産され続けることを支えているのかもしれないことを気づかせてくれる作品でした。 淡々と語り続けるアミン・ナワビに拍手!でした。加えて、素朴で美しい絵で、心を打つアニメーションを作ったヨナス・ポヘール・ラスムセン監督に拍手でした。監督 ヨナス・ポヘール・ラスムセン脚本 ヨナス・ポヘール・ラスムセン アミン・ナワビアニメーション監督 ケネス・ラデケアアートディレクター ジェス・ニコルズ編集 ヤヌス・ビレスコフ・ヤンセン音楽 ウノ・ヘルマーソン2021年・89分・G・デンマーク・ スウェーデン・ ノルウェー・ フランス合作原題「Flee」2022・06・13-no80シネ・リーブル神戸no154
2022.06.15
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シルバン・ショメ「ベルヴィル・ランデブー」元町映画館 元町映画館のモギリ嬢のオススメで見ました。びっくりしました。なんなんですかこれは! と、まあ、そういう印象で、最後まで飽きさせません。 なんというか、赤塚不二夫のキャラクターに「シェ―!」の「イヤミ」というおじさんがいましたが、あんな感じでした。 繰り広げられるシーンが超絶していて、悔しいことに、フィルムの随所に隠されているというか、おおっぴらに見せびらかされているにちがいないのですが、それがわからない。 「おフランス」方面に詳しい方や、「趣味のよろしい」方なら、手をたたいてお喜びになるであろう、「音楽」、「ダンス」、「セリフ」、「小道具」、「舞台」(だいたい、ベルヴィルってどこですか?)なのでしょうが、わからないのに。スゴイやん、これ! それだけはわかる歯がゆさ!極東の田舎者を実感する悔しさ!わかっていただけるでしょうか。 まあ、ぼくのような「もの知らず」でも、フレッド・アステア、ド・ゴール、グレン・グールドぐらいには気がつけてうれしかったのですが、わかる人には宝の山のようなアニメだと思いました。 もっとも、話の筋立ては、そういう要素とは別に、実にうまくできていますし、シーンの作り方の工夫も、とても面白く楽しめるアニメーションで、必ずしも「大人向け」だとは思いませんでした。 キャラクターや風景、船や電車のデフォルメの仕方も、チョーが付く面白さですし、まあ、なんといっても冷蔵庫のベースに掃除機の管楽器、新聞紙のパーカッションで三つ子のバーさんが歌いだしたところに、主人公のオバーチャンが「何だ、これは?」のドラムス(?)で参加する演奏なんて、超絶シーンでした。 それにしても、まだまだいっぱい楽しい映画っていうのはあるんでしょうね。いやほんと!で、最後にもう一度叫びますね。「で、ベルヴィルってどこやねんオバーチャン!」「・・・・・」「ええー、もう、この世にはおってやないんですか?これ、みんな、思い出のフィルム?」 というわけで、今回は、特にワンちゃんのブルーノに拍手!拍手!監督 シルバン・ショメ脚本 シルバン・ショメ絵コンテ シルバン・ショメグラフィックデザイン シルバン・ショメ音楽 ブノワ・シャレストキャスト(声)ジャン=クロード・ドンダ(ナレーション)ミシェル・ロバン(孫のシャンピオン)モニカ・ビエガス(おばあちゃん)2002年・80分・G・フランス・ベルギー・カナダ合作原題「Les triplettes de Belleville」配給:チャイルド・フィルム日本初公開:2004年12月18日・元町映画館no86
2021.09.14
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オーレル「ジュゼップ 戦場の画家」シネ・リーブル神戸 予告編を見ていると、スペイン市民戦争とその時代がテーマのようで、「ああ、これは見逃せない。」と思いました。 そんなことを考えていたさなか、フェイス・ブックで知り合った「おともだち」から「よかったですよ」というメッセージをいただき、朝いちばん10時45分の開始に、勇んでやってきて驚きました。 いつも閑散としているシネ・リーブルの受付が満員なのです。原因はすぐにわかりました。「ドライブマイカー」です。実は、この日、その映画と二本立てを考えていたのですが、今日は、もう、こっちだけと腹がきまりました。 劇場に入ると、こちらの客は5人でした。見たのはオーレル「ジュゼップ 戦場の画家」です。 で、映画が始まったのですが、ここから、少し恥ずかしいことを書きます。 暗い画面で動き始めたタイトル・ロールと一緒に、小さな音なのですが、演奏だか、歌声だかが聞こえ始め(歌声だったと思うのですが、どっちだったかよく覚えていません)、耳を澄ましていて涙が止まらなくなりました。 「ワルシャワ労働歌」だったんです。 ぼくより、お若い方でこの感想に同感される方はいないと思います。この歌をどこで覚えたのかよく覚えていませんが、好きなんですね。ユーチューブで聞くことが出来ますが、まあ、軍歌みたいなもんです。こんな歌、いったい何を興奮しているのだと言われてしまえばそれまでですね。実際、帰宅してチッチキ夫人に話すと鼻で笑われました。 ついでに言いますが、この映画には、もう一カ所ドキドキしたシーンがあります。 メキシコに亡命したジョゼップがトロツキーの暗殺現場を訪れるシーンです。弾痕が残る壁が赤い画面に描かれているのです。実際には、トロツキーは銃弾では絶命せず、登山用のピッケルで殺害されたのですが、ぼくはこの二つのシーンでこの映画を記憶すると思いました。 というわけで、始まりから心鷲づかみ状態だったのですが、映画にも感心しました。意識朦朧たる老人のうわ言のような話を、絵の好きな孫が聞くという設定のなかで、難民収容所のジョゼップと憲兵であった若き日の祖父との出会いと交流が描かれていきます。 祖父の思い出話は1940年代の初頭の出来事ですから、映画で語っている老人は80歳をこえた人です。 フランコが台頭するスペインでファシズムに抵抗した人たちが、ナチスに降伏する前夜の隣国フランスでどんな仕打ちを受けたのか、当時、フランスに充満していたのが、ファシズムに対する批判ではなく共産主義に対する恐怖であったことが如実に描かれていて、歴史描写としてまず納得しました。 二つ目の納得は、スペイン市民戦争を戦った「市民義勇軍」や「国際旅団」の内情と悲劇、その中で描き続けたジュゼップ・バルトリという画家を知ったことです。 三つ目が映画の画面の構成の工夫で、アニメーションだからできたことだと思うのですが、ジョゼップの原画を描き直しながら登場人物を重ね合わせていく動きや、全編を素朴なタッチの絵柄で貫いた監督の表現法にはうなりました。 四つ目は音楽です。最初の「ワルシャワ労働歌」は、おそらく「国際旅団」で歌われた歌として流れたのだと思いますが、その後のシーンでも、登場する人々が歌う民謡(?)をはじめ、特にラストシーンで流れる曲がとても響きましたが、いかんせん、曲名がわかりません。 ヘミングウェイ、ジョージ・オーウェルの名前とともに知っていた「国際旅団」の悲劇に気を取られながら見ていましたが、名前も作品も知らなかったジュゼップ・バルトリという画家の生涯に現代の青年を出会わせた、オーレルという監督の、ケン・ローチやロベール・ゲディギャンと共通した、現代社会に対する前向きのメッセージに拍手!の作品でした。 監督 オーレル製作 セルジュ・ラルー脚本 ジャン=ルイ・ミレシ音楽シルビア・ペレス・クルスセルジ・ロペスセルジ・ロペス2020年・74分・G・フランス・スペイン・ベルギー合作原題「Josep」2021・08・20‐no80 シネ・リーブル神戸no111追記2021・08・25「ワルシャワ労働歌」の日本語版の歌詞は以下の通りです。「ワルシャワ労働者の歌」暴虐の雲光をおおい敵の嵐は荒れくるうひるまず進め我等の友よ敵の鉄鎖をうち砕け自由の火柱 輝かしく頭上高く 燃え立ちぬいまや最後の戦いに勝利の旗はひらめかん立てはらからよ 行け戦いに聖なる血にまみれよとりでの上に我等の世界築きかためよ勇ましく もと、新左翼の暴力学生だったかもしれない知人に感想を言うと同感されました。内田樹とか高橋源一郎と同年配の方です。そういえば、映画の音楽でその気にさせられた経験の、もっと痛烈な記憶は「地獄の黙示録」、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」です。なんか、その気になった自分が怖かったですね。 ところで、トロツキーの暗殺現場についての詳しい描写は、アイザック・ドイッチャーのトロツキー三部作の最終巻、「追放された預言者」(新潮社)で読むことが出来るはずです。スペイン市民戦争の「国際旅団」が「共和派」、「トロツキスト」、「共産主義派(スターリニスト)」の、まあ、内ゲバで瓦解したと理解しているのは謬見かもしれませんが、トロツキーを暗殺したのがスターリニストだったことは確かで、ぼくは高校三年生で出会ったドイッチャーのせいで「トロツキーびいきのスターリン嫌い」ですが、最近ではますます嫌いです。 まあ、それにしても「誰がために鐘は鳴る」を読み直さなっくっちゃというのが、この映画の宿題でした。
2021.08.25
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堀貴秀「JUNK HEAD」神戸アートヴィレッジ 「1時間40分の長編アニメーション映画を、たった一人で、7年の歳月をかけて作ったらしいんだけど、海ん向こうで評判になって、逆輸入されて、それが、また評判らしい。」 そんな風の便りが世間知らずな徘徊老人の、かなり疎い耳にも聞こえてきました。海外で評判になって逆輸入というところに、老人の旧式なアンテナが反応しました。 作品は、堀貴秀「JUNK HEAD」です。神戸アート・ヴィレッジで見ました。ストップモーション・アニメというらしいですが、膨大な手間暇がかかる方法で作られたらしいですね。やはり、評判なのですね、アート・ヴィレッジとは思えないお客さんで、時節柄ちょっとビビりましたが、無事見終えました。 チラシの「伝説のカルトムービー」という言い方に、ちょっと、首をかしげましたが、映画には熱中しました。 実感としては「こういう世界を作り上げて、描く人がいるのだ!」という、まあ、「驚き」がすべてだったといっていいかもしれませんでした。 「驚き」ながら、興味を引いた映像の特徴のひとつは、底流しているイメージの、これは「幼児性」といえばいいのでしょうか。突如、道端で行われる排泄シーン、天井に潜んで襲い掛かってくる怪物の恐ろしさの形、「ごちそう」と評判のキノコの形、どれも、これも、かなり直接的な「子ども」の幼い「性」の世界を強くイメージさせる形象だと思いました。なによりも「人間系」のキャラクターたちの「イノセント」ぶりは「子ども」そのものといっていいのではないでしょうか。 もう一つの「驚き」は見終わっても、なんだか何も残らない「無思想」ですね。まあ、そんなふうに映画を観てしまうからそう思うのでしょうが、いわゆる「表現」を支えている「主張」が何も感じられないことでした。「アナーキー」でも「ニヒル(虚無)」でもない、まあ、あるとすれば、ある世界を構築して見せるオタク的「情熱」ですね。 海外からの逆輸入、幼児性、無思想、こうして並べてみると、なんか、とても「現代的」だと感じるのですが、いかがでしょうか。 続編が、計画・準備されているということらしいです。ええ、もちろん見ますよ! この、意味不明の存在感がどこに向かうのか、やはり、気になりますからねえ。 久しぶりのアート・ヴィレッジの正面のガラス窓(?)には、子供たちの「お絵描き」が溢れていました。まあ、2021年8月14日で、雨でした。そういえば、それ以来、ずっと雨が降っていますね。監督・原案・キャラクターデザイン・編集・撮影・照明・音楽 堀貴秀音楽 近藤芳樹制作 やみけん2017年・99分・G・日本2021・08・14‐no76神戸アートヴィレッジ(no16)
2021.08.22
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和田淳「私の秘かな動く楽しみ」神戸アートビレッジセンター 和田淳特集上映という企画をアートビレッジがやっていました。で、ぼくはこう思いました。「和田淳って誰やねん?」 で、見てわかりました。神戸あたりなら元町映画館です。この映画館のファンならご存知だと思いますが、あの映画館で上映前に映る「マナー啓発(?)アニメーションフィルム」 があります。映画大好き「ばくー」とその仲間たちによる、映画館では恋人同士漫才をしないとか、家族宴会はダメとかいう、これですね。 和田淳特集HP 通常、元町映画館では、前の座席をつつくキツツキ兄弟が飛び立って、座席から転げ落ちた「ばくー」君が消えたところで終るのですが、キツツキ兄弟と「ばくー」君が、その後どうなったか皆さんはご存知でしょうか?元町映画館でも時々やったことがあると思いますが、普段は最後まで映しませんね。 そのあたりが気になって仕方がない人はこの和田淳特集上映会で終わりまで見ることが出来ます。そうです、あのアニメーションの作家が和田淳なのでした。 今回の企画のプログラムは以下のとおりでした。映画上映前CM マイエクササイズ(短編映画版)蠕虫舞手鼻の日やさしい笛、鳥、石声が出てきた人そういう眼鏡わからないブタ春のしくみ和田淳 CM&TV作品集グレートラビットAnomalies私の沼秋 東京藝術大学130周年記念プログラム ヴィヴァルディ「四季」より半島の鳥(新作短編予告編)マイエクササイズ(ゲーム版予告編) ボク的には「グレートラビット」のボール(?)とか、これですね。 和田淳特集HP それから、「蠕虫舞手」の泡の使い方が気に入ったりしましたが、まあ、そのあたりは人それぞれでしょうね。「マイエクササイズ」のワンちゃんだってかなり可笑しいですし。 ああ、それから「音」と「言葉」がおもしろいですね。なんか、「ふにゃふにゃぽっちゃり国」というのがあるのかもしれませんね。 で、自宅に帰って来て関連記事を調べていると兵庫県の広報とか神戸新聞とかに記事があって、「兵庫県のひと」なのだそうです。ちょっと嬉しかったですね。 アニメに出てくる「生きもの」たちの笑える「動き」を、「王子動物園」とか「動物王国」とかで見つけているとインタビューで答えているのも、ちょっと嬉しかったですね。 まあ、何がうれしいのか自分でもよくわかりませんが。監督 和田淳上映分 80分日本、フランス、イギリス2021・03・24-no29神戸アートビレッジセンター(no13)追記2023・06・24 ブログの記事を修繕していて思い出したのですが、元町映画館で本編が上映される前に流されているの映画のマナー編、映画上映前CMの中で聞こえてくる映画の音なのですが、あれ、なんていう映画が使われてご存知の方いませんかね。 最近、気になってしようがないのですが(笑)。
2021.03.27
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ギンツ・ジルバロディス「Away」神戸アートビレッジセンター 2020年の秋、アートビレッジで予告編を見ました。そのあと、この映画を見た東京在住の知人たちの好評が耳に入ってきました。で、待ちかねていましたが、神戸ではやっとのことで上映です。 ギンツ・ジルバロディスというラトビアの28歳だかの青年が、一人で、3年かけて作った作品「Away」でした。 かすかな、自然の音、風とか鳥の羽ばたき、それから、オートバイのエンジンの音が記憶に残りました。 81分のフィルムに、人間の言葉は一度も聞こえてきません。スクリーンに映し出される出来事はシーンとして存在しますが、意味としては存在しません。 彼が出会う「コトリ」であれ、「カメ」であれ、「ゾウ」であれ、目の前の自然の「アメ」であれ、「カゼ」であれ、「ナダレ」であれ、そのようにそこあるだけ。そのように飛び、そのように転び、そのように崩れ落ちてきます。 足元から広がる世界が鏡のように頭上を映し出していて、かつ、逆立ちした向うの世界も映して出しているように見えます。 少年は二つの世界の狭間に立って、空を見上げ地面を覗き込みます。なんとかして意味を見つけ出そうと、物語を読み取ろうとしているのは、見ているぼくの勝手であることがじわじわとしみ込んでくるような映像でした。 二つの世界とは「生と死」でしょうか、「過去と未来」でしょうか、「夢と現実」でしょうか。ああ、ちがうのです。そんな世界から遠く離れた、今、このときが描かれているのですね、きっと。 傷ついた「コトリ」をポケットに入れ、転んだ「カメ」を起こしてやり、そして、オートバイは疾走します。やがて世界の突端にやってきた少年は、何もかも捨ててみごとに跳びました。 見終えて、ため息をつき、自分がもう少年ではない事をつくづくと噛みしめました。紺碧の海原に跳び込む勇気など、ぼくにはもうありません。青空に群がる白い鳥たちの群れが、遠い思い出のように浮かんできます。 なんと清々しく、若々しく、勇気あふれる映画でしょう。言葉を棄てた世界には、なんとワクワクとドキドキが溢れていることでしょう。こんなフィルムを一人で作り出す青年が、世界のどこかにいるのです。 若き日の大江健三郎が小説の題名にしてたたえた、W・H・オーデンの詩「見るまえに跳べ」の、こんな一節を思い出していました。Much can be said for social savior-faire,But to rejoice when no one else is thereIs even harder than it is to weep;No one is watching, but you have to leap. (拙訳)だれか人がいると、よろこんでアレコレ話すんだ。しかし、だれもいない場所で楽しむのは一人で泣くことよりも 難しいよ。誰も見ていてはくれない。でもね、跳ばなきゃならないんだ。 拙訳は、ジジイの生活を想定していますが、映画では「No one is watching, but you have to leap. 」という言葉通りの少年の姿が心に残りました。 劇場で、こんな絵ハガキをもらいました。ごちゃごちゃ何にも書いてなくていいですね。 ちょっと蛇足ですが、本編が終わって、「言葉」を棄てた世界の豊かさに、どうしても気づくことが出来ない広告マンがあつらえたのでしょうか、明るく、実にそれらしいダイジェスト版が流れてきたのには驚きました。 明るく楽しい音楽も流れてきましたが、「この国」の哀しさを再認識することになってしまいました。映画に対する評価は人それぞれですが、こういうやり方は、ちょっと違うんじゃないでしょうか。監督 ギンツ・ジルバロディス製作 ギンツ・ジルバロディス編集 ギンツ・ジルバロディス音楽 ギンツ・ジルバロディス2019年・81分・G・ラトビア原題「Away」2021・03・24-no28神戸アートビレッジセンター追記2021・03・25W・H・オーデン「見るまえに跳べ」がありましたから載せておきますね。Leap Before You Look Wystan Hugh AudenThe sense of danger must not disappear:The way is certainly both short and steep,However gradual it looks from here;Look if you like, but you will have to leap.Tough-minded men get mushy in their sleepAnd break the by-laws any fool can keep;It is not the convention but the fearThat has a tendency to disappear.The worried efforts of the busy heap,The dirt, the imprecision, and the beerProduce a few smart wisecracks every year;Laugh if you can, but you will have to leap.The clothes that are considered right to wearWill not be either sensible or cheap,So long as we consent to live like sheepAnd never mention those who disappear.Much can be said for social savior-faire,But to rejoice when no one else is thereIs even harder than it is to weep;No one is watching, but you have to leap.A solitude ten thousand fathoms deepSustains the bed on which we lie, my dear:Although I love you, you will have to leap;Our dream of safety has to disappear.
2021.03.26
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トム・ムーア ロス・スチュアート「ウルフウォーカー 2」(映画館のピーチ姫) 「ウルフウォーカー」を先日観ました。「ブレンダンとケルズの秘密」を、その昔見逃して、「やってるよ!」と以前の店長さんに勧められたのでね。 見終わって1時間くらいでつらつら書いたのがあったので送ります。 絵本みたいな背景に、直線と曲線で描き分けられる世界。やっぱり魅力的なので過去作もちゃんと観ようと思います。 登場人物たちになんでその名前をつけたのだろうかと考えてしまう癖がありまして、今回もたがわず、そうなりました。 特に今回はケルトだ!なんか聞いたことのある名前がいっぱい出てきた!となったので余計に気になってしまいました。 イングランドから来た少女ロビンは緑の人ロビンフッド、その相棒のハヤブサには魔術師マーリン、森で出会った「ウルフウォーカー」の少女メーヴは妖精の女王の名前。ではロビンの父グッドフェローズは? ググリました。ありがてえなワールドワイドな知識にすぐアクセスできる現代社会。 民間伝承としてロビン・グッドフェローという妖精がいるんだそうです。人間と妖精の子としていたずら好きで人に親しみを持つ存在なんだそうです(諸説あり)。 そうか、少女ロビンも妖精だったのか。相棒マーリンだって人と夢魔の子だ。 彼女がRobin Goodfelloweであることから、父親はGoodfelloweと護国卿から呼びかけられるわけですが、この呼び名がなんとも皮肉だなと思うのです。 彼のキャラクターは単純に「いいやつ」というより、「属するもの」として「善き人」という感が強いのです。従順であるものとして運命づけられ、護国卿の仕打ちが「怖いから」従わざるを得ないのだという苦しみを抱える人ね。「怖いのだ。お前が牢に入れられてしまうこと、お前と離れ離れになることが」「今だって檻の中にいるじゃない」 少女二人の冒険譚だと思って見ていたけれど、実は違うんじゃないか。だって彼女たちはまだ「人の世界」に属しきってはいないのだ。あちらとこちらを作ってはいないのだ。 この映画の中で、ある種本当に冒険し、何かを見つけたのは父親だったんじゃないか。そんなふうに思うのはわたしが歳を取ったからでしょうか。 ところでもう一人、呼び名のある人が出てきます。イングランドの護国卿 ’Lord Protect'です。彼は神’Lord’の御心を主張してアイルランドの開拓(侵攻)を進めようとしていました。彼自身がLordを名乗りながらです。 そして、ファンタジーの生きている世界アイルランドで、イングランドのLordは墜落するのです。なんともまあ過激な話じゃないでしょうか。 時代設定としてまんま、護国卿クロムウェルなのだと、これも後から知りました。好奇心は人を賢くするね! じゃあ、またね。好きなことは、よく勉強するピーチ姫でした。追記2020・11・23 「ゆかいな仲間」の一人、ピーチ姫は映画がお好きなのですが、ときどき、感想を送ってきたりします。せっかくなので、「映画館のピーチ姫」というカテゴリーで紹介してしまうことにしました。 今回はシマクマ君とチッチキ夫人が同伴鑑賞したアニメーション映画「ウルフウォーカー」を彼女も見たようで、いろいろ調べて教えてくれました。なかなか興味深い視点だと思うのですが、いかがでしょう。にほんブログ村にほんブログ村
2020.11.23
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岩井澤健治「音楽」元町映画館 「新コロちゃん騒ぎ」で元町映画館が臨時休館になる直前のプログラムにあった映画です。上映時間が、少々遅かったこともあって見損ねていました。 再開したプログラムに「上映再開記念アンコール!」 と銘打って上映されていて、お昼の3時くらいということだったので見ました。 映画は岩井澤健治「音楽」でした。 中々「原始的?」なアニメーション! でした。 71分、40000枚の手書きの「セル画」が作り出す動きが、「紙芝居」のような「懐かしい時間」を感じさせてくれるのがこの「アニメ」の一番の発見でした。 考えてみれば「古い!」 ともいえるわけです。 ジブリ風の、例えば「風」を画面に作り出すアニメ―ションが、何となく一般的ですが、この映画のような「動き」で喚起される「リアル!」 にも大切なものがあるのではないでしょうか。 ジブリの「風」の「絵」をリアルだと感動した覚えがありますが、あれもまた、作られた映像だったのですよね。この映画のような動きが作り出す「間」を感じることを忘れて「動き」のリアルだけに浸るのは、何かを失っているように感じました。 さて、展開するお話しについてです。「学ラン」を着て、煙草をくわえつづけている「不良高校性」というのは、今でも存在するのでしょうか?まず、そこがノスタルジックでしたね。 その、「学ラン」くんたちが到達する「音楽」が、チョー原始的だったのが笑えました。ギターが弾ける長髪の男の子の歌う70年代フォークにものけぞってしまいましたが、何といっても「牛」や「飛行船」が配置された主人公達の「音楽」の感動場面には、思わず「座布団3枚!」 と叫びそうでした(笑)。 家に帰って調べると、原作者が80年生まれということで、案外、若いことに驚きました。映画も若い人にウケているのでしょうか。それにしても、ピンク・フロイドやツェッペリンって今の二十代にピンとくるのでしょうか? まさか、学ラン三人組が「原子心母 Atom Heart Mother」に到達するとは!まったく何が起こるかわかりませんね。監督 岩井澤健治 原作 大橋裕之 脚本 岩井澤健治 プロデューサー 松江哲明2019年・71分・日本・2020・06・08元町映画館no46ボタン押してね!
2020.06.11
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