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先日、久しぶりに投稿したが、実は同じ日に別の綺麗な虫をもう1種撮ってある。 ベッコウガガンボ(Dictenidia pictipennis)である。ガガンボ科(Tipulidae)ガガンボ亜科(Tipulinae)Ctenophorini(クシヒゲガガンボ族?)に属す。以前、紹介したホリカワクシヒゲガガンボと同族だが同属ではない。 ホリカワクシヒゲガガンボより少し小さい。雌なので、触角は単純で短いが、雄では「クシヒゲ」状となる。ベッコウガガンボ(Dictenidia pictipennis)(写真クリックで拡大表示)(2016/06/03) 少し弱っていたのか高く飛べないので、捕虫網で確保して、居間のカーテンに留まらせて撮影した。 本当は、更に部分拡大写真を撮るつもりだったのだが、カーテンの下の落ちた後、何処かへ消えてしまった。ガガンボは何処、ガガンボは居ずや、室内隈なく尋ぬる三度、呼べど答えず探せど見えず。 そんな訳で残念ながら、写真は1枚しかない。
2016.06.26
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帰国の挨拶を書いたので、次は昨年撮った写真から何かを紹介するつもりであったが、余りに沢山写真があり、どう整理するか迷っている内に3週間近くも経ってしまった。 既に調整を終えたマガイヒラタアブの蛹(囲蛹)の写真が沢山あるのだが、蛹だけでは読者も面白くなかろう。やはり成虫と一緒に紹介したい。しかし、楽天ブログの文字制限の為、写真は精々9枚が限度である。其処で、蛹の写真は一纏めにして写真の枚数を減らすことにし、成虫と一緒に掲載することにした。3枚一緒にして、縦幅1370ピクセルの写真もあるので御注意。マガイヒラタアブの蛹.上は蛹化した日、下はその3日後(写真クリックで拡大表示)(2010/11/26,29) マガイヒラタアブ(Syrphus dubius)の幼虫は今年の2月18日に掲載した(撮影は昨年=2010年の11月23日と25日)。今日紹介する蛹と成虫は、その幼虫のその後の姿である。 最初の写真で上の方は、昨年の11月26日(幼虫写真4番目の次の日)に撮影したものである。蛹化直後はもっと白かったのだが、うかうかしている内に色が濃くなり、撮影した時には御覧の様に赤茶けた色になっていた。しかし、囲蛹の内側には幼虫と同じ様な模様が認められる。 下の方は、その3日後、幼虫時の模様は不明瞭である。蛹化3日後のマガイヒラタアブの蛹(写真クリックで拡大表示)(2010/11/29) 3日後の囲蛹を別の方向から撮ってみた。本当はもっと沢山あるのだが、3枚だけにした。一番下は後気門を拡大したものである。前気門は真ん中の写真の隠れて見えない下側にある。蛹化後9日、羽化前日のマガイの蛹成虫の黄と黒の縞が透けて見える(写真クリックで拡大表示)(2010/12/05) 次は羽化前日の写真。写真全体に少し黒っぽく見えるかも知れないが、これは蛹が色濃くなったからで、下の葉っぱの色はかえって少し明るくなる程度に調整してある(コナラの葉っぱが次第に枯れて黄色くなって来ているのに御注意)。 囲蛹の下側にヒラタアブの黄と黒の模様が透けて見える。羽化したマガイヒラタアブの雄(写真クリックで拡大表示)(2010/12/06) 次の日の朝に羽化した。体が硬化したのを確認してから冷蔵庫で数時間冷やしてコナラの葉裏に置き、充分元気になる直前に撮影したものである。マガイヒラタアブやその仲間は成虫越冬なので、寒さに強い。1℃の冷蔵をに入れて置いても、室温に戻すと、忽ちの内に元気になり、飛んで行ってしまう。 こう云う寒さに強い虫の屋内撮影は、結構面倒なのである。横から.翅の基部下側に見えるのが胸弁下片なのか良く分からない(写真クリックで拡大表示)(2010/12/06) マガイヒラタアブはハナアブ科(Syrphidae)ヒラタアブ亜科(Syrphinae)ヒラタアブ族(Syrphini)ヒラタアブ属(Syrphus)に属す、最も正統的な?ヒラタアブである。同属にはケヒラタアブ、オオフタホシヒラタアブ、キイロナミホシヒラタアブの他、九州大学の目録には全部で10種が載っている。しかし、その10種の内、上記3種の他は総て?マークが付いており、どうも分類学的にハッキリしない点があるらしい。尚、マガイ(以下、「ヒラタアブ」を省略)は、最近キイロナミホシから独立したとのことで、九大目録には載っていない。 しかし、マガイの学名を正式に書くとSyrphus dubius Matumura, 1918 であり、このMatumuraは日本の昆虫学の開祖と云われる故松村松年氏(北海道帝國大学教授)であろうと思われ、それが最近まで認められなかったと云うのはどうも解せない。九大と北大との派閥争いか?。前から.複眼は無毛、顔の正中線には明確な黒条はない(写真クリックで拡大表示)(2010/12/06) 一方、ハナアブの研究者として知られる市毛氏の「ハナアブ写真集」には、マガイと上記3種の他、最近記載されたツヤテンとマガタマモンを加えた6種が載っているだけである。 どうも、Syrphus属にはまだ不明な点が多い様である。しかし、和名の付いた上記6種に関しては、余り問題は無いらしい。斜めから見た図.少し前ピン(写真クリックで拡大表示)(2010/12/06) さて、マガイの属すSyrphus属と他のヒラタアブとの違いを示さなくてはならない。先ず、Syrphus属のヒラタアブは、模様のよく似たフタホシやナミホシ等のEupeodes属の種よりやや大型であり、飛び方も力強く速い。図鑑や写真を見ると、良く似ており区別が難しいが、実際に飛んでいる所を見ると、かなり雰囲気が違う。また、フタホシやナミホシには、顔に黒色中条があるが、Syrphus属には明確な黒色中条はないらしい。 更に、今日の写真では明確でないが、Syrphus属の胸弁下片には黄色の長毛が生えている。これは、此の属の大きな特徴である(Manual of Nearctic Dipteraに拠る)。別個体.12月16日に羽化.これも雄(写真クリックで拡大表示)(2010/12/16) Syrphus属とすると、先ず、マガタマモンとツヤテンは、木野田君公著「札幌の昆虫」に北海道固有種とあるので、考慮する必要はないだろう。また、キイロナミホシも、北海道と東北以外には殆ど記録が無い様なので、除外して良いと思われる(拙Weblogを含めて、関東以西のキイロナミホシとする写真は、市毛氏に拠れば、マガイの見誤りらしい)。 残る3種の内、ケヒラタアブには複眼に毛が生えているので区別出来る。但し、雌の場合は相当に精度の高い写真でないと判別出来ない程度の細かい毛らしい。オオフタホシは名前の通りかなり大きい。現物が飛んでいる所を見ればマガイとの区別は明らかだが、写真ではそうは行かない。 前述の「札幌の昆虫」を見ると、雄の場合、後脛節は、オオフタホシではほぼ黄色で中程に暗色の輪があり、マガイでは先端過半が黒色である。また、雌の後腿節は、オオフタホシでは基部のみが黒色で他は黄色なのに対し、マガイでは先端部以外は黒色、となっている。雄では参照する部分が脛節、雌では腿節なので御注意! 写真のヒラタアブは雄で、後脛節は先端過半が黒っぽい。雌ではないが、腿節も先端部以外は黒色である。マガイとして良いであろう。後脛節はやはり先端過半が黒っぽく、腿節も先端以外は黒色(写真クリックで拡大表示)(2010/12/16) マガイヒラタアブの幼虫は3頭を飼育した。何れも囲蛹にはなったが、羽化したのは2頭のみであった。どうも、ヒラタアブ類の羽化成功率は余り高くない様である。 もう少し書きたいこともあるが、文字制限があるので、今日はこれでお終い。
2011.12.19
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前回に引き続き、2番目のニセアシナガキンバエを紹介する。田悟(2010)(「関東地方にて採集したアシナガバエ科の記録」,はなあぶ No.30-2,1-96)で、ウスグロエダナシアシナガバエの新称を与えられた、ホソアシナガバエ亜科(Sciapodinae)のMesorhaga sp.1である(今日の写真の種については、田悟氏から確認を頂いた)。 実は、一昨年の夏に「ニセアシナガキンバエ」を掲載した時から、どうもこの辺りに居る「ニセアシナガキンバエ」には複数種が含まれている様な気がしていた。其処で、以前に撮影した写真を調べてみると、遠目にはソックリだが、翅脈相の大いに異なる種が見つかった。撮影当時は、「ニセアシナガキンバエその1」であるウデゲヒメホソアシナガバエ(Amblypsilopus sp.1、以下ウデゲと略す)と区別が付かなかったらしい。 尚、Web上にある「アシナガキンバエ」の写真を1時間余り調べてみたが、明確に本種と思われる写真は見つからなかった。ウスグロエダナシアシナガバエ(Mesorhaga sp.1)の雄M1+2脈は分岐せず、緩やかに湾曲する背中の真ん中付近に中刺毛が見える(写真クリックで拡大表示)(2007/05/28) このアシナガバエは、2007年から毎年(日本不在の09年を除く)自宅やその近く(東京都世田谷区西部)で撮影されており、興味深いことに、撮影日は何れも5月17日から5月28日までの約10日間に限られていた。昨年は、写真は撮ったものの、「身柄の確保」に失敗したので、双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に御伺いを立てるのは控えた。同種の雌.上の個体とは異なり青味が強い(写真クリックで拡大表示)(2010/05/28) 其処で、今年こそはと思い、5月の中旬から自宅や近くの緑地で、その出現を待っていたのである。今冬は寒さが厳しかったせいか、虫の出や草木の開花が、種類によってはかなり遅れた。今年の初見は5月31日、最終は6月8日で、2週間程ずれているものの、やはり出現時期は極く狭い範囲に限られていた。同一個体.この手のアシナガバエはみな精悍な顔をしている雌の場合、中刺毛は不明瞭、乃至、見えない(写真クリックで拡大表示)(2010/05/28) ニセアシナガキンバエその1であるウデゲと「遠目にはソックリ」と書いたが、このウスグロエダナシアシナガバエ(以下、ウスグロと略す)は、その名前の通り翅がやや暗色で、光線の具合によっては殆ど透明に見える時もあるが、青やかなり黒い色に見えることが多い。同一個体の超接写写真(約1.5倍).この程度の倍率で撮影すると、中刺毛が微かに認められる(写真クリックで拡大表示)(2010/05/28) このウスグロの第1の特徴は翅脈である。本種の属すMesorhaga属では、写真でお分かりの通り、M1+2脈は分岐せずに緩やかに湾曲し(翅脈についてはこちらの5番目の写真を参照されたい)、他属のホソアシナガバエ亜科(Sciapodinae)の様に、M2脈を生じることはない。和名に含まれる「エダナシ」は、このことを意味する。 この様な翅脈相はホソアシナガバエ亜科の中では極めて特異的である。今年撮影した赤味の強い雄.かなり分かり難いが中刺毛が片側2列あるのが認められる(写真クリックで拡大表示)(2011/06/07) 九州大学の日本産昆虫目録を見ると、Mesorhaga属には、M. janataと、現在ではCondylostylus属に入れられているマダラホソアシナガバエ(マダラアシナガバエ)の2種が属すのみで、M. janataがどんな特徴を持つのかは、調べてみたが良く分からなかった。田悟(2010)にも何も書かれていない。また、田悟(2010)に載っているMesorhaga属は、本種1種のみである。上の個体の標本・頭部拡大写真(約3.5倍).2方向から撮影後単眼刺毛(poc)は3対に見えるが、他に極く短い刺毛もある略号については本文参照のこと(写真クリックで拡大表示)(2011/06/08-0703) さて、次にこのウスグロの細かい特徴を見ることにする。写真は何れも5番目の赤味の強い個体で、日付は撮影日であり、採集日(2011/06/07)ではない。 単眼刺毛(oc)は1対、後単眼刺毛(poc)は、田悟(2010)では4対と書かれているが、写真(上)では3対の様に見える。しかし、角度によっては極く細い刺毛らしきものが1本見えていたりするし(上写真の小白矢印)、写真で刺毛の数を数えるのはかなり困難である。頭頂刺毛(vs)は1対で、これは前方を向き少し下に曲がる。 他に、頭頂付近には後眼刺毛列に続く多数の曲がった長刺毛があり、後頭頂刺毛はそれらからの区別が難しい。尚、このウスグロでは、前回のウデゲとは異なり、頭部刺毛に関する雌雄の差は基本的に認められない。 また、触角第2節(梗節)からは短い刺毛が多数生じている。同一個体の胸部.中刺毛(ac)2列(ac1とac2)背中刺毛(dc)は1列で6本見える(写真クリックで拡大表示)(2011/07/02) 胸背の刺毛は、田悟(2010)に拠れば、中刺毛(ac)が(片側)2列で4~6対、背中刺毛(dc)が1列で5対以上、中刺毛はかなり不規則に並んでいる(上)。しかし、生態写真からは、中刺毛は、雄では細かいながらも認められるが(1、5番目の写真)、雌では不明瞭(2,3番目)、乃至は、疎ら(4番目)に見える。やはり、生態写真で刺毛を確認するのは相当に困難である。同一個体の胸部.記号については本文参照のこと(写真クリックで拡大表示)(2011/07/02) 胸部肩側の刺毛は、肩刺毛が無く(小毛は存在するとのこと)、肩後刺毛(ph)1、背側刺毛(np)2、横溝上刺毛(su)1、翅背刺毛(sa)2、翅後刺毛(pas)1、小楯板側刺毛(is)2となっており、これらは写真からも認められた。尚、刺毛の称呼については異説も色々有るらしいが、これらの名称は田悟(2010)に拠る。 尚、写真は省略するが、前脚付節先端の爪の間からほぼ垂直に伸びる1長毛があり、これはその中央付近で前方へ湾曲する。同一個体の尾端(交尾器).末端の尾角(cercus)の形状は独特横に伸びる長い刺毛が両側にある(黒矢印)(写真クリックで拡大表示)(2011/06/08) 最後に雄の尾端を示す。先端部の尾角(cercus)は先端が2つに分かれる独特の形をしている。また、その側面には強く長い1対の刺毛が認められる(黒小矢印)。 田悟(2010)を見ると、ホソアシナガバエ亜科には、他にも「ニセアシナガキンバエ」の候補が幾つかある。しかし、これ以上書くと楽天ブログの文字制限に引っ掛かってしまうので、これらについては、また別の機会に紹介することとする。
2011.07.22
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一昨年の8月に、世上で「アシナガキンバエ」とされているアシナガバエが、実際は亜科も異なる全く別の種であることを掲載した。今回はその「ニセアシナガキンバエ」の正体がもう少し詳しく分かったので、それについて書くことにする。 実は昨年、双翅目屋の集まりである双翅目談話会の会誌「はなあぶ」に、田悟敏弘氏が「関東地方にて採集したアシナガバエ科の記録」(No.30-2,2010)と云う、250枚もの図を含む96ページの大報文を載せられた。このWeblogの撮影場所は関東地方だから、以前掲載した「ニセアシナガキンバエ」は、当然この報文に載っている筈である。ウデヒゲヒメホソアシナガバエ(Amblypsilopus sp.1)の雄冷蔵庫で冷やして動けなくしてから撮影体長4.5mm弱、翅長4.0mm強普通の個体よりもかなり赤味が強い(写真クリックで拡大表示)(2011/06/24) 「アシナガキンバエ」としてWeb上に掲載されている”ニセ”アシナガバエは、実際にはかなりの種類が含まれるのではないかと思われる。しかし、その中で最も一般的な種は、我が家の庭(東京都世田谷区西部)にも沢山居るこの写真の種であろう。その正体をハッキリさせるには、生体の写真を撮るばかりでなく、虫を捕まえて細部を詳しく調べることが必要となる。特に重要なのは雄の交尾器(ゲニタリア)の構造で、これは生体では中々撮り難い。 ・・・と云う訳で、以下に示す様に、虫体を確保して色々調べた結果、このアシナガバエは、田悟氏が「ウデゲヒメホソアシナガバエ」と新称を付けられた、ホソアシナガバエ亜科(Sciapodinae)のAmblypsilopus sp. 1と同一であると云う結論に達した。この点については、田悟氏からも同意を頂いた。 和名があって、学名が未定なのは、一寸奇妙に思われるかも知れない。しかし、研究の進んでいない分野では良くあることで、世界のアシナガバエに関するデータが充分揃っておらず、種の記載にまでは至っていないのである。この田悟氏の報文の目的も、新種の記載ではなく、取り敢えず、日本産アシナガバエ科の不明種を和名と云う共通の認識に基づいて整理しようと云うことなのである。以下4番目まで同一個体.雄の交尾器は大きい(写真クリックで拡大表示)(2011/06/24) 一昨年に掲載したのは、雌の写真ばかりであったので、今回は雄の生体写真を載せることにした。しかし、この写真、実は一種の「ヤラセ写真」である。 この手のアシナガバエは、極めて敏感な上に、今年は早くから気温が高かったせいか常に動き回っていて、中々高精度の写真が撮れない。其処で、捕獲して冷蔵庫で冷やし、仮死状態になったのを蕗の葉の上に置き、元気を取り戻しつつあるところを据物撮りにしたのである。だから、何となく脚付きが頼りない。前から見ると非常に精悍.複眼の一部が赤紫なのは構造色胸背中央の左右各2列の刺毛は中刺毛、その横は背中刺毛(写真クリックで拡大表示)(2011/06/24) 尚、今回はストロボにディフューザーを付けて撮影しているので、全体の調子が柔らかく、実際に近い質感が出ている。冷蔵庫で冷やして仮死状態にした後、元気を回復中だがまだ充分ではないので、脚付きが些か頼りない(写真クリックで拡大表示)(2011/06/24) この種は、一般には金色から金緑、金青色を帯びた個体が多いが、写真の個体ではかなり赤味が強い。しかし、アシナガバエ科では、金青~金緑~金~金赤の色彩変化は普通の様である。ウデゲヒメホソアシナガバエの翅脈(写真クリックで拡大表示)(2011/07/07) これから、細部の話となる。まず最初に翅脈である。 このウデゲヒメホソアシナガバエはホソアシナガバエ亜科(Sciapodinae)に属し、この亜科では、翅脈相は上の写真の様に、M1+2脈がM1脈とM2脈に別れ、M1脈は前方に強く曲り、その後緩やかに元の方向に戻って、前方のR4+5脈の近くで翅端に達するのが一般的である(例外あり)。この種では、写真で見られる通り、M2脈はかなり弱い。 一方、本物のアシナガキンバエが属すアシナガバエ亜科アシナガバエ属(Dolichopus)の多くは、M1+2脈は2回直角に近い角度で曲り段状を呈す。 尚、九大名誉教授の三枝先生の御話に拠ると、M1+2脈は分岐するのではなく曲がるだけであり、此処で書いたM2脈は二次脈とする考え方もあるとのこと。頭部の刺毛.雄(左)と雌(右)で異なる(写真クリックで拡大表示)(2011/07/07) 次に頭部の刺毛。この種では、雄と雌で頭部の刺毛が大いに異なる。 雄(写真左)では前額の複眼寄りに多数の直立刺毛があり、普通この辺りにあるはずの頭頂刺毛(vs)が無い。また、単眼刺毛(oc)は強い1対があり、後単眼刺毛(poc)は、田悟氏の報文では1対だが写真では2対の様に見える(この辺りの判断は写真では難しい)。また、後頭頂刺毛は後眼刺毛列と一緒になっていてそれらと区別し難い。 一方、雌(右)では前額の直立刺毛は無く、その代わりに強い頭頂刺毛(vs)がある。単眼刺毛、後単眼刺毛、後頭頂刺毛は雄と大差ない。 胸部の刺毛については、3番目の写真で中刺毛が2列、背中刺毛が1列あるのが確認出来る。しかし、その他の肩に近い部分の刺毛(肩刺毛2、肩後刺毛1、背側刺毛2、横溝前翅内刺毛1、横溝上刺毛1、翅背刺毛2等)は、その数も多く、また、脱落していると思われるものもあって、色々な方向から写真を撮ってみたが、完全には識別出来なかった。やはり、実体顕微鏡が無いと、この手の刺毛の判別は難しい。「ウデゲ」の名は、前脚第1、第2付節に密生する短毛から来ている(写真クリックで拡大表示)(2011/07/07) このアシナガバエの前脚第1、第2付節には、その両側に短毛が密に生えている(上)。これがこの種の一大特徴で、「ウデゲヒメホソアシナガバエ」の名称は此処から来ている。雄の尾端.田悟氏報文の176図と基本的に一致する(写真クリックで拡大表示)(2011/07/07) 最後に雄の腹端部(交尾器)である(上)。田悟氏の報文に載せられた図と基本的に一致しており、類似した交尾器を持つ種は他に見当たらない。これは、この種が「ウデゲヒメホソアシナガバエ」であることを示す、最も決定的な証拠である。 本種は、一昨年の夏に双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂・改」で御検討頂いた種で、その結果は既に拙Weblogに載せてある。その時は、私が生態写真しか提示しなかった為、三枝先生がお手元の標本の中からよく似た種を探がす労を取られ、それをChrysosoma属である可能性が高いと判断された。今回の田悟氏の報文で、このアシナガバエは同亜科別属のAmblypsilopus属に属すことが示されたが、この不一致は、私が写真のみ、しかも雌の写真しか提示せず、細部を検討出来る標本を作らなかったのが原因である。私が、虫を殺さないと云う我が儘を通した為、結果として三枝先生には大変な御迷惑を掛けてしまった。先生には、此処に深くお詫びする次第である。 しかし、Chrysosoma属とAmblypsilopus属は非常に近い間柄にあり、このウデゲヒメホソアシナガバエの正確な所属については今後検討の余地があるとのこと。先生に御迷惑を掛けてしまい、すっかりショゲ返って居たが、これで少しは気が楽になった。
2011.07.17
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作業が一段落したので、またWeblogの更新をすることにした。 実は、今日は別の虫を紹介するつもりだったのだが、一寸した訳があって、以前紹介したことのあるスイセンハナアブ(Merodon equestris)を、もう一度掲載することになった。クリスマスローズの葉上に留まるスイセンハナアブ(雄)遠くから見ると、コマルハナバチの働きバチに似る(写真クリックで拡大表示)(2011/05/20) 遠目に見ると、コマルハナバチの働きバチの様な大きさと色具合である。しかし、ハチとアブ(本当はハエだがアブとしておく)を見間違えることはない。 それにしても、今までこの辺り(東京都世田谷区西部)で見たことのない配色、これはシッカリ撮ってやろうと思ったのだが、結構敏感なヤツで、数枚で逃げられてしまった。斜め上から撮ったスイセンハナアブ(雄)翅脈がハラブトハナアブ属とは異なる真上からは今回も撮れなかった(写真クリックで拡大表示)(2011/05/20) 太めで毛深いハナアブ(ハナアブ科:Syrphidae)と言えば、ハラブトハナアブ属(Mallota)が思い浮かぶ。早速、市毛氏の「ハナアブ写真集」を参照してみた。しかし、ハラブトハナアブ属と今日のハナアブとでは、翅脈が明らかに異なる。 さて、それでは一体、此奴は何者・・・、と考えていたら、外来種のスイセンハナアブのことを思い出した。昨年の今頃に掲載したことがあるが、全身が黄褐色~灰褐色の毛で覆われていて、今日のハナアブとはまるで模様が違う。しかし、模様は個体変異かも知れない。横から見ると、後腿節が太く、脛節は曲りその内側に2個の突起があるのが見える(写真クリックで拡大表示)(2011/05/20) 早速、自分のWeblogを見直してみた。翅脈は全く同じである。「ハナアブ写真集」を良く見てみると、この様な翅脈はスイセンハナアブの属すMerodon属だけの様で、しかも、この属には他にカワムラモモブトハナアブが記録されているだけである。カワムラモモブトは「ハナアブ写真集」に載っており、明らかに別種である。・・・と言うことで、今日のハナアブはスイセンハナアブ(Merodon equestris)で間違いないであろう。Web上で探してみると、ソックリな写真が沢山出て来た。極く普通の変異の様である。 昨年掲載した時にも書いたが、北隆館の新訂圖鑑には、「脚は黒色で後脚の腿節は肥厚し脛節内側中央付近は広く瘤状に膨れ、末端内側には長い角状突起があり、外側には板状の突起がある」と書かれている。「板状の突起」は角度の関係で良く分からないが、内側の膨れと突起は上の写真で明らかである。斜め前から見たスイセンハナアブの雄右後から陽が当たって些か見苦しい(写真クリックで拡大表示)(2011/05/20) しかし、昨年掲載した時にも最初はハラブトハナアブの仲間と間違えている。進歩がない、と言うか、1年前に書いた記事のことはもうすっかり忘れている。全く、困ったものである。 尚、九州大学の日本産昆虫目録には外来種のスイセンハナアブは見当たらず、Merodon属にはカワムラモモブトハナアブ(Merodon kawamurai)とナガモモブトハナアブ(Merodon scutellaris Shiraki, 1968)の2種が載っている。しかし、「一寸のハエにも五分の大和魂・改」の関連サイトである「みんなで作る双翅目図鑑」(写真は殆ど無い)の一覧表(九大目録よりも新しい)を見ると、Merodon属はスイセンハナアブとカワムラモモブトハナアブの2種のみで、ナガモモブトハナアブは(Azpeytia shirakii Hurkmans. 1993)となっており、全然別の種となっている(族はマドヒラタアブ族で同じ)。 また、北隆館の新訂圖鑑を見ると、スイセンハナアブの学名はMallota equestris)であり、該一覧表とは属ばかりでなく族も異なる。Mallota属はナミハナアブ族(Eristalini)、Merodon属はマドヒラタアブ族(Eumerini)に属す。 この辺り、一体どうなっているのか、一介の素人には全く分からないが、此処では、市毛氏の写真集に従って、スイセンハナアブはマドヒラタアブ族に属し、学名はMerodon equestrisとしておく。
2011.05.27
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毎日同じ作業の連続で少し疲れた。其処で、今日は気分転換にWeblogを書くことにした。 冬の間にホソヒラタアブやクロヒラタアブの食事用と思ってノースポールを3株植えて置いた。これが4月頃から勢力を増しスザマジイ密度で咲いていたのだが、ある日、どうも1株分と言うか、1/3位の花が萎れ始めた。メガネを掛けて良く見てみると、何と、茎にアブラムシがビッシリ!! これは困ったことだと思っていたら、数日後、体長7mm位のクロヒラタアブ(Betasyrphus serarius:ハナアブ科Syrphidaeヒラタアブ亜科Syrphinae)の幼虫が数頭、花の上で日向ぼっこ?しているのを見つけた。やはり、アブラムシが発生すると、ヒラタアブの幼虫も出現することになっているらしい。ノースポールの花の上で日向ぼっこ?するクロヒラタアブの幼虫黒と白の矢印の先に全部で5頭見える(写真クリックで拡大表示)(2011/04/27) 2日後、またクロヒラタアブの幼虫が花の上で日向ぼっこをしていた(上の写真)。成虫は日向ぼっこが大好きだが、幼虫も日向ぼっこが好きなのか? 或いは、日に当たらないとヴィタミンDが不足するのかも知れない。 上の写真で、黒と白の矢印で示した先に、クロヒラタアブの幼虫が居る。全部で5頭だが、勿論、見えないところにもまだ居る。最初の写真で、右下側端から2番目の個体90度回転しているので御注意(写真クリックで拡大表示)(2011/04/27)最初の写真で右下端の個体を横から見たもの.花粉まみれである或いは、幼虫も花粉を食べるのだろうか?(写真クリックで拡大表示)(2011/04/27) しかし、2日前は7mm程度だったのが、2日で10~12mmに成長している。蛹化直前と云う感じ。 実際、既に蛹になったものも見つかった(次の次の写真)。花の下で2頭の幼虫が仲良く?並んでいた(写真クリックで拡大表示)(2011/04/27) 花の下で、2頭が仲良く?している場面も見つけた(上)。クロヒラタアブの幼虫は共食いをすることもあるので、こんな光景は珍しいのではないだろうか。因みに、細長い方が頭なので、上の写真では互いに「顔」を向け合っていることになる。 これまでの経験によると、蛹になってから確保したヒラタアブ類の羽化率はかなり低い。50%を越えたことはないと思う。コバチ類が「無数」に出て来るか、その儘干からびてしまうことが多い。ヒラタアブ類は蛹になってからコバチ類に寄生される、と何処かで読んだ。其処で、もう蛹化も近いし、見つけた個体(幼虫7頭に蛹1個)は全部飼育することにした。既に蛹になっている個体もあった(写真クリックで拡大表示)(2011/04/27) ところで、餌となるアブラムシは・・・と見ると、もう殆ど居ない。下の写真は、辛うじて残っているアブラムシを見つけ出して撮ったもの。背景になっている茎に見える白っぽい粒々は中身を吸われたアブラムシの殻である(一部に脱皮殻もあろう)。 アブラムシの居た茎の数は50本位で、各茎に50~100頭位のアブラムシが居たと思う。・・・と言うことは、全部で3000~4000位のアブラムシが、数日で殆ど全滅してしまったのである。 この時見つけたクロヒラタアブの幼虫と蛹は全部で8個体、他に、ホソヒラタアブの幼虫も数頭見つけた。勿論、見えないところにもかなりの数の幼虫(特に小さい個体)が居ただろうが、しかし、天敵としてのヒラタアブ幼虫の威力、スザマジイものである。ノースポールの茎に寄生しているミカンミドリアブラムシ周囲の茎にいたアブラムシは殆ど全滅している(写真クリックで拡大表示)(2011/04/27) このアブラムシ、全農教のアブラムシ図鑑で調べてみると、どうやらミカンミドリアブラムシ(Aphis citricola)らしい。体全体や脚、角状管、尾片等の色、角状管と尾片の形態、触角の長さなどが一致する。ミカンミドリアブラムシ.角状管と尾片は黒く、後腿節の先端部と脛節の基部、成虫の頭部は、角状管ほどではないが暗色(写真クリックで拡大表示)(2011/04/27) 同図鑑に拠れば、このアブラムシはミカン属、シモツケ属、リンゴ属、ボケ属、その他多くの木本植物や草本に寄生する。かつてアブラムシは寄主の違いで分類されたことが多いので、このアブラムシも、学名和名共に、沢山の名前を持っていた。 ユキヤナギアブラムシ(A. spiraecola)の名もよく知られているが、同図鑑に拠れば、これは本種のシノニム(Synonym:異名)とのこと(尚、九州大学の日本産昆虫目録を見ると、ミカンミドリアブラムシの名は見当たらず、ユキヤナギアブラムシがA. citricolaとして載っている)。確保したクロヒラタアブの幼虫と蛹全8頭総てが無事羽化した左は既に蛹になっていた個体で雄(5月4日羽化)右は幼虫から飼育したもので雌(5月7日羽化)(写真クリックで拡大表示)(2011/05/04、05/08) 幼虫7頭と蛹1個を確保したが、幸いなことに、全個体が無事に羽化した。飼育の甲斐があったと言える。クロヒラタアブはもう既に紹介済みだが(実は、幼虫も蛹も・・・)、写真の幼虫がクロヒラタアブであったことの証拠として、雄雌1頭ずつを並べて掲載することにした(酷似種にニッポンクロヒラタアブ(B. nipponensis)があるが、珍種の様だし関東では記録が無いのでその可能性は考慮していない)。 左が雄、右が雌。体長がほぼ等しくなる様に倍率を調整してある(実際の体長は、雌が約11.0mm、雄が11.5mmで殆ど違わない)。小楯板や頭部胸部は雄の方がかなり大きい。逆に言えば、雌は腹部の比率が大きい訳だが、腹には卵、或いは、その元(卵原細胞や卵母細胞)が詰まっている筈なので当然であろう。 尚、今回はクロヒラタアブの幼虫や蛹の詳細に付いては紹介しなかった。実は、昨年の暮れにその細かい構造や捕食行動をシッカリ撮影してある。しかし、余りに詳しく写真を撮り過ぎたので、どう整理するかがまだ決まっていない。その内、掲載すると思うが、何時のことになるか、自分でも良く分からない。[18日に掲載予定であったが、一部の写真が未調整であった為、19日の朝に掲載することになった。文頭の「今日」は昨日(18日)である]
2011.05.19
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今年の秋は、例年に比して、我が家の庭を訪れるハナアブの種類が多い。先日紹介したキスネクロハナアブやシママメヒラタアブは初めて見るハナアブだったし、2年に1度位しか姿を見られないキゴシハナアブも今年は既に何回かやって来た。 今日、紹介するオオフタホシヒラタアブ(Syrphus ribesii)も普段は滅多に現れない、この辺りではかなり稀なハナアブである。しかし、今年はその姿を3~4回も見ている。やはり、これもこの夏が異常に暑かったことと関係しているのであろうか。オオフタホシヒラタアブの雌.体長15mmと大きい背景がセイタカアワダチソウなので色が映えない(写真クリックで拡大表示)(2010/10/22) 実は、このオオフタホシヒラタアブは、既に4年前に紹介済みである。しかし、この時は遠くから産卵している所を背面から撮った同じ様な写真2枚しか掲載出来なかった。産卵中だから体を丸めており、頭やお尻は良く写っていない。 今回の写真も枚数は多くはないが、ずっと近寄って撮影しているし、また、色々な角度からも撮影してある。種の特徴がかなり良く出ていると思うので、再掲載することにしたのである。
2010.11.10
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かなり以前から、写真を拡大表示出来る様にしたが、その為には平均的に解像力を少し上げる必要があり、結果として絞りを以前よりも少し拡げなければならない。絞りを拡げれば焦点深度が浅くなり、当然の結果として焦点合わせが微妙になり、撮影枚数が増えてしまう。 枚数が増えれば、撮った写真の選別(ピクセル等倍にして必要な部分の端から端まで調べる)に相当な時間を要すことになり、また、安全を見越して撮影するので使える写真の枚数も以前よりは多くなってしまい、掲載用に調整しなければならない写真も増える。 ・・・と云う訳で、最近は原稿を書く閑がない、と言うか、写真の調整だけで疲れてしまい、原稿を書く気力が出ない。こう云う時は、写真1枚だけの日を間に挟んで、間を持たせることにする。 幸い、昨日の朝、変なハナアブを撮った。直ぐに逃げられてしまったので、この写真1枚しかない。アシブトハナアブと思ったのだが、腹部には細い黄色横帯があるだけで、この種に見られる筈の第2腹節背板の幅広い黄帯に囲まれた「エ」の字形(「二」の場合もある)の黒斑がない。これ、本当にアシブトハナアブ??アシブトハナアブ(雌:黒化型).前回と同じくハナアブ科(Syrphidae)ナミハナアブ亜科(Milesiinae)だが、ナミハナアブ族(Eristalini)腹部第2節背板の黄色帯が極めて細い(写真クリックで拡大表示)(2010/11/03) しかし、市毛氏の「ハナアブ写真集」を見ると、アシブトハナアブ(Helophilus virgatus)以外には考えられない。其処で、Web上でアシブトハナアブの画像を片っ端から見てみた。しかし、これ程第2腹節の黄色帯が薄くなっている個体は見付からなかった。挙げ句の果ては、例によって「一寸のハエにも五分の大和魂・改」にお伺いを立てる次第と相成る。 早速、pakenya氏から「アシブトハナアブのメスですね」との御回答を得た。これで一安心、Weblogのネタとして使える。pakenya氏に感謝!! 氏に拠れば、「あまり注意してみていませんが、暗色傾向の強いものもしばしば見られます.たまに、横縞がほとんど見えないものもあり、さすがにこのようなやつに出会うと何者?!ってな感じにどきっとします」とのこと。此処に載せた程度の黒化は、ハナアブを見慣れた人にとっては、驚くに足らない程度の変異らしい。 ハナアブ類の腹部背板の模様は、安定して変化の少ない種類もあるが、このアシブトハナアブの様に非常に変化に富む種類も多い。ハナアブ類の種類を見極める時は、余り腹部の模様を頼りにしない方が無難な様である。
2010.11.04
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今年は、9から10月上旬にかけて余りにも虫が少ないので、園芸店に何度か出掛け、虫集めの為に10種程度の花を買ってきた。勿論、店の展示場(青空天井)で沢山虫が来ているのを選んだのだが、家に置いてみると、我が家の周辺には基本的に虫が少ないらしく、多少の効果が認められたのはコスモスとカラミンサ位のものであった。 やがて、鉢植えにしてあるセイタカアワダチソウが咲き始めた。やはり虫集め専用に植えているだけあって、凄い「集虫力」である。ハエ、アブ、ハチ、蝶、蛾、更にはヒトスジシマカまでがやって来る。残念ながら、その多くは既に紹介済みの種類だが、先日のニホンミツバチも含めて、何種類かの未掲載や新顔の虫がやって来た。セイタカアワダチソウにやって来たキスネクロハナアブ(雄)(写真クリックで拡大表示)(2010/10/19) 今日は、その中から我が家としては「珍種」であるキスネクロハナアブ(Cheilosia ochripes)を紹介する。最初はセイタカアワダチソウに来たのだが、虫の重みで花穂が枝垂れて虫は花の下側になってしまい、旨く写真が撮れない。その内、既に黄色くなり始めたブルーベリーの葉に留まったので、セイタカアワダチソウに留まっている写真は最初の1枚だけである。ブルーベリーの葉に留まるキスネクロハナアブ(雄)(写真クリックで拡大表示)(2010/10/19) キスネクロハナアブはハナアブ科(Syrphidae)ナミハナアブ亜科(Milesiinae)クロハナアブ族(Cheilosiini)に属す。写真の個体は、体長約13mm、翅長約10.5mm、翅端まで約16mmとかなり大型で、遠くから見るとアメリカミズアブによく似ていた。双翅目をよく知らない人ならば、ミズアブ類と間違える可能性がある。斜めから見た図.かなり這いつくばっている感じ(写真クリックで拡大表示)(2010/10/19) このクロハナアブ類を我が家で見るのは初めてである。似た様な種類が多く、ハナアブ類の中でも最も厄介な連中として名高い。特にこのキスネクロハナアブの属すクロハナアブ属(Cheilosia)は種類数も多く(九大目録で58種、「みんなで作る双翅目図鑑」では65種)、更に、酷く類似していて、素人には禁断のグループとされている。頭部を斜めから見ると、複眼に毛のあること触角第3節が殆ど円形であることが分かる(写真クリックで拡大表示)(2010/10/19) 私はよく知らないのだが、市毛氏の「ハナアブ写真集」を見ると、複眼無毛のAグループ、複眼有毛で顔有毛のBグループ、複眼有毛で顔無毛のC・Dグループと、全部で4つのグループに分けられるらしい。 写真を見れば明らかな様に、複眼には毛がある(上の写真)。顔は正面から見ると周辺には若干の毛がある様に見えるが、全体としては無毛である(下の写真)。どうやらC・Dグループに属すらしい。正面から見たキスネクロハナアブの顔周辺部を除いて、顔は無毛である(写真クリックで拡大表示)(2010/10/19) ハナアブ類の識別には脚の色が問題になることが多い。写真でお分かりの通りセイタカアワダチソウの花粉だらけで脚の色は良く分からないが、各腿節は黒く先端のみが茶褐色、脛節はほぼ茶褐色の様だが、その後半はやや色が濃い様に見え、各付節は暗色である。また、触角第3節は殆ど円形をしている(上の上の写真)。 これらの特徴を基に、市毛氏の「ハナアブ写真集」で調べてみたところ、オオクニクロハナアブが一番近い様に思えた。しかし、頭の形が一寸違う。それに「ハナアブ写真集」に載っていない種類もかなりある。専門家によってキスネクロハナアブと認められた写真は少ないと思うので、沢山写真を出しておく本来は最初に出すべき正立背面像(写真クリックで拡大表示)(2010/10/19) 其処で、例によって「一寸のハエにも五分の大和魂・改」のお世話になる次第と相成る。 早速、ハナアブの研究をされているpakenya氏から御回答を頂いた。オオクニではなくキスネクロハナアブであった。「ハナアブ写真集」でオオクニの上に出ていた種である。御話に拠れば、「夏から秋に見られる種で、特に秋に見る機会が多いです.この仲間の同定は困難なものがほとんどですが、この種は比較的わかりやすいです.複眼有毛、顔面は長毛を欠き、小楯板には長毛はあれど剛毛を欠くいわゆるC種群の大型種で、顔の中隆起の上辺がなだらかなので横顔に特徴があります.春に出現するC. japonicaニッポンクロハナアブと酷似していて、同じ種の季節型ではないかと推定する人も居ますが、中隆起の形と眼縁帯下部の幅がキスネの方が狭い傾向があり、形態が違うのであれば別種であろうと考えています(私は)」とのこと。 更に、「キク科の花によく来るため、花粉まみれになっている個体をよく見ます。アーチャーンさんの画像の個体も黄色の花粉が大量に付着していますね.セイタカアワダチソウにでも寄ってきたのでしょう」と、正に御賢察の通りであった。オマケのその1(写真クリックで拡大表示)(2010/10/19) 最近は「東京都本土部昆虫目録」に載っていない(東京都未記録)種を撮影することが屡々ある。其処で、このクロハナアブも「もしや?」と思い、一応確保(ネットで採集して大きなプラスティックの筒に入れた)して置いた。だが、残念ながら(ハナアブ君にとっては幸いにも)目録にチャンと載っていた。 しかし、その記録は狭山丘陵(東京都北部、埼玉県との境)にただ一つあるのみで、皇居や赤坂御所、常盤松御用邸、井の頭公園付近での報告には載っていない。少なくとも、この辺り(東京都世田谷区西部)の住宅地では相当の「珍種」と考えて良い様である。オマケのその2(写真クリックで拡大表示)(2010/10/19) pakenya氏からの御回答にも「この種は都内にも記録がありますね」とあった。其処で早速、囚われの身となっているキスネクロハナアブを逃がしてやった。 採集してからほぼ丸一日(暴れるといけないので暗い所に置いておいた)だが、まだ元気一杯、蓋を開けた途端に何処かに消えて見えなくなってしまった。
2010.11.01
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我が家に庭にはヒトスジシマカが多い。普段は蚊取り線香を焚いているのだが、丁度備蓄が切れてしまい、集って来る蚊を捕虫網で捕まえては網全体を丸めて蚊を潰していた(1匹ずつ潰す余裕は無い)。 すると、その中に蚊ではない少し大きめの虫が居た。蚊は簡単に死んでしまうが、この少し大きめの虫はまだ辛うじて生きていた。よくハナバチが一緒に入るのでそれだと思い、逃がしてやろうとしたら、何とハナアブの1種である。しかも、今までこの辺りでは見たことのない種類!!シママメヒラタアブ(東京都未記録種)の雌.体長は6mm弱腹部背板3節以降に明瞭な横帯を持つ(写真クリックで拡大表示)(2010/10/12) 早速、マクロレンズで覗いてみると、眼に縞があり、腹部には黒と橙色の縞がある。マメヒラタアブ属マメヒラタアブ亜属(Paragus(Paragus))のハナアブである。汚れたネットの上に居るのを撮るのではモデルに対して失礼だろうから、虫集め用に買ってきたコスモスの花の上に載せて撮ったのが上の写真。 このマメヒラタアブ亜属は日本に3種が生息し、この辺りに居る可能性のあるのはノヒラマメヒラタアブとシママメヒラタアブの2種だけである。双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に拠ると、シママメは河川沿いなどの草地に特異的に生息する種と考えられており、あまり一般的な種ではないそうである。・・・と云うことは、ノヒラマメか?次の日見つけたシママメヒラタアブの雌.多分上と同一個体小楯板の色が少し違うが、照明の方向の違いであろう(写真クリックで拡大表示)(2010/10/13) 掲示板にはシママメとノヒラマメに関する過去の投稿が幾つかある。しかし、どうも両者の区別が今一つ良く分からない。其処で、急いで写真を調整してノヒラマメか否か御伺いを立ててみた。 早速、ハナアブに詳しいpakenya氏から御回答を賜った。これは典型的なシママメヒラタアブ(Paragus fasciatus)の雌とのこと。ハナアブ科(Syrphidae)ヒラタアブ亜科(Syrphinae)マメヒラタアブ族(Paragini)に属す。シママメは東京都本土部昆虫目録にも記録が無く、かなりビックリした。真横から見たシママメヒラタアブの雌.各基節は黒い後腿節の中程先端寄りに幅の広い黒色の輪がある(写真クリックで拡大表示)(2010/10/13) pakenya氏に拠ると、「腹部背板3節以降に明瞭な横帯を持つのはシマです。特に末端節が黄色いノヒラの例はないようです。また、触角の第2節が第1節より明らかに短いこと、翅の中央部に微毛microtrichiaが認められないこともシマの特徴です」とのこと。写真のハナアブは正にその通りになっている。略正面から見たシママメの雌.顔は白く見えるが実際は黄白色触角第3節下部は黄褐色を帯びる(写真クリックで拡大表示)(2010/10/13) また、pakenya氏の御話には、「シマは河川敷の草地に主に生息するようです。ご自宅は多摩川や野川の近くでしょうか?」とあった。我が家は野川からは約500m、仙川(川の仙川)からは約300mだが、両方とも崖を下った所を流れている。川から来たとすれば急斜面を上がってくる必要があるが、以前大型種のヒゲナガカワトビケラが飛んで来たこともあるし、飛翔の出来る虫にとって多少の勾配は大した問題ではないかも知れない。斜め前から見たシママメヒラタアブ(写真クリックで拡大表示)(2010/10/13) 実を言うと、最初のコスモスの花に載せた背面からの写真を撮った後、横から撮ろうとしたら、コスモスの鉢が倒れてアブさんは何処かに行ってしまい、見えなくなってしまった。 それでは2枚目以降はどうしたのかと言うと、次の日にまた現れたのである。虫集め用に買ったカラミンサの花に留まっていた。しかし、かなり弱っていて、時々花から落ちてしまう。同じ雌だし、恐らく同一個体で、昨日蚊を潰した時にかなりのダメージを受けたのだろう。可哀想なことをしてしまった。 コスモスとカラミンサは隣同士なので、或いは、コスモスが倒れた時に飛んで行ったのではなく、近くに放り出されて、カラミンサまで歩いて来たのかも知れない。其処で、落ちる可能性の少ないコスモスの花に載せてやった。既に掲示板に問い合わせた後であり、東京都未記録のシママメと分かっていたので、シッカリ写真を撮った。頭部を超接写.触角第2節は第1節よりも短い.複眼のシマは地色の違いではなく、白色毛の有無に拠るものらしい(写真クリックで拡大表示)(2010/10/13) 写真を撮り終わり、コムピュータにデータを移して写真の出来を見た後、あることに気が付いた。東京都未記録なのだから虫体を確保して「双翅目談話会」の何方か(「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に書き込みをされている方の多くは「双翅目談話会」のメンバー)に送って何らかの記事にして頂ければ、シママメヒラタアブの分布に関する「新知見」になり、また、東京都本土部昆虫目録の種類数が1つ増えることになる(写真では確実な証拠とはならない。何らかの印刷物にする必要がある)。 私は、写真のモデルになって貰った虫は殺さないのを基本としている。しかし、もう余命幾ばくもない様だし、何時もお世話になっている「一寸のハエにも五分の大和魂・改」の皆様(特に東京都本土部昆虫目録の双翅目を担当されているケンセイ氏)のお役に立てれば幸いと思ったのである。確実なシママメヒラタアブの写真はWeb上に余り多くないので沢山貼っておく(写真クリックで拡大表示)(2010/10/13) 其処で、シャーレを持って(毒ビンで殺す気はしなかった)庭に出たところ、シママメが居ない。ハナアブを狩るギングチバチは最近見ていないし(昨日のギングチバチは昨年9月に撮影)、飛んで逃げるだけの力があったとはとても思えず、やはり下に落ちてスレートの上を這い回っているのではないかと思い、周りの植木鉢をみな退けて探したのだが、残念ながら何処にも見当たらなかった。一体何処へ行ってしまったのだろう・・・。オマケの1枚目(写真クリックで拡大表示)(2010/10/13) その後、2日目に撮った写真を「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に載せようとしたところ、そのスレッドの最後にケンセイ氏からの書き込みがあり、東京都では未記録なので再度出現したら虫体を確保して採集報告を書いて欲しい、とのこと。上記の顛末を書いて、残念ながら・・・、とお詫び申し上げた次第である。オマケの2枚目(写真クリックで拡大表示)(2010/10/13) ところが、その数日後、この東京都では珍品の筈のシママメヒラタアブが沢山飛んでいる場所を町の奥の方で見付けたのである。今までに何回も撮影に行っているところで、こんな所にシママメが多産するとは、やはり今年は異常な年らしい。 急いで家にとって返し、採集道具を持って来て久しぶりに虫屋を演じた。私は採集報告を書くのに必要な専門的な文献も持っていないし、機関誌を発行しているの昆虫関係の組織にも所属していないので、採集した虫体は早速ケンセイ氏に送付した。これで少しはお役に立てたことであろう。
2010.10.21
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昨夜、前線が南下して太平洋上に抜けてしまった。御蔭で今日は少しは秋らしい風が吹いている。しかし、陽射しはまだ強く、余り涼しいと云う感じはしない。虫の方も、まだ夏枯れ状態のままで、サッパリである。 其処で、昨年の8月中旬に撮った虫を紹介することにした。シマバエ科(Lauxaniidae)Homoneurinae亜科(和名ナシ)のHomoneura tridentata、和名は未だ無い。体長は約5mm、シマバエ科としては大きい方である。シマバエ科のHomoneura tridentata.体長約5mm前縁脈はR4+5脈の合流部まで黒色の小剛毛列を持つ(写真クリックで拡大表示)(2009/08/17) ハエとなると、またややこしい検索の話になってしまう。まず、シマバエ科の特徴。鬚刺毛を欠き、後ろ向きの強い額眼縁刺毛を2対具え(下の写真)、触角第2節背面に1本の剛毛を持ち(下)、更に、脛節端付近の背面に1本の剛毛を具え(下)、且つ、後単眼刺毛が収斂する(3番目の写真)。写真のハエは確かに、その通りになっている。他に、触角刺毛に軟毛を持つ、Cu融合脈が翅縁に達しない、前縁脈に切れ目がない等の特徴があるが、これらは写真からは余り判然としない。しかし、まァ、シマバエ科で問題なし、としておく。横から見たH. tridentata.後ろ向きの額眼縁刺毛は太く長い触角第2節背面に短い剛毛が1本見える脛節端付近の背面に1本の剛毛がある(写真クリックで拡大表示)(2009/08/17) シマバエ科の属への検索は、(株)エコリスの「日本のシマバエ科 属への検索試案」を使った。この検索表の最初にある「C脈はR4+5脈の合流部まで黒色の小剛毛列を具える」でHomoneurinae亜科となり、更に「翅に模様がある場合,前腿節には櫛状の小剛毛を持つ」でHomoneura属に落ちる。このハエ、翅は殆ど透明だが、横脈(r-m脈とm脈)の周囲に僅かな曇りが見られる。略正面からみたH. tridentata.後単眼刺毛が交差しているのが見える横脈(r-m脈とm脈)の周囲に影が認められる(写真クリックで拡大表示)(2009/08/17) Homoneura属に関する論文としては、「Sasakawa & Ikeuchi (1985), A Revision of the Japanese Species of Homoneura」(Download可)がある。3部に分かれた長い論文だが、第3部にある検索表を辿ると、H. tridentataに落ちる。 この検索に関しては、少しややこしいので此処では省略する。写真のハエの顕著な特徴として腹部第5節に1対の黒斑が見られる(最後の写真)。検索表の最後のキーで漸くこの腹部第5節の黒斑の出て来たので、検索に誤りは無かったらしいと安心した。クリスマスローズの葉を舐めている.口器は複雑前腿節には櫛状の剛毛列がある.鬚剛毛は無い(写真クリックで拡大表示)(2009/08/17) 種の記載を読むと、何と、腹部第5節背面に1対の黒斑があるのは、日本ではこのH. tridentataのみとのこと(他に台湾に2種ある)。日本産ならば、検索表を辿らなくても、この特徴だけでH. tridentataと云うことになるのである。 しかし、検索表ではこの特徴は一番最後の段階に書かれている。恐らく、斑紋の様なものは変化し易く、それよりも、翅の構造や毛の生え方の方がより本質的な分類学的特徴なのであろう。H. tridentataの翅脈(写真クリックで拡大表示)(2009/08/17) しかし、双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に拠ると、シマバエ科に関しては上記論文が出版された後に新種がかなり記載されたとのこと。或いは、腹部第5節に黒斑を1対持つ新種が出たかも知れない。そこで、一応「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に、この点に関して御伺いを立ててみた。 何方からも異論は出なかった。また、バグリッチ氏もこのハエをH. tridentataとしているとのことである。H. tridentataとして問題無いと判断した次第である。腹部第5節背面に1対の黒色斑を持つ(写真クリックで拡大表示)(2009/08/17) 昼を過ぎて、またかなり暑くなって来た。気象レーダー像を見ると、近畿から北海道にかけて、彼方此方で雷雲が発達している。関東地方でも強い雨の降っている所が何個所かある。この辺り(東京都世田谷区西部)は余り雷雲の来ない場所だが、是非ともやって来て、ドンガラガッシャンと景気よくやって欲しいものである。
2010.09.14
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今日は、前回予告したガガンボの美麗種を紹介する。ホリカワクシヒゲガガンボ(Ctenophora bifascipennis)、ガガンボ科(Tipulidae)ガガンボ亜科(Tipulinae)Ctenophorini(クシヒゲガガンボ族?)に属す、翅長約15mmの中型ガガンボである。 隣家との境になっているブロック塀の表面を這い回っていた。目の高さよりも上に行きそうになったので、左の掌で前を遮ると、飛んで逃げることもなく大人しく進行を停止した。その後、撮影の最中に電池が切れたが、新しい電池に交換して戻ってきても、まだ同じ場所に留まっていた。中々律儀?なガガンボである。ブロック塀に留まるホリカワクシヒゲガガンボ(雌)翅の模様が特徴的な美麗種(写真クリックで拡大表示)(2010/05/29) 背景がブロック塀とは何とも味気がないが、こればかりは何とも致し方ない。もっと綺麗な背景の場所に移ってくれれば良いのだが、逃げられては元も子もない(後述)。何卒御勘弁頂きたい。 なお、上の写真は、拡大すると背景から虫体が浮き上がって見えるので、その様にして御覧頂ければ幸いである。横から見たホリカワクシヒゲガガンボ何故か左前肢を空中に持ち上げている(写真クリックで拡大表示)(2010/05/29) ソモソモ、私はガガンボ(カガンボ、ガガンポ)は苦手でよく知らない。しかし、このホリカワクシヒゲガガンボだけは、幸いなことに、以前、双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に投稿があり、私も若干関与したので、それだと直ぐに分かった。 この種は手元の図鑑には載っていない。掲示板での投稿が無かったら、種名までは分からないところであった。もう少し近づいて・・・.尖ったお尻が印象的(写真クリックで拡大表示)(2010/05/29) この個体、名前は「櫛鬚」だが、下の写真の通り、触角は数珠状で櫛状ではない。これは、この個体が雌だからで、クシヒゲガガンボ類の雄は、名前の通り、櫛状の触角を持つ。数珠状の触角、頭の後側には毛が多い(写真クリックで拡大表示)(2010/05/29) 実は、昨年の8月末に、同種雄の残骸を庭で見つけた。この辺りでは見たこともない鮮やかな模様のガガンボだったので、かなり酷く破損した個体ではあったが、一応撮影して置いた。下の写真がそれである。チャンと櫛状の触角をしている。昨年の夏に見つけたホリカワクシヒゲガガンボ(雄)の残骸雄の触角は名前に違わず櫛状で大きい残骸なのでかなり褪色している(写真クリックで拡大表示)(2009/08/30) 前述の掲示板での投稿に回答されたのは、九大名誉教授の三枝先生である。先生の御話では、ホリカワクシヒゲガガンボは暖地に多い種で、市街地などにも時々現われるとのこと。また、クシヒゲガガンボ類の多くは朽木に穿孔してこれを食べるが、本種の雌は、腹の先にある細く尖った産卵器で腐葉土中に産卵し、幼虫は腐葉土を食べて生長するそうである。ホリカワクシヒゲガガンボの横顔小腮鬚が複雑に折り畳まれている(写真クリックで拡大表示)(2010/05/29) 先生は飼育についても書かれている。「メスを採集すれば飼育は簡単で,腐葉土を十分に湿らせたのを厚くいれた容器にメスを放せば盛んに産卵し,幼虫は腐葉土を摂食して成長します。幼虫はかなり大型なので,多数を飼育する場合は頻繁に腐葉土を入れてやる必要があります。桜などの葉を乾燥させたものを細かく砕いて腐葉土にまぶしてもいいでしょう。羽化は蛹が地上に上半身を出して脱皮します。なかなか美しいガガンボですので,メスを採集したら飼育を試みられたらと思います」とのこと。飼育の詳細は、「川瀬勝枝・三枝豊平,1984.ホリカワクシヒゲガガンボの飼育記録。まくなぎ,(12):31-34.」を参照すれば分かるらしい。モミジの葉上に移ったホリカワクシヒゲガガンボ残念ながら、葉の反射が一寸強過ぎた左に葉があるので少し斜めに撮影(写真クリックで拡大表示)(2010/05/29) 一通り写真を撮ってから、背景が余りに無粋なので、何処か葉の上にでも誘導出来ないかと思い、一寸チョッカイを出してみた。慌てて逃げることはなく、緩やかに飛んで彼方此方移動したが、小さな木の葉や枝などは留まり難いらしく、やがて重なったモミジの葉上に留まって動かなくなった。しかし、撮影してみると、葉からのストロボ光の反射が強過ぎる(上の写真)。 其処でもう一度チョッカイを出した。すると・・・、あらら摩訶不思議、ガガンボの姿が消えてしまった。こんなに大型でしかも緩やかに飛ぶ虫が突如見えなくなるとは何とも理解し難いが、兎にも角にも、居なくなってしまった。蛾などはポトリと落ちて突如眠りに入ることがあるので、下の方も探してみたが、やはり見付からない。 ・・・と云う訳で、綺麗な背景の写真は遂に撮れなかった。飼育の方も、親が居なければ諦めるしかない。
2010.05.31
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最近、見慣れない大きなハナアブがこの辺り(東京都世田谷区西部)に出没している。体長15mm位、黄褐色~灰褐色の長毛に被われた、かなり太ったハナアブである。大きな羽音を立てて飛び回り、敏感で容易に写真が撮れない。 町の奥の方には沢山居るのだが、これまで我が家の庭では見たことがなかった。それが、昨日、遂に出現した。妙なハナアブで、地面に興味があるらしい。最初は巣穴を探しているニッポンヒゲナガハナバチの雌と思った位である。スイセンハナアブの雄.地面に御執心(写真クリックで拡大表示)(2010/05/15) 残念ならが、2方向撮ったところで逃げられてしまい、正背面と正面からは撮れなかった。しかし、翅脈は良く見えるし、かなり特徴のあるハナアブなので種類は判別出来そうである。早速、市毛氏の「ハナアブ写真集」を参照してみた。 始めはハラブトハナアブの仲間かと思ったが、どうも違う。ハナアブ科では、CuA1脈は翅縁近くで曲がりdm-cu脈となって翅縁に沿って走る(下の写真)。ハラブトハナアブ類ではハッキリした角を持って曲がるのに対し、写真のハナアブでは円弧を描く様に滑らかに曲がっている。また、R4+5脈(下)の曲がり具合も一寸違う。どうやら、別のグループらしい。最初の写真に翅脈名を入れた(写真クリックで拡大表示)(2010/05/15) 更に探してみると、ナミハナアブ亜科(Milesiinae )マドヒラタアブ族(Eumerini)のスイセンハナアブが見付かった。全体の形ばかりでなく、翅脈相もよく似ている。手元の図鑑を調べてみると、北隆館の大圖鑑に載っていた。 解説には、「脚は黒色で後脚の腿節は肥厚し脛節内側中央付近は広く瘤状に膨れ、末端内側には長い角状突起があり、外側には板状の突起がある」とある。脛節末端は見えないし、その外側の出っ張りも角度の関係で板状であるか否か判断出来ないが、「内側中央付近で広く瘤状に膨れ」ているのは確認出来る。 また、学名で検索すると海外の綺麗な画像がゴマンと出て来る。圖鑑にも書かれている通り、胸背と腹部の被毛には変化が多いが、非常によく似た色合いのものもある。スイセンハナアブ(Merodon equestris)の雄として間違いないであろう。後脚脛節は中央付近で内側に膨れている(写真クリックで拡大表示)(2010/05/15) このスイセンハナアブ、名前の通り幼虫がスイセンやグラジオラス、アイリス、ユリ等の球根を傷害する(北隆館の圖鑑に拠る)。地面に興味があるらしく見えたのは、そのせいかも知れない。 外来昆虫で、何時頃渡来したのかは調べても分からなかったが、オランダから輸入した球根に付いていたと云われている。「外来種ハンドブック」を見ると、備考欄に「根絶」と書かれていた。・・・ちっとも根絶していないではないか!! 今年、このハナアブを彼方此方で見かけるのは、ヒョッとすると大発生の前兆ではないだろうか。読者諸氏の庭にも来ていないか、気になるところである。
2010.05.16
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連休中は毎日良い天気で、虫の方も色々と新顔が現れた。多くは直ぐに逃げられてしまい、思ったほど写真は沢山は撮れなかったが、まァ、数種は撮れた。 今日はその中から、毛むくじゃらのアブを紹介する。ミズアブ科(Stratiomyidae)Pachygasterinae亜科(和名なし)のKolomania albopilosa(和名なし)である。体長約5.5mm、翅端まで約7.0mm、翅長は約4.5mm、ミズアブとしてはやや小型と言える。ミズアブ科Pachygasterinae亜科のKolomania albopilosa(和名なし)毛むくじゃらで真っ黒だが腹部に白い毛帯がある(写真クリックで拡大表示)(2010/05/01) クリスマスローズの咲き終わった花(萼片)の中に居た。真っ黒で毛むくじゃら、撮影中は有弁類(イエバエ科、ニクバエ科、クロバエ科、ヤドリバエ科等)かと思っていたのだが、データをコムピュータに移して良く見てみると、ハエではない。 触角第3節が分節している。翅脈相もハエとは全く異なる。触角第3節が細かく分節している.複眼にも毛が一杯(ピクセル等倍、拡大不可)(2010/05/01) ハエやアブ等の短角類では触角は3節からなり、蚊やヌカカ、ケバエ等の糸角類では8節以上、と云うのが双翅目を見分ける時の基本である。しかし、ミズアブ科、アブ科、キアブ科、クサアブ科等では触角第3節が3~8節に分節して、3節よりも多く見える。 これらの触角が分節する科の中で、下の写真の様に、R脈基幹から分かれたRs脈が短く、中室(discal cell:下の写真では反対側の翅の脈が重なって分かり難いが、「Rs」と書いた下にある6角形の室)が小さいのがミズアブ科である。 また、ミズアブ科の多くでは、R1,R2+3、R4+5の各脈も短く、翅端よりはかなり手前で前縁脈に終わる。最初の写真に翅脈の名称を付け加えたRs脈は短く、他のR脈も短くて翅端よりもかなり手前で前縁脈に終わる(写真クリックで拡大表示)(2010/05/01) さて、ミズアブ科であることは分かったが、それ以上はお先真っ黒である。ミズアブ科と云えば、子供の頃「便所虻」と呼んでいたコウカアブや以前紹介したアメリカミズアブ、或いは、もっと綺麗なところでエゾホソルリミズアブ位しか知らない。何れも、細長い種類で、写真の様な腹の丸まったのは見たこともない。 其処で、ミズアブ科(Stratiomyidae)の写真を探していたところ、何時もお世話になっている双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に「ミズアブ科図鑑」と云うのがあることを知った。今までミズアブ科を調べたことがなかったので、気が付かなかったのである。横から見た図.全身、体の裏側まで毛だらけ付節の先端に3個の嚢状物がある(写真クリックで拡大表示)(2010/05/01) このページに拠ると日本産ミズアブ科は73種(九大目録では62種)で、その内の49種の標本写真が載せられている。日本産ミズアブ科全種の約2/3である。こんな有用な図鑑があるのを知らなかったとは、全く我が身の不明を恥じるばかりである。 その図鑑を辿って行くと・・・、あった。腹が丸くて白い毛帯を持つ種類が居た。Pachygasterinae亜科(和名なし)のKolomania albopilosa(和名なし)であった。 目録を調べると、Kolomania属には3種あり、その内本州に産するのはこのK. albopilosaだけだから、この種である可能性が高い。しかし、東京都本土部昆虫目録を見ると、記録がない。些か不安が残るので、「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に御伺いを立ててみた。前から見た図.しかしながら毛深い(写真クリックで拡大表示)(2010/05/01) 問い合わせには、東京都本土部昆虫目録で双翅目を担当されているケンセイ氏が対応して下さった。銀色の微毛が腹部に認められるので、Kolomania albopilosaの雄で宜しいとのこと。これで安心して掲載出来る。 氏に拠れば、仕事としての調査では都内で採集しているが、個人としては中々採れないとのこと。調査結果は調査を依頼した組織のものなので、採集しても受注側は記録として公表できず、結果として東京都本土部昆虫目録には載っていないのである(東京都本土部昆虫目録は、同人誌を含む文献に載った昆虫の目録なので、幾ら確実な採集記録があっても、文献として公表されない限り目録に載ることはない)。しかし、ケンセイ氏が個人として採集されていないと云うことは、これは結構珍しい種類と考えて良いであろう。我が家の様な、私鉄の駅から直線距離で200m、商店街から100mの住宅地に、珍しい種類が居たとは、一寸驚きである。Kolomaniaの生態写真はWeb上には無い様なのでもう一枚載せることにした(写真クリックで拡大表示)(2010/05/01) このKolomania albopilosaの生態は良く分からない。ミズアブ科幼虫の多くは腐ったものを餌とするが、双翅目の常として種々の環境に適応しており、この種の食性を特定する情報は全く得られなかった。
2010.05.07
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少し前のことになるが、3月中~下旬に何回か見慣れないハナアブが姿を現した。非常に敏感で何時も1m以内に近づくだけで逃げてしまう。飛んでいる時の腹部は黒っぽい感じで、遠目にはクロヒラタアブに一寸似ている。しかし、腹部が全体に細く、先端の方が元よりも膨らんでいる様な印象を受けた。 何回来ても一枚も撮れず残念に思っていたが、漸く最後に何とか写真が撮れた。但し、充分に撮る前に逃げられてしまったので、使える写真は3枚しかない。クロツヤヒラアシヒラタアブ.前肢の先が横に拡がっている体長9mm、翅端まで11mm、翅長は7.5mmである(写真クリックで拡大表示)(2010/03/31) 初見のハナアブなので、先ずハナアブの図鑑として最も役に立つ「札幌の昆虫」や市毛氏の「ハナアブ写真集」で調べてみる。すると・・・どうやらヒラアシヒラタアブの仲間(ヒラアシヒラタアブ属:Platycheirus)らしい。 しかし、「ヒラアシヒラタアブ」の「ヒラアシ」とは何だろう。「平足/平肢」なのだろうか? そう思って市毛氏の「ハナアブ写真集」を良く見てみると、種類によっては前肢の先が奇妙な具合に横に拡がっている(拡がらない種類もある。また、雄では顕著だが雌では不明瞭)。これが「ヒラアシ」と付いた理由であろう。 上の写真では、かなりボケているが、明らかに前肢の先端部は横に拡がっている。其処で、もう一度市毛氏の写真集に戻って調べてみたところ、その形はクロツヤヒラアシヒラタアブ(Platycheirus urakawensis)のものに一番近い。また、双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に1件だけあるクロツヤヒラアシヒラタアブの記事を見ても、やはりよく似た前肢の形をしている。横から見たクロツヤヒラアシヒラタアブ腹部側方に3つの不明瞭な紋がある(写真クリックで拡大表示)(2010/03/31) しかし、この記事には「長野県では標高1,500m以上の高山帯に主に分布しているようです」とあり、高山性のハナアブであることが示唆されている。一方、東京都本土部昆虫目録を見ると、皇居での記録が載っているから、関東の平地にも居るらしい。 この記事は5年前に投稿されたものである。或いは、当時は分類がキチンとして居らず、その後2種に分かれた、等という可能性も無くはない。何となく不安なので、クロツヤヒラアシで宜しいか「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に御伺いを立ててみた。余り取り柄のない写真だが、2枚では寂しいので・・・(写真クリックで拡大表示)(2010/03/31) 今は春の黄金週間の真っ最中、ハナアブ屋の皆さんはフィールドに出撃中と思いきや、市毛氏から早速の御回答を賜った。「クロツヤヒラアシヒラタアブで合っていると思います.本種は,平地~亜高山まで広く分布しており,本属の中での最普通種だと思います」とのこと。これで安心して掲載することが出来る。 実は、このクロツヤヒラアシヒラタアブにはルリボシヒラアシヒラタアブ、クロツヤホシヒラタアブと全部で3つの和名がある。「札幌の昆虫」や東京都本土部昆虫目録を見るとクロツヤヒラアシヒラタアブとなっているが、市毛氏はその写真集でルリボシヒラアシの名を先に出してクロツヤホシをカッコに入れているし、最近改訂された北隆館の大圖鑑や九大目録ではクロツヤホシが使用されている。一介の素人としては、どの和名を使用すべきなのか良く分からない。 其処で、この点も双翅目の掲示板で問い合わせてみた。これも市毛氏が対応して下さった。「急いでハナアブ図鑑を調べたところ,クロツヤヒラアシヒラタアブ(改称)と書かれているので,これが最終的な和名です」とのこと(この「ハナアブ図鑑」とは、双翅目懇談会が会員用に作った図鑑のことで、普通の本屋では入手できない)。此処ではこれに従い、クロツヤヒラアシヒラタアブをPlatycheirus urakawensisの和名として使用した(まァ、和名など余り気にしないのだが・・・)。 なお、先日紹介したクロケコヒラタアブは、「ヒラタアブ」と付いてもナミハナアブ亜科に属し幼虫は樹液食であったが、このクロツヤヒラアシヒラタアブはヒラタアブ亜科(Syrphinae)ツヤヒラタアブ族(Melanostomatini)所属で、普通のヒラタアブ類と同じく幼虫はアブラムシ等を捕食する。
2010.05.02
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漸く春らしくなって来て些か心も浮き立つが、虫の方はどうかと言うと、これがサッパリである。アシブトハナアブとホソヒラタアブ等は殆ど常駐して居るが、新顔は容易に現れない。其処で今日は、昨年の今頃撮ったハナアブを紹介することにした。 実はこの写真、ISOが高く設定されているのに気が付かないまま撮ってしまったので、かなり荒れており、今までお蔵にしていたのである。しかし、普段は見ない種類なので一寸調べてみたところ、Web上では余り紹介されていないケコヒラタアブ(Psilota)属のハナアブであることが分かった。体長は約5.5mm、翅長も約5.5mmの小さめのハナアブである。クロケコヒラタアブ.体長約5.5mm、翅長も5.5mmm横脈がほぼ直角に曲がっている(写真クリックで拡大表示)(2009/04/03) 双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂・改」で調べると、日本産ケコヒラタアブ属は3種のみで、クロケコヒラタアブ(Psilota nigripilosa)が各地に多産する以外は極めて稀な種類らしい。この辺り(東京都世田谷区西部)に「極めて稀な種類」など居る筈も無いが、同掲示板に載っている写真や、ハナアブの研究者である市毛氏の「ハナアブ写真集」にある標本とは一寸違って見える。また、東京都本土部昆虫目録を見ると、皇居で「クロ」の付かないケコヒラタアブ(P. brevicornis)の記録がある。 何となく不安を感じたので「一寸のハエ・・・」に御伺いを立ててみた。すると・・・、ハナアブの研究者であるpakenyaが対応して下さった。触角第3節が長い(幅の3倍以上)ことが確認できるので、クロケコで良いとのこと。先ずは一安心である。横から見たクロケコヒラタアブ.全身毛だらけ(写真クリックで拡大表示)(2009/04/03) また、「触角が短めのメス個体は、今のところ正確に同定することができません」との御話であった。掲示板の他の記事を読むと、どうもこのこのケコヒラタアブの分類には少し混乱がある様である。クロの付かないケコヒラタアブのホロタイプ(正模式標本:原記載時に原著者がただ1個指定した標本)とパラタイプ(副模式標本:原記載で参照された標本の内、ホロタイプを除いた全ての標本)との間に違いがあるらしい。 まァ、分類学では良くあることだが、今日の主人公、クロケコヒラタアブには関係ないことなので、気にしないことにする。斜め上から.複眼にも長い毛が生えている(写真クリックで拡大表示)(2009/04/03) このクロケコヒラタアブ、名前はヒラタアブだがナミハナアブ亜科(Milesiinae)マドヒラタアブ族(Eumerini)に属す。ホソヒラタアブ等の普通のヒラタアブはヒラタアブ亜科(Syrphinae )ヒラタアブ族(Syrphini)だからかなり遠縁で、一般のヒラタアブよりはナミハナアブ等のハナアブ類の方に近い。。全く、誤解を招く紛らわしい和名だが、私の知らない何らかの来歴があるのであろう。 ケコヒラタアブの「ケコ」の意味も良く分からない。多分、小さくて毛が多いから「毛小」なのだと思う。同じ様な写真をもう一枚.触角は平らで長い(写真クリックで拡大表示)(2009/04/03) 幼虫の食性は樹液食とのこと。普通のヒラタアブ類幼虫はアブラムシ等を食べ、ナミハナアブ等の幼虫は水の中で暮らすオナガウジ(尾長蛆)、それらから較べると一寸変わったグループだが、ハナアブ類の食性は双翅目らしく多岐に亘っているから、そう驚くことはない。ベッコウハナアブ類の幼虫は、何と、スズメバチの巣に寄生する。オマケにもう一枚.腹部は丸味が強い(写真クリックで拡大表示)(2009/04/03) どうも春になっても虫の出方は余り芳しくない様である。しかし、画像倉庫を見るとまだ未掲載の写真は結構残っているし、これまで撮った虫や花でも超接写するとかの工夫をすれば、重複掲載にならないでネタとなり得る。 同じ種類を同じ様に撮る重複掲載はしない方針なので、必然的に深刻なネタ不足に陥りつつあるが、私は楽観主義者なので、まァ、何とかなるでしょう、と気楽に構えている。
2010.04.14
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昨日は、待ちに待った春らしい晴天で、我が家の狭い庭にも春がやって来たことを漸く実感出来た。虫も色々飛んでおり、新顔も現れたが、気温も高く非常に敏感で、中々写真を撮らせてくれない。今日は、辛うじて1枚だけ撮ったユスリカの1種を紹介する。 ユスリカ科(Chironomidae)エリユスリカ亜科(Orthocladiinae)のフタスジツヤユスリカ(Cricotopus bicinctus)、体長2.5mm、翅長は1.9mmの小さなユスリカである。 ユスリカ科は日本産だけで1000種以上もある大きなグループで、しかも小型種が多く、私が同定することなどとても不可能である。実は、少し前に我が家の庭ではない所で撮影した同種を、双翅目のBBS「一寸のハエにも五分の大和魂」で見ていただいたところ、ユスリカの専門家であるエリユスリカ氏がフタスジツヤユスリカであることを教えて下さったのである。 氏に拠れば、かなり前の調査だが東京の都市河川ではこの時期[冬]最優占種になっており、冬期に出現するものは腹部の斑紋が殆ど認識できなくなり全体真っ黒となる個体が増える、とのこと。今日の個体は、氏が示された図(drawing)とソックリの斑紋をしているが、先の個体では一寸模様が違っていた。フタスジツヤユスリカ.この次に横から撮ろうとしたら逃げられた体長は2.5mm、翅長は1.9mmと小さい(写真クリックで拡大表示)(2010/04/10) このフタスジツヤユスリカは、我が家から500m程離れた川や泉のある所では屡々見かける。しかし、駅前商店街から大して離れていない我が家の様な場所で見るのは初めてである。 ツヤユスリカ(Cricotopus)属には、この様な黄色と黒のトラ模様でツヤのある種類が少なからず居る。ユスリカと言えば、灰褐色の模様に乏しい種類を思い浮かべるが、中にはこの様な綺麗な種類も居るのである。写真1枚でも紹介した所以である。
2010.04.11
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寒い!! 昨日の夜などは木枯らしが吹いていた。今朝の気温はほぼ零度。前回、「昨年3月の気温を調べてみると、何と、今年と大して変わらない」と書いたが、取り消す。気象庁の「過去の気象データ検索」で調べてみると、西暦2000年以降3月の下旬の最低気温が3℃を割った日は3日しかなく(その内の1日は昨日)、1.5℃を下回ったのは1回もない(気象庁の「東京」とは大手町のことなので、我が家付近よりも1℃以上暖かい)。 しかし、寒くとも陽が射すと流石は春、虫達が彼方此方を飛び回っている。今日、紹介するのはツヤヒラタアブ(Melanostoma orientale)の雌、2年前に「ツヤヒラタアブの1種」を紹介したので重複掲載になるかも知れないが、今回のはその個体とは少し雰囲気が違うし、写真も大きくしてあるので、敢えて掲載することにした(ネタ切れの為)。クリスマスローズの花に留まるツヤヒラタアブ(雌)(写真クリックで拡大表示)(2010/02/26) 2年前のツヤヒラタアブは体長5.5mm、今日のは8.3mm、かなり大きさが違う。大型なので、飛んでいるところを見ると、小さめのホソヒラタアブの様な感じがする。ツヤヒラタアブ類は、留まる時に必ず翅を畳む。ホソヒラタアブは普通は翅を開いて留まるが、気温の低い時には翅を閉じるので、少し遠くから見ると区別が付き難くなる。 今年はこの大きなツヤヒラタアブをまだ寒い頃から時々見ている。この辺りでは、冬や早春に見ることのない種類なので、或いは、同一個体なのかも知れない。こんな狭い庭に飽きもせず、冬の間ず~と居るとは考え難いのだが・・・。横やや上側から見たツヤヒラタアブの雌(写真クリックで拡大表示)(2010/02/26) 実は、今日の個体は以前、もう一つのWeblogで紹介した「ツヤヒラタアブの1種」と細部に至るまで同じである。此方の方は、以前、双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂」で見て頂いた。ハナアブに詳しいPakenya氏の御話では、「(ツヤヒラタアブ類は)関東地方の平野部には4種が普通に見られ、全種顔面は黒く、似通った黒地に黄色の斑紋を持ちますが、斑紋の形や大きさは相当な変異の幅があるようで、斑紋で区別することは危険なようです.確実には、腹部の腹板の形状を見る必要がありますが、全ての脚が暗色部を持っていないので、ご推察のM. orientaleツヤヒラタアブの♀と思われます」とのこと。今日のヒラタアブを、「ツヤヒラタアブの1種」ではなく、「ツヤヒラタアブ」と断定した所以である。ツヤヒラタアブの顔.触角下側の基部寄りは赤褐色(写真クリックで拡大表示)(2010/02/26) ツヤヒラタアブは、ハナアブ科(Syrphidae)ヒラタアブ亜科(Syrphinae)ツヤヒラタアブ族(Melanostomatini)に属す。ホソヒラタアブやキタヒメヒラタアブ等、黒と黄色の模様があるヒラタアブの多くは、ヒラタアブ族(Syrphini)所属である。この両族で、生態がどう異なるのか良く分からないが、ハナアブの研究者である市毛氏に拠ると、ツヤヒラタアブ族のヒラタアブはイネ科の花穂の花粉を好む様で、他のヒラタアブ類でイネ科の花穂に来るのはクロヒラタアブ類など数種しかいない、とのことである。成虫の食性は多少違いがあるらしい。 幼虫はどうか。多くのヒラタアブ類の幼虫はアブラムシやダニ等を補食する。このツヤヒラタアブの幼虫は何を食べるのか調べてみたら、Melanostoma属の幼虫が捕食するアブラムシの種類や補食速度に関する文献が見付かった。ツヤヒラタアブもやはりアブラムシを食べるらしい。略真横から見たツヤヒラタアブ(雌)(写真クリックで拡大表示)(2010/02/26) 上に書いた様に、ハナアブ科はラテン名ではSyrphidae、ヒラタアブ亜科のラテン名はSyrphinaeである。ラテン名の綴りは語幹が同じ(idaeは科を示す語尾、inaeは亜科の語尾)だが、和名の方はハナアブとヒラタアブで異なる。ラテン名の語幹はSyrphus(ヒラタアブ)属から来ており、オオフタホシヒラタアブやマガイヒラタアブ等がこれに属す。だから、Syrphinaeをヒラタアブ亜科とするのは良いが、Syrphidaeは本来ハナアブ科ではなくヒラタアブ科とすべきところである。しかし、名前としてはハナアブの方が一般的なのでハナアブ科としたのであろう。 また、ハナアブやヒラタアブは、何れも双翅目短角亜目環縫短角群に属す広義の「ハエ」であり、アブ類が属す直縫短角群ではない。それ故、保育社の原色日本昆虫図鑑では「ハナアブ」を「アブバエ」、「ヒラタアブ」を「ヒラタアブバエ」と置換えた新称を使用したが、日本語としては何とも落着きが悪く、結局普及しなかった。和名の付け方は難しい。手を擦るツヤヒラタアブの雌(写真クリックで拡大表示)(2010/02/26) 今日は、早朝は真冬並みの気温であったが、一点の雲もなく、春の陽射し照らされて次第に暖かくなって来た。明日はもっと暖かくなるらしい。徐々に花弁を開き始めていたサクラもこれで一気に満開になるに違いない。今週末辺りが見頃となりそうである。
2010.03.30
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今日もまた植木鉢の下に居た生き物を紹介する。但し、多毛類や訳の分からぬ奇怪な代物ではなく、蚊の1種である。植木鉢の底にある隙間から入り込んで越冬していたらしい。 体長は3mm強、翅端まで約4.5mm、ガガンボを小さくした様な虫である。この様な外見を持つ虫は、双翅目糸角亜目(広義の蚊の仲間)の色々な科に属すものが居て、その扱いに慣れていない者には厄介な存在である。私もその「慣れていない者」の一人なので、シッカリ苦労させられる羽目になった。 尚、翅が青いのはストロボの反射による構造色ではなく実際の色で、肉眼でも青い翅をしているのが認められた。タマバエ科のLestremiini族の1種.「ハエ」と付いても蚊の仲間翅が青いのは構造色ではなく、本来の色(写真クリックで拡大表示)(2010/01/11) こう云う訳の分からぬ虫を調べるには、検索表を辿るのが一番である。保育社の図鑑にある双翅目の検索表では、タマカ科(タマバエ科:Cecidomyiidae)に落ちた。しかし、其処に描かれている翅脈図は写真の虫の翅脈とは大いに異なる。その図ではM脈が1本でCu脈(実際はM3+4脈)に殆ど接しており、しかも点線で描かれているところを見ると、痕跡程度に弱いらしい。一方写真では、翅全体が微毛に被われていて分かり難いのだが、M脈の存在は明確でCu脈とは離れており、また、途中で2本に分かれているのが認められる。これだけ違えば、タマバエ科(タマカ科)ではないだろう。 こう云うのに一番近い翅脈を持つのは、クロバネキノコバエ科(クロカ科、クロキノコバエ科:Sciaridae、「ハエ」と付いても広義の蚊の仲間)である。しかし、この科の連中は、脛節端に明確な距(棘の様なもの)を持つ。写真の虫にはその様なものは見えない。また、「The European Families of the Diptera」に拠ると、クロバネキノコバエ科の触角は16節とあるが、写真からはとても16節あるとは思えないし、ブラッシ状に毛が生えている。更に、クロバネキノコバエにしては脚が細長過ぎる。余り質の良くない写真だが、背面からの写真1枚だけでは寂しいのでもう1枚斜め横からのを載せることにした(写真クリックで拡大表示)(2010/01/11) 其処で、例によって「一寸のハエにも五分の大和魂」(このサイトは暫く閉鎖状態になっていたが、平成21年11月9日からURLを変更し「一寸のハエにも五分の大和魂・改」として再開されている)の御世話になることと相成る。対応して下さったのはアノニモミイア先生で、翅脈相が不明瞭な写真なので断言は出来ないが,タマバエ科のLestremiini族の1種(雌)ではないかとの御話。この仲間は寒冷期にもよく活動し、翅脈相はかなりクロキノコバエのものと似ているが,前縁脈の位置などが異なるとのこと。Lestremiini族に属すLestremia属の翅脈図も提示して下さった。調べてみると、タマバエ科の翅脈相には、クロバネキノコバエに似たものの他に、様々なパターンがあることが分かった。 危ないところであった。もう少しで「クロバネキノコバエ科の1種」として掲載してしまうところであった。くわばらくわばら。科を間違えると云う重大過誤を犯さずに済んだのは、一意に「一寸のハエにも五分の大和魂・改」の存在とアノニモミイア先生の御蔭である。 ところで、タマバエ科と云うとその幼虫が虫えいを作ることでよく知られている。しかし、それはタマバエ科の一部であり、普通に植物を食したり、リーフマイナー(leaf-miner:絵描き虫)となるもの、キノコや腐植を食べるもの、捕食性のものなど様々である。このLestremiini族の幼虫は、アノニモミイア先生の御話では、腐植を食べるとのこと。腐植物の多い植木鉢の下に居たのも、幼虫時代の食性と関係があるのかも知れない。
2010.01.24
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最近掲載する記事は写真の枚数が多く、文章の量もそれに略比例しないとバランスが悪くなるので、どうも原稿を書くのがシンドクなる。其処で今日は写真1枚の虫で楽をすることにした。写真が1枚しかないのは、言うまでもないが、直ぐに逃げられてしまったからである。 体長2mm強、翅端まで約2.5mmの小さなハエで、庭を浮遊していた。従って、これは「庭を漂う微小な羽虫」のその6でもある。キモグリバエの1種.Thaumatomyia notataに似ている(写真クリックで拡大表示)(2009/10/12) この手の小さいハエの同定は生態写真からは難しいことが多い。しかし、脛節端付近の背側に剛毛が無く、一見して単眼三角域が大きいので、キモグリバエ(Chloropidae)の1種であるのは間違いない。しかし、それ以上は、現在「一寸のハエにも五分の大和魂」が故障中なので、私一人の力ではどうにもならない。 それでも「Chloropidae」で画像検索すると、Thaumatomyia notataと言うこれにそっくりなキモグリバエが見つかった。しかし、類似種の情報が全く欠けているので、一見似ているからと言ってそう簡単にThaumatomyia属の1種と決める付ける訳には行かない。 キモグリバエ科は、九州大学の目録では150種、東京都本土部昆虫目録では39種記録されており、また、Thaumatomyia属は前者で3種、後者には2種載っている。 「木潜蠅」と言うと、木の穿孔虫の様な印象を与えるが、幼虫が木や皮を食べるのは一部に過ぎず、その食性は双翅目昆虫らしく、非常に広範囲に亘る。単子葉植物の茎や花穂を食べるものがよく知られており(ムギキモグリバエ、イネキモグリバエ等)、中には虫えいを作るものもあるそうだが、他に、腐植質、キノコ、腐肉、鳥の巣(に寄生?)、蜘蛛やバッタの卵、ネアブラムシ等を食べるものもある。前述のThaumatomyia属はネアブラムシを捕食する。 尚、別のWeblogで「キタモンヒゲブトキモグリバエ」と「ヒゲブトキモグリバエ?」を紹介しているので、関心のある向きは参照されたい。
2009.10.14
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蝶(ルリタテハ、クロアゲハ)の幼虫の写真が溜まっているのだが、芋虫・毛虫を続けて掲載するのも何となく気が引けるので、今日はまたアシナガバエの1種を紹介することにする。 以前掲載したのと同じチビアシナガバエ(Chrysotus)属に属す。しかし、勿論、別種である。写真は拡大すると何れもピクセル等倍、画像はかなり酷いが、小さい虫ゆえ何卒御勘弁頂きたい。チビアシナガバエ(Chrysotus)属の1種(Chrysotus sp.)背側から撮ると、ショウジョウバエに似ている(写真クリックで拡大表示)(2009/07/21) 今回のは体長2.6mm、翅端まで3.3mm、以前紹介した種類(体長約2.3mm、翅端まで2.6mm)よりやや大きい。体各部の色や、脚の剛毛配列も異なる。翅が体長に比してやや長いので、最初見たときは、ショウジョウバエの1種かと思った。横から見ると、口の辺りが普通のハエとは違うことが分かる(写真クリックで拡大表示)(2009/07/21) しかし、顔を見ると、全然違う。何ともキッカイな顔をしている。その時は何バエなのか分からなかったが、後で、アシナガバエ科の1種であることが分かった。もう何回も書いた通り、アシナガバエは名前は「ハエ」でも、本当はアブの仲間(直縫短角群)である。「ハエ」と付くだけあって、顔を見ない限りハエ(環縫短角群)の1種の様に見えることが多い。中には、「”ニセ”アシナガキンバエ」やマダラアシナガバエの様に、低解像力では顔を見てもアブの1種とは思えない連中も居る。正面から見ると、何とも変な顔(写真クリックで拡大表示)(2009/07/21) 今回も、正しくチビアシナガバエ(Chrysotus)属の1種であるか否かを、九大名誉教授の三枝豊平先生に確認して頂いた。先生はオドリバエ科、アシナガバエ科の権威である。「これもChrysotusです」との御回答、これで安心して掲載出来る。先生には、この場を借りて厚く御礼申し上げたい。 チビアシナガバエ(Chrysotus)属の特徴については、既に詳しく書いた。興味のある読者諸氏は此方をどうぞ。記事の後の方に、北隆館の新訂圖鑑に書かれている属の解説(執筆は三枝先生)を転記してある。変な顔をもう1枚.ハエの顔とは明らかに異なる(写真クリックで拡大表示)(2009/07/21) 以前の「チビアシナガバエ(Chrysotus)属の1種」と同じで、これも種名は分からない。この仲間は日本では殆ど研究されていないとのことなので、外国で既に記載されている種なのか、或いは、未記載種なのかも分からないのであろう。「Chrysotus sp.」とする以外に手立てがない。Chrysotusの写真はWeb上には少ないので、オマケにもう1枚(写真クリックで拡大表示)(2009/07/21) これで、このWeblogで紹介したアシナガバエ科は、「”ニセ”アシナガキンバエ」、マダラアシナガバエ、シロガネアシナガバエ属(Argyra)かその近縁属の1種、チビアシナガバエ(Chrysotus)属の1種(その1)と今日のチビアシナガバエ(Chrysotus)属の1種(その2)の5種となった。しかし、日本産アシナガバエ科は100種余りしか記録されていないが、実際にはその5倍の500種は棲息するらしい。まだたったの1/100、今後も新顔が現れそうである。
2009.10.05
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今日はまたアシナガバエ科に属す「ハエ」を紹介する。前にも書いたとおり、アシナガバエは外観がハエに似ているので名前に「ハエ」と付いているが、実際はアブの仲間である。多くは体長4~7mm位とやや小型。 その中で、先日紹介した「シロガネアシナガバエ(Argyra)属或いはその近縁属の1種」は比較的大きめであったが、今日紹介するのは、アシナガバエ科の中でも最も小さいチビアシナガバエ(Chrysotus)属の「ハエ」である。体長は約2.3mm、体高があるのと、犬みたいにお座りの姿勢で留まるので、肉眼的には「ハエ」だがカスミカメムシの1種だか良く分からなかった。チビアシナガバエ(Chrysotus)属の1種.体長約2.3mmと小さい写真は拡大したときピクセル等倍(以下同じ)(写真クリックで拡大表示)(2009/08/14) 北隆館の新訂圖鑑のアシナガバエ科は、九大名誉教授の三枝豊平先生が執筆されている。良く研究されている海浜岩礁性のイソアシナガバエ類と渓流性のナガレアシナガバエ属に付いては詳しく書かれているが、それ以外グループに関しては、主要な属についての解説とその代表的種が載っているだけである。この属に付いての解説を読んでみると、どうやら写真の「ハエ」はチビアシナガバエ(Chrysotus)属らしいと思ったのだが、亜科や属への検索表は無いので類似の近縁属の可能性もある。其処で、例によって双翅目のBBS「一寸のハエにも五分の大和魂」に御伺いを立ててみた。横から見たチビアシナガバエ(Chrysotus)属の1種お座りの姿勢で留まる.単眼剛毛は後ろ向きで強大(写真クリックで拡大表示)(2009/08/14) 早速、三枝先生から「Chrysotus属の1種だと思います」との御回答を得た。「日本列島には少なくとも10種以上生息していて,きわめて普通のアシナガバエの属」で「庭の片隅でも2,3種生息していることがあります」とのこと。一先ずは安心した。 しかし、種名は分からない。先生に拠ると、「日本産の種はほとんど研究されていません」。ソモソモ、北隆館の圖鑑に1種だけ載っているチビアシナガバエ属のスネグロチビアシナガバエの学名がChrysotus sp.(Chrysotus属ではあるが、種名は不明の意)なのである。真っ正面からの写真は位置の関係で撮れなかったが変な顔?をしているのが分かる(写真クリックで拡大表示)(2009/08/14) 先生の御回答には「日本列島には少なくとも10種以上棲息していて・・・」とあるのに、九州大学日本産昆虫目録にはチビアシナガバエ(Chrysotus)属は1種も載っていない。「研究されていない」と言うことは、外国の同属種との比較もなされていないと言うことで、日本に棲息する種が外国では既に記載されているのか否かも分かっていないのであろう。従って、今日紹介した「チビアシナガバエ属の1種(Chrysotus sp.)」も外国では知られている種なのか、或いは、未記載種なのかも分からないことになる。斜め上から見たチビアシナガバエ(Chrysotus)属の1種(写真クリックで拡大表示)(2009/08/14) このチビアシナガバエ(Chrysotus)属の「ハエ」は小さいせいか、Internet上に写真や記述は殆どない(外国には少しある)。其処で、北隆館の新訂圖鑑に書かれているチビアシナガバエ(Chrysotus)属の特徴を此処に書いて読者の参考とすることにした。 「チビアシナガバエ属(新称)Chrysotusは極めて小型のアシナガバエで次の特徴を持つ。体は金属光沢のある緑色。頭部は前面から見ると下方に向かって幅を減ずる;前額は広く、♂の顔面はかなり狭い;触角は短く、第3節は丸味を帯びた三角形。口器と小顎鬚は小型;単眼剛毛は著しく強大で後方に曲がる。中剛毛は2列;小楯板剛毛は1対、相互に広く離れる。翅は無色透明、翅脈は黒色;腎葉が発達しない。脚は短めで顕著な変形は見られない。腹部は太め;♂交尾器は微小で腹端部に圧縮される」。メンドーなので解説はしないが、写真の「ハエ」は、勿論、見える範囲でこの特徴に合致している。チビアシナガバエ(Chrysotus)属の写真はNet上に少ないのでもう1枚(写真クリックで拡大表示)(2009/08/14) どうも、双翅目(蚊、虻、ハエ)となると、無味乾燥な話が多くなって恐縮である。しかし、何分にもこの連中の同定に「絵合わせ」は禁物で、記載をシッカリ読む必要がある。勢い専門用語の羅列になってしまうが、何卒御容赦いただきたい。
2009.09.17
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今日は、また「庭を漂う微小な羽虫」である。 一ヶ月程前のことになるが、ヒトスジシマカに膝小僧の辺りを刺されたので、ズボンをたくし上げてキンカンを塗っていたら、小さな羽虫が1匹その周りをフワフワと飛び回っていた。今まで見た羽虫とは何となく雰囲気が違うので、早速左手で掬い取った。 掌を少しだけ開いて見てみると、何かブユの様な虫、しかし、ブユ(ブヨ、ブト)よりも小さい。まだ、元気そうなので、逃げられない様にコールド・スプレーを吹きかけて、大人しくさせた。 気絶した(瀕死の)虫を紙の上に移して写真を撮る。コールド・スプレーのショックで産卵してしまった様である。死に際に産卵する現象は、ハエや蛾でも良く見られる。ヌカカ科の1種.恐らくForcipomyia(和名なし)属の1種コールド・スプレーのショックで産卵してしまったピクセル等倍(以下同じ)(2009/08/04) さて、この虫、何者か。一見、ブユの様だが体長は約1.7mm。ブユは普通2~4mm位で、もっと大きい。決定的な違いは触角の長さである。ブユの触角は短く頭幅以下。ブユに似てもっと小さく(多くは体長2mm以下)、触角が数珠状で長いのはヌカカである。 しかし、ヌカカと言うのは川筋や湿地に発生する虫だと思っていたので、こんな都会の住宅地でお目に掛かるとは一寸した驚きであった。翅脈が一番良く見える写真.翅は毛に覆われている様に見える触角は数珠状で、先端近くの節は基部寄りの節よりも長い(2009/08/04) ヌカカ科は九州大学日本産昆虫目録に拠ると224種、北隆館の圖鑑には20種が載っているが亜科や属への検索表はない。検索に拠らない単なる絵合わせは、特に双翅目の場合非常に危険なので、例によって双翅目のBBS「一寸のハエにも五分の大和魂」に御伺いを立ててみた。 やがてこのBBSの主催者であるハエ男氏から御回答を得た。「ヌカカの画像による同定は極めて厳しいです(たぶんヌカカ屋さんはここのBBSに出入りしてないと思います)」。やはり予想通りであった。 ヌカカやカ等の人吸血性昆虫を多く含むグループやその他の衛生昆虫の研究は、一般に昆虫学教室(農学部)ではなく感染症に関する研究組織(医学系)で行われている。例えば、2年ほど前に他界された感染症の大御所、東大医学部名誉教授(富山医科薬科大学名誉教授、富山国際大学名誉教授、その他色々)の故佐々学先生(私はこれまでにその謦咳に接したこともなければお教えを受けたこともないが、佐々先生の感染症に関する本を相当数読んで感銘を受けているし、また、極く親しい友人が東大で佐々先生の講義を受けたりしているので、常々僭越ながら先生とお呼びしている)は、カ科やユスリカ科の分類に関しても第一人者(先駆けと言うべきか)であった。 「一寸のハエにも五分の大和魂」に参加されている方々は昆虫学系や虫屋さんが殆どの様である。やはりヌカカは駄目かと思っていたところ、九大名誉教授の三枝豊平先生が助け船を出して下さった。腹側から見るとこんな感じ(2009/08/04) 先生の御話では、「写真のヌカカは恐らくForcipomyia[和名なし]属の1種でしょう」とのこと。吸血性でよく知られているCulicoides(和名なし)属などは、どちらかと言えば自然が豊かなところに生息するのが普通であるのに対し、Forcipomyia属は先生の仕事場のベランダに置いてある藻類や有機物の入った水槽などでもしばしば発生するそうである。また、「ヌカカの幼虫は淡水(止水,流水を問わず)や湿地のほかに,草や木の葉などが堆積して腐敗したような所でもチョウバエなどともに発生します」との御話。我が家の庭で発生しても別に不思議ではないと言える。 更に、写真のヌカカは北隆館の圖鑑に載っているモンヌカカ(Forcipomyia metatarsis)に一見似ているとの御指摘も受けた。モンヌカカは、体毛が密生し、翅全体がやや黒ずみ前縁中央に黄白色斑があることや、触角の大凡の形状、平均棍の大きさや色等では良く似ているのだが、圖鑑の記述では体長2.5~2.7mmとあるのに対し、写真のヌカカは1.7mmでその2/3しかない。双翅目昆虫の成虫の体長は、幼虫時の栄養摂取の違いでかなりの差が出るのが普通だが、やや差が大き過ぎる気もする。 また、九大目録で224種のに対し圖鑑では僅か20種、検索表で辿り着いたのではないので近縁の酷似種が居る可能性もある。其処で、此処では「一見モンヌカカ(Forcipomyia metatarsis)に似るが小さい」としておくことにする。全体的に毛深い.口器が良く見える(2009/08/04) ヌカカは漢字で糠蚊と書く。糠粒の様に小さい蚊と言う意味であろう。小さいので網戸を容易にくぐり抜け、これに刺されると、その時は何ともないが、かなり時間が経ってから酷い痒みと腫れを生じ、完治に1週間以上かかることも屡々ある。北海道開拓初期の記録を読むと、知床半島などでは、肌を出すと忽ちの内にビッシリとヌカカに被われ、まるで糠味噌を掻き回した後の手の様になったそうである。しかし、北方の吸血昆虫と言う訳ではなく、熱帯に産するものも多い。九大目録の224種の内、北海道に産するのは僅か20種である。 また、人や恒温動物に対して吸血性の種類ばかりでなく、カエルや昆虫の体液を吸ったりする種類も多く、更に、小昆虫を補食するもの、花蜜を摂るものなど、成虫の食物スペクトルは広い。ただし、これは蚊と同じで雌だけの習性だそうである。 ところで、Forcipomyia属は、九大目録に拠れば日本に61種も記録があり、また、その多くは非吸血性である。この写真のヌカカが人吸血性か否かは分からないが、この辺り(東京都世田谷区西部)でヌカカ的な痒みを感じたことはない(北海道に居た頃は野山で屡々刺された)ので、恐らく非吸血性であろう。写真のヌカカに一見似ているモンヌカカに関しては、北隆館の圖鑑ではその食性について何も触れていない。
2009.09.09
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今日は2ヶ月近く前に撮った「ハエ」の写真を出すことにしよう。画像倉庫の中には、この7月~8月に撮った双翅目(ハエ、虻、蚊)でまだ掲載していないのがかなり残っているのである。 雨模様の陰鬱な日の夕方6時頃であった。既に暗くなった中庭にある置いてある鉢植えのモッコクの葉と葉の間に中位の大きさの「ハエ」が居た。位置的に非常に撮り難く、何枚か撮ったのだが、真横からも正面からも撮れない内に逃げられてしまった。アシナガバエ科シロガネアシナガバエ属(Argyra)かその近縁属の1種(雌).眼に短毛が密生している一見ハエだが、実際はアブの1種(写真クリックで拡大表示)(2009/07/09) 真横からの写真は無いし、背側からでは翅が腹部を隠しているので、正確な体長は分からないが、翅端まで5.5mm、翅長約3.5mm、最近掲載している双翅目昆虫としては大きめと言える。 背側から見ると、眼に細かい毛が密生しているのが分かる。全身の姿は特に変わってはいないが、顔は何とも言い難い奇妙な顔(3番目の写真)!! 一体何バエか? これがどうにも分からなかった。検索表で調べても行き詰まってしまい、該当する科が無いのである。他の検索表を調べたり、画像を探したりしたのだが、納得の行く結果は得られなかった。其処で仕方なく、恥を忍んで何科に属すのか「一寸のハエにも五分の大和魂」に御伺いを立てることと相成った。横やや上側から見たArgyra属かその近縁属の1種胸背には金属光沢があり、胸側は真っ白(写真クリックで拡大表示)(2009/07/09) 早速、九州大学名誉教授の三枝豊平先生が対応して下さった。何と、先生の御回答は「アシナガバエ科のArgyra属かその近縁属のメスです」!!! 分からない筈である。ハエの仲間ではなく、アブの仲間だったのだ。以前紹介した「”ニセ”アシナガキンバエ」と同じ科である。アシナガバエ科はアブ類と同じ直縫群に属し、ハエは環縫群に属す。アシナガバエは、名前はハエでもアブの仲間なのである。斜め前から見ると、何とも変な顔をしているのが分かる口器の中程にある左右に分かれた部分は小腮鬚の変形(写真クリックで拡大表示)(2009/07/09) 環縫群(ハエ)だと思って検索表を引いていたのだから、行き着く先が無いのは当たり前である。やはり、検索表で行き詰まったら、前提を疑うべきであった。 アブ類の翅脈は、基本的にハエ類の翅脈とは異なる。しかし、このアシナガバエ科の「ハエ」は、写真では良く見えない翅の基部に近い所では大いに異なるのだが、それ以外の(写真で良く見える)部分ではハエ類とよく似た翅脈をしているものが多い。 しかし、直縫群なので囲蛹を割る為の額嚢が無く、従って環縫群の額にある額嚢線がない(下図参照)。正面からの写真が無いせいもあり、これには全く気が付かなかった。また、先生の御話では、口器の中程にある平板状の構造は小腮鬚の変形とのこと。やはり、変な顔をしているのは、アブの仲間であったから、と言うべきであろう。チビクチナガハリバエの1種 (Siphona paludosa)の頭部羽化時に額嚢線に沿って額が割れ、中から大きな袋状の額嚢が出て来るその圧力により囲蛹はその輪に沿って割れ、成虫は表に出られる羽化後、額嚢は萎んで中に収まり、額は閉じられる尚、このヤドリバエの同定は三枝先生による(写真クリックで拡大表示)(2008/09/28) 九州大学の日本産昆虫目録やそれよりも新しい「みんなで作る双翅目図鑑」の目録には、Argyra属(シロガネアシナガバエ属)は僅か2種しか登録されて居らず、またその亜科(Diaphorinae:和名なし)にはこのArgyra属以外の属はない。三枝先生は「Argyra属かその近縁属」とされているが、日本には同亜科に属す近縁属は記録されていないのである。しかし、「”ニセ”アシナガキンバエ」のところで書いた様に、アシナガバエ科は現在記載されている種類の5倍位が棲息すると推定されている非常に研究の遅れた科である。まだ、記録されていない属があっても些かも不思議ではない。胸側には剛毛が見られない.腹部の大部分には金属光沢がある(写真クリックで拡大表示)(2009/07/09) 北隆館の圖鑑にはシロガネアシナガバエ属(Argyra)についての記載がある。三枝先生が執筆されたものである。その儘転記すると、「前額と額面は広い;触角柄節には刺毛を生じ、梗節は第3節の内側に延びる;第3節は三角形ないし長三角形;触角刺毛は第3節亜背部から生じる。口器や小顎鬚は小型。背中剛毛は5~6本、中剛毛は1~2列、小楯板剛毛は2対。翅は腎葉がよく発達する;前縁脈はM1+2脈に達する;M1+2脈は中央部でS字型に弱く湾曲する」(メンドーなので解説は省略)。大体の特徴は写真と一致するが、触角の細微な構造については倍率不足で判断できないし、また、小楯板剛毛は1対しか無い様に見える。先生が「Argyra属かその近縁属」とされた所以であろう。
2009.09.04
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今年の夏は陽射しの強い日が続くことが無いせいか、我が家の庭には何時もそれなりに虫が居て、どうやら「夏枯れ」状態にはならないで済む見込みである。結構色々な種類が居るが、まだ紹介していない虫となると、やはり双翅目(ハエ、アブ、蚊)、特に「ハエ」と名の付く虫が多い。 今日はその中でも特にハエらしいエを紹介する。イエバエ科ハナレメイエバエ亜科(Coenosiinae)に属すアシマダラハナレメイエバエ(脚斑離眼家蠅:Coenosia variegata Shinonaga, 2003)、翅端まで4.5mmの一寸小さめのハエである。アシマダラハナレメイエバエ(雌).翅端まで4.5mm毛深くて如何にもハエ的だが捕食性の清潔なハエ(写真クリックで拡大表示)(2009/08/02) イエバエ科を含む有弁類(他にハナバエ科、クロバエ科、ニクバエ科、ヤドリバエ科その他がある)と言うのは、一部を除いて殆ど素人が手を出すことの出来ない厄介な(恐ろしい)領域である。所謂「絵合わせ」は先ず効かない。これは双翅目全体に言えることだが、特に有弁類の場合はその程度が甚だしい。 種を決めるには、検索表と睨めっこし、翅脈相がどうなっているか(これが実に細かい)、何処にどの様な剛毛が何方の方向に生えているか(これはもっと細かい)、触角の柄節、梗節、鞭節等の形はどうなっているか、触角刺毛には微毛があるか・・・等、非常に細かい形態を見ながら的を絞って行き、最終的には交尾器の形態で判断をすることになる。図鑑などにある検索表は多くは科までのもので、種まで落とすには、それぞれ科ごとや属ごとの検索表が載っている文献を参照しなければならない。 イエバエ科の場合は、篠永哲著「日本のイエバエ科」と言う書物があり、種までの検索が出来る。しかし、この文献は非常に誤植や誤りが多く(主に英文なのだが、英文と和文で意味が逆になっていたりする)、私などは容易に使いこなすことの出来ないのだが、今回は奇跡的に種まで落とすことが出来た。下側やや後から見たアシマダラハナレメイエバエ.上と同一個体頭はボケているが、翅の下を精緻に撮らないと検索表が引けない(写真クリックで拡大表示)(2009/08/02) しかし、私の場合は標本を作らないので交尾器の形態は分からない。だから、最終的には双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂」で同定が正しいか否か見ていただくことと相成る。 私の問い合わせには、九大名誉教授の三枝豊平先生が対応して下さった。「写真だけで良く到達するものかと感心しますが,恐らく外観からするとあなたの同定が当っているように思えます」との御話で、先ずは胸を撫で下ろした。今日、此処に示した写真は一番最後を除いて雌(同一個体)で、「日本のイエバエ科」にある写真と較べて少し脚の黒い範囲が広いのが気になっていた。しかし、「本種の♀は♂に比べて脚の淡色部が一般に狭く,かつ個体変異がかなりあるようです。♂なら「日本のイエバエ科」の写真のようになり,もっと淡色部が広くて,その範囲はあまり個体変異が著しくないようです」とのこと。これで疑問が解消された。 また、先生はアシマダラハナレメイエバエ雄雌の標本写真を提示して下さった。先生の標本は交尾器で確認されている筈である。その標本写真と剛毛の配列などを比較した結果、完全に一致することを確認、この写真のハエをアシマダラハナレメイエバエとして問題ないであろう。 今回もまたすっかり三枝先生の御世話になってしまった。先生には、此処に記して御礼申し上げたい。上と同一個体.中脚基部の上にある3本の剛毛が逆2等辺三角形に配列しているのがハナレメイエバエの重要な特徴後脚脛節先端1/3に長い後背剛毛が見える(写真クリックで拡大表示)(2009/08/02) ところで、先生の御話に「写真だけで良く到達するものかと感心しますが」とあるが、これはお褒めの言葉ではない。「標本を顕微鏡で精査せずに、これらの写真だけで分かる筈がない、何処かで誤魔化したのであろう」と言うお叱りと理解すべきであろう。 実際、少し誤魔化した。イエバエ科か否かと言うところで、写真では位置的に良く見えない剛毛の有無が問題となるし、また、イエバエ科と酷似するハナバエ科との区別に使われるCuA+CuP(A1)脈が写真では殆ど見えないのである。此処は、実のところ、「感」でイエバエ科とした。 「日本のイエバエ科」に拠る検索でも誤魔化しをした。検索表のkey3で「後脚脛節の後背部先端1/3に剛毛がある」か否かが問題になるのだが、写真のハエにはこれがある。ところが、「有り」とするとイエバエ亜科やトゲアシイエバエ亜科へ行ってしまい、その先で行き詰まってしまう。一方、「無し」とすると、その後が上手く行き、その結果としてアシマダラハナレメイエバエに到達できた。 脚の剛毛は、その生えている位置により、前、前腹、腹、後腹、後、後背、背、前背の8通りの区別をする。写真ではこれらの見分けが難しく、時々間違える。しかし、「後脚脛節の先端1/3にある剛毛」はどう見ても後背位置にある様に見える。この点を先生に御伺いしたところ、これはやはり後背とのこと。まァ、これは誤魔化しではなく、検索表がキチンとしていないのが原因であった(これだから「日本のイエバエ科」は困るのである)。これも同一個体.額には交叉剛毛がある(写真クリックで拡大表示)(2009/08/02) このハナレメイエバエ亜科のハエ、翅の畳み方や翅脈相は衛生害虫として著名なイエバエと少し違うが、今まで拙Weblogで紹介してきたハエの中では、最もハエ的な外観を持つハエである。しかし、イエバエ科に属し、最もハエ的なハエでも、これは不潔なハエではない。何と、成虫も幼虫も捕食性の清潔な?ハエなのである。特に、最近日本でも発見された欧州原産のメスグロハナレメイエバエ(Coenosia attenuata)等は、飛ぶ虫を捕らえる天敵としての利用が考えられているらしい。 以前紹介したツヤホソバエの仲間(例えばインドツヤホソバエ)は、外見は綺麗だが、実際は糞食の汚いハエで衛生害虫とされている。「人は見かけによらぬもの」と言うが、ハエも見かけでは、容易にその清潔不潔を判断することは出来ない。今日撮った雄の個体.後腿節の暗色部分が雌より少ない捕食性のハエは一般に剛毛が発達する(写真クリックで拡大表示)(2009/08/18) 今回は、最初の方で書いた学名に命名者と命名年を入れて置いた。これでお分かりの様に、このアシマダラハナレメイエバエ(Coenosia variegata)は2003年と言うごく最近に篠永氏より新種として記載された種である(「日本のイエバエ科」がその新種の記載文献)。今日、此処に示した写真は、日付に示した通り、8月2日(雌)と今日18日(雄)に撮影しているが、この他にも同種の写真を7月の11(雄)日と17日(雄)に撮っている。何れも、同一個体とは思われない。何を言いたいのかと言うと、我が家の様な東京都内の住宅地でも極く当たり前の普通種なのにも拘わらず、2003年まで記載されていなかった(世界に知られていなかった)のである。 先日は、キバガ上科の未記載種を紹介したし、また、私の別のWeblogでは、既に未記載種を3種も紹介している。大都会の住宅地にも、まだまだ未記載の種が棲息していると言うことがお分かり頂けるであろうか。
2009.08.18
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以前から気に掛かっていたことがある。このWeblogを始めて間もない頃に掲載した「アシナガキンバエ」のことである。我が家の庭や近くの林でもよく見かける極く普通のハエ(本当はアブの仲間だが、此処ではハエとしておく)である。雌雄でかなり形が違うし、何分にも体長3mm程度の小さな虫なので肉眼では良く分からないのだが、何回も見ていると、段々複数種存在するのではないかと言う気がしてきた。Web上にある写真を見ても、是亦、何となく、違う種類が混じっている感がある。 其処で、その後買った北隆館の新訂原色昆虫大圖鑑第3巻に書かれているアシナガキンバエの解説を読んでみた。すると、「体長5~6mm。(中略)M1+2脈(翅脈については2番目の写真を参照)は分岐せず、(中略)中脛節の先端には5棘毛を、また、後脚第1付節には背棘毛を生ずる(後略)」と書かれている。随分違うではないか!! これまでWeb上で「アシナガキンバエ」とされてきたハエは下の写真とソックリだが、体長は1/2位だし、M1+2は前縁に大きく曲がるM1脈とM2脈に分離している様に見えるし、更に、中脛節端に5棘毛ある様には見えないし、また、後脚第1付節には棘毛らしきものは見当たらない。 そう思っていたところ、先日、幸いにもかなり高精度の「アシナガキンバエ」の写真が撮れた。そこで、思い切って双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂」に、本当にこれがアシナガキンバエ(Dolichopus nitidus Fallen, 1823)か否か御伺いを立ててみた。 その結果は、驚くべきものであった。”ニセ”アシナガキンバエ.体長は3.0mm弱、翅長は約3.0mm(写真クリックで拡大表示)(2009/07/04) 私の問い合わせには、九州大学名誉教授の三枝豊平先生が対応してくださった。先生はオドリバエ研究の第一人者で、同じオドリバエ上科に属すアシナガバエ科についても新種の記載などをされている。 先生の御話を纏めると、写真のハエは明らかにアシナガバエ亜科のアシナガキンバエではなく、これに類似した先生所蔵の標本からの御判断では、ホソアシナガバエ亜科(Sciapodinae:九大目録ではヒゲナガアシナガバエ亜科、ホソアシナガバエ亜科は北隆館の新訂大圖鑑にある名称で執筆者は三枝先生)のChrysosoma属の1種である可能性が高いとのこと[その後、研究が進み同亜科のウデゲヒメホソアシナガバエ:Amblyspilopus sp.1であることが判明した。追記参照のこと]。種が間違っているばかりでなく、亜科も違う「ハエ」だったのである。 因みに、よく知られているマダラホソアシナガバエ(マダラアシナガバエ:Condylostylus nebulosus、マダラホソアシナガバエの名称は三枝先生に由る改称)も、このホソアシナガバエ亜科に属す。上の写真に翅脈の名称を付けておいた.M2脈がカッコに入っているのはこれは正しいM2脈ではなく二次脈との先生の御話に拠る.これが正しいM2脈ならば曲がる方はM1+2脈ではなくM1脈としなければならない(写真クリックで拡大表示)(2009/07/04) 先生に拠れば、ホソアシナガバエ亜科に属すの多く種では、写真の”ニセ”アシナガキンバエの様に、M1+2脈が中室と翅端との中間付近で大きく前縁側に屈曲し、また、その屈曲点から真っ直ぐに翅端に伸びるM2脈(先生の御考えでは、これは本当のM2脈ではなく、屈曲部から生じた二次的な翅脈とのこと。これがM2脈なら曲がる方はM1としなければならない)が出ているそうである。これは、全く分類学的位置の異なるヤドリバエやニクバエの翅脈に近い形である(アシナガバエは双翅目短角亜目直縫群オドリバエ上科アシナガバエ科、ヤドリバエは双翅目短角亜目環縫群ヒツジバエ上科ヤドリバエ科なので亜目の次のレベルで異なっている。ヤドリバエの翅脈は此方をどうぞ)。クチナシの花上で何かを食べている”ニセ”アシナガキンバエアシナガバエ科の「ハエ」は基本的に捕食性である(写真クリックで拡大表示)(2009/07/04) 本物のアシナガキンバエの翅脈はどうなっているかと言うと、M1+2脈は写真のハエのM1+2脈が前縁に曲がっている位置で、ほぼ直角に前縁に向かって(左)折れ、その直後にまたほぼ直角に翅端の方(右)へ折れ、R4+5脈に平行して翅端に至る。その曲り方は「ジグザク」的であり、大きくない。また、”ニセ”アシナガキンバエの様に「M2脈」を生ずることはない(北隆館の新訂圖鑑にあるアシナガキンバエの写真は、旧版の写真をスキャンしたものと言われており(三枝先生の御話、解説も昔の儘)、元々写真が綺麗とは言い難い旧版よりも更に酷い写真になっているが、少なくとも大きく曲がったヤドリバエ的な翅脈は認められない)。 なお、アシナガキンバエの属すアシナガバエ亜科には、写真の”ニセ”アシナガキンバエの様にヤドリバエ的な翅脈相を持つ種は居ないとの御話であった。横やや上側から撮った”ニセ”アシナガキンバエ(写真クリックで拡大表示)(2009/07/04) 更に奇怪な事は、アシナガバエ科の研究もされ、十万のオーダーで標本を所蔵されていると思われる先生の御手元に、アシナガキンバエ(Dolichopus nitidus)の標本が一点も無いのだそうである。・・・と言うことは、本物のアシナガキンバエは相当な珍種? しかも、日本で始めてアシナガキンバエをDolichopus nitidusとした故素木得一教授の書かれた雄交尾器の側面図と、「Faune de France 35 Dolichopodidae[仏蘭西動物誌三十五:脚長蠅科](Parent 1938)」に載せられている図とでは、先生にはやや異なる様に見えるとのこと。どうも、アシナガキンバエが本当にDolichopus nitidusに相当するのかすらも、少し怪しい様である。 アシナガバエ科の昆虫は九州大学昆虫目録では41種、北隆館の新訂原色昆虫大圖鑑の解説(三枝先生執筆)には12属100種足らずしか記録されていないと書かれている。しかし、「日本産水生昆虫」のアシナガバエ科を執筆した桝永氏に拠れば「500種を越える種類が生息すると推測される」とのこと。要するに、アシナガバエ科は研究が圧倒的に不足している分類群なのである。正面から見た”ニセ”アシナガキンバエ(写真クリックで拡大表示)(2009/07/04) Web上にある「アシナガキンバエ」の画像を見てみた。すると、調べた範囲では、そのM1+2脈は全て写真の”ニセ”アシナガキンバエと同じ曲り方をしていた(翅脈の見えない様な写真は、ソモソモ問題外である)。 「"アシナガキンバエ"」でGoogle検索すると8,000以上もヒットする。本物のアシナガキンバエが珍品らしいことを加味すると、私の分も含めてその殆ど全部が、種ばかりでなく亜科のレベルで異なる「ニセアシナガキンバエ」についての記事であろう。亜科のレベルの間違いと言うのは、例えば蝶ならば、ナミアゲハとギフチョウを間違えるのに相当する。Web上の情報には誤りが屡々含まれているのは常識だが、これ程大規模且つ大きな誤りも一寸少ないのではないだろうか。 なお、Web上の「ニセアシナガキンバエ」は、此処に示した写真と同じ1種のみとは限らない。数種が「アシナガキンバエ」として掲載されている可能性がある。「ニセアシナガキンバエ」の正体は、今後アシナガバエ科の研究が進まない限り、キチンと解明されることはないのかも知れない。 謝辞:本稿は、一重に九州大学名誉教授の三枝豊平先生の御指導の賜である。先生には、私のクドイ、時に稚拙な質問にも一つひとつ丁寧にお答え下さり、どう御礼を申し上げたら良いか分からない程御世話になった。今、此処でキチンと正座して西の方(先生の御宅の方向)を向き、叩頭して御礼を申し上げる。「本当に有難う御座いました」。 追記:2010年秋に、田悟敏弘氏により、関東地方のアシナガバエに関する研究が、双翅目談話会の会誌「はなあぶ」に発表され、本種は、ホソアシナガバエ亜科(Sciapodinae)に属すウデゲヒメホソアシナガバエ(新称)Amblypsilopus sp.1であることが示された。それに伴い、表題、内容に多少の変更を加えた。詳しくは、こちらをどうぞ。
2009.08.16
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どうも最近はすっかりサボり癖が付いてしまって、2月の掲載はたったの2回、3月は今日10日になって漸く初回である。オウバイ(黄梅)やボケの花はあったのだが(ボケはまだ咲いている)、オウバイの写真は何時撮っても合格点に達しないし、ボケも何となく写真の出来が気に食わない。 ・・・と言う訳で、今日までサボってしまった。しかし、先日、この時期にこの辺りでは珍しいフタホシヒラタアブが現れた。やはり、虫が現れると、自然と撮る気になる。フタホシヒラタアブの雄は既に紹介済みだが、今回は雌で、この連中は雌雄でかなり違うから、まァ、重複掲載には当たらないだろう。フタホシヒラタアブ.肉眼的には体の光沢が著しいが写真に撮ると、余り明確でなくなる(2009/03/07) 体長は8mm、フタホシヒラタアブとしてはかなり小さい方である。普通はもう少し大きい。恐らく、孵化したのが遅く、晩秋になってアブラムシが少なくなり、充分に食べられなかったのだろう。 写真では毛が写っていて分かり難いが、肉眼的には非常に艶のあるアブ(本当はハエの仲間だがアブとしておく)で、キラキラと光って見える。後腿節は「ほぼ黄色」とされているが黒い部分がある小楯板に生えている毛は淡黄褐色(2009/03/07) ハナアブ類の種の判別は中々難しい。写真に撮ると、このフタホシヒラタアブに非常に似てしまう種類にナミホシヒラタアブがある。肉眼的にはフタホシよりも一回り以上大きく、光沢がフタホシよりも弱いので直ぐに分かるが、写真となると1~2割程度の大きさ違いは分からなくなるし、光沢もハッキリしなくなるので、区別が難しくなるのである(このWeblogでは、この程度の大きさの虫であれば、必ず等倍撮影のコマを入れ、同じく等倍で撮った物差しと比較して体長を計算している)。 両種共に、顔面に短い黒色中条があり、複眼は無毛、後腿節の色に多少の差があるとされるが、かなりの変異がある様で比較が難しい。また、フタホシは腹部の黄色斑が左右で分離しているのに対し、ナミホシでは第3~4節の斑は左右連続することが多い。しかし、これにも個体差があり、これだけでは判別できない。 最近は、小楯板(胸の下にある半月形の部分)に生えている毛が黒ければナミホシ、体の他の部分と同じ様な淡黄褐色をしていればフタホシと思っている。しかし、この違いがどれだけ一般性を持っているのかは良く分からない。顔面下部に黒色中条が見える(2009/03/07) 暫く接写をしなかったら、すっかり腕が落ちてしまった。8mmの虫と言うのは非常に撮り易い相手なのだが、殆どがピンぼけ。御蔭で使える写真は3枚のみであった。 もうかなり春の様相を帯びてきた。これからはまた接写をする機会が多くなる筈である。撮るにつれ、腕の方も自然と元に戻るであろう。 尚、今まで使っていたCRTが遂に故障してしまった。今回の写真は予備の液晶モニターを使って調整したので、今までとは少し色調が違って見えるかも知れない。我が家の液晶はCRTよりも色やコントラストに対する感度が鈍い。
2009.03.10
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毎日寒い日が続いている。日中は陽が射すが、少し暖かくなれば庭を彷徨する筈のヒラタアブ類も全く姿を見せない。この冬は特別に寒いのだろうか。 前回書いた様に、今年はめぼしいネタが出現しない限り、このWeblogは特に更新しないつもりで居た。しかし、寒さで木々の開花も遅れ、気が付くともう2週間近くも投稿を空けてしまっている。これは何か書かないとマズイ。 新しい写真は無いが、昨年に撮ってまだ掲載していない虫の写真が何種分か残っている。もう新年の写真に拘ることはあるまい。そこで、今日はその中から小さなハエの一種を紹介することにした。チビクチナガハリバエの1種Siphona paludosa、和名はまだ付いていない。ヤドリバエ科セスジハリバエ亜科に属す寄生バエである。 日本産ヤドリバエ類は500種以上(実際はその2倍近くは居るらしい)もあり、それを統一的に記述した文献が無い為、その同定は困難を極める。この図鑑にも載っていない小さなヤドリバエの名前が分かったのにはそれなりの理由がある。実は、双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂」に御伺いを立てたところ、九州大学名誉教授の三枝豊平先生が同定して下さったのである。チビクチナガハリバエの1種(Siphona paludosa)体長約4mm、普通の等倍接写(2008/09/27) まだ「北米産シオンの1種(白花)」が咲いていた頃の話である。毎年、この花には体長4mm程度の小さなハエがやって来る。その数は、ツマグロキンバエに次ぐ位で、この花を見れば必ず1~2頭は居る、と言う程多い。 しかし、種類はまるで分からない。翅脈から判断して、イエバエ科、クロバエ科、ニクバエ科、或いは、ヤドリバエの仲間の何れかであることは確かだが、虫が小さ過ぎて等倍接写程度の写真ではそれ以上の検索が出来ないのである。これだけ沢山来るにも拘わらず、科すら分からないと言うのは何とも腹立たしい。そこで、例の超接写システムを使って、徹底的に写真を撮り、少なくとも科までは落としてやろうと思った。胸部側面、超接写システムで撮影、以下同じps:後小楯板、hy:下側剛毛(下側板剛毛)st:腹胸側剛毛(下前側板剛毛)(2008/09/28) 検索表に拠ると、下側剛毛と翅側剛毛があり、腹胸側剛毛が3本ある場合にその内の1本が後方に位置すれば、イエバエ科ではない。上の写真で、hyの印が示しているのが下側剛毛、その右の翅の付け根直下に微かに見えるのが翅側剛毛である。また、stは腹胸側剛毛を示し、これは3本あってその内の1本が後方に位置しているのが分かる。これらにより、イエバエ科は候補から除かれる。 また、上の写真では、小楯板の下に後小盾板(ps)が見え、一番最初の写真で明らかな様に、腹部背面には強い剛毛が発達している。これはヤドリバエ類(ヒラタヤドリバエ科、アシナガヤドリバエ科、ヤドリバエ科)の特徴である。触角は複眼中央より上方にあり、特殊な口器を持っている口器の先端部分を唇弁、その基部寄りの部分をprementumと呼ぶ(2008/09/28) 更に、腹部は幅広くはなく、触角は明らかに複眼の中央より上方に生じている。また、些か分かり難いが、肩後剛毛は2本、横線後方の翅内剛毛は3本ある様に見える。これで一応、ヤドリバエ科と言うことになる。余り自信は無いが・・・。 そこで、例によって「一寸のハエにも五分の大和魂」に詳細な写真(此処に掲載した写真の約2倍幅)を添付して御伺いを立ててみた。早速、数名の方から御回答を頂き、セスジハリバエ亜科に属すSiphonini(チビクチナガハリバエ族)のSiphona属(チビクチナガハリバエ属)かその近縁属が有力で、口器の構造が決め手になる様であった。其処で新たに口器が写っている写真を2枚追加した。中胸盾板(中胸背板)の拡大.番号は背中剛毛の基部(ソケット)を示すtrsは横線の基部(2008/09/28) すると、九州大学名誉教授の三枝豊平先生から御回答を賜った。其れに拠ると、「Siphoniniチビクチナガハリバエ族の属,亜属の検索では,このヤドリバエはSiphona (Siphona)の1種で」あることは間違いないが、「中胸背のdc剛毛の横線前と後の数が写真では明確でないこと(3+3か3+4か),口吻の長い部分の折れ曲がっているよりも手前の部分(prementum)の長さと頭部の長さの比較ができないこと,小腮鬚の色彩が判然としないこと(黄色か淡褐色か)なので,種までの所属は明確にはできません」とのお話であった。 一寸このままでは理解が難しいと思うので若干説明を加えると、「Siphona (Siphona)」はSiphona属のSiphona亜属の意、「横線」は双翅目の中胸盾板(中胸背板)を横切る溝で、写真のハエでは余り明確ではないが、上の写真のtrsを反対側まで延長した線である。また、dc剛毛は背中剛毛(dorsocentral seta)、小腮鬚は口器の基部近くから左右に出ている細長い突起状の構造のことである。 早速、画像倉庫の中を調べて見ると、背中剛毛の数や小腮鬚の色が分かる写真があった。背中剛毛は3+3、小腮鬚の色は黄色に見える。そこで、それらの写真を更に追加して、また、御伺いを立ててみた。翅の基部.CuA+CuP脈が翅縁に達しているのが分かる右下の丸く黒い構造は肩板(2008/09/28) 正月三箇日が過ぎてから、三枝先生より詳細な御回答を賜った。先生は、私が添付した写真に相当する標本を探す労をとられ、その標本と文献とを比較してSiphona (Siphona) paludosa Mesnil, 1960であると同定され、更に同定確認の参考として、その標本から交尾器と第5腹節腹板を取り出して(KOHで処理する)液浸標本とし、その写真を掲載して下さった。 先生のお話を転記すると、「この種は前胸後側板下方の剛毛が弱く,上向きで,翅のCuA+CuP脈[中略]が翅縁に達し,中胸の下前側板の3本の剛毛のうち下のものが前上方のものとほぼ同じ大きさ,であることからSiphona属に入り,且つ口吻の唇弁(labella)がprementumと同様に細長くなっていることからSiphona亜属に入ります。さらに,この亜属のなかで,本種は触角の柄節と梗節が黄褐色,口吻のprementumが頭部の長さより長く,dc剛毛が3+3(横線前の最前端の剛毛は弱い),腹部の第1+2背板の中央部後縁に近く1対の剛毛を欠く[中略],肩板(tegula)は黒色等の形質を持っています」となる。腹部の拡大.腹部の第1+2背板後縁には、第3背板以降に見られる様な1対の強力な剛毛が無い(2008/09/28) 2つ上の写真にCuA+CuP脈を示した。翅縁に達しているのが分かる。また、下前側板剛毛とは前述の腹胸側剛毛と同義で、2番目の写真のstで示した3本の剛毛のことである。下の1本が前上方の1本とほぼ同じ長さに見える。唇弁は普通のハエならばブラッシの様な構造をしている部分だが、このハエの場合は口器先端の細長い部分で、prementumはその基部側に接するやや黒っぽい細長い部分のことである。触角の柄節と梗節とは、3節ある触角のそれぞれ第1節と第2節の名称で、3番目の写真では柄節の方がかなり色濃く見えるが、ここに示していない別の写真を見ると、ほぼ同じ様な黄褐色をしている。dc剛毛は前述の通り背中剛毛のことであり、4番目の写真にその基部(ソケットと呼ぶ)を数字を振って示してある。横線前に3本、横線後に3本あるのが確認できる。 腹部の第1+2背板の中央部後縁に、第3背板以降にある様な1対の大きな剛毛が無いことは、上の写真から明らかである。また、肩板とは翅の付け根にある黒く丸い構造のことで(始めはこの黒いのが何か分からなかったが、肩板であると先生に教えて頂いた)確かに黒い色をしている(2つ上の写真)。頭部背面の拡大.これらの剛毛にもそれぞれ名前が付いている(2008/09/28) ・・・と言うことで、このハエは「Siphona (Siphona) paludosa Mesnil, 1960」であることが確認出来た。こんな小さなヤドリバエの同定が出来たと言うのは正に奇跡的で、これもみな三枝先生の御尽力に拠るものである。先生には、この場を借りて、厚く御礼申し上げる。 しかし、先生はヤドリバエの専門家ではない。ヤドリバエの専門家は、やはり九州大学名誉教授の嶌洪先生と北大の館卓司博士の御2人だけの様である。三枝先生は、最後に「今回はたまたま相当する標本を見つけて、しかも参考資料があったので同定できましたが、これは全くの偶然です。決して私にヤドリバエの同定ができると言うことでは全くありませんので、今後ヤドリバエの質問がありましても、先ず応じることはできません。念のために。」と付け加えておられる。ヤドリバエと言うのは、プロの研究者でも容易に同定出来ない、全く恐るべき連中なのである。
2009.01.19
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今日は、「出し惜しみ」をしていた虫の写真を出すことにする。シマバエ科のHomoneura属の1種と思われるハエである。11月の中頃に我が家の庭に2日余り逗留していた。 肉眼的には殆ど真っ赤に見えたが、写真にしてみると少し茶色を帯びている。尤も、赤~褐色~緑間の色調変化は、モニターの色調整で微妙に違って見えるので、読者諸氏のモニターでどの様な色に映っているかは知り得ない(尚、ここに掲載している写真は最大限圧縮してあるので、原画よりも彩度がやや低下し、緑が少し赤味を帯びる。また、このWeblogの設定では写真の周囲を薄い緑色にしているので、補色の関係で更に赤っぽく見える)。シマバエ科のHomoneura属の1種?(2008/11/16) 一見したところ、以前掲載した「ショウジョウバエ属の1種」と似ている。しかし、当然のことながら、種々の点でショウジョウバエとは異なる。先ず、大きさがまるで違う。このシマバエ科のハエは体長約4.5mm、翅端まで6mmだが、ショウジョウバエの方はずっと小さく体長約2.5mm、約1/2である。ハエと言うのは面白い虫で、体長が10倍近く違っても体の形は殆ど変わらないことが屡々ある。この程度に剛毛がハッキリ見えると検索が出来る(2008/11/15) 決定的に違うのが、頭部や胸部に生えている剛毛の配置である。これが非常に重要で、双翅目の科の検索は、主にこの剛毛配列と翅脈の走り方を参照して行われる。 このハエの様に翅を重ねて留まる種類の場合、翅の先端近くの翅脈は見えても、検索で重要となる基部に近い部分の翅脈は殆ど見えない。それ故、私の様な写真しか撮らない者は、剛毛の配置を中心に科の検索を行うことになる。頭部の諸剛毛の有無を始め、前腿節下面の剛毛列、脛節端の剛毛胸部側面の剛毛などによりシマバエ科と判断される(2008/11/16) しかし、毛の有無だけでは不安が残る。そこで、このハエの場合も双翅目のBBS「一寸のハエにも五分の大和魂」に御伺いを立ててみた。やはり、翅脈が問題となった。しかし、アノニモミイア氏が助け船を出して下さり、学術論文ではないので、シマバエ科のハエとすることと相成った。 Homoneura属への検索は、(株)エコリスが載せている「日本のシマバエ科 属への検索試案」に従った。このページは、前書きに拠れば、「環境省目録発行後,日本産シマバエ科の属数は倍以上に増加した」ので作成されたそうで、Homoneura属には33種が属すと記されている。しかし、「一寸のハエにも五分の大和魂」に参加されている市毛氏のお話では、Homoneura属は既に40種以上記録されているそうで、シマバエ科の検索は現時点ではかなり困難とのこと。まァ、これも学術論文ではないとの理由で、「Homoneura属の1種?」としたのである。身繕い中.動き回らないので写真が撮り易い(2008/11/16) どうもハエの話となると、最近はこう言う無味乾燥な検索の話が主になってしまう。何とも困ったものであるが、ハエと言う虫は一寸見ただけでは全く所属の分からない虫なのである。シマバエ科にはこの写真の様なハエもいれば、まるでミバエ(例えばツマホシケブカミバエ)の様な翅に複雑な斑紋を持つHomoneura属の近縁種もいる。更にシマバエ科の未記載種Steganopsis sp.に至っては、遠目には甲虫かカスミカメムシと間違えるような外見をしている。 同属の近縁種とはまるで外観が異なるが、別科或いは別属の遠縁の種にはよく似ている、と言うことがハエの世界では屡々起こるのである。全く厄介な連中だが、容易に分からないが故に、また面白いとも言える。手を擦っているハエ(2008/11/16) 我が家は、東京都23区内のある私鉄駅前商店街から僅か150mの場所にある。庭の広さは猫の額の如し。その狭い庭にやって来る虫は、当然多くはない。大きな目立つ種類は最早紹介し尽くしてしまった感がある。 しかし、ハエ類だけはまだ掲載していない種類が沢山ある。種類が容易に分からないから敬遠しているのである。来年はそう言うややこしい連中を相手に奮闘することになるのだろうか。
2008.12.11
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今日は一寸色彩鮮やかな虫を紹介しよう。オオヒメヒラタアブ(Allograpta iavana)、九大その他の目録でも日本産は1属1種で、この辺りにも多いフタホシヒラタアブ属(Eupeodes)やヒラタアブ属(Syrphus)とは一寸違った雰囲気を持つヒラタアブである。和名は他にもあり、九大の目録ではオオマメヒラタアブとなっている。何方の名前で検索しても数十しかヒットしないが、こんな住宅地の狭い庭に来る位だから、決して珍しい種類ではないだろう。オオヒメヒラタアブ(雄).オオマメヒラタアブの別名もある体長は約1cm.小楯板と胸側の黄色が目立つお尻先端近くの模様はこの種の特徴らしい(2008/10/29) このオオヒメヒラタアブ、強い光沢があり、また、黄色と黒の対照が際立っていて、大袈裟に言えば、ハッとする程の美しさがあった。 このWeblolgに載せている写真は、何れも最大限圧縮してある。その結果、やや彩度が低下し、また、緑色が少し茶色っぽくなってしまう。今日の写真の原画は、一寸彩度が高すぎるのではないかと思うほど色鮮やかなのだが、此処に載せた圧縮した写真ではそれ程でもない。写真の調整をやり直そうかとも思ったが、メンドーなので止めた。後脚だけが妙に黒っぽい(2008/10/29) フタホシヒラタアブ属(例えばフタホシヒラタアブ)やヒラタアブ属(例えばオオフタホシヒラタアブ)のアブ(本当はハエなのだがアブとしておく)も似たような黄色と黒の図柄である。しかし、小楯板(胸の腹側中央にある半月形の部分)と胸側の黄色が目立つ種は、これらの属には居ない。ヒラタアブ族(Syrphini)の中でこの2個所の黄色が目立つのは、キタヒメヒラタアブなどのヒメヒラタアブ属(Sphaerophoria)とキベリヒラタアブ属(Xanthogramma)、それにこのオオヒメヒラタアブである。但し、オオヒメヒラタアブは、南の方へ行くと、腹部が真っ黒になったり、小楯板が黒ずむ場合もあるとのこと。顔面に黒色中条はない(2008/10/29) 腹部が真っ黒になった個体は別にして、普通のオオヒメヒラタアブでは、お尻の先端に近い第5腹節に、一寸人の顔の様にも見える独特の斑紋がある。最初は、こんな模様は個体変異でどうにでも変化するのだろうと思っていたが、調べてみるとこの模様は非常に一定しており、第4腹節後縁が黄色いのと並んで、この種の特徴と言えそうである。花に留まると直ぐに半逆立ち状態になる(2008/10/29) 我が家にやって来たのは、1ヶ月程前に掲載した「北米原産シオンの1種(紫花)」の花がお目当てだったらしい。しかし、このヒラタアブ、花に留まると直ぐに半逆立ちの状態になって花粉を舐め始めるので、写真を撮るのには苦労した。本当は、紫色の花丸1個を背景にした背面からの写真を撮りたかったのだが、遂に撮れなかった。一番上の背側からの写真は、このシオンの直ぐ横にあるコデマリの葉に留まったところを撮ったものである。オマケにもう1枚、斜めから(2008/10/29) 体長は約1cm、決して大きなヒラタアブではない。しかし、色彩が際立っていたせいか、妙に大きく見えた。 一流の女優を眼のあたりにすると、何か後光を放っている様に見えることがある。それと同じようなものかも知れない。
2008.11.27
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この秋になってから、ハラナガツチバチを4回掲載したが、今日は同じハラナガが付いても、ハチではないハナアブの1種、ナミルリイロハラナガハナアブ(Xylota amamiensis)を紹介する。少し古い写真だが、種類が分からず、暫く倉庫に入れたままになっていたのである。 このアブ、余り見た記憶がない。この辺りでは比較的稀ではないかと思われるが、遠目にはクロヒラタアブやハイジマハナアブの仲間と区別が付き難いので、気が付かなかっただけの可能性もある。体長は9mm。ナミルリイロハラナガハナアブ(雄)後腿節が太く棘がある.肩が白い翅の後端からお尻が出ている(2008/09/23) このWeblogを以前から御覧になっておられる読者の想像される通り、私が自分でこのアブがナミルリイロハラナガハナアブであると判断したのではない。自分で調べることが出来たのは、ハラナガハナアブ族(Xylotini)に属すと言うところまでであった。九大の目録に拠ると、この族には4属26種が記録されており、似たような種類が多い。これ以上進むには、「一寸のハエにも五分の大和魂」の御世話になるしかない。 投稿すると直ぐに応答があり、以前にも御世話になったハナアブの研究者である市毛氏とpakenya氏の御助力により、ルリナミイロハラナガハナアブであることが判明した。斜めから見たナミルリイロハラナガハナアブ(雄)(2008/09/23) この仲間はまだかなり混乱している様で、少し古い九大の目録とそれよりも新しい市毛氏の「ハナアブの世界」では色々と相違がある。また和名では、九大の目録では○○ナガハナアブとなっているが、市毛氏の方では○○ハラナガハナアブとなっている。これは他にナガハナアブ族(Milesiini)があり、それと区別するためにハラナガハナアブ族(Xylothini)の和名には基本的に「ハラナガハナアブ」を付けることにした為であろう。顔は大部分が白い.真横や正面からは撮る機会が無かった(2008/09/23) 種類は少し違うが「ルリイロナガハナアブ」(X.abiens)をInternetで検索してみると、半分近くが全く別のグループに属すハナアブの写真を載せている。ハラナガハナアブの仲間は、何れも後腿節が非常に太く、また、多くは肩が白い。この2つが分かっていれば、少なくとも大間違いを侵す恐れはずっと少なくなるであろう。
2008.11.21
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今日は一寸サボって、写真が少ししか撮れなかった虫を紹介しよう。写真が少ないと、それにほぼ比例して文章の量も少なくて済むので、書く方は楽なのである。 インドツヤホソバエ(Sepsis indica)、ツヤホソバエの中でも明るい茶褐色と黒の色彩の豊かな種類である。体長は丁度5mm、ツヤホソバエとしては大きめと言える。 数日前の曇天の日に、クチナシのテッペン、丁度目の高さ位の葉の上に赤っぽいツヤホソバエが留まった。すかさずカメラを引っ掴んで真横から撮ったのだが、前から撮ろうとして一寸動いたら、逃げられてしまった。その後も、クチナシの葉のテッペン等、写真の撮れない高いところに留まったりしていたが、今までのツヤホソバエが下草の上に留まるのとは、一寸行動様式が違う様に思われた。結局、撮れたのは最初の真横からの写真だけ。 暫くしてから、下草の上にまたツヤホソバエを見付けた。しかし、それは残念ながらこの赤っぽいツヤホソバエではなく、これまでに掲載したのと同じと思われる真っ黒な種類であった。インドツヤホソバエ.雄の前腿節には大きな棘がある露出不足と絞り過ぎで酷い写真なので小さくしてある(2008/11/15) 勿論、このツヤホソバエを見て、直ぐにインドツヤホソバエと分かった訳ではない。ツヤホソバエに関する情報は少ない。保育社の図鑑に2種あるが、北隆館の大圖鑑には何故か1種も載っていない(検索表に科は出ている)。一番詳しいのは「日本の有害節足動物」で5種載っているが、この茶褐色のツヤホソバエに該当すると思われる種は無かった。・・・となると「一寸のハエにも五分の大和魂」に御伺いを立てる以外にない。 早速、以前も御世話になった市毛氏より、恐らくインドツヤホソバエであろう、との御回答をいただいた。実は「一寸のハエにも五分の大和魂」の掲示板に出ているインドツヤホソバエは見ていたのだが、そこに出ていた写真とは一寸違うので、文章をキチンと読まなかったのがいけなかった。かなりの個体変異があり、その範囲内に入る様である。反省、反省・・・。上と殆ど同じ写真だが1枚では寂しいのでもう1枚出しておく糞食の衛生昆虫でも、見かけは綺麗(2008/11/15) 名前に「インド」と付くので、最近多い外国からの移入種かと思った。しかし、在来種の様である。「インド」は、単に学名の種名indicaから来ているのであろう。外国のサイトを調べてみると、東洋には広く分布し、ロシアのウスリー地方からも記録があるとのこと。 市毛氏はその後、日本産ツヤホソバエ科の目録をチェックして下さった。日本産ツヤホソバエ科は、これまで11属35種とされていたのが1種増え、現在は11属36種になっているそうである。 このインドツヤホソバエ、我が家で見付けた4種目のツヤホソバエである。4種とは、日本産全種の1/9に相当する。ツヤホソバエ類は見かけは綺麗だが、基本的に糞食のバッチイ昆虫である。以前にも書いたが、こう言う衛生昆虫が我が家に多いと言うのは、どう考えてもあまり名誉なこととは言い難い。ノラ猫の「ババ」からでも発生しているのだろうか? 今年は紅葉が早い。昨年、掲載した「シジミバナ(紅葉と花芽)」は、12月4日撮影した写真を使っている。今、その約2週間まえの11月19日なのにも拘わらず、ほぼ同じ程度の紅葉(今年は黄葉)である。また、一昨年掲載した「柿の葉(善寺丸:落葉)」の写真は12月1日に撮影しているが、現在既にかなりの葉が落ちている。今年は、例年よりも寒いのだろうか。寒さに弱い私としては気になるところである。
2008.11.19
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今日は「北米原産シオンの1種(紫花)」とセイタカアワダチソウにやって来た新顔のハナアブを紹介しよう。キゴシハナアブ、この辺り(東京都世田谷区西部)ではかなり少ないハナアブで、我が家で見るのは初めてである。 しかも、1回ではなく、数回やって来た。写真の最初の2枚は雌で、それ以降は雄だから、少なくとも2頭は来たことになる。キゴシハナアブの雌.メスは左右の複眼が離れている背中の縦筋が鮮やか(2008/10/29) このハナアブ、写真の様に中々際立った模様をしている。しかし、この辺りにも沢山いるアシブトハナアブやナミハナアブ等よりかなり小さく、肉眼ではその折角の模様が余り目立たない。体長は僅か10mm程度。平均すれば、体長に関してはホソヒラタアブの方が大きいと言える。上と同じ個体.複眼に胡麻塩模様がある(2008/10/29) 背中(胸背)に強い艶があり、縦筋が鮮やかである。しかし、このハナアブの最大の特徴?は眼にある。これまでに複眼に縞模様のあるアブを何種(ツマグロキンバエ、アメリカミズアブ、オオハナアブ)か紹介したが、このアブの複眼には縞模様ではなく、胡麻塩的な不規則な模様がある。 実は、その複眼の模様をシッカリ撮りたかったのだが、中々敏感なヤツで、遂に等倍で撮ることが出来なかった(このハナアブの正面からの写真は、既に別のWeblogに載せてあるので、興味のある読者はこちらを参照されたい)。キゴシハナアブの雄.花はセイタカアワダチソウ(2008/10/31) この様な背中に顕著な縦筋があり、眼に不規則な胡麻塩模様をもつハナアブは日本に10種近く棲息する。しかし、関東に産する種類で橙色の小楯板を持つのは、このキゴシハナアブだけの様である。同じ個体を横から見た図.全身に毛が多い(2008/10/31) しかし、妙なことに気が付いた。雄(3~5番目の写真)の複眼には毛が生えているのがハッキリ見えるのに対し、雌(1,2番目の写真)では毛がよく見えない。ハナアブ類では、複眼の毛の有無は、屡々重要な種の指標となる。そこで、種類が違うのかと思ってもう一度調べてみたが、やはり両方ともキゴシハナアブ以外には考えられない。色々なサイトを参照してみると、どうも雄の方の毛は長くて明瞭なのに対し、雌の方は短くて見え難いらしい。複眼ばかりでなく、体全体の毛も雄の方が長い様に見える。キゴシハナアブの顔.雄では左右の複眼が頭頂で接している真っ正面からは遂に撮れなかった(2008/10/31) 東京では、数日前から急に気温が下がり、それに連れて我が家のキク科植物の花にやって来る虫達も激減した。このキゴシハナアブはその後一度も見ていない。紫花のシオンに群れていたハラナガツチバチも、今や全く姿を現さなくなってしまった。 兪々、冬の到来が迫ってきた様である。
2008.11.05
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前回掲載した「サトクダマキモドキの幼虫」の続編は次に回して、今日はツヤホソバエの1種を紹介することにした。ツヤホソバエはこれまでに2回登場しており、最初は翅に黒斑のない不明種、2回目は翅に黒斑のあるヒトテンツヤホソバエ(本当にヒトテンなのか確証はないが・・・)であった。 今回のは翅に黒斑が無く、最初に掲載したツヤホソバエによく似ているが、体長約4.5mmと少し大きい。ツヤホソバエの1種.腹部は艶がよい.胸部の周辺は白っぽい(2008/09/25) 真上から見ると、殆どまっ黒。腹部と頭部(複眼を除く)は名前の通り非常に艶がある。しかし、胸部は光沢が鈍く、またその周囲は白く粉を吹いている様に見える。真横から見たツヤホソバエの1種.腹部下面と胸部側面は白い腰の括れが少なく、細い部分が比較的短い中肢脛節末端付近に黒くて長い棘が見える(2008/09/25) 真横から見ると、腹部の下側は真っ白、胸部の側面や下側も白い部分が多い。前に紹介した不明種では、腹部の下側は同様に白いが、胸部側面には白い部分が少ない。 トンボ類の多くは、成虫になってから、加齢に伴い次第に粉を吹いてくる。ハエでも同じ様な加齢に伴う変化があるのだろうか。身繕いをするツヤホソバエの1種中肢脛節末端付近の棘が白く光って見える(2008/09/25) 白粉が当てにならないとしても、もっと基本的な違いが認められる。真横から見たとき、腹部の第1腹と第2が以前の種では細長く括れが強いのに対し、今日のツヤホソバエでは余り細くなく(短い)括れも小さい。これは、決定的な違いと言って良いだろう。 違いは他にもある。中肢脛節の棘である。以前の種では、少なくとも脛節の途中と先端の内側に短い棘が2本認められるだけである。それに対して、今日のツヤホソバエは、その他に外側に向いた大きな黒い棘が脛節の先端近くにある。以前の写真の解像力は現在よりやや劣るので正確な比較は出来ないが、この外側に向かう大きな黒い棘が以前は写らなかったとは思えない。また、今日のツヤホソバエは後翅腿節上面に棘があるが、以前の写真では不明瞭である。真っ正面から見たツヤホソバエの1種顔の下にあるのは口器.中肢脛節に数本の棘が見える(2008/09/25) と言う訳で、今日のツヤホソバエは以前紹介した「ツヤホソバエの1種」とは別種とするのが順当であろう。 ツヤホソバエは世界で約600種、日本では今のところ35種が記録されているとのこと。今日のツヤホソバエが以前の不明種と違うとすると、我が家に合計3種が出現したことになる。これは全体の約1/12である。一方、ハムシは日本産700種に対して我が家は7種だから1/100。ハムシが少ないのか、ツヤホソバエが多いのか・・・。身繕いの最中に口から何か透明な液体を出して、また呑み込んでしまった(2008/09/25) ツヤホソバエは、艶があり、腰が括れていて姿は美しいが、幼虫も成虫も糞食とされている「衛生害虫」である。一方、ハムシは「葉虫」で、主に葉っぱを食べるのだから農業害虫とされることはあっても、衛生害虫には成り得ない。 バッチイ虫の方の種類が多いと言うことは、それだけこの辺りに汚いものの種類が多いと言うことか? 些か面白くない話ではある。
2008.10.09
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今日は久しぶりにヒラタアブの仲間を紹介する。ホソヒメヒラタアブ、体長7mm以下の小さなヒラタアブである。 ホソヒメヒラタアブには、非常に良く似たキタヒメヒラタアブと言う近似種が居る。この両者の識別は外部形態だけでは困難で、普通はゲニタリアを見る必要があるとされる。しかし一方で、ホソヒメは8mm以上になることはなく、また、キタヒメは7mm以下にはならない、と言われている。写真の個体は体長6.0mm、ホソヒメヒラタアブとした所以である。ホソヒメヒラタアブ.体長6.0mmこの個体は腹部に黒い部分が非常に多い(2008/10/05) しかし、随分腹部に黒い部分が多い。最初肉眼で見たときは何か別の種かと思った。しかし、顔面が真っ白で細長く体長6mm以下のヒラタアブは、ホソヒメしか居ない筈である。図鑑類や市毛氏の「ハナアブの世界」も参照してみたが、やはりホソヒメ以外に該当する種類は見つからなかった。 ホソヒメヒラタアブはこの辺り(東京都世田谷区西部)で決して珍しいヒラタアブではない。これまで紹介しなかったのは、肉眼的に8mm以上か7mm以下かの区別が容易でない(一般に虫の体長は実際よりも大きく見える)ので、ついつい撮らずじまいになっていたからである。今回は、確実に「小さい」と思ったので撮影し、漸くの登場となった次第である。真横から見たホソヒメヒラタアブ.黄、黒、白の綺麗なアブである(2008/10/05) アブさんがやって来たのは、写真でお分かりの通り「北米原産シオンの1種」。もう筒状花(中心部の黄色い部分)が茶色になってきた花が多く、人間にはそろそろ終わりの様に感じられるが、虫の方はそれと関係なくやって来る。花粉などは少し古くなった方が分解が進んで、食べ易いのかも知れない。顔面は真っ白で頭頂部は黒く、その間に黄色の部分がある(2008/10/05) ホソヒメヒラタアブは最近、もう一つのWeblogでも紹介した。その時の個体は非常に敏感で容易に近づけなかったが、今回はまるでその逆であった。と言っても撮影が楽だった訳ではない。 このアブさん、小さいので花の中に頭を突っ込んでしまう。すると体が花に隠れて背側以外からは写真が撮れなくなる。留まっている花の茎を一寸手で突っついたりしても全然動ぜず、翅に触っても数cm動くだけで、まるで逃げる気配無し。この「北米原産シオンの1種」は虫達にとって余程魅力のある花らしいが、御蔭で写真を撮るのに随分時間がかかってしまった。花粉を舐めているところ(2008/10/05) 此処まで書いて一服しに外に出た。その途端にツーンと強い花の香り、どうやら御隣のキンモクセイが咲き始めたらしい。兪々今年も終わりである。 年を取ると一年の過ぎるのの何と速いことか!!
2008.10.06
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このWeblogで既に何回も登場した北米原産シオンの1種は、どうやらもう駄目らしい。そこで、また新しいのを買ってきた。チョウやハチもやって来るが、一番出席率が良いのはハエの類である。種類の分からないハエが多くて困るが、分かるのもいる。ツマグロキンバエである。一昨年の秋に紹介済みなのだが、先日紹介したアメリカミズアブの所で書いた様に、このハエの眼にも縞模様がある。この縞模様は一体何なのか、ツマグロキンバエの複眼を超接写してみることにした。ツマグロキンバエ.体長約6mm翅の先端部が黒いので「ツマグロ」等倍接写の部分拡大(2008/09/28) いきなり眼だけを出しても全体像が分からないので、先ず普通の接写写真を掲げておく。体長は6mm前後、大きさは手頃だが、体に厚みがあるので、多少撮り難い相手である。 翅の先端が黒くなっているのが分かる。「ツマグロ」の所以である。体に艶があるので「キンバエ」と付いているが、汚物に集るキンバエとは関係ない。しかし、汚いキンバエも、このツマグロキンバエも同じクロバエ科に属す。横から見ると眼の模様が良く見える等倍接写の部分拡大(2008/09/28) 以前、ツマグロキンバエ(Stomorhina obsoleta)には近縁種が何種か居るのではないかと書いたが、九大の目録を見るとこの属は日本では1属1種である。他にコシアキツマグロキンバエ(Idiella sternalis)と言う種があるが、別属だし「コシアキ」と付くからにはかなり外見の異なるハエだと思われるので、写真のハエはツマグロキンバエとして良い様である。 複眼の縞模様が良く見える。体にも縞があるが、ずっと細かい。ツマグロキンバエの頭部.超接写の部分拡大本当は、複眼の手前の部分は少しボケている(2008/09/28) さて、これを超接写するなると、結構シンドイ。今まで掲載した超接写の写真は全て「据え物撮り」である。テーブルの上に被写体を置き、カメラは手持ちだが、椅子に座り肘をテーブルに載せて撮るのでかなり安定している。 しかし、今回は花の上を歩き回る虫を撮らなければならない。絞りを16に絞って(倍率を最大にした状態では実効F32)も被写界深度は0.5mm位、この範囲にハエの眼を入れなければならない。 更に、つい最近分かったことだが、この様な超接写をすると、F16に絞った場合、実際に焦点が合うのは、ファインダーで像がキチンと見える面よりも0.5mm位後になる。絞り開放(F2.8)で実験すると、殆どズレはないから、レンズが非球面でないことによる焦点移動らしい。 焦点は、絞り開放でファインダーで覗きながら、目視で合わせる。開放で0.5mm違うと完全にぼけた状態である。1.5mmもズレれば殆ど何だか識別できない。ソモソモ何処に焦点が合っているのか非常に分かり難いのだが(開放ではフレーアが出た様なボワーとした像になる)、その分かり難い焦点面から少し引いて、0.5mm前でシャッターを切らなければならない。これは、真っ暗な部屋で落とした十円玉を拾うより遙かに難しい(慣れると音で何処にあるかすぐ分かる)。撮った写真の9割5分以上は無駄写真であった。ツマグロキンバエの複眼.超接写の部分拡大(2008/09/28) このハエの複眼の幅(=頭部の幅)は2.1mm、原画の横幅は約12mmなので、何れも部分拡大である。 ストロボの光が直接当たった部分は、模様が不明瞭となり、ややこしい色を反射している。複眼の単位をなす個眼は小さいとは言え複雑な構造をしているので、何らかの構造色が出ているのかも知れない。 複眼にある模様は、正面のよりも、横面の方がハッキリしている。斜めに見た方が模様が分かり易いのか、或いは、ストロボの光が影響しているのかは良く分からない。上と同じ個体.角度が少し違うが眼の色は変わらない(2008/09/28) 少し横から撮った写真(上)と比較しても、大した変化は認められない。やはり複雑な色をしている。この程度の倍率だと、複眼の模様は個眼の中央にあるレンズの色ではなく、レンズの周りにある組織の色の違いにより生じている様に見える。 そこで、上の写真の片眼をピクセル等倍に拡大してみた(下)。上の写真の中央左側をピクセル等倍で表示.写真の横幅は約1.3mm(2008/09/28) 画面中央上の少し青みがかった部分を見ると、縞模様の色の濃い部分とそうで無い部分で、個眼のレンズの色にも多少の違いがある様に見える。しかし、カメラの方向に対して垂直に近い面(画面やや右下側)を見ると、レンズの部分の色には変化が少ない。 どうも、レンズ部分の色はストロボの光が個眼の中で複雑に反射した結果生じたもので、レンズ自体に色は付いていない様な気がする。そうであれば、複眼にどんな奇妙な模様があっても、見る方にとっては何の問題も無い訳である。 しかし、何となく解決した気にならない。推測に過ぎる。やはりこう言う問題は、ストロボで撮ったマクロ写真等ではなく、実体顕微鏡下で資料をためつすがめつし、更に必要であれば、より高度な手法を使って解決すべき問題だと言う気がする。 (なお、これは、専門家にとっては、当然解決済みの問題なのであろう。)
2008.09.30
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双翅目が続くが、今日は前回とは違って「汚い」アブを紹介する。アメリカミズアブ、堆肥を作っていれば、必ずと言っても良い程その周りを飛び交っているアブである。 私が子供の頃のゴミ処理と言えば、庭の裏の方に一辺1.5m位の穴を掘って其処に生ゴミを棄て、一杯になれば埋めてまた別の所に穴を掘ったものである。何しろその頃は、酢や醤油等の液体は、瓶を持って買いに行く量り売りだったし、肉屋で豚肉百匁(375g:6人でたったこれだけ、それでも肉があれば大御馳走)買っても包むのは経木であった。当時は、まだプラスティックと言うものが普及していなかったのである。だから、紙くずなどの燃える物は風呂を沸かすときの焚き付けとして使い、燃えない物や燃やし難い物はこのゴミ溜めに棄ててしまうと、もう残るゴミは殆ど無かった。 その穴を掘っただけのゴミ溜めに行くと、必ずいたのがこのアブである(尤も、スイカの皮を棄てておくと、カブトムシが来ることもあったが・・・)。アメリカミズアブ.戦後進駐軍と共に入って来た外来種コウカアブにやや似るが、脚の白いのが目立つし触角が長い体長は15mm前後(2007/08/25) 当時は、もう1種汚いアブがいた。コウカアブである。コウカとは後架と書き、雪隠、憚り、御不浄、厠のことである。このアブもゴミ溜めの辺りに何時も飛んでいた。 しかし、コウカアブの方は圖鑑に載ってたが、もう一方の今日掲載しているアブは載っていなかった。何故、こんな普通種が載っていないのか、随分不思議に思ったものである。生ゴミや厠に集る汚いアブだが、身繕いはチャンとする(2007/08/25) その圖鑑に載っていない理由が分かったのは、かなり後になってからのことである。この汚いアブ、アメリカミズアブと呼ばれているそうで、戦後になって進駐軍と共に米国からやって来た新参者の外来種なのであった。私が子供の頃使っていた圖鑑は、叔父が学生の頃に使っていた戦前の圖鑑である。朝鮮や台湾の昆虫は載っていたが、戦後に入って来た外来種が載っている筈がない。眼に青い模様がある.昨年後から撮った写真(2007/08/25) 子供の頃、このアメリカミズアブの標本は作らなかった様に思う。汚い虫には触りたくなかったのであろう。御蔭で、つい最近まで、このアブの眼に奇妙な紋様のあることを知らなかった。 最近、世の中が清潔になり過ぎて、この20~30年コウカアブを見たことがない。アメリカミズアブも随分減ったが、この辺りの住宅地でも時々は見かける。昨年の夏、久しぶりに我が家にやって来たので何枚か撮ったのだが、その時、眼に青い紋様のあることを初めて知った。しかし、アブの後ろ姿しか撮れなかった。眼の模様は、やはり前から撮りたい。前から撮れたらこのWeblogに掲載しようと思った。アメリカミズアブの顔.アブにしては触角が長い(2008/09/24) 漸く撮れたのは、昨日である。しかし、非常に敏感なヤツで、真っ正面からは遂に撮れなかった。仕方なく、斜め前からの写真で我慢することにした。 眼の部分拡大を下に示す。アブやハエには眼に紋や斑を持つものがかなり居る。一昨年に紹介したツマグロキンバエやオオハナアブの眼にも模様がある。しかし、これ程派手な色をした模様は他に知らない。 それにしても、眼にこんな模様があったら、見るのに邪魔にならないのだろうか。一体何の為に眼に模様があるのか、人間は大いに訝るが、そう言う風に進化したのには、それなりの理由があるに違いない。但し、その理由は、人間の浅知恵では到底図り知ることの出来ない奥深い世界に属すものと思われる。上の写真の拡大.個眼の配列は模様とは無関係(2008/09/24) このアメリカミズアブが我が家に来たのは、例の虫寄せバナナと関係があるらしい。但し、目当てはバナナの果肉ではない様である。ベランダの片隅に、一寸した庭木の剪定や除草をしたとき等に枝葉を入れておくバケツが置いてあり、其処にバナナの皮を棄てておいた。これが腐敗してアメリカミズアブを呼んだらしい。昔、ゴミ溜めに集っていたのと同じ理屈である。
2008.09.25
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今日はハエの1種を紹介することにする。ツマホシケブカミバエ、体長は4mm程度、ミバエとしてはやや小さめである。 ミバエ科に属すハエの多くは翅に模様を持っている。先日紹介したミスジミバエの紋は極く一部にしかなく、良く見ないと気付かない程度だが、このツマホシケブカミバエの紋は明瞭である。ツマホシケブカミバエ.体長4mm程度(2008/09/14) 逆に紋のあるハエは、みなミバエ科に属すかと言うと、そんなことはない。その名も「縞蠅」のシマバエ科の他に、ヒロクチバエ科、ヤドリバエ科等にも紋様を持つハエがいる(先日、近くの緑地でヤドリバエ科で翅に黒色紋を持つEuthera tuckeri(和名なし)に酷似するハエを撮影したが、まだ掲載していない)。お尻の先端が飛び出ているのは雌(2008/09/14) 北隆館の圖鑑に拠れば、このツマホシケブカミバエ、キク科のヤクシソウ(薬師草)の蕾の中で成長するとのこと。この辺りでは、少なくとも最近は余り見かけない植物だと思うが、近縁種の蕾でも食べているのかも知れない。 このミバエを見るのは今回が初めてではない。毎年1~2度見かける。実は、去年も写真を撮ったのだが、うかうかしている間に時期遅れになってしまい、そのままお蔵入りになっていた。しかし、昨年撮ったのは5月中旬、今年は9月中旬、Internetで調べると、4月、6月、越冬中の成虫の写真もある。ヤクシソウが咲くのは夏から秋にかけてらしいから、やはり、他の植物も餌にしているに違いない。片方の翅を拡げて歩き回る(2008/09/14) このツマホシケブカミバエは奇妙な習性を持っている。翅を片方開いたまま、くるくると輪を描いて踊るのである。何時も同じで、ジッとしているのを見たことがない。 これは、明らかに求愛の動作ではない。求愛は雄のとる行動、写真の個体は何れもお尻の先が尖ってるから、みな雌なのである。 昆虫の「不可解な踊り」は、以前、トガリキジラミのところでも紹介した。何方の場合も、全く人間の理解を超えている、としか言い様がない。昨年の春に撮ったツマホシケブカミバエ.やはり片方の翅を開いている(2007/05/14) ・・・とうとう秋になってしまった。どうも夏が終わると一年が終わってしまった様な気になる。後は暗くて寒い冬が待っているだけ、としか思えない。 こう思うのは、夏という季節が好きなせいなのか、或いは、子供の頃の夏休みが終わったときの無念の思いが未だに尾を引いているのか、自分でも良く分からない。
2008.09.24
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今年はどうした訳かデュランタの咲き方が宜しくない。蕾は着いているのだが、花が充分に開かなかったり、蕾の儘落ちてしまうことが多い。肥料も水も例年と同じ様にやっているのだが・・・。当然、虫も余り吸蜜に来ない。 代わりに一昨年買ったキク科の雑草もどきが咲いている。植木鉢の分も入れて高さ30~40cmの小さな株ではあるが、流石はキク科の雑草、結構色々な虫達がやって来る。このキク科の雑草の鉢はベランダの椅子のすぐ前に置いてある。だから、一服しながら虫が来るのを待ち受ける格好と相成る。 昨日の夕方、何時もの如く椅子に座って一服していると、この菊の花に極く小さなハエがやって来た。橙色に近い綺麗な色をしている。Weblogのネタとして使えそうなので、早速テーブルの上に置いてあるカメラを掴んで撮影を始めた。花の高さがしゃがんで撮るのに丁度良いので、非常に撮り易い。ショウジョウバエ属の1種.体長約2.5mmキイロショウジョウバエかも知れない(2008/09/15) 体長は約2.5mm。肉眼では何だか分からなかったが、データをコムピュータに移してみると、どうやらショウジョウバエの1種らしい。しかし、その先が分からない。何しろ、日本産だけで300種近くもある。 画像を探して見ると、このショウジョウバエは遺伝学の実験に使われているので有名なキイロショウジョウバエによく似ていることが分かった。しかし、北大の「日本産ショウジョウバエデータベース」を見てみると、キイロショウジョウバエの属すショウジョウバエ属(Drosophila)の中に似た様な種類が幾つもある。このデータベースには種の記載は載っていないし、画像の解像度は余り高くないし、更に種類は多いしで、種を特定することなど到底不可能である。色はもう少し橙色だったと記憶しているが薄青い色を背景にすると色が変になることが多い(2008/09/15) 手元には、ショウジョウバエの分類に関する文献なんぞ、当然置いていない。だから、本当はショウジョウバエ属に属すのか否かも定かではない。しかし、外見はショウジョウバエ属のハエに非常によく似ている。そこで、此処では「ショウジョウバエ属の1種」として置くことにした。学術論文ではないから、まァ、良いでしょう・・・(本当は良くない!! ハエ類は外見はソックリでも、毛1本有るか無いかで属が異なる場合もあるのだ!!)。足場が良いとF16でも1~2発で決まる(2008/09/15) このショウジョウバエ、或いは、虫寄せに庭に置いてある発酵したバナナに引き寄せられてきたのかも知れない。発酵バナナには色々な虫がやって来る。ナメクジも含めて・・・。
2008.09.16
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以前掲載した「ハリカメムシの幼虫(多分2齢)」の最初の所で、朝晩急に涼しくなって来てから現れ始めた色々な虫の一種として「黄と赤と黒のハッとするほど綺麗なハエ(多分ミバエ科)」と言う些か大袈裟な表現をしたハエを挙げた。このハエはその後も何回か現れ、一昨年に掲載したことのあるミスジミバエであることが分かったが、その時の記事には、虫が居たのが背よりかなり高い位置にある葉の裏だったので、背側の写真しか載せられなかった。しかし、今回は色々な角度からシッカリ撮れたので、もう一度取り上げることにする。日本シャクナゲの葉上を歩き回るミスジミバエ(雄)体長は7mm程度で、動作は機敏全体が分かる様にわざと虫を小さく表示している(2008/09/01) ミバエ科のハエは、先日紹介した「クチジロハススジハマダラミバエ?」の様に翅に派手な模様を持つものが多い。このミスジミバエの翅は殆ど透明だが、翅の前縁に沿った部分、後縁の基部寄り、更に良く見るとm脈(先端に近い所にある横脈)に沿っても暗色の部分が認められる。翅が良く見える。ミバエでお尻の先が出っ張っていないのは雄(2008/09/01) ミバエ科の顕著な特徴の一つは、「クチジロハススジハマダラミバエ?」で明らかな様に、メスの第7腹節が長く伸びることである。しかし、このミスジミバエのお尻は丸い。と言うことは、オスである。シャクナゲの枯葉を調べるミスジミバエ(2008/09/01) Internetで調べると、ミスジミバエの幼虫は、自然状態ではカラスウリの落下した雄花を餌にする、と書いてあるサイトが多い。保育社の図鑑にも同じ様なことが書かれている。しかし、北隆館の圖鑑には「ウリ類の果実を食害する」とあるし、実際、畑のウリ科植物やナスなどの果実への寄生も認められている。本当は、かなり色々な植物に寄生しているのではないだろうか。 この個体は、何故か、日本シャクナゲの枯れた葉に御執心であった。枯れて巻いた葉の中に入ったり出たり、或いは、葉の上を歩き回りながら何かを調べている様に見えた。御蔭で写真が色々撮れた訳だが、10分以上も同じ行動をしていた。一体何をしていたのであろうか。丸まった枯葉の中を調べる.完全に入ってしまって暫く出て来ないことも多々あった(2008/09/01) この個体はオスである。だから、産卵場所を探していたのではない。オスがこれ程熱心に興味を示すのは、メスに関すること以外には考え難い。枯れたシャクナゲの葉にメスのフェロモンでも付いていたのかも知れない。正面から見たミスジミバエ.眼は金色をしているがこれが赤っぽく見える(2008/09/01) 秋が近づいて、我が家の庭に訪れる虫の種類も急に多くなった。先日は、遂にナガサキアゲハ(メス)がやって来た。我が家の庭で見るのは「生まれて初めて」である。後翅の白斑が小さく、まるでモンキアゲハの無尾異常型の様に見えた。「日本産蝶類標準図鑑」に拠れば、南方ほど白斑が大きくなるそうなので、「北方」に当たるこの辺り(東京都世田谷区西部)では白斑は小さいのかも知れない。残念ながら、庭を一回りしただけで何処にも留まらずに去ってしまった。 先日のアカボシゴマダラの様な外来種には漠然とした不安を感ずるが、ツマグロヒョウモンやナガサキアゲハの様な在来種が分布を拡大しても大した危機感はない。この心理は、生態学的な知識に基づくものなのか、あるいは、単なる排他性なのか、我ながら良く分からない。
2008.09.09
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今日はミバエの1種を紹介する。ミバエ科ハマダラミバエ亜科のハススジハマダラミバエ(Anomoia)属の仲間である。体長は約5mmと撮り易い大きさ。クチジロハススジハマダラミバエ?この属では翅の先端付近に半欠けの輪があるミバエ類の雌はお尻が管状に飛び出す(2008/07/18) ミバエの多くは、ハエとしては珍しく翅に独特の模様を持つ。写真のミバエは、クロハスジハマダラミバエ(Anomoia permunda)と非常に良く似た模様を持つが、体色が異なる。 Anomoia属は、九大の目録に拠ると、日本産11種で、本州に記録があるのはクロハスジ(「ハマダラミバエ」を省く、以下同じ)、クチジロハススジ、チャイロハススジ、ツマモンハススジ、オスグロハススジの5種だけである。この内、クロハスジ、チャイロハススジ、ツマモンハススジは圖鑑その他に情報があり、写真のミバエとは異なる様である。残るはクチジロかオスグロの2種、これならば種まで落ちるかも知れない。正面からみたクチジロハススジハマダラミバエ(?)(2008/07/18) 其処で、例によって双翅目の掲示板「一寸の蠅にも五分の大和魂」に御伺いを立ててみた。すると早速、以前御世話になった市毛氏より「第1前縁室に透明な部分が見えるので,クチジロハススジハマダラミバエA. leucochilaの可能性があります」との御回答を賜った。 実は、写真を見るとこのミバエの口の辺りは白いので、これはクチジロではないか、と冗談半分に考えていたのだが、正に瓢箪から駒が出たと言うところ。 しかし、市毛氏は「・・・の可能性があります」とされているので、表題には疑問符を付け「クチジロハススジハマダラミバエ?」としておいた。眼が妙に見えるのはストロボの反射(2008/07/18) ところで、注意深い読者はこのハススジハマダラミバエ類の和名が少しおかしいことに気が付かれたに違いない。と言うのは、クロハスジハマダラミバエでは「クロハスジ・・・」と「ス」が1文字しか入っていないのに対し、その他の種では「・・・ハススジ・・・」と2文字入っているからである。「ハスジ」ならば「八筋」、「ハススジ」ならば「斜筋」だろうから意味が全然違ってしまう。 この点も先の掲示板で御伺いを立てたのだが、「ここらへんは歴史的な経緯を知っている専門家に聞かないと難しそうです」との御回答であった。まァ、和名は大した権威が無いので、何方でも宜しい様な気もするが・・・。少し下側から見ると口の周りが白っぽいのが分かる(2008/07/18) ところが、このクロハスジハマダラミバエは学名の方も少しおかしいのである。日本のサイトや文献ではAnomoia permundaとなっているが、外国のサイトを調べるとA. purmundaとしている所が多い。また、A. permundaはA. purmundaの誤記としているサイトもあれば、別種の様に書いている所もある。 其処で、これに関しても御伺いを立てた。市毛氏からも御回答を賜ったが、以前「ショウジョウバエの1種」で御世話になったアノニモミイア氏より詳細な御回答があり、それに拠るとpermundaかpurmundaかは文献により様々であり、何とも判断のしようがない状態の様である。オマケにもう1枚(2008/07/18) 今日は和名と学名の混乱についての話になってしまった。和名は兎も角、権威があるはずの学名にも混乱があることを知っていただければ幸いである。
2008.08.18
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どうも我が家の様な周囲を舗装道路やコンクリートで囲まれた小さ庭は、真夏になると温度が上がり過ぎて虫達も逃げ出してしまう様である。昨年の今頃何を掲載したかを見てみると、やはりネタ切れになったり、ハダニやコナジラミなど、無理に探して見付けた生き物が多い。 今年はどうかと言うと、実は今ネタ切れ状態である。我が家の庭で虫達が一番多いのは、どうも6月らしい。6月の写真ならば、未掲載のものが少なからずある。そこで、画像データの整理も兼ねて、以前撮った写真を出すことにした。 ・・・と言う訳で、今日紹介するのは昨年の6月に撮ったツヤヒラタアブの1種である。ツヤヒラタアブの1種.ヤブミョウガの花粉を舐めている(2007/06/28) 体長約5.5mm、ヒラタアブ類としてはかなり小さい方に属す。必ず翅を畳んで留まるので、肉眼的にはコハナバチの仲間と見間違え易い。ナミホシヒラタアブやキタヒメヒラタアブなどに少し似ているが、これらヒラタアブ族のヒラタアブ類は体にかなり毛があるのに対し、このツヤヒラタアブ族に属すアブは体毛が少なく、名前の通りツヤツヤしている。横から見たツヤヒラタアブの1種.体毛が少なくツヤがある(2007/06/28) ツヤヒラタアブ属(Melanostoma)には6種以上が属す。例によって、情報が不足していて種は分からない。Internetで検索すると、顔面の地が白いものが多いが、写真のアブは地が白くない。「ツヤヒラタアブの1種」とするしか手がない様である。中々敏感で真っ正面から撮れなかった.顔面の地の色は光っていてよく分からない(2007/06/28) このツヤヒラタアブ、昨年の6月には屡々我が家の庭に現れたのだが、今年は一度も見なかった。今年は全体的にヒラタアブ類が少ない様に思う。アブラムシが例年よりも少ないのかも知れない。それはそれで結構なことである。花粉を舐めるツヤヒラタアブの1種.どうもアブ類の口器は美しくない(2007/06/28) アブが留まっているのは、ヤブミョウガの花。今年は今頃になって漸く咲き始めたが、昨年は6月にもう咲いていたと言うことになる。随分年によって違うものである。
2008.08.03
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少し前のことになるが、ベランダの椅子に座って一服していると、目の前にあるクリスマスローズの横の空中に何か奇妙なものが漂っているのに気付いた。直径2~3mmの黄色くて丸い霞の様な玉である。空中で静止をしていたかと思うと、ツーと横に移動したり、また、近くを蜂などが飛ぶと、10cm位を「瞬間移動」する。 これは、屹度アブかハエの1種である。早速カメラを持って来て、撮ってみることにした。ショウジョウバエの1種.体長約1.7mm腹部にカメノコ模様がある(2008/07/15) 何分にも相手が小さいので、等倍で撮影しなければならない。しかも、ギリギリの部分拡大になるから、出来るだけ解像度を高くする必要がある。F16以下で撮りたいところだが、何分にも相手は動くので、焦点深度をかなり深くしないとピンぼけ写真の山となる。先ず、F25で撮ることにした。 10枚ほど撮ってから画像を確認してみた。何枚かは使いものになりそうである。そこで、絞りをF16に設定してより鮮鋭な写真を撮るべく前を向くと、虫が居ない! 画像を確認している間に虫は何処かへ行ってしまったらしい。残念!!ショウジョウバエの1種.お尻の先が少し飛び出している(2008/07/15) この虫、ハエの1種であることは確かである。しかし、何バエか? ミバエやハモグリバエに少し似ているが、頭部の構造が違う。双翅目の検索には翅脈と剛毛がキチンと写っている必要がある。写真から剛毛はある程度見分けられるが、空中静止をしているのだから、当然翅脈は全く分からない。これでは、検索は不可能である。 そこで、「一寸のハエにも五分の大和魂」と言う双翅目の掲示板にお伺いを立ててみた。ハエ類をよく知っている人ならば、「空中静止をする微小なハエ」で分かるのではないかと思ったのである。ショウジョウバエの1種.小楯板が白い(2008/07/15) 夏は虫屋のかき入れ時である。前回お伺いを立てた時には1時間後に回答があって素早さに驚いたものだが、今度はもう夏、1日経っても応答がなかった。それでも次の日の夜遅く、アノニモミイア氏からの回答を頂くことが出来た。 「多分、ショウジョウバエ科の1種で、この科の専門家であれば種まで同定出来そう」、との御回答であった。しかし、残念ながら、その後ショウジョウバエの専門家は現れず、種は不明のままである。 アノニモミイア氏は「多分」と書かれているが、詳しい人ほど慎重なものである。北大のサイト「日本産ショウジョウバエ」を参照すると、確かに剛毛の位置や頭部の形などは、ショウジョウバエそのものである。しかし、眼が赤く、白い小楯板を持ち、腹部にカメノコ模様のある種類は見当らなかった。そこで、此処では、例の如く「ショウジョウバエの1種」とすることと相成る。 氏によると、ショウジョウバエ科の他に、ヒメイエバエ科やヤドリバエ科の中にも巧みに空中静止をする種類が居るとのこと。空中静止をするヤドリバエ(寄生バエ)とはかなり意外で、全く「ハエの事情は複雑怪奇」の感を深くした。追記:本稿を投稿した次の日、アノニモミイア(Anonymomyia:<名前のないハエ>の意)氏より、空中静止をする双翅目昆虫について以下の追加情報を賜った。此処に転載して感謝の意を表す。なお、氏の文章には科名、属名などの和名が記されていないので、読者の便宜を鑑み「翻訳」を[]内に付けておいた。 気付いただけでもホバリング飛翔をするDiptera[双翅目]には以下のものがあります.一つは群飛内(オドリバエでは雌も),テリトリー内での雌待ちうけ飛翔,それに狭い生息空間での飛翔,訪花上での飛翔などが,ホバリングを起こさせているように思えます.御参考までに.糸角亜目[蚊の仲間]Axymyiidae[クチキカ科] Axymyia japonica[ヤマトクチキカ]雄Bibionidae[ケバエ科] Plecia[トゲナシケバエ属]雄Simuliidae[ブユ科] 各種雄直縫短角類[虻の仲間]Tabanidae[アブ科] 各種雄Acroceridae[コガシラアブ科] 各種雄Bombyliidae[ツリアブ科] 各種Asilidae[ムシヒキアブ科] 一部の雄のmating displayEmpididae[オドリバエ科] Syneches[ヒロバセダカバエ属](探餌飛翔) Hilara[和名ナシ]、Rhamphomyia[和名ナシ] (群飛,交尾飛翔など)などの一部Dolichopodidae[アシナガバエ科] Diaphorus[和名ナシ]の一部の種(群飛中) Dolichopus[アシナガバエ属]などいくつかの 属の一部の雄(mating display)環縫短角類[蠅の仲間]Opetiidae[ニセヒラタアシバエ科] Opetia alticola[和名ナシ]雄Phoridae[ノミバエ科] Phora[ノミバエ属]の一部の種(雄の群飛中)Syrphidae[ハナアブ科] 多数の属,種(縄張り,交尾,訪花その他の場合)Cypselosomatidae[和名ナシ) Lycosepsis[和名ナシ], Formicosepsis [和名ナシ](雌雄,一般飛翔)Lonchaeidae[クロツヤバエ科] Lonchaea[ヤマトクロツヤバエ属]の一部の雄Milichiidae[コガネバエ科] Milichiella[カケメクロコバエ属]の雄Drosophilidae[ショウジョウバエ科] 各属の雌雄,Paraleucophenga [シロガネショウジョウバエ属]など一部の雄 (群飛内)Anthomyiidae[ハナバエ科] 一部の属(雄の群飛などの集団)Muscidae[イエバエ科] 一部の属(雄の群飛などの集団)Fanniidae[ヒメイエバエ科] 一部の属(雄の群飛などの集団)Calliphoridae[クロバエ科] Stomorhina[ツマグロキンバエ属?]などの雄Tachinidae[ヤドリバエ科] 一部の属(雄の群飛などの集団)
2008.07.28
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まだ冷たい雨が降っていた頃の話である。クロヒラタアブに一見似たアブがホトトギスの葉先に留まっていた。 このアブ、普段は矢鱈に敏感で、今まで写真を撮ることが出来なかった。それが、何故か、触る程に近づいても逃げようとはしない。屹度、寒さで凍えているのであろう。ストロボの光に驚いて、葉の上でウロウロするが、飛ぶことは出来ない様であった。ハイジマハナアブの1種.背中に青白い縦筋が2本ある体長約8mm、後脚の腿節と脛節は太い(2008/05/30) このアブ、見かけは一寸クロヒラタアブに似ているのだが、行動は全く異なる。地面に掘った巣に帰るヒメハナバチの様に、草むらの下側を左右に大きくブレながら飛び回る。 留まるときは常に翅を畳んでしまうので、腹部の模様がよく見えない。横から見ると、クロヒラタの様な白黒の段々模様に見える。横から見ると、腹部は白黒の段々模様に見える(2008/05/30) 写真を見ると、背中に青白い縦筋が2本あり、後脚の腿節、脛節はやけに太い。背側から見た頭部の形もヒラタアブとは違うし、前から見ると顔の大半が複眼で占められている。一体何であろうか。 例によって「ハナアブ写真集」の御世話になる。ページを順に辿って行くと、ハイジマハナアブ(マドヒラタアブ属:Eumerus)の1種であることが判明した。腹部の模様は、横から見て推測される白黒の段々模様ではなく、白帯(青白い)は中央で切れており、しかも少し傾斜しているので、背面から見ると「八」の字を並べた様な図柄になっていた。 この属には20種近くが所属するが、よく似たものが多く、とても写真から種を判別することなど出来ない。まだ、学名の定まっていない種が幾つもあるところを見ると、まだ、研究が充分進んでいない様である。例によって、「ハイジマハナアブの1種」とするしかない。ハイジマハナアブの顔.複眼の占める面積が大きい(2008/05/30) クロヒラタアブはハナアブ科ヒラタアブ亜科ヒラタアブ族に属すが、ハイジマハナアブはハナアブ科ナミハナアブ亜科マドヒラタアブ族に属す。科は同じでも、かなり遠縁である。 幼虫の食性も全く異なり、クロヒラタアブの幼虫はアブラムシを食べる「益虫」だが、マドヒラタアブ類はタマネギなどの鱗茎を食害する「害虫」である。寒さで凍えるハイジマハナアブの1種(2008/05/30) 写真を撮った後、天気は回復し気温も上がった。暫くして、アブの方を見てみると、何処かへ飛んでいったらしく、その姿はもう見えなかった。
2008.07.25
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我が家の庭には、科すら容易に判明しない小さなハエが色々居る。ハエの検索には、少なくとも翅脈と頭部や胸部に生えている毛が充分鮮明に写っていることが必要である。しかし、余りにハエが小さ過ぎて毛の生え方が良く分からなかったり、ハエが翅を畳んでいて翅脈がよく見えなかったりするから、科の検索が行き詰まってしまうのである。 しかし時に、体や翅に極めて特徴的な模様あると、検索をしなくても種が分かってしまう場合がある。勿論、絵合わせだけでなく、細部の記載が一致することを確かめる必要があるのだが・・・。 今日紹介するのは、その手のハエ、クロオビハナバエである。クロオビハナバエ.独特の模様をしている(2008/06/11) 体長約5mm、我が家に出没するハエとしては比較的大型である。 図鑑の記載に拠れば、中胸楯板の横線後部に黒い横帯があり、小楯板の前半と、時に横線前部に1対の黒斑、また、腹部の3~5節の前縁にも特徴的な黒斑がある。写真のハエは、正にその通りの模様をしている。この写真では少し拡大率が不足しているが、原画を拡大すると胸部側面の下側剛毛は無く、翅側剛毛も存在しない様に見える(2008/06/11) ハナバエ科はイエバエ上科に属し、イエバエ科、クロバエ科、ヤドリバエ科、ニクバエ科等では中脈(M1+2)が前方に大きく湾曲するが、ハナバエ科やフンバエ科ではほぼ直線的である。これは1枚目の写真で確認できる。 また、ハナバエ科では、胸部側面の下側剛毛も翅側剛毛も存在しない。上の写真では些か拡大率が足りないが、その原画を拡大すると、前者は明らかに無く、後者の剛毛も存在しない様に見える。 まァ、これだけ一致すれば、クロオビハナバエとして問題ないであろう。正面から撮ったクロオビハナバエ.ハナアブ類とは大部違う顔をしている(2008/06/11) このクロオビハナバエ、名前は「花蠅」でも、成虫は動物の死骸や鳥獣の糞に集り、幼虫はそれらを食べて育つとのこと。その生態は、余り名前にそぐわない様である。 図鑑に載っているハナバエ科昆虫の解説を読んでみると、かなり多くの種類で「幼虫は○○○の潜葉虫」と書いてある。「潜葉虫」とは、所謂「絵描き虫」のことである。ハモグリバエ科の絵描き虫には、普通「○○○ハモグリバエ」と言う名称が付いているが、ハナバエ科潜葉虫の多くは「○○○モグリハナバエ」となっている。絵描き虫はハモグリガ科やハモグリバエ科だけではなかった。なお、ハナバエ科には、一部捕食性の種類も居る。手を擦るクロオビハナバエ(2008/06/11) しかし何故、名称が「花蠅」なのか? 調べてみると、花に集まる種類が多いことに由るらしい。特に、高山では、訪花昆虫の優先種だそうである。この辺りでも、花には小型のハエが色々来ている。今度真面目に撮って、ハナバエかどうか調べてみよう。オマケにもう1枚.虫を見るときは、斜め上から見る機会が一番多いのではないかと思う(2008/06/11) 今日の写真は先月撮ったもので些か古い。しかし、どうも我が家では5月と6月に面白い虫が一番多く現れる様である。最近は天候も悪いし、新顔の虫は殆ど姿を現さない。暫く、先月撮った写真を続ける予定である。
2008.07.11
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今年の春、2年程前に実生から生じた余り成長の良くないセイタカアワダチソウの株を植木鉢に移した。花が咲けば良い虫集めになるのだが、日陰なので成長が悪いし花も着かない。しかし、日当たりの良い所に移した場合、地植えにしたりすれば蔓延り過ぎそうなので鉢植えにしたのである。何回か切り戻しをすれば、沢山花穂が付いて観賞にも耐えるのではないかと期待している。 そのセイタカアワダチソウの葉先に、ごく小さな虫らしきものが居るのに気が付いた。老眼なので、小さ過ぎて何だかよく分からない。早速、最近はすっかり虫眼鏡代わりになっているマクロレンズで覗いてみると、小さなハエであった。体長1.7mm、翅端まで2.5mm、小さいが、黄色と黒の中々綺麗なハエである。ハモグリバエの1種.トマトハモグリバエに酷似する体長1.7mm、翅端まで2.5mm(2008/06/07) こう言う小さいハエは、得てしてストロボの光に機敏に反応して、中々写真が撮れないことが多い(マダラアシナガバエの項を参照)が、このハエはシャッターの下りた後で少しクルクル回るだけでチャンとカメラに収まった。 しかし、クルクル廻り過ぎて焦点を合わせるのが大変!! と言うのは、2mm以下の虫を撮るにはF16以下に絞りを空けないと光の回折で像がボケて部分拡大が出来なくなってしまうからである。絞りを空ければ当然焦点深度は浅くなる。本当はF11位で撮りたいところだが、焦点深度が虫の厚みより浅くなってしまうので、F16辺りで妥協するしかない。害虫だが黄色と黒で中々綺麗(2008/06/07) さて、写真データをコムピュータに移して詳細を見てみると、このハエ、お尻の先が筒状になっている。こう言うのは果物の害虫として悪名高いミバエ類の雌の特徴である。 しかし、ミバエにしては小さ過ぎるし、以前掲載したミスジミバエと比較してみると、頭部の構造が少し違う。複眼の間に皺がある様に見えるが、皺ではなく剛毛がある(2008/06/07) ハエ類の科の検索を行うには、翅脈と体(頭部と胸部、時に腹部)に生えている毛(一本一本に名前が付いている!!)が鮮明に写っている必要がある。だからハエを撮るときには、掲載用の写真とは別に、翅脈と頭部胸部の毛を撮っておくのだが、何分にも2mmでは小さ過ぎて翅脈も毛も肝腎の部分がよく分からない。 其処で、検索表を逆に腹部(第7節)が骨格化する科を捜してみたら・・・、あった。ハモグリバエ科である。あの葉っぱにミミズ腫れの様な模様を作る、所謂「絵描き虫」の成虫である(ハエの他に蛾もいる)。科の特徴を比較してみると、見える範囲で頭部の剛毛に関しては一致した。1枚だけなら、斜め前の上から撮るのが見映えが良い(2008/06/07) こう言う微小なハエの場合、図鑑では標本を横から撮った写真を使うので、生態写真とは随分違って見え、余り使い物にならない。其処で、Internetで調べてみると、間違いなくハモグリバエの1種であり、新大陸原産で近年農作物に大きな被害を及ぼしているトマトハモグリバエに酷似している(同じく外来で近縁のマメハモグリバエとは少し異なる)。 ハモグリバエ科は九大の目録に拠れば170種登録されており、他にどんな類似種が居るのかもよく分からない。手元の文献では属の検索も出来ないし、種の詳細な記載も見当たらない、また、写真も不鮮明である。トマトハモグリバエと結論するには些か証拠が足りない。お尻の先に筒状の構造が飛び出しているハモグリバエとミバエの雌の特徴(2008/06/07) ・・・と言う訳で、今日は「ハモグリバエの1種」としておいた。 以前から、ハモグリバエと言うのはどんなハエなのか、図鑑の標本写真ではなく生の虫を見てみたいものだと思っていたが、結構綺麗なハエで一寸驚いた。 微小なハエ類は我が家の庭先にも沢山居る。しかし、前述の様な理由で写真からは検索が難しく、科が分かれば万々歳である。だが、今回みたいなこともある。これからも、やはり、一応写真を撮っておくことにしよう。
2008.06.12
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どうも最近は写真は撮るのだが、文章を書く暇がなく、写真ばかりが無闇に溜まってしまう。先ず、文章の書き易い相手から行こう。 ・・・と言う訳で、今日紹介するのは、マガリケムシヒキ。今の季節この辺りで最も普通のムシヒキアブである。昨年の今頃に「ムシヒキアブの1種」を掲載したが、多分それもマガリケムシヒキ(雌)だと思う。今回のは雄で、生殖器がハッキリ写っているからマガリケムシヒキとして間違いないだろう。マガリケムシヒキの雄.外部生殖器がよく見える(2008/05/15) 「マガリケ」とは「曲り毛」で、複眼の上部後側に生えている毛が前方へ曲がっているので付けられたとのこと。昨年の「ムシヒキアブの1種」ではよく見えないが、今回の下の写真では、その毛が前の方に曲がっているのがハッキリと見える。真横から見たマガリケムシヒキ.複眼の後に前に曲がった毛が見える(2008/05/15) ムシヒキ君、今、御食事中である。こう言うときは写真が撮り易い。逃げても直ぐ近くに止まる。 捕まえたのはアブラムシの有翅虫。この有翅虫、昨年の晩秋に紹介した「ワタムシの1種」にかなり良く似ている。本当はもう少し綿毛があるのだが、捕まった時に取れてしまったらしい。ムシヒキ君のヒゲの下側にその毛が見える。御食事中のムシヒキ君.御馳走はアブラムシの有翅虫(2008/05/15) 5月には、この様な雪虫ではないワタムシがよく飛んでいる。我が家ではエノキワタアブラムシが多いのだが、写真を見ると翅に模様が見えないので別の種類と思われる。ムシヒキ君のリッパなヒゲ面(2008/05/15) 最後に、例によってムシヒキ君のヒゲ面を出すことにする。何時見てもムシヒキアブ類のヒゲはカッコ良い。こう言う鬚を蓄えられるのなら、自分も生やしてみたいと思う位である。 天気図を見ると、今日は夕刻から雨になる筈である。少しは雨の日が無いと、未掲載の写真が増える一方で困る。
2008.05.24
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今日は昨年の11月に立ち戻り、また、コナラの葉裏で繰り広げられる物語をせねばならない。ネタが切れた訳ではない。内容がややこしく良く分からないことが多いのと、本Weblogの読者には些か刺激が強すぎるかも知れないのとで、これまで掲載を躊躇っていたのである。 コナラの葉裏にいるアブラムシ類の補食者として、既に何種かの昆虫を紹介したが、かなり沢山居るのにも拘わらずまだ掲載していない虫がある。ヒラタアブ類の幼虫である。 葉裏には無色で半透明の蠕虫が多かった。我が家の庭やその周辺にいるヒラタアブの大半はホソヒラタアブなので、この透明な蠕虫も、確証はないが、恐らくはホソヒラタアブの幼虫と思われる。囲蛹になる直前のヒラタアブの幼虫.右が頭(2007/11/08) この幼虫、前日から殆ど動いて居らず、また、その直ぐ横に前にはなかった脱糞の形跡があるので、囲蛹になる直前と判断した。 次の日見に行くと、予想通りチャンと囲蛹になっていた。半透明の綺麗な囲蛹である。これから本当にホソヒラタアブが出て来るかを確認するために、早速葉を切り取ってシャーレに確保した。上から見たヒラタアブの囲蛹.左が頭(2007/11/09) ヒラタアブ類の囲蛹は既に紹介済みだが、この囲蛹は特に綺麗なので、3方向から撮った写真を載せることにした。横から見たヒラタアブの囲蛹.眼の様なのは後気門(2007/11/09) 前にも書いた通り、カタツムリの眼の様に見えるのは後気門で体の後方、丸いお尻の様なのが前方である。前から見たヒラタアブの囲蛹.丸い方が前方(2007/11/09) 上の写真では、アブラムシの有翅虫が「これは何だろう?」と言う様な感じで、兄弟の仇敵であるヒラタアブの囲蛹に触れている。何となく、滑稽な図。コバチの出て来た空の囲蛹(2007/11/26) さて、これまでの経験からすると、囲蛹になった後約10日で成虫が出て来るはずである。しかし、10日経っても、2週間経っても何も出てこない。どうやら、この囲蛹も寄生バチにやられている様である。 実は、この他にも4つの囲蛹を確保してあったのだが、その内の3つからは何れも体長1.5mm程のコバチが沢山出て来た。残りの一つからは、何時まで経っても何も出てこなかった。 この囲蛹の場合は、16日目になって30頭ほどのコバチが出て来た。コバチの形態は、一見したところでは、以前に別の囲蛹から出て来たコバチとよく似ている。上に示したのは既にコバチの出て来た空の囲蛹である。出て来たコバチ、その1.触角が黒くその間隔は狭い.体長約1.5mm(2007/11/24) 一寸見ただけでは、何処にもコバチの出て来た穴が見当たらないが、前の方から見ると小さな穴が開いている。他に穴は無かったので、この穴からコバチが出て来たのであろう。コバチの出来てた穴が見える(2007/11/26) このコバチ、一見似てはいるが、良く見てみると3種類に分けられる。最初に示したコバチは、触角が黒く、その各節はほぼ同じ長さであり、2本の触角の間は狭い、また、脚には黄色い部分がある。2番目(下)は最初の個体と似ているが、触角の色が薄い。また、3番目に示した個体では、触角の間隔が広く、その第1節(写真で見たとき:柄節)は長く、また、第3節(写真で見たとき)以降は色が薄い。出て来たコバチ、その2.触角は淡色で間隔は狭い(2007/11/24) ホソヒラタアブの蛹に寄生するコバチ類としては、ヒラタアブトビコバチ(トビコバチ科)とヒラタアブコガネコバチ(コガネコバチ科)がよく知られている。しかし、これらの写真を見ると何れの個体も胸部と腹部が接しているので、腹部に柄のあるヒラタアブコガネコバチではない様に見える。 3番目の個体は中脚脛節の距(棘の様なもの)が長く、これはほぼ間違いなくトビコバチ科に属すと思われる。しかし、図鑑に拠れば、ヒラタアブトビコバチは全身黒色で単眼は正三角形を描くとされている。この3番目のトビコバチは、体はやや赤味(黄味)を帯びていて、脚には黄色い部分が多く、また、写真の撮影角度にも拠るが、単眼は2等辺三角形に配列している様に見える。個体変異がどの程度あるのか良く分からないが、どうもヒラタアブトビコバチではないらしい。 結局、例によって、出て来たコバチの種類は分からない、と言うことと相成る。出て来たコバチ、その3.触角は淡色でその間隔は広い(2007/11/24) ところで、読者諸賢はこのコバチの出て来た空の囲蛹を見て少し変だとお思いにならないであろうか? 囲蛹の内側に妙な粒々が沢山くっ付いている。普通の寄生者が出て来た場合にはこんなものは見られない。しかし、これより少し前にやはりコバチが出て来た別の囲蛹でも同様の粒々が認められた。コバチが出て来たヒラタアブの囲蛹には、この様な「構造」が見られることが屡々あるらしい。一体何であろうか。空の囲蛹の内側.蠕虫の死骸の様な物が沢山ある(2007/11/26) 中を確かめるために、囲蛹の殻を破いて、中を見てみた。丸い粒々の様に見えたのは、実際丸い粒々であった。これは、ヒョッとして、ハチの幼虫(蠕虫)の死骸ではないであろうか。 寄生には1つの寄生主に1つの寄生者が付く単寄生と複数の寄生者が付く多寄生がある。ヒメバチなどは単寄生で、もし寄生者が複数あった場合は、初齢の時に片方がもう一方を殺してしまう。ブランコヤドリバエなどは単寄生か多寄生で、一つの蛹から1~3匹程度の蠕虫が出て来る。この場合は複数の卵から生じた多寄生である。一方、このヒラタアブに寄生するコバチや多くのコマユバチ等の場合は勿論多寄生だが、卵は基本的に1個で、1つの卵から通常数10の個体を生じる(キンウワバトビコバチの様に1000以上もの個体を生じる例もある)。これを多胚生殖、或いは、単に多胚と言う。人間の一卵性双生児も多胚の1種である。 卵には細胞質の多い動物極と卵黄に富む植物極がある。第3卵割ではこの両極間で分割が起こるので、どうしても不等割となり、割球は全能性を失ってしまう。だから、普通の多胚はアルマジロの様に4個体が限界なのだが、コバチの様な場合は何故か1000以上もの個体を生ずることも可能である。 ・・・とすると、囲蛹の内側にくっ付いているのは、多胚で余りに多くの個体を生じた為、成虫になる途中で食糧不足になって死んでしまった幼虫なのであろうか? ところが、自然と言うのはもっとややこしい場合もあるのである。拡大して見た「蠕虫」(2007/11/26) キンウワバトビコバチの場合は、多胚により1個の卵から1000以上もの個体を生じる。しかし、その全てが成虫になる訳ではない。生じた個体は遺伝子的には皆均一で所謂クローンであるが、ミツバチやある種のアブラムシの様な階級分化を生じ、一部の個体は生殖細胞を持たず、「兵隊」として他種や同種他個体の卵から生じた幼虫を探索してこれを殲滅するのを専らとする。この兵隊は成虫にはならず幼虫のまま死んでしまう(この兵隊の機能は雌雄で異なり、また、発生段階に因り2種類の兵隊がある。詳しくは「キンウワバトビコバチ」で検索して他の適切なサイトを参照サレ度)。 写真に見られる幼虫の死骸の様に見える粒々は、実はこの兵隊の死骸ではないかとも思われるのだが、そうだとするとまた別の問題点が出て来る。兵隊がいれば異種の幼虫は殲滅されているはずであり、また、同一の親から生じた雄と雌の幼虫が共存した場合は、雄の幼虫は殺されてその成虫は殆ど出て来ないとのこと。だから、出て来るコバチは基本的に1種類の筈である。ところが、このヒラタアブに寄生したコバチの場合は、写真で見る様に明らかに3つの種類がある。この内2種類は雌雄の違いとしても、その比率には大した差がない・・・。 まァ、この兵隊の話は、キンウワバトビコバチと言うキンウワバ類(ヤガ科キンウワバ亜科)に寄生するトビコバチの話なので、このヒラタアブの囲蛹から出て来たコバチの場合は少し事情が違うのかも知れない。何れにせよ、分からないことだらけで、今回の話も「虫の事情は複雑奇怪」で終わるしかない。ヤレヤレ・・・。
2008.02.20
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昨日から植木屋さんが入って庭の手入れをしている。今朝、植木屋さんの来る前に外庭に植えてある木々を調べていたら、ハナミズキの枝先に何かが留まっている。良く見てみると、どうやらアブの類らしい。 早速カメラを取って来て、マクロレンズで覗いてみる。・・・特に変わったアブではなく、クロヒラタアブの雌であった。ハナミズキの枝先に留まるクロヒラタアブの雌(2007/12/27) 屹度、昨日の夕方から此処に留まっているのだろう。何もこんな北風が吹き抜けるような所で夜を過ごさなくても良さそうに思えるが、まァ、事情はクロヒラタアブに聞いてみなければ分かるまい。 考えてみると、冬に庭を一見当て処もなく飛んでいる様なヒラタアブは良く見かけるが、早朝や夕方に留まっているのは余り見た記憶がない。こう言うところに留まるのが普通なのだろうか?近くで見たところ.翅をたたんでいる(2007/12/27) 今日の朝は、この冬一番の寒さだったそうである。アブさん、翅をたたみ、枝にシッカとしがみついてピクリとも動かない。まるで、木の一部になってしまったかの様である。シッカと枝にしがみついている(2007/12/27) やがてハナミズキにも陽が射し、通りを歩く人の数も増えてきた。暫くして、少し暖かくなってから見に行ったら、もうアブさんの姿は何処にも無かった。
2007.12.27
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12月に入ってから見る虫と言えば、ヒラタアブ類を除くと、アブラムシの類ばかりであった。それ以外の虫はもう無理かと思っていたところ、先日、ギボウシの付け根辺りに、小さなナヨナヨした虫が数頭いるのを見付けた。 体長3mm弱、肉眼的には蠅だか蚊だかハッキリしない。しかし、良く見てみると、今年の春に紹介した「クロバネキノコバエの1種」の仲間の様である。枯れたギボウシの葉に逆さに止まるクロバネキノコバエの1種(2007/12/07) この虫、以前書いた様に「ハエ」と付いてもハエの仲間ではない。ハエやアブは基本的に触角が3節しかない(短角亜目)。しかし、この「ハエ」は糸状の長い触角を持っている。糸角亜目、即ち、蚊の仲間である。 以前紹介した「クロバネキノコバエの1種」は、触角が比較的短く体はかなり太っていたが、この虫の方は触角がそれよりも長く体は細長い。しかし、翅脈の走り方は同じである。別のクロバネキノコバエの1種と考えて良いであろう。まだ緑色のギボウシの上で動かないクロバネキノコバエの1種(2007/12/07) このクロバネキノコバエ、日陰の半分朽ち果てたギボウシに集っていた。このまま越冬するのであろうか。 蚊の仲間の越冬形態はどうなっているのかInternetで調べてみると、吸血性の蚊でも、成虫、卵、幼虫と様々である。クロバネキノコバエの場合はどうかと言うと、前蛹で越冬するものがあると言うことは分かったが、それ以外には参考になる情報は見つからなかった。 何時もなら、どうでもよい様な虫である。しかし、冬の苦手な私としては、この虫達が冬をどう過ごすのか、何となく気になってしまうのであった。
2007.12.13
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