
ビオラはいつも元気。
元気を絶やさぬように、液体肥料は、十日に一度はあげていますよ。
今日は、三ヶ月に一度の検診日で、大学病院に出かけました。
待たされる時間に本を読もう、と 本棚から一番薄い本を選び、持っていきました。
題名は、芥川龍之介 「蜘蛛の糸・杜子春」
短編が十個ほど入っています。
その中の 「蜜柑」を、とっても懐かしい気持ちで読みました。
いまは、中学生の母親である娘が中学生のころのことです。
社会科の時間に、芥川龍之介の作品を挙げていく、ということがありました。
蜘蛛の糸、杜子春、鼻、芋粥、など有名なものが出て、
娘の番が来たときに、「蜜柑」 と言ったら、先生が、そんなものはない、と言ったそうです。
帰宅してから、娘が絶対に読んだことがあるんだよ、と悔しがります。
私も知らないし、インターネットのない時代、
二人で図書館に行き、芥川龍之介全集を調べたら、、そこには「蜜柑」がありました。
二人で、きゃあ~、と喜びました。
社会科の先生だから、知らなかったんだよ、とか言いながら。
私も、そのときに、始めて読んで、いい物語だな、と思ったのですが、
今回読み返してみて、やっぱり、いいな、と思いました。
ここからは、長くなりますので、興味のある方だけ読んでくださいね。
芥川龍之介 「蜜柑」
私は、二等客車の隅に腰を下ろして、ぼんやり発車を待っていた。
雪ぐもりの空のような、どんよりした疲労と倦怠が、私の心をおおっていた。
やがて、発車まぎわに駆け込んできて、目の前の席に座った小娘。
髪は油気なくひっつめ、ひびだらけの頬は真っ赤。
手には、三等の赤切符を持っているのに、二等に乗って気づかない愚鈍さ。
小娘の下品な顔立ちも好きでなく、不潔な服装は不快だった。
無視して、うつらうつらし始めたとき、小娘が窓を開けた。
固い窓を懸命に開けようとしているが、やがてトンネルになるというのに。
やがて、窓から外へ首を伸ばして、じっと進む方向を見やっている。
貧しい町はずれの踏み切りに通りかかったとき、
私は、頬の赤い、いかにも貧しげな服装の三人の男の子が、
並んで立っているのを見た。
懸命に手を振り、一斉になにか叫んでいる。
その瞬間、窓から身を乗り出していた小娘が、
あのしもやけの手をつと伸ばして、左右に振ったと思うと、
たちまち心を躍らせるばかりに暖かな日の色に染まっている蜜柑が、
およそ五つ、六つ、子どもたちの上へ降り注いだ。
私は、おもわず息を呑んだ、そしてせつなに一切を了解した。
小娘は、おそらくはこれから奉公先へ赴こうとしている。
小娘は、その懐に抱いた蜜柑を、窓から投げて、
わざわざ、踏み切りまで見送りにきた弟たちの労に報いたのである。
汽車の窓の外に、瞬く間に通りすぎたその光景は、
私の言いようのない疲労と倦怠とを、わずかに忘れることが出来たのである。
よそのポトス、うちのポトス 2016.07.31 コメント(6)
ノリウツギ。アジサイのドライフラワーを… 2016.07.29 コメント(12)
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