
神 亀 五年七月二十一日、 筑前国守 山上憶良 上 る。
(神亀 5 年 7 月 21 日、筑前国守山上憶良が献上いたします。)
或 へる 情 を 反 さしめし歌一首 序を 并 せたり
(心の迷いを正そうとした歌 1 首と序)
或有 人 、父母を 敬 ふことを知りて、 侍養 することを忘れ、妻子を 顧 みずして、 脱 屣 より 軽 しとす。 自 ら 異俗先生 と称す。意気は青雲の上に 揚 がると 雖 も、身体は 猶 し 塵 俗 の 中 に在り。 未 だ修行し 得道 するに 験 あらざる 聖 か。 蓋 しこれ 山沢 に 亡命 する民ならむ。 所以 に 三綱 を 指 し示し、更に 五 教 を開き、これに 遺 るに歌を以し、その 或 ひを 反 さしめむとす。
歌に 曰 く、
(ある人が父母を尊敬すべきことは知っているのに世話しようともせず、妻子などは見向きもしないで脱ぎ捨てた藁沓ほどにも思わない。自分で異俗先生と名乗っている。意気込みこそは高空の雲の上まで届くほどだが、身はいまだに俗世にとどまっている。修行して道を得た確かな証拠がまだ現れない仏門の聖か。おそらくは山川に逃れる流民なのだろう。そこで、君臣、父子、夫婦の三綱の道を逐一教えた上に、父は義、母は慈、兄は友、弟は恭、子は孝たるべしという五教の教えを説き聞かせ、歌を贈ってその考え違いを改めさせようとする。その歌に言う、)
父母を 見れば 尊 し 妻子 見れば めぐし 愛 し 世の中は かくぞこと わり もち 鳥 の かからはしもよ 行 くへ知らねば うけ 沓 を 脱 きつるごとく 踏 み 脱 きて 行 くちふ人は 石木 より 生 り 出 し人か 汝 が名 告 らさね 天 へ 行かば 汝 がまにまに 地 ならば 大君 います この照らす 日月 の 下 は 天 雲 の 向 伏 す 極 み たにぐくの さ 渡る 極 み 聞 こし 食 す 国のまほらぞ かにかくに 欲 しきまにまに 然 にはあらじか(万葉集巻5-800 )
(父母を見れば尊い、妻と子を見ればいとしくかわいい、人の世はそれが当たり前だ。とりもちにに掛かった鳥のように離れがたいことだ。これから自分は何処に行くかわからないのだからと、穴のあいた沓を脱いでしまうに、家族を踏みつけにして捨てて行くという人は、岩や木から生まれ出た人なのか、あなたの名を名のりなさい。天へ行ったら思い通りにするがよい。地にあるからは、天子様がいらっしゃるのだ。地上を照らす日と月との下は、空の雲が垂れる遠い彼方まで、またヒキガエルが這って行く地の果てまで、天子様の治め給うすぐれた国である。あれやこれやと自分のしたい放題に、それではいけないのではないか。)
反歌
ひさかたの 天 路 は遠 し なほなほに 家に 帰りて 業 をしまさに (同巻5-801 )
(<ひさかたの>天に到る道は遠い。素直に家に帰って仕事をしなさいな。)
家に帰って 仕事をしなさいとは、 浮かれ気分で参拝に押し寄せているであろう大多数の観光客に対しては何やら興醒めな歌であるが、ヤカモチ同様、これに気付く人も殆どないから、これでいいのだろう(笑)PR
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