“飲食店の勉強代行業”大久保一彦の勉強録

“飲食店の勉強代行業”大久保一彦の勉強録

2022.08.27
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立秋・処暑の連続講座 その10


10 価格と商材を利用した売りたい価格への誘導法
 「先生、メニュー改定をしたら、客単価が100円以上ダウン、売上も大きく下がってしまいました」
とある百貨店にテナントで入っているとんかつチェーンの役員のかたからの実際にあったご相談です。
すぐ、直行して、このとんかつ店の客単価が売上ダウンの原因がメニューリニューアルにあったことは、用意したメニュー改定前後のABC分析の推移を見ていてすぐにわかりました。

 もともと客席がほぼ一日稼働したこの店は百貨店の担当者の“OLのランチニーズに応える”という要望で980円(消費税別)で、メニューリニューアル時に「ヒレコロ定食」というアイテムを「海老、ヒレ、コロッケ定食」に差し替えました。
もともと人気のなかった「ヒレコロ定食」はひとくちヒレカツが二つにコロッケが二個という980円という価格にしてはボリューム感がある隠れた逸品です。しかし、注文は極端に少なかったです。その不人気なアイテムを見直し、エビフライとひとくちヒレカツ、コロッケがそれぞれ一個入った定食に変更しました。個別的に見ると確かに理にかなっています。店長としては、約1000円で魅力的な組み合わせの定食が食べられるのであれば、お客様にとって満足度が高く、その上、原価率が下るのであれば一石二鳥と考えたのでしょう。

 しかし、ひとつ見落としていました。
この新商品が大ヒットすると、売上構成上位商品の大変動がおき、主力としていた1200円~1400円のアイテムに影響が出るのです。
当時のこちらの店はこの会社にとって基幹店な存在でした。したがって、一日中ほぼ満席状態でした。客数が増える余地があまりない中、来店されるお客様が980円に設定した“魅力的な”アイテムに流れ込んだわけですか客単価も売上も下がります。


プラス食材、マイナス食材
 とんかつ店のような定食やランチ需要に応える店の特徴として、ひとつのアイテムを選ぶと他のアイテムは選ばれないという性質があります。
そのため、プライスゾーン(下限価格と上限価格の幅)をある程度広く設定すると、積極的に販売したいプライスライン、品揃えとしてのプライスラインが発生します。
品揃えとしてのプライスラインには客数を増やすための利用シーンを広げるために積極的に設けるプライスラインやスペシャルなサービスの想起を意図した高価格のプライスラインの設定があります。
 入口としてのプライスラインを設定する場合、入口となるアイテムはあくまでも入口であり、最終的に満足度の高い本来のプライスラインにつながられなければ、今回のように単なる単価ダウンや売上ダウンになってしまいます。この場合大切なのが、アイテムに組み合わせる食材です。
食材にはそれがあると注文にむすびつきやすくなるアイテム(プラス食材)とそのアイテムを組み合わせると注文をしなくなるマイナスアイテムがあります。



 長年の研究の結果、とんかつ店の場合、定食の組み合わせにエビフライを入れると出数が顕著に増えることがわかっています。したがって、今回のケースのように低い価格の定食にエビフライを入れると魅力が増し、売上構成比を押し上げます。海老フライはとんかつ店ではプラス食材なのです。
このように、組み合わせると出数(選択率)が増すアイテムを渡しは“プラス食材”と言っています。

 その一方で、今回のとんかつ店のように男性比率が高い店においてカボチャコロッケを組み合わせた定食を投入すると出数は極端に増えません。これは男性客がカボチャコロッケを無意識に避ける(嫌う)からです。このような選択を阻害するアイテムを“マイナス食材”と言います。ただし、カボチャは女性が好きなために女性の少ない店には女性客を純増させるという活用があります。
メインとしたいプライスラインのアイテムに誘導するにはどうしたらいいのでしょうか。
 まず、メインにしたいその店の落としどころの価格帯を明確にします。
次に、メインにしたい価格より低いプライスラインのアイテムに、マイナス食材を組み込ます。では、過去の事例を見てみましょう。

 とあるとんかつチェーンでランチの導入を依頼された私は、ランチ導入にあたり、プライスラインを780円、880円、980円、1200円と設定しました。当時のとんかつ業界において下限価格780円というのはかなり低くかったと言えます。
 780円の商品には、メインターゲットの男性にとってのマイナス食材のカボチャコロッケとひとくちヒレカツを組み合わせた定食にしました。ショーケースを見てカツがふたつあると思って入った男性客も、メニューを広げて、“カボチャコロッケ”という組み合わせアイテムの文字を見てパスします。
 880円のランチには、熱々の煮カツランチとひとくちヒレカツと蟹クリームコロッケとジュースをセットした“女王様のランチ”を用意しました。カツ煮はトンカツ屋の七不思議的な商品で、とんかつ専門店では極端に売れない商品なのです。女王様のランチは男性でも注文できますが、思い込の激しい男性のほとんどは「注文できない」と思い込みパスします。
980円には王様のランチということで、コロッケ、メンチかつ、ひとくちヒレカツを組み合わせます。実はメンチかつやコロッケというのは好き好きがあり、マイナス食材です。
メインの1200円は厚切りロースかつを用意して、豚汁やドリンクをつけ魅力をアップしました。

 商品特性を生かし価格とうまく組み合わせのバランスをとれば、売りたい価格に誘導できるのです。
この場合、調理担当者が過去の経験から人気ないことがわかっているマイナス食材を組み込むことに対する抵抗があることは付言します。多くの人はすべてのアイテムを売るために開発します。アイテム選びは比較の楽しさ、敢えてわかりやすい“当て馬”としてのアイテムをあえてラインナップするスタンスの違いなのです。
2014年11月号「日経レストラン」より





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Last updated  2022.08.27 10:16:13


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