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レイトの放った弾は逸れて致命傷には至らなかった。「チッ。だから言っただろ、無様に外しやがって。仕方ない、最後に教えておいてやるか」さっきまでとは違い、語気の強さがバラバラになっている。「亡国の主になったら、もうつまらんからな」イグリスに降伏するということはつまり、フューリッドという国が亡ぶことを意味する。「この作戦は国土を戦場にさせる前にすべてを終わらせるために立てたものだ。 バフタールをおびき寄せるつもりが、イグリスまで出てきた時点で私の計画は狂った。 私の首でどう状況を変えるのか、見物だな」アルケデニックは自ら命を絶ち、静かな部屋に一人レイトを残した。どのくらいの時間が経ったか、扉を叩く音に呼び戻される。曖昧な返事でウェントソンが入ってくる。「本当に、成し遂げられたのですね」実際は計画と違っているが、まだ口にすることはできなかった。「ここは私が処理いたしますので、あとはお任せを。 書状をしたためる準備は整っております」レイトはわかった、とだけ言って部屋から出ていく。残ったウェントソンは倒れているのが一人ではないことに気付く。「この者は・・・」そのあとは言葉にせず、本来の目的を果たしていく。レイトの書状はイグリスへと届けられる。「これは、本物で間違いないのか?」と疑ったものの、「証拠の首」が添えられていることで、信用に足ると判断する。「思った以上にうまくいったな」と言うと、すぐさま各方面に急使を飛ばした。「統治については如何しますか?ゼリクトアの嘆願も来てはいますが」ま、いいだろ。と軽く認める。「もともと統治は任せるつもりで計画してきたからな」「ですが、情報によれば、そのレイトというのはまだ子供のようですが」「そのあとの詳細は本部が決めることだ。とりあえず返事を書く」その返事が来たのが昨日のことである。「これが一連の流れです」聞き終えたリグラーは、「わかりました。・・・至急戻るんで、失礼します」下がろうとするリグラーに「そちらの話はよかったのですか?」と声をかけるも、「ちっと状況が変わったんで、もういいス」と出ていく。リグラーは脇目もふらず駆け出していった。そのあとを追ってレイトも出てくる。「話はどうでした?」と聞かれても「いや何も・・・」と言うしかない。それでも見当はついている。バフタールの狙いもまた降伏であるだろう。一呼吸置いたところでビルクの存在に気付く。「あなたは・・・」「あぁ、人質として連れて来られたようです。もう解放済みですが」
2017/12/31
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そして、これも考えていた見立てのうちのひとつである、と語り始める。「降伏すると見せかけて、敵の懐に入り、意表を突く」こうすれば、一番頭を悩ませている兵力差を無力化させられる。もちろんそのためにはゼリクトアの協力が必要不可欠であり、密かに話を進めていた。「これで南は解決。これで、北にも増援できるようになる。これ以上、攻め込まれることもなくなる」アルケデニックの高笑いが一層響き、レイトの手元の銃は小刻みに震える。「そんなんじゃ、撃てるものも撃てなくなるぞ。まだ使ったこともないのだろ?」「俺はまんまと叔父上の策に乗せられていたのか・・・?」「事のついでだ。お前の件も決着させておこうか」アルケデニックはこの状況を楽しんでいるようにもみえる。「お前は私のやり方には不満があるようだが、改心するのであれば今までのことは水に流してやる」レイトは今一度、気持ちを取り戻し顔を上げる。「そうですか。ですが、本当にその策は成功するのですか?」イグリスからすれば信用できるようになるまでは警戒を緩めるはずはない。裏を掻くにもその隙が無ければそのまま降るだけ。「よく考えてみれば、うまくいく可能性はかなり低いと思うのですが・・・」「ま、絶対はありえないからな。あいつらならやってくれると踏んでいる」それを聞いたうえで、レイトはさらにもう一歩踏み込む。「そう申されるのなら、失敗したときの回避策を用意しているのですね?」「ここでそれを言うつもりはない」とお決まりの言葉が返ってくる。レイトは黙るという行為で拒否の意思を示した。「そう、か。やむ負えんな、やれ」と独り言を言ったかと思うと、いつの間にかもう一人入ってきている。黒く包まれた男は怪しげな目をしている。ただ、レイトを見つめたままじっとしている。「どうした。今までと比べても一番簡単な仕事のはずだが?」黒い男は急かされてもなお動かずにいたがついに、「もうやめさせてもらいます」と。「今まではあなたの言葉に従って、人の命を奪ってきましたが、もうやめさせてもらいます」そして、「このような子供の命を奪ってまで、やるべきことなどありますか?」と言い放った。アルケデニックは明らかに不機嫌になり、「使えぬな」という声が発砲音にかき消される。黒い男は小さくうめいたが、前に歩き始める。二度目、三度目と撃ち抜かれながら、ついにはアルケデニックの身体を掴んだ。「王子!撃て」予期せぬ事態に動揺するレイトは、「お前を殺す理由が・・・」というのに対して黒い男は、「理由ならあります。あのときの護衛たちを殺したのは私です」と。レイトは目をつぶって引き金を引いた。
2017/12/24
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一枚の紙を差し出し、「では、ここに署名を」と言う。その紙はフューリッドへの書状で、中身は降伏を求めるものになっている。兵士たちを返してほしければ国を解放しろ、と。捕虜となった証拠として署名をするようにと持ってきたのだった。署名を付け加えられた書状はいち早くアルケデニックのもとに送られる。広い部屋の中で紙が震える、カサカサッという音だけが響いている。「ゼリクトアが裏切ったか・・・、今までの恩も忘れるとは」アルケデニックにとっても予想を超える出来事であり、頭を悩ませる。「いかがなされましたか、叔父上」といきなりレイトが入ってくる。「お前こそ突然どうした?今まで来ることなどなかっただろうが」レイトは「状況を伺うにはここしかないので」と近寄る。まだ始まったばかりだ、という返答にレイトは納得していない。「今来たのは急ぎのことだと思うのですが?」レイトは返事がないとみるや、続けて質問を重ねる。「ここに送られてくるということは、おそらく味方ではないでしょう。 ならば、残りは敵国のどちらかということになります。 が、距離を考えてみればイグリスから来ているとみて間違いない」アルケデニックはそこまで言われると、あきらめたように差し出す。「お前ならどうする?参考にしてやってもいい」レイトは書状を読み終え、悩む時間も持たず答える。「今すぐに降るべきです。悩むことなど何もないでしょう」「ま、そう言うだろうと思ってた。だから面白くな・・・」アルケデニックが言葉に詰まったのはあるものを突き付けられたからだ。「叔父上の首をもって、情状酌量を願い出たいのですが、よろしいですか?」「やっぱりお前が持っていたのか、どこ捜してもないわけだ」「余計な話をするつもりはありません。すぐに終わらせます」しかし、アルケデニックには終わらせるつもりなど全くない様子だ。「こういう事態に陥ったのも、もともとは叔父上に原因があるのですから、 責任を取っていただくのが筋というものと思うのですが」アルケデニックは何を言っているのかわからない、という顔をしている。「わざと北側の町々を放置して攻め込まれても痛手の無いようにしていたのでは?」「わざと?そんなことするか」と突き放すが、「それを理由に攻め込んでいくつもりだったんでしょうが、裏目に出ましたね」元来の狙いを言い当てられてアルケデニックは唸った。「急ぎの案件なのですから・・・」と急かそうとしたそのとき、「まぁ、そう言うな。安易に事を進めては身を滅ぼすことになるぞ」
2017/12/17
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思いもよらない展開に誰も口を開くことができなかったが、「このような結論に至った理由をお聞かせ願いたい」「イグリス軍は我が軍の5倍を超える兵力をもって攻め寄せてきています。 これは今までとは桁違いの脅威となっています」さらに説明は続き、戦場となるのはゼリクトアである限り、守り切ることができたとしても、その傷跡は甚大なものとなるのは目に見えている。その復興もまた時間と労力を要する。「そのときは、フューリッドからも最大限援助いたします」だが、その言葉は返す刀となる。「貴国もバフタールから攻め込まれているではありませんか! そのような状態で他国にも援助できるというのですか!?」それに、「ここで防げなければもう後がないこともお分かりのはず」と付け加える。「まだ始まってもないのに、降らねばならぬのか」「国の体裁よりも何よりは土地に住む民を最優先にするべきだと思っております。 これは父王様の御遺志にも適っているはずです」父王の話を持ち出され、面々はやや伏目がちになる。「ここで戦いを終わらせれば、バフタールとも自動的に停戦状態にもっていくことができる」そうすれば、土地も蹂躙されることなくすべてを守り切れるだろう、と。「戦いが始まってしまえば、この話はなかったことになってしまいます。 今しかありません。これは最初で最後の機会だと存じております」「この借りをどうやって返すというのですか?」ゼリクトアは改めて頭を下げると、思いの丈を口にする。「我々と同じように土地と民を保証してもらえるよう、イグリスに嘆願します」フューリッドは「逆の立場であれば同じことをしていた、のかもしれないな」と力なくうなだれる。そして、イグリス領へと送られる途中、待ち構えている大兵団を目の当たりにする。この数ではどうすることもできなかったかもしれないと身震いする。中に通され、歓迎の言葉をかけられる。「私はイグリス軍事総長・シュガイです。この度はよく参られました」「わたくしは二ルドと申します。密約に応えるべく、フューリッド援軍を捕らえて参りました」シュガイはフューリッドの面々を眺めると満足そうに、「お疲れ様でした。正式に約定をしたためますのでしばしお待ちください」そう言うと、顔の向きを変え、「フューリッドを率いているのはどなたですか?」わたしです、と一人の男が名乗り出る。
2017/12/10
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中へ入ったところに、精悍な老人が立ちはだかっていた。「中でお待ちですが、その前に人質は解放してもらえませぬか?」リグラーは手荒にビルクを解放すると、奥の部屋へと進んでいく。「あなたがバフタールの御使者ですか。遠いところをよく参られました。 事前にお伝えいただければ何かと準備することができたのですが・・・」中で待ち構えていた者はリグラーが伝え聞いていた者とはまるで違っていて、面食らっている。それを察したのか、ひとりで状況を話し出した。「いろいろとバタバタしておりまして、申し訳ありません。 一刻も早くと、お伝えせねばならないと思っておりましたが、ちょうどよい時に来ていただきました」「前日のことですが、正式にイグリスに降ることに相成りました。 というわけで、貴国とも争う理由がなくなった、というわけです」リグラーはようやく声を絞り出し、「アルケデニックという者がいると聞いてたんだけど・・・」その話をするにあたって「長くなりますがよろしいですか?」と聞き、リグラーも了承する。話はゼリクトアにイグリス軍が迫りつつある、という場面から始まる。「イグリス・バフタール同盟、ですか。状況はかなりマズいです」「と、とにかくフューリッドに援軍を要請しましょう」話し合いの途中、「実はイグリスから密使が届いている」とゼリクトア王は言う。内容はフューリッドの援軍を招き入れ、それを拘束して連れてくるのであれば、領土は保証する、というものだ。「属国になるために、同盟国を騙せというのか!」「しかしながら、土地や民のことを想えば、平和的解決を望むべきかと」そうやってひとまず戦争を終わらせたあと、フューリッドへの嘆願を願い出ることで、同盟国としての役割を果たせると付け加える。「まずは援軍を要請する。援軍が到着するまでにどちらか結論を出す。 いったん解散し、それぞれの意思を固めてきてくれ」二日後、フューリッドの援軍が到着する。その速さもさることながら、人数もまた予想を超える。「迅速かつ手厚い対応に、かたじけなく存じます」と深々と頭を下げる。「早速ですが、作戦を練り合わせたいのですがよろしいでしょうか?」それでは奥へ、と数人が迎え入れられる。扉が閉じると同時に空気が張り詰める。それはかつてないほど大きな戦いに直面しているから、とは一味違っていた。「これはいったい・・・どういうことですか?」次々に銃口と剣先が向けられ、反逆の意思が示されていく。「誠に勝手ではございますが、この状態では勝機を見出すことなどできません。 この借りは必ずやお返しさせていただくことをお約束いたします」その口調は固く、時折詰まることで、重苦しい余韻を残した。フューリッド側にとって選択の余地はなく、受け入れるしかないと思われた。
2017/12/03
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